首輪物語
12話
いつも通り午前中の訓練が終わり、チビッ子達は地面にへたりこんでいる。
俺もいつも通り、炭化して異臭を放ちながら地面に放置されていた。
あぁ、チビッ子達が心配してくれた頃が懐かしい。
「はい、今朝の訓練と模擬戦も無事終了、お疲れ様!
でね、何気に今日の模擬戦が、第二段階クリアの見極めテストだったんですけど……
どうでした?」
「合格」
なのはさんの問いに、にこやかに答えるフェイトさん。
「マジで、やった」
「何言ってるの稲荷。
あなたは別」
「えっ」
「ま、こんだけみっちりやってて、問題あるなら大変だってこった」
だよなヴィータ。
やはりお前は俺の味方だ。
「ほら見ろやっぱり大丈夫じゃないか」
「問題が尻尾つけて歩いてるヤツが何をいってやがる」
敵だった。
「まぁ、お稲荷さんは置いといて。
みんなは良い線行ってると思うし、じゃ、これにて二段階終了!」
やったー、とチビッ子達は歓声をあげている。
デバイスリミッターも一段解除するらしい。
デバイスってなーに?
その場の全員が今まで見たことのない表情をしてこっちを見てきた。
どうやら聞いてはいけなかったことらしい。
「明日っからはセカンドモードを基本にして訓練していくからな」
「はい!
……え、明日?」
「あぁ、訓練再開は明日からだ」
「チビッ子達、よくやった。
そしてヴィータもいいこと言った。
久々に午後が平穏無事になる。
プライベートな時間が得られる。
遊びにいくのも一興」
「お稲荷さんは私と一緒だよ。
はやてちゃんに釘を刺されたの忘れた?」
「なのはさんの午後の予定は?」
「隊舎で待機だね」
「ぅぁああありえぬぇぇぇぇええええ!!」
頭を抱えてその場をゴロゴロしだした俺は決して悪くない。
「あ、それとお稲荷さんにはプレゼントがあるんだ」
そう言って差し出してきた右手の品を名付けるなら、獣の首。
装備することで、なのはさんに対する隷属力がアップしそう。
何でも発信機的なものがついているから、どこにいても場所が分かるらしいが……
「どう見ても赤い首輪ですありがとうございました。」
こらチビッ子達、笑うな。
「さて、今日はみんなは街にでも出かけて、遊んでくるといいよ」
「はーい!!」
○ ● ○ ● ○ ●
「お稲荷さん、似合ってるよ」
「嬉しくないから」
結局装着することになった赤い首輪。
絞めつけられるのは嫌なので、ブカブカにしているのは最大限の譲歩。
そして今は街に繰り出すというチビッ子達のお見送り。
「ハンカチもったね?
IDカード忘れてない?
あ、お小遣い足りてる?」
目の前には、お母さんでもそこまでするかね、といった感じのフェイトさん。
色々と心配されているエリオは、恥ずかしそうに大丈夫と応えている。
微笑ましい光景である。
「ごめんなさい、お待たせしました!」
「あぁ、キャロ。
いいね、可愛いよ」
「ありがとうございます!」
「はー……」
「ん? ……フフ」
「っ!」
フェイトさんの評価に喜んだ後、別段話している訳でもないのに見つめ合って互いに顔を赤くして笑いあうエリオとキャロ。
微笑ましい光景である。
「に、憎しみで人が殺せるなら……」
「こーら、どこから出したのその藁人形!」
「止めないでくれなのはさん!
俺は、俺はあの歳でリア充してるエリオに同性として天罰をくれてやらねばならんのだ!」
「エリオとキャロに手を出したら……」
フェイトさんの死神の鎌が俺の喉に添えられる。
非殺傷設定な筈なのにヘモグロビンが流れ出てる気がするのは気のせい。
微笑ましい光景である。
その後、ティアナとスバルもバイクで街に繰り出した。
免許持ってたのね、あいつら何歳よ。
「ところで稲荷、さっきの人形って何?」
「呪いの藁人形。
俺の居た所で大人気だったストレス発散法。
午前2時か3時くらいに顔写真を貼りつけて五寸釘で木に打ち付ける。
相手は頭がおかしくなって死ぬ」
「じゃあスカリエッティの写真あげるからお願いしていい?」
「あんた腹黒いって言われねぇ?」
そもそも俺は今、対なのはさん用の髪が常に口の中に入ってくる呪いの製作中で忙しいんだ。
あの口の中に髪の毛がある時の違和感。
あれが常に襲ってきたら耐えられまい。
「なんでお稲荷さんはそっち方面ばっかり鍛えようとするのかな……」
「個人的には真剣に考えてます。
命がかかってますので」
「その努力で更に寿命を縮めてることを稲荷は理解するべきだと思うよ」
その発想は無かった。
○ ● ○ ● ○ ●
「あぁ、暇って素晴らしい。
今日1日、こんな感じで過ぎるとか至福の極み。
なのはさん、夕食は外食しない?
この感動を更に良くするためにリッチなものを食べたい。
その為のなのはさんの協力は必要不可欠」
「ハハハ、分かったよ。
じゃあ今日の仕事が終わったら一緒にご飯にいこっか!
……ん? キャロから全体通信……」
「やな予感がマッハ」
空中に画面が出現する。
エリオとキャロと金髪幼女が映っていた。
『こちら、ライトニングフォー。
緊急事態につき、現場状況を報告します。
サードアベニューF23の路地裏にて、レリックと思しきケースを発見。
ケースを持っていたらしい小さな女の子が1人……』
『女の子は、意識不明です』
『指示をお願いします!』
「放置で」
「……スバル、ティアナ。
ごめん、お休みは一旦中断」
『はい!』
『大丈夫です!』
俺の素晴らしい案は即座に却下されたようである。
「救急の手配はこっちでする。
2人はそのまま、ケースとその子を保護。
応急手当をしてあげて」
フェイトさんの指示に応えるエリオとキャロ。
じゃ、なんか慌ただしくなりそうだから俺は帰るね。
「……お稲荷さん、どこいくの?」
「油揚げの未来を探しに」
「却下」
ですよねー。
『全員、待機体制。
席を外してる子達は、配置に戻ってな!
ええか、安全確実に済ませるんやで!』
「任せろ。
俺の至福の時を壊したあの幼女には、安全確実に闇へ葬ろう」
『保護や保護、真逆の事をしてどないする。
後その言い方、厨二っぽいで』
「お稲荷さん、今回はおふざけは無しで行くよ」
「何度も言うけど俺はいつでも真剣だ。
そして八神には何かに触ると絶対に静電気が発生する呪い試作verをかけてやるからな」
『ちょ』
「ほらほら、バカやってないで私達も早く現場に行くよ」
なのはさんとフェイトさんに引きずられ、俺も現場に赴くことになった。
やはり俺には休日は訪れないようである。
「いや待てよ?
ポジティブに考えろ、俺。
今回の件はエリオという早過ぎるリア充に天が下した鉄槌ではないのか?
ということは、ヤツの行動は世界にも認められなかった。
むろん、モテない同士達からは反感を買う行為でしか無い。
つまり、世界とそこに生きる半数の人類の敵となったのだ。
それ即ち悪ではないか?
おぉ、俺はまさかの黒幕に気付いてしまった!
なのはさん、フェイトさん、至急キャロ達に連絡だ!!
犯人はこの中に居た!!」
「は、話の飛躍の仕方が神がかり過ぎてて分からないよ……」
「寝言は寝てから言おうか、稲荷」
迷推理がズタズタにされたのでアドレスを知っているヴァイスとスカさんにこのやるせない気持をメールで送ってみた。
『 (´・ω・`) 』
返事は無かった。
見た目31でレギュラーサイズのアイスを一口で一塊食べるスバルはヤバイ。
バニラ・チョコ・桃・ソーダは分かるけど一番上のは何だろう。
同じアイス好きとしては興味が尽きない。
そして書き溜めがなくなりました。
明日の投稿マニアウカナー
という訳で12話。
ご来店ありがとうございました。