狂幻稲荷奇行文。
15話
「はい、じゃあ復習だ。
あの赤い髪の子はなんて言う?」
「りあじゅー!」
「よし、じゃあオレンジの髪のあの人は?」
「つんでれー!」
「じゃあお兄さんの名前は?」
「狐パパー!」
「もう……ゴールしてもいいよね……」
この金髪幼女、俺の事を絶対稲荷と呼ばない。
朝起きてから朝練の為に訓練室に来る今まで言い聞かせてきたが、リア充とツンデレは覚えて何故俺の名前は覚えてくれない。
「お稲荷さん、ヴィヴィオに何を教えているのかな……」
「人の名前はしっかり覚えるように教育中」
「まおー!」
「あ、こら、ばか」
「お稲荷さん、ちょっとこっち来ようか」
今日の第一射が確定しました。
俺がブスブスと煙を上げている頃。
スバルと、同じ青い腰まで括った長い髪を持った女性が空から降りてきた。
ギンガというらしい。
スバルの姉さんなんだとか。
なのはさんを初めとする、フェイトさんとシグナムさん、ヴィータの隊長陣がチビッ子達+αの前に立って何かを話している。
そしてヴィヴィオ、木の棒で俺を突付くな。
「じゃあ今日は折角だから、ギンガも入れたチーム戦、やってみようか。
フォアードチーム5人対、前線隊長4人チーム。
対、お稲荷さん」
「…………えぇ?」
何だって。
「いや、あのねギン姉、これ時々やるの。
稲荷さんが敵になるのは初めてだけど」
「隊長達、かなり本気で潰しに来ますので……」
「まずは、地形や幻術を駆使して何とか逃げまわって」
「どんな手を使ってでも決まった攻撃を入れることが出来れば撃墜になります」
スバルの言葉を、ティアナ、エリオ、キャロが引き継ぐ。
「てか驚く場所そこじゃないよね。
どんな手段を使ったとしても5対4対1とかスマブラでも格好の的になるのは確定的に明らか。
はっ、よく考えたらヴィヴィオを盾にすることで誰も俺に攻撃することが出来ないじゃないか。
どんな手段でもOKなんだから即ちこれ合法。
さぁ、ヴィヴィオ。
パパの胸に飛び込んでおいで」
「じゃあ、やってみようか!
あ、ヴィヴィオは危ないから向こうで見学しててね」
「うん!」
俺のイージスの盾はもろくも形成前に砕け散ったようである。
○ ● ○ ● ○ ●
「狐パパ、何してるの?」
「あの戦火の中に飛び込むとか夏の虫でもしないので見物中」
訓練が始まってすぐにフォアードチームと隊長チームが空に飛び立った。
俺はそんな彼女らを見送ってから、いそいそと逃げ出した次第。
もちろん、頭に草と手に木の棒でカモフラも欠かしてません。
「私は木、私は木、私は木、私は木……」
お稲荷さんはどこ行ったの!? というなのはさんの声が聴こえるが幻聴。
上空では既に戦争が勃発している。
先ほど崩落したイージスの盾が隣にいると言っても怖いものである。
「はっ。
幻術というのでティンと来てしまった。
幸いな事にヴィータは結構1人で突っ込んでいる事が多いようだ……
何やってもいいって言われてるし、やってみるか」
ヴィータが次にチビッ子達に突撃し、他の隊長陣の視線から外れる……今!
「ハッハッハ!
てめぇらは俺の罠にかかった。
後はやられるのを待つだけだぜ?」
「な、貴様は稲荷!
どこから現れた!!
お前が通ってきた場所に居たヴィータはどうした!!」
「ヴィータか?
クックック。
ヴィータなら一番最初に沈んでもらったよ。
笑っちまうくらい雑魚だったぜ。
次はシグナムさん、あんただ」
「なっ!?
貴様、我らを愚弄するか!!」
「稲荷、いくらなんでもそれは言い過ぎだよ」
「お稲荷さん、どうしちゃったの?」
「俺は気づいたんだよ、俺の中に眠る本当の力にな……!!
フェイトさんもなのはさんもまとめてやってやるよ。
昨日までの俺とはひと味もふた味も違うところ、見せてやる!!」
うわぁ、痛い、痛すぎる。
上空で舌戦を繰り広げる稲荷と隊長陣を眺める俺とヴィヴィオ。
厨二ってやーねー。
俺の中に眠る力って何よ。
「狐パパ、ここにいるのに何であそこにいるの?」
「ん?
ヴィータに幻術かけて、周りにはヴィータが俺に見えるようにしてみた。
因みに本人には幻術がかかったことが分からないので混乱の極み。
後パパじゃねぇ」
先程の会話の内容、幻術をかけた本人である俺には聞こえるのだがヴィータは実際こう言っている。
「ちっ、あいつらも結構やりやがるぜ」
「ヴィータはどうした!!」
「は? あたしはここにいるじゃないか」
「愚弄するか!」
「いやだから意味分かんねーから」
「それは言い過ぎ」
「どうしちゃったの?」
「あたしは稲荷じゃないし、分からねー事を分からねーって言って言い過ぎって……」
大体こんな感じ。
今まさに隊長陣同士での戦いが始まろうとしている。
その緊迫した空気をフォアードチームは好機と見たのか、突っ込む。
乱戦になる。
聞こえる爆発音。
響く厨二発言。
「ヴィヴィオ。
俺戦ってないのにダメージ受けてるのなんでだろ。
自分の姿になるようにしただけで、厨二発言に関しては全く知らないのだが。
しかし自分の姿したやつがハッスルするとこんなに心が痛むモノなんだね」
「狐パパ?」
「あぁ、何でもないよ。
パパでもないよ。
そうだ、ポジティブに行こう。
以前もそうして乗り切ったじゃないか。
という訳でヴィヴィオ、一緒にあの幻術の名前考えようか。
俺としては二度と使いたくない意味も込めて『禁忌「狂言の鏡像」』ってのはどうだろう」
「おなかすいたー」
「知らんがな」
ホント空気を読まない子である。
しかし砲撃のない訓練というのは久しぶりだ。
ましてや隊長陣とチビッ子達+αを相手にしているのだから余計に。
たまにはこんな時間を享受してもバチは当たるまい。
そのままヴィヴィオと話して時間は過ぎていった。
○ ● ○ ● ○ ●
「はい……じゃあ今日は……ここまで……」
「あ、お疲れさん」
息も絶え絶えに空から降りてくるなのはさん。
それに続くやはり息が荒い隊長陣。
地面には既に座り込んでいるチビッ子達と、ボロボロのヴィータがいた。
俺とヴィヴィオは、空腹とあまりにヴィヴィオが騒ぐのでシートを敷いておやつタイムとしゃれこんでいる。
「しかしいつもボロボロの俺って客観的に見るとこうなるのか。
確かにいじりたくなる気持ちも分からんでもない。
ニヤニヤ」
「口に出して笑わないでよ気持ち悪い……
所でお稲荷さん、一体何をやったの?」
「俺の周りが全て敵な時にしか使えない仲間割れの幻術。
味方の1人に俺そっくりになるように幻術をかける。
でも見た目だけな上に本人はかけられたことが分からないただの幻。
思ったより効果があった見たいだけど、自分の痛い姿を見せつけられて俺へのダメージも尋常じゃない諸刃の剣。
自分の姿に見えるようにしただけなのにあの発言は想定外。
もう二度とやんない」
というか俺の周りが敵だらけな状況なんてそうそう……
ん、よく考えたら俺の周りに味方が居るときなんてそうそう無いだろう。
涙が出ちゃう。
「何で凄いことやってるのにその価値を下げちゃうかな……
で、あれだけ混戦してたらお稲荷さんでも善戦できたんじゃない?」
「ふ……分の悪い賭けは好きではない」
赤い弓兵っぽく格好つけて言ってみたのに俺が言うと情けなくなるのは何故。
「まぁいいや。
ともかくみんなは、今の気持ちを忘れないまま反省レポートを書いてね。
お稲荷さんは訓練を放棄したから、普通の反省文を書くこと」
「どうしてこうなった」
「訓練中にピクニックシートに座っておやつ食べてる人が何を言ってるの?
そもそも私達に一撃入れるのがクリアの条件なんだから攻撃しないのはダーメ」
「初耳すぐる」
キャロがギンガへの説明の時に言ってたでしょ、と叱られる。
何故俺に直接教えてくれないのか。
結局今度は、私は二度と訓練をサボりませんという内容の反省文を50枚提出だそうだ。
また湿布を仲間に手の痛みと戦う日々が始まる。
「稲荷……てめぇ……後であたしとタイマンで勝負だ……」
また湿布を仲間に体中の激痛と戦う日々も始まるようだ。
「どうして俺は簀巻きにされているんでせう」
「愚問だな。
貴様の言動や行動に怒りを覚えたのがヴィータだけだとでも思ったか」
「私もちょっと、稲荷のセリフには頭にきたんだ」
「だからヴィータの相手をする前に、貴様には私達の相手をしてもらおうと思ってな。
何、1時間もやれば満足できる」
「その発言だけ聞くと微妙にエロいな。
てかあれは幻が勝手に言ったことでありまして、俺は関係ありんせん」
「いいんだ。
稲荷の姿で、稲荷の声で、私達を罵ったという事実だけが重要だから」
今度、匿名で稲荷好感度調査を行おうと心に固く決めました。
ヴィヴィオがめっさ喋ってた。
でもアニメの半分までしか進まなかった。
やはり戦闘描写は苦手である。
誰がなんと言おうと戦闘描写である。
書いてて楽しかったのでいいかと思い今回は訓練のみの話。
任務の時以外はアニメも朝練から始まる事が多いキガス。
という訳で15話。
何かPVとユニーク数の増え方がガガッと上がったことにニヨニヨしつつ。
ありがとうございました。