狐と幼女の奇行文。
14話
「お稲荷さん、教会に行くよ!」
「あ、宗教の勧誘はちょっと……」
と思ったが違うらしい。
この間の金髪幼女が聖王教会なる所に預けられているから、見に行くんだとか。
それは是非ともご一緒したい。
俺の休日が完膚なきまでに破壊されたからな。
幼女だから優しく鼻に細めたティッシュを突っ込みの刑10分間で我慢してやろう。
「まーたよからぬことを考えてるでしょ?」
「俺の熱きパトスは誰にも止められない」
「ならば止めずに切り捨てればよかろう」
シグナム が あらわれた。
稲荷 は にげだした。
……しかしまわりこまれてしまった。
「とりあえず動き回られると面倒なので縛ってみた。
どうだなのは?」
「いいね。
じゃあ車に積みこんでおいて下さい」
「あぁ、分かった」
「もはや人扱いすらされなくなった件」
蓑虫状態のまま車まで運ばれる。
本当にこのまま積み込まれるようだ。
「ん? この車って2人乗りなのか?」
「あぁ、テスタロッサから借りたものだからな。
大勢で移動するための車ではない」
「サイドウィンドウが前と後ろ2枚ずつちゃんとあるセダンチックな車で2人乗りとかイミフ。
てかそれなら1人余るじゃないか。
展開が予想できたから俺やっぱり行くのやめていい?」
何を言っている、という視線を向けられた。
どうやら俺の想像通りらしい。
トランクの扉の封印が今、解き放たれた。
「広いぞ」
嬉しくないっす。
○ ● ○ ● ○ ●
「暗い、狭い、揺れる、酔う。
前から何か話聞こえるけどうるさくて内容が分からん」
てか本当に気持ち悪いから。
今ここに今朝食べたものをもんじゃ焼きにできるから。
感電死フラグだからしないけど。
体感時間アバウト1時間程耐え抜いたら停車した。
ドアの音も聞こえたから着いたようだ。
俺、頑張った。
ここに来て初めて優しい光に包まれる。
「お稲荷さん着いたよ。
……顔青いよ?」
「トランクの車酔いは異常。
後10分救出が遅かったらもんじゃ焼き作ってた。
だめだ、酔い覚ましに散歩してくる」
「あ、うん。
私達、ちょっと行方不明のあの子を探してくるから。
しばらくしたらまた連絡するね」
行方不明?
まぁいいや、気持ち悪くてそこまで気をまわしてる余裕はない。
はいはい、とその場を後にする。
しかしあれだね。
教会って屋根に十字架あって、大広間しかない結婚式場みたいな場所を想像してたのに全然違うね。
普通の金持ちのお屋敷みたい。
いや、金持ちのお屋敷、見たことないけどさ。
なんて取り留めのないことを考えてたら四方を建物に囲まれた場所にでた。
いわゆる中庭である。
ここにベンチ的なものがあったら最高だったのだが、生憎なさそうだ。
代わりになるものはないかと辺りを見回す。
「……」
金髪幼女が居た。
赤と緑のオッドアイとは珍しい。
思わず凝視する。
「…………」
幼女も黙って見返してきた。
「………………」
「……………………」
……………………………。
「あ、ここにいたんだ。
お稲荷さんが見つけてくれたの?
ありが……何やってるの?」
「話しかけるな、今俺とヤツは目に見えぬ戦いを繰り広げている。
目を先に逸らした方が負けだ。
この勝負、負けるわけにはいかぬ……!!」
「意味分かんないよ……」
そう言うとなのはさんが俺と幼女の間に割って入った。
第三者の介入というのはいただけないが、今回はドローということにしておいてやる。
「初めまして、高町なのはって言います。
お名前、言える?」
「ヴィヴィオ……」
「ほう、ヴィヴィオか。
俺は稲荷だ。
いずれお前の鼻をクラッシュさせる人物とだけ言っておこう」
「お稲荷さんの事は放っておいていいからね。
ヴィヴィオか、いいね、可愛い名前だ。
ヴィヴィオ、どこか行きたかった?」
「……ママ、いないの?」
「パパの不遇さに全俺が泣いた」
そっか。となのはさんが呟く。
「それは大変。
じゃあ、一緒に探そうか」
「……うん」
なのはさんと話していた幼女は、目に涙を湛えながらも納得したようである。
子どもは分からないね。
「なぁ幼女よ。
お前さん、パパは探さなくていいのか?」
「……パパ?」
「うむ。
パパにももう少しスポットライトを当ててやらないと、客観的に見てる俺が切なすぎる」
「……狐パパ」
何故目の前のもので代用しようとするし。
「パパはやめれ。
そうさね、特別にお兄様と呼ぶことを許可してやろう」
「狐パパ」
「無視すんなや」
○ ● ○ ● ○ ●
なのはさんは用事があるらしく、俺にヴィヴィオの面倒を頼んでいったのだが。
何かめっさ懐かれました。
どこに行こうにもついてくる。
親鳥の後ろをついてくるヒナってこういう感じなのかね。
しかし、だ。
「すまん、俺は行かねばならんのだ。
頼むからここで待っててくれ」
「やだああぁぁああああ!!
狐パパやだぁぁああああ!!」
「パパ言うな。
分かってくれヴィヴィオ。
俺はもう限界なんだ」
「やだああぁぁああああ!!」
「そんな事言っても、俺の膀胱はもう破裂寸前」
このヴィヴィ子ったらトイレの中にまでついてこようとするんですよ奥さん。
やーねー。
でも例え幼女と言われようと俺の息子を見られたら羞恥で死ねる。
これなーに? とか言われたら狂ってなのはさんの部屋に全裸で突入してしまうやもしれん。
あかん、思考がまとまらなくなってきた。
「稲荷さん!
なのはさんに言われてヴィヴィオさんの面倒を見に来ました!」
突如聞こえる神の声。
振り向くとエリオを初めとしたチビッ子達がいるではないか。
「頼むエリオ。
俺はもう発射5秒前の位置まできている。
ヴィヴィオっ……すまないっ、さらばだ……!!」
「パパァァァァアアアアア!!」
「危なかった。
あと少しで暴発するところだった。
ヴィヴィオ、恐ろしい子ッ!
後パパ言うな」
「パパァァァアアア!! くさい」
「トイレから出てきた人に対して何その言い草」
おらチビッ子達、何を笑っている。
「さて、狐パパが固有名詞になりそうだからちゃんと覚えさせないとな。
ほら、俺は稲荷だよ。
言ってみな?」
「い……なり?」
「そうそう。
で、こっちがツンデレとリア充」
「誰がツンデレよ誰が」
「リア充?」
ツンデレとはティアナの為にある言葉である。
しかしエリオもそうだが、ヴィヴィオもよく分かっていないようだな。
ともかく俺の名前を覚えさせればそれでいいだろう。
「じゃ、俺の名前もう一度言ってみようか」
「狐パパ」
「頭かち割ったろか」
チビッ子達からなだめられる。
「はぁ、じゃあ次だ。
ヴィヴィオ、さっき中庭で会った女の人を覚えてるか?」
「……うん」
「あの人は魔王だ。
ほら、続けて」
「まおー?」
「あぁ、魔王だ。
トリガーハッピーでもいいが、ヴィヴィオには難しいだろうから魔王で……はっ殺気!」
振り向く。
「ヴィヴィオ、ただいま! いい子にしてた?」
「うん」
「ありがとね。 エリオ、キャロ」
「いつもの事だがフェイトさんの感謝の欄に俺の名前が無い件。
めっちゃ頑張ったのに。
まぁ途中から記憶無いが。
てかティアナとスバルはどこ行った」
「稲荷さんが伸びている間に帰りましたよ?」
血も涙もないヤツらである。
「もういいや、俺も帰ろ。
ヴィヴィオはどうするんだ?」
「もちろん連れて帰るよ。
その為に今日は来たんだし」
「行きはシグナムが運転してたから、帰りは私が送って行くね。
シグナム、ここに泊まるらしいし」
ふうん。
まぁいいけど。
「帰りはもっと特等席がいいでござる」
「えっ、荷台嫌なの?
稲荷の大きさでも余裕のあるスペースなのに」
「根本的に間違っていることに誰か気付いてくれ。
てか酔うからやだ」
「仕方ないね、分かった。
稲荷だけ特別だよ?」
マジで、やった!
……そう思っていたのに。
「何故に俺は車の屋根に縛り付けられてるんでせう?」
「ここはいいよ。
風も感じられるし、景色もいいし。
稲荷なら落ちても大丈夫だろうから特別ね」
くっ、特別ってそういう意味だったのか!
逃げてやる、俺は歩いて帰るぞ!
「じゃ、夜だから車もないだろうし飛ばすよー!」
俺は風になった。
「時になのはさん、見送りに来ていた紫短髪の方はどなた?
てかまた紫か」
「彼女はシャッハ・ヌエラって言うんだ。
聖王教会所属のシスターをやってるんだよ。
凄くトンファー使いが上手いんだ」
「マジでマジで!?
じゃあさ、トンファー置きっぱなし式ブレーンバスターとか、思い出のトンファーとか出来るのか!?」
「え、えと、よく分からないけど多分できるんじゃない……かな?」
「AAをリアルにやってる人を初めて見た。
俺、これからあの人のことを師匠って呼ぶ」
「な、何か果てしなく間違った認識を植えた気がするの……」
凄いトイレに行きたい時に書いた文。
最後のはいらないけど筆者のトンファーに火がついたので付け足し。
よく分からない人は『思い出のトンファー』でググるべし。
SSでは結構最初から喋ってたけど、アニメじゃ
やだぁあぁぁあぁぁあ と
わぁぁぁあぁぁあぁん と
うん しか喋ってない。
イメージとかけ離れていくとです。
そんな訳で14話。
有難う御座いました。