涙ながらの奇行文。
20話
「…………」
「うぅ……ごめんなさい。
謝るから無表情で泣きながら何も言わずに見つめるのやめて……
地味に怖いよ……」
「狐パパが珍しく有利。
けどガチで泣いてるのはキモイ。
わ、こっち見た」
「だが気持ちは分かるぜ。
あれは撃ち抜かれたヤツにしか理解出来ないよな。
てかてめーは何で無傷で居られるんだ」
撃ち抜かれた俺の後ろには外まで貫通している穴が空いていて。
床には少し焦げた眼鏡が気絶していて。
目の前ではなのはさんが土下座している。
あまりの俺の反応にビビっているようだ。
「ヴィータ、分かってくれるか。
あの光の奔流に飲まれる瞬間。
俺は小学生から今までの記憶を追体験してきたんだ。
世間一般に言う走馬灯。
深い絶望感が稲荷を襲った。
なのはさんには帰ったら、語尾に『ゲス』が絶対付いてしまう呪いをかけてやる」
「許して……それ社会的に抹消されるから……」
だが断る。
さて、いつまでもこんなことをしている暇はない。
さっさと目的を達成しないと、後何回なのはさんに殺されかけるか分かったものじゃない。
ゆりかごの進路方向を変えるということだったが、はて。
「そういやさっきこの眼鏡、月の軌道上へ行くとか言ってなかったか?
つまりしばらく放置して落ちない宙域まで行ったら幻を消せばいいという結論に至る」
「そういやんなこと言ってたな。
自分から目的話してくれるとか楽でいいな。
遠隔でお前の分身って消せるのか?」
「無問題」
遠くでママァ—————!!
とか、この俺を消す……だと?
とか言ってるヤツらがいるけど放置で。
「じゃあ、一旦帰ろうか!
ここ、AMFがちょっときつくて念話出来ないから状況報告できないし」
「電話?
それくらい出来るだろ。
……あぁ、ラジオ電波が強いから受話器から番組が聞こえるのか。
それは確かにうざい」
「通信はダメなのかな?
さっきスカさん使ってたし」
「ヴィヴィオの頭の良さに感動した」
「あたしはあんたらの知識の無さに愕然とした」
早速携帯を取り出す。
アドレス帳を開く。
登録件、2件。
ハハ、スカさんとヴァイスのアドレスしかねーや。
「なのはさん、後でアドレスと番号教えて。
登録スカさんとヴァイスの2件とか切な過ぎるからアドレス帳の肥やしにする」
「え、あ、うん! いいよ!」
何喜んでるんだこの人。
さて、メールは歩きながら打つとしてなんて書けばいいのかね。
「とりあえず現状報告と外はどうなっているのかを聞いといてもらえるかな?」
「了解」
『ラストダンジョンは攻略した。
被害者は俺だった。
外はどうなっている?』
そーしん。
ちゃくしん。
『リアルタイムで見ていたよ。
あぁ、外はクアットロがやられたことでガジェットは全て停止しているし、私の作品達も全員捕まったから君たちの勝利という事だろう。
まぁ私はドゥーエが目的を果たしたからそれでいいさ』
「だそうだ。
流石スカさん、情報が早い」
「誰にメール送ってるんだてめーは!!」
いや、返信早そうだったから。
でも外の状況しれたし問題ないでしょ。
という訳で早く帰ろう、すぐに帰ろう。
何か既に次の死亡フラグが立っていそうで怖いんだ。
「なぁなのは、あいつを後ろでプランプランさせておいていいのか?」
「だってお稲荷さん飛ぶの遅いし、今は一刻も早くみんなの無事を確認したいからね!」
「流石のあたしも不憫に思えてきた。
行くときもあれだったんだろう?」
「狐パパのライフは0だよ!」
「大丈夫だって!
こんな事で倒れてたら私の使い魔なんてできないよ!」
「なるほど、じゃああいつしか出来ないな」
「でしょ!」
フラグ回避できなかった。
○ ● ○ ● ○ ●
ベッドの上で目が覚めた。
どうやら俺はまだこの世にいていいらしい。
たっぷり10分は生還出来たことに感動し、今まで寝ていた部屋の外に出た。
どうやら仮説本部の……アースラ? の一室で寝ていたようだ。
しかしどこに行けばストーリーが進むのか分からないので、近くに居たお姉さんに聞いてみる。
『迷子のお知らせをします。
9本の尻尾を生やした稲荷くんの保護者の方。
艦内におりましたら至急ロビーまでお越しください』
放送された。
なんでよ。
数分経たずに、なのはさんが文字通り飛んでくる。
「もう!
何やってるのお稲荷さん、凄い恥ずかしかったんだから!」
「この年齢で迷子放送をされる俺の方が恥ずかしかったのだが」
すぐに腕を引かれて別の部屋へと連れて行かれた。
注目の的だったのだから仕方ないと言えば仕方ない。
因みにゆりかごだが、なのはさんが言うには結局宇宙空間に出たところを、待機していた他の艦が主砲の集中砲撃で爆破したらしい。
終わった。
何か知らんうちに長い1日がやっと終わった。
てかさ、幻を消す必要が無かったのなら俺が突入した意味ないじゃん?
俺ってばスカさんの格好で殴られて、スカさんと通信して吹き飛ばされただけだし。
あれ、スカさんが主な原因じゃね?
ぬっころす。
着いた一室は、プレートが掛けられていたが例の如く読めず。
中に入ると前回来た会議室に似ていたので会議室2と称する。
既にチビッ子達とヴィヴィオ、フェイトさんが居た。
そしてここは床は光っておらず、照明は天井から。
あるならこっち使えよ最初から。
「狐パパ、無事だったんだ!」
「おーヴィヴィオ。
チビッ子達も所々包帯巻いてるけど大丈夫そうだな。
俺は結局最後まで危害を受けたのは味方からだけだったのはやるせないが、何とか生きてるぞ」
だがその程度の傷、即座に治せんでどうする。
まだまだ修行が必要だなお前らも。
フェイトさんが一歩前に出てきた。
「稲荷、君が通信でスカリエッティと戦闘機人達を引きつけてくれたおかげで楽に捕まえられたんだ……ありがとう」
「その光景を見ていた俺はフェイトさんの事がサディスティッククリーチャーに見えたとです。
演説中くらい見守ってあげようよ。
フェイトさんもマッパになる変身シーン、見逃してもらったんだから」
スカさんをふっ飛ばした巨大な剣をこっちに向けてきたので黙る。
「お稲荷さん、改めて突然撃ち抜いちゃってごめんね?」
「なのはさん……ふん!」
柔らかい。
右手におさまる丁度いい大きさ。
揉んでみる。
良い弾力。
「ちょ、あっ……ん、え?」
「何やっとるかあんたはあぁぁぁああ!!」
「今日の出来事を体験した俺にもう怖いものはない。
宣言通りに無事に帰れたからなのはさんの胸を揉んでみた。
ティアナ、グーで殴るな結構痛いぞ」
「狐パパ……何でそこまでして死にたいの……?」
今の俺は何でもできそうな気がするんだ。
ティアナ、グーから蹴りに変えないで、もっと痛い。
「……もう、お稲荷さんったら何するの?
そんな事しちゃダーメ!」
人差し指を立て、メッていう感じに言ってくるなのはさん。
別にアイアンクローをされている訳でも、グーパンされた訳でも、砲撃された訳でもない。
ただ注意をしてきているだけなのだ。
俺だけじゃなく、ヴィヴィオやチビッ子達も、えっ……という表情でなのはさんを見ている。
「……違う。
なのはさんはそんな反応をしない。
クソッ、どうしてこんなことに。
ゆかりさん、早く梨花ちゃんを出せ。
梨花ちゃんに変わるんだ」
「勝手に人を多重人格者にしないでもらえるかな。
しかも2人とも私じゃないし……」
なのはさんの肩をガクガク揺さぶりながら言ってみた。
あながち間違いじゃ無さそうなのは何故だろう。
「……あ、そう言えば」
そんな事をしていると、1つの案件を思い出した。
思えばずっと、歯の間に肉が挟まったようなもどかしい気持ちになっていたのはコレのせいかもしれない。
故に、この問題は可及的速やかに解決する必要があると思う。
俺が真顔でそう切り出すと、みんなシリアスモードに入った。
なのはさんから手を離し、近くにあった1つの椅子に腰掛け、肘をついて手を口元で組む。
イカリのゲンドウスタイル。
重い口を開く。
「……俺のパンツが、もうそろそろ3日目に突入するんだ」
どうしてこうなった。
「稲荷くんがパンツを取り替えるのを忘れたからじゃないのかね。
あぁ、私の所にもちょっと近寄らないでもらおうか」
つまり、スカさんの犯罪と俺のパンツは同罪って事ですか。
てか着替えられなかったのはタンスを探す前に病院に行ったからで。
病院からはゆりかごに直行した訳で。
替える暇が無かったんだよ。
「そして独房なハズなのに2人押し込められるとかもうね。
せめて替えのパンツを置いて行って欲しかった」
「そのずっと履いてきた脱ぎたてほやほやのパンツを見ながら独房生活を過ごせと言うのかね?
ふむ、稲荷くんはなかなかに鬼畜な事を言ってくるね」
「どう考えてもスカさんの発言の方が俺の精神をガスガス削っていっています。
何気になのはさん、胸を揉んだこと怒ってたのかなぁ」
「そもそも何故、胸を揉もうと思い至ったのだい?」
「そこに胸があったからかな」
「クックック。
なるほど、真理だね」
世界は本当に、こんなハズじゃなかった事ばかりだ。
コタツって魔王にも勝てるんじゃないかと思ってきた今日この頃。
また起きたら真夜中でした。
途中まで出来ていた文を読み返したら相当支離滅裂だったのでかなり朦朧としてたにちまいない。
チビッ子達の影が薄くなった。
でも基本誰かの存在感が薄くなっているのが奇行文クォリティー。
その内逆転するでしょう。
さて記念すべき20話。
多分次がStSのエピローグ。
何故ならアニメも後日談がエピローグ。
見に来て頂きありがとうございました。