死亡フラグ回避劇場
10話
任務が終わり、六課に帰還したのは夕方過ぎだった。
今入口の外には、チビッ子達、なのはさん、フェイトさん、ヴィータ、シグナムさん、犬、シャマル先生がいる。
シグナムさんからの熱烈な視線で胃がとろけそう。
後、犬。
おめぇ誰だ?
あ、そういえば結局、どういった任務だったのかが最後まで分からなかった。
誰も事情を説明してくれないまま終わったし。
けど夜の訓練が無いってことは分かった。
「うひはー!!
帰ってグダグダして過ごすぞー!!」
「こら、何言ってるの。
夜の訓練がないのはフォアード陣だけだよ?
お稲荷さんは私と特訓しようね」
「理不尽だ」
夜の訓練はさっきいい雰囲気だったユーノとベッドの上でどうぞ。
割と本気で言ったのにグーパン貰った。
あ、鼻血……
「女性がグーパンとか野蛮的過ぎるでしょう」
「こんな私も含めて私なんだよ」
なのはさん……!!
あれ、いい言葉な筈なのに少しもじ〜んとこない。
そしていつの間にやら襟首掴まれて引きずられていく。
なんつー力。
と思ったらフェイトさんも引っ張っている。
「ブルータス、お前もか」
「シグナムから聞いたよ、昨晩のこと。
言ったよね、なのはに迷惑かけたらブレイカーって」
「うおぉぉぉぉぉぉ誰か助けてぇぇぇぇえええ!!」
だが現実は非常だ。
もうすぐ六課の入り口という冥界の門をくぐることになる。
「ねぇ、あんたさ、強くなろうって思わないの?」
だが、それも途中で止まった。
突然のティアナの問い。
「幻術や変化の術も、あのふざけた右パンチも、どれも効果や威力は桁違い。
そもそもなのはさんの砲撃に匹敵する攻撃を、ノータイムパンチで繰り出せるとか変態よ」
「いや、まぁ、うん……ん?」
「なのに、何でもっと強くなろうって思わないの?
もっと努力しようって思わないの?」
そう聞いてくるティアナの表情は優れない。
なのはさんとフェイトさんの手が襟首から離れる。
この雰囲気に乗じてこの場からの脱出方法がティンと来たのだが、どうやらシリアスタイムに突入のようだ。
こういうのは苦手なのだが、後ろに死亡フラグが2本待ち構えているため真剣に答えざるを得ない。
「えーと、じゃあ逆にティアナは何のために強さを求めてるんだ?」
「何のためって……」
「色々あるじゃん。
この人を打ち負かしたい。
敵討ちがしたい。
モテたい。
厨二的な事がしたい。
エターナルフォースブリザードって叫びたい」
「最初2つ以外あんたの妄想じゃない……」
「俺は厨二じゃない」
でも、そうね……と呟く。
「私は、守る力が欲しい。
もう誰も傷つけたく無いから。
そして兄さんが使ってきた……ランスターの銃が、無駄じゃないことを証明したい」
「また新キャラか。
ランスターって誰だ。
てか俺を撃ち抜いた後でよくそんな事言えるな」
「あんたの名前覚えの悪さはよく分かったわ」
てへへ。
グーパン!?
「お前も野生児だったか……もう俺の鼻のライフは0よ……ったく。
んじゃあ、どういう強さを求めてる?」
「へ?」
「強さって言っても色々ある。
1人で結構何でもできるなのはさんやフェイトさんのような変態な強さ。
個人個人はそこまで強力じゃないけど、チームを組むことで得られる変態な強さ。
戦う力は全くなくても、色んな人を束ねることで得られる変態な強さもあるな。
他にも色々と」
「普通の力はないのね……」
「なのはさんの魔砲が変態じゃないわけがない。
それはともかく。
どんな強さを求めるかによってどう戦うかが変わる。
じゃあそれに合わせてする努力も変わってくる。
レベルなのはさんなら、魔法技術や戦闘技術、戦略、その他様々なトリビアを完全にモノにする。
じゃないと色々な場面に対応できないからな。
チームプレイなら、長所をひたすら伸ばして、短所は補ってもらう。
最後のは……カリスマが必要だからまぁここにいるやつらには無理なので端折る。
ティアナはどういうのを求めてるか知らんが、とりあえず今はチームプレイだろ?
焦らず自分の長所を伸ばせばいいんじゃね?」
「でも……強くなっている実感ができない……
周りはみんな優秀なのに……私は全然で……」
まただよ(笑)
語りながら、俺は少しずつティアナに近づく。
「じゃあ仮に、今突風が吹いたとしよう。
後ろにいるなのはさんのスカートがめくれ上がった。
咄嗟に振り向くが、俺の視力じゃなのはさんのパンツが白な事しか分からない。
だが、そこでキャロの強化魔法が発動して視力が強化されたらどうだ。
白いパンツの形、装飾、全てが手に取るように分かるようになる。
もしかしたら脳内も強力になって、永久保存版として記憶できるかもしれん」
そんな事しませーん!!
と横で騒いでいるのはスルーで。
「だが、実際に見て感じるのは俺だ。
キャロが役に立ったかなんてキャロ自身には分からない。
でも確実に、俺はキャロのお陰でなのはさんのパンツを拝むことができた。
俺1人では出来ないことを、チームプレイで成し得たんだ。
チームプレイってのはそういうもんでな、自分の行動が味方にどんな影響を与えているのかが分かりにくいもんなんだ。
センターとか、吟遊詩人とか、赤魔道士とか、前衛と後衛の中間にいる人は特に」
「…………」
「ここまで色々言ってきたが、別に俺は教導してる訳じゃないし、こーしろあーしろなんて言えん。
だからティアナがどんな強さを求めても頑張れよ〜って言うくらいしかできん。
けどまぁ、今やってるチームプレイとは別のやり方をしたいならなのはさんに断りだけはいれておけよ。
チーム内で別々の思惑で行動したら、個人スキル以下の動きしかできないからな」
俺が言葉を言い切ると、辺りが静かになった。
ここで、死亡フラグを回避する最後のピースをはめる。
「ま、何を悩んでるのかは知らんが、てめぇの悩みはてめぇにしか解決できねぇ。
せいぜい悶え苦しめや」
そう言いながらティアナの左肩を左手でポンっと叩き、そのまま歩き出す。
「……結局あんたは何で努力しないのよ!」
足を止める。
ティアナの声に、振り向かずに少し顔を上げて応える。
「俺のこと、知ってるだろ?
努力・熱血・根性には興味がないんです」
そして再び歩き出す。
俺が見えなくなるまで、その場に居た人達が言葉を発する事はなかった。
「ってなると思ったのにナー」
「ごめんねお稲荷さん。
私もう、限界みたい」
見えなくなる前に、両肩をなのはさんとフェイトさんに掴まれました。
てか分かりましたからその手の杖をしまってください。
力入れすぎてギシギシ言ってますから。
マスタァァァアアア!! って幻聴も聞こえるから。
てかその杖、喋ってね!?
「キャロによくも、よくもそんな汚れ仕事を……!!」
あなたは現実と妄想の区別をつけてください。
「あんなひどい事言う人にはおしおきです!」
わぁ、一番和むなぁそのセリフ。
でもドラゴン召喚とか一番危険。
「じゃあお稲荷さん」
「訓練室で一緒に」
「訓練しましょーね!」
「え、ちょ、俺今ティアナのすっごく重い人生相談受けてたよね!?
結構真面目に答えてたよね!?
ちょ、ま、みんな助けて!!」
死亡フラグが増えたのは想定外。
みんなにヘルプを送る。
ティアナが先ほどとはうって変わり、明るい表情……ニヤニヤした表情でこっちを見ていた。
「そうねぇ、丁度いいしあんたの言うチームプレイを試してみよっか。
もちろん標的はあんたで。
キャロも行くみたいだし。
スバル、付き合いなさい」
「うん、ティア!」
「あ、僕も行くよ!」
「あたしも行くぜ」
「烈火の将の所以、見せてやる」
「守護獣とて、攻撃くらいはできるものだ」
「あらあら、私の分は残るのかしら」
あ、ごめん。
俺死んだわ。
○ ● ○ ● ○ ●
「生きてる、俺、生きてるよぉ……
てかなんでヴィータとシグナムさんと犬とシャマル先生も来るんだよぅ……
そして犬……ザフィーラさんだったんだね……」
消し炭になったり潰されたり吹き飛ばされたり切り刻まれたり。
妖怪の体になったことを本気で嬉しく思いました。
というか全員が全員、笑いながら攻撃してくるのである種のホラーです。
で、みんなひと通り気が済んだのか帰っていき、今はなのはさんとティアナだけになっている。
てかお前らは何故まだいるし。
「しっかし、例えも凄かったけど話の内容も凄かったわね。
あれを聞いて何か少しスッキリできた自分が嫌になるけど。
なにあれ、経験談?」
「ネトゲとアニメとSS巡礼の賜物。
あの程度の説教ならどこにでも書いてある」
「今までの話が全てどうでもいいものに思えてきた……」
最初から死亡フラグ回避が目的だったから実際どうでもよかったんだ。
というのは言わないでおこう。
「はぁ、まぁいいわ。
ありがとね、色々聞かせてくれて。
私は明日早いから、もう帰るわ。
なのはさん、また明日、よろしくお願いします!」
そう言うとティアナも訓練室から出て行った。
後に残されたのは、俺となのはさんである。
「ねぇ、お稲荷さん。
こうなるの分かってたの?」
…………。
「そ、そう、分かってたよ。
いやぁ、ティアナの悩みもあれで解決してくれればいいなー」
「そっか、別に考えて言ってた訳じゃなかったんだね」
何故ばれたし。
「あ〜あ、私教導官に向いてないのかなぁ」
「うん」
「にゃはは……
お稲荷さんのそういう歯に衣を着せないところ、好きだよ?」
ならこのアイアンクローをやめてはもらえまいか。
「俺に安息の時はないのか」
「全く……
まぁ、今回は私のせいでもあったかな……」
「うん?」
「何でもない。
お稲荷さん、ありがとうね」
「ん〜?
よく分からんが、油揚げで手を打とう」
「ははは。
そうだ、じゃあ私が晩ご飯作ってあげよっか?」
「マフィアは殺す相手に贈り物をするという」
「後1戦だけやっていこっか」
絶望した。
口は災いの元って本当みたいだ。
「あ、そうそう、反省文だけど免除してあげる」
「マジでか、やっふぅ!!」
「うん、50枚プラスしたのを30枚プラスにするから20枚免除ね。
だから合計50枚、明日中に私の所に持ってくること」
「上げて落とすとかドS過ぎる」
どうやら明日も手が吹っ飛びそうである。
俺はどうやらシリアスも書けるようだ(キリッ
こういう場面に出くわしたら筆者も同じ感じになると思われる。
アニメ見たら、重い、重いよこの話。
思わず目を背けながら書きました。
でもシリアス慣れてないので何かしっくりこない。
でも筆者の力量は臨界点を突破したのであえて投稿。
ここで読者数が分かれる……!!
という訳で10話。
見てくれてありがとうございました。