狐通信奇行文。
17話
「夜を何とか越したのはいいが着替えが無いことに愕然とした。
という訳でヴィヴィオ、オペレーション・トレジャーハントの開始だ。
タンスを見つけ出し、中の衣服を回収せよ」
「らじゃ!」
昨日の服のままでいるのは何だかやるせなかったので六課に着いてまずは着替えをと思ったものの、入り口付近はキープアウトのテープが張ってあって入れず。
仕方無しに別の入口から潜入することにした。
表の自動ドアは崩壊していたが、そこらかしこにある手動で開くドアは無事でして。
早速開いて中に入る。
「ヴィヴィオ……お稲荷さん……
守れなかった……約束してたのに……
あの子、泣いてた……!!」
「なのは、助けよう。
2人で、きっと。
……え?」
「……お邪魔しましたー」
「しましたー」
踏み込んではいけない場面に出くわしてしまったので小さく謝りドアを閉める。
フェイトさんと目があった気がするが気のせい。
「ヴィヴィオ、俺こういう時どうすればいいか分からない」
「笑えばいいと思うよ」
「この子どこで知識を仕入れてくるんだホント」
「前に狐パパが言ってたよ?」
原因は俺だった。
まぁいいや。
ここは入れないから別の入口からにしようか。
歩き出そうと後ろを向くと、先ほど開けたドアが勢い良く開かれた。
視線を戻すと、涙目のなのはさんとフェイトさんがこっちを凝視している。
「あ、百合百合しい展開はもういいの?」
「ヴィヴィオ空気読んだよ!」
ヴィヴィオ、そういう事は言っちゃいけません。
心の中に留めておくものです。
「え、何で……だって、ヴィヴィオとお稲荷さん捕まってたんじゃ……」
「何のことかサッパリングだが、味方以外に今まで俺に危害を加えようとしたやつはいない」
なのはさんがよろよろと歩き出す。
「良かった……良かった……!!」
そして最後には走りだした。
この展開、分かります。
ズバリなのはさん抱擁フラグ。
今脳内には、抱きつかれた後どのような切り返しをしようか108式のシミュレートが展開されている。
だがまずは受け止めることからだ。
両手を広げる。
「なのはさん……!!」
「ヴィヴィオ————!!!」
俺をスルーしてヴィヴィオに抱きつくなのはさん。
行き場を失った両手をじっと見つめる。
この発想は無かった。
呆然としていた俺の肩に手が置かれる。
視線を上げると、凄くいい笑顔をしたフェイトさん。
「稲荷、事情を聞かせてもらおうか」
「今回ばかりは心の底から言わせてくれ。
それでも俺はやってない」
有無を言わさず正座の構え。
ヴィヴィオはなのはさんにしがみついている。
裏切ったな?
「さて、色々聞きたいことはあるんだけどまずは、何でお稲荷さんは捕まってたのにここにいるの?」
「その前提条件が分からない。
捕まった記憶はないぞ」
聞くと、スカさんが通信で俺とヴィヴィオの姿を映してきたらしい。
その中での俺は、また……この手の届く範囲の者ですら守れないのか! と言ってたとか。
ヴィヴィオはヴィヴィオで、ママァ—————!! って叫びまくってたとか。
「あ、原因はやっぱ俺だわ。
てかヴィヴィオはともかく、俺は本人じゃない事に気付いて欲しかった。
そんな厨二発言しません。」
「ヴィヴィオもそこまで叫ばないよ」
「あ……
そ、それはともかくお稲荷さんの仕業?」
「あぁ。
あんな過激なものを花火と言うものかと、俺の祭魂に火がついてさ。
ヴィヴィオに日本式花火を見せてやろうと建物に侵入したら、眼帯白髪青タイツに出会ってな。
俺とヴィヴィオの触れる、似てる、喋れるのお買い得な幻を囮に出してたら、見事にそっちを追いかけていった。
多分捕まったのはその幻。
あれ、なのはさんのスターライト砲撃レベルのダメージ与えないと消えないし。
そういや途中でギンガとすれ違ったが何であそこにいたんだ?」
「あぁ、以前模擬戦でズルした……
あの分身は卑怯だよ、お稲荷さんと同じ技も使ってくるから砲撃で消えたときは本当に焦ったんだから。
……ん? ギンガが居た?」
「まぁ俺の幻は厨二発言。
ヴィヴィオの幻はスネちゃま。
もう二度と使わない。
ギンガは何か凄い焦っていたがスバルと合流するって走っていったぞ。
な、ヴィヴィオ」
「うん!」
そっか、そっかーと呟くなのはさん。
今まで黙って隣に立っていたフェイトさんも何やらお怒りのご様子。
「お稲荷さんの知り合い。
都合よく花火大会の知らせ。
これで場所を教えてくれたらピンと来てたんだけどなぁ。
何で教えてくれなかったかなぁ」
「稲荷、スカリエッティと連絡が取れたのなら何で私達に伝えてくれないかな」
「ぬぉぉぉぉぁぁぁあああああ!!」
今は訓練室でお仕置きが出来ないからと、2人に挟まれて頭の前後左右からウメボシを敢行された。
マジで頭が割れるかと思いました。
「砲撃は普通に痛いがウメボシは地味に痛い……
てかやっぱりダメージを受けるのは味方からだけなのね」
「自業自得だよ」
……えっ、俺が悪いの?
「まぁ、2人が無事で良かったよ。
後はスカリエッティの目的だね……
何でヴィヴィオとお稲荷さんを攫ったのか」
「頼むからあれを俺と言わないで。
俺は前々から勧誘受けてたから分かるがな。
働きたくないから断ってたが。
ヴィヴィオは何でだろうね」
「……前々から?」
「……あ」
「じゃあ私は事の次第を一旦はやてちゃんに報告してくるね。
あ、そうそう。
お稲荷さんとヴィヴィオは一度病院にも顔を出してね。
ヴィヴィオを攫われたことに、隊長達やフォアード達だけじゃなく面識が薄いギンガまで落ち込んでたんだから」
「俺は?」
「ヴィヴィオ、しっかりみんなに元気な姿見せてきてね」
「うん!」
「ねぇ、俺の心配は?」
「じゃあ私は調査に加わってくる。
なのは、ヴィヴィオ、また後で会おうね」
「うん、またねフェイトちゃん」
「フェイトママ、後でねー!」
「俺がパパでフェイトさんがママとか未曽有の大事故。
てか普通に考えたらママが2人って俺変態になるじゃないか」
「えっ、今更?」
何故にそこだけ反応する。
○ ● ○ ● ○ ●
病院に行った俺達を待ち構えていたのは、手厚い歓迎と安堵の息だった。
もちろんヴィヴィオは抱きつかれ、撫で繰り回されたのに対し、俺は斬撃銃撃打撃噛み付きだった事は言うまでもない。
チビッ子達と副隊長陣、その他の方々が勢揃い。
またも正座している次第である。
「扱いについてはもはや何も言わんが。
病院で怪我人作ってどうするんだ」
「お前なら病院などいらんだろう?」
シグナムさんが未だにキツイです。
「あ、そういやギンガ大丈夫だったのか?
すれ違ったけどあえて無視したから心配だったんだ」
「今のセリフをもう一度読み返して自分がおかしい事を言ってるのに気付きなさい。
……それはともかく大丈夫よ。
敵とも遭遇したけど、その前になのはさん達と合流できたし。
苦戦はしたけど。
上空のガジェットが殲滅されたら撤退したしね」
「そうか、うむ、うむ。
他のみんなも包帯巻いてるが元気そうで何よりだ。
てかそのくらいの傷、5分で治せよ軟弱だな。
俺なら次のコマですら治るのに。
……ぬ?」
突然響くアラート音。
同時に俺達の前に巨大な画面が出現した。
そこにはスカさんが映っている。
『さぁ、いよいよ復活だ。
私のスポンサー諸氏、そしてこんな世界を造り出した管理局の諸君。
偽善の平和を謳う聖王教会の諸君も。
見えるかい……これこそが、君たちが求めていた絶対の力」
仰々しい振り付けを交えながら演説を始めるスカさん。
同時に、そのスカさんの映っている画面の横に、八神とフェイトさん、なのはさんが映った画面も現れた。
『みんな! スカリエッティからの一方通信や!
管理局全体に流されてる!』
『旧暦の時代、一度は世界を専権し、そして破壊した。
古代ベルカの悪魔の叡智。
見えるかい?
古代の技術と叡智の結晶は、今その力を発揮する……!』
『ママァ————————!!
ママァ—————————!!』
『やめろおぉぉぉぉぉぉぉおおお!!』
『さぁ、ここから夢の始まりだ!
聖王の器を鍵に、ゆりかごは今蘇った!!
ハッハッハ、アーハッハッハッハッハッハッハ!!!』
ぶつん、とスカさんの通信が切れる。
通信が残っているのは、残りの3人のものだけだ。
そして、流れていた沈黙を、ティアナが破る。
「何でここにいるあんたがライブ中継に出演してるのよ……」
「こういう展開は流石に想定外。
というかヴィヴィオ椅子に座ってたのに俺ってば横で簀巻きじゃなかった?
何? 敵側でもああいう扱いなの俺……」
「ヴィヴィオもまた叫んでたねー」
『へ? え?
な、何であんたとヴィヴィオがそこにおるんや!?』
「ググれ」
うが———!! と吠え出す八神をフェイトさんとなのはさんが事情を説明して宥める。
因みに病院に居た人達にもついでに説明する。
みんな納得はいかないが、理解はしたようだ。
『つ、つまりあそこに居たのはあんたが作り出した分身体って事でええんやな。
てか分身体なら何でゆりかごを飛ばせるんや。
スカリエッティの話から推測するに、聖王の器ってヴィヴィオの事やろ?
本人がおらんとあかんやん』
「一生懸命妖力使って無駄に精錬された無駄のない無駄な分身を作ってみた。
見た目、性能、潜在能力を全て模写できるんだぜ。
でも何故か厨二やスネちゃまになるから価値がボットン便所に落ちたダイヤモンドレベル」
『無価値って事やな。
私、これから何か起こったらあんたの写真出して「大体こいつのせい」って言うわ』
ひどくね?
「しかしあんな巨大な物を動かすとかヴィヴィオ、お前何者よ」
「ググれ」
なるほど、いざやられるとこれは心に響く。
「まぁ、でも体感的に後2〜3時間で幻消えるから。
古代ベルカのHな技術の結晶だかなんだか分かんないけど、あんだけ高いところから落ちたら壊れるでしょ。
スカさんの野望も兵どもが夢の跡」
『発音は間違ってないけど大いに意味が間違ってるよ、お稲荷さん。
叡智ね、叡智』
『というか稲荷、後2〜3時間で分身消えるって言った……?』
「ん? あぁ、多分そんくらい。
ヴィヴィオだけグングン魔力吸われてるみたいだからもっと早いかも」
『今、ゆりかごは市街地に向けて航行中なんだけど……』
マジでか。
まぁ大丈夫、対策あるから。
「ヴィヴィオ、財布は持ったか?」
「持った!」
「非常食は?」
「まかせてー!」
「着替え数点もオーケー?」
「なのはママのパンツも持ってきた!」
「けしからん。
それは後で没収です。
じゃあ逃げるぞ」
「はーい」
全員からガッされた。
「じゃあヴィヴィオ、なのはさんのパンツを出しなさい。
それは第一級危険物に指定されてるから」
「狐パパ、変態さんみたい」
「流石に俺にこれをクンカクンカする勇気はない。
今度模擬戦と称した処刑の交渉材料に使うか、ヴァイス闇市のルートで金にするか……
期待に夢がひろがりんぐ」
「あ、なのはママ!」
「オワタ」
スカさんの言い回しを聞き取るのに手間取り、辞書を引くのに手間取り。
ぬっころしてやろうかと思った次第です。
あぁシリアス。
苦手なシリアス。
今後の展開どうしよう。
17話に来てくれてありがとうございました。
この後、アニメは数話続きますが、こいつが動いたらすぐ終わりそうで怖い。