居酒屋奇行文。
おかわり 4杯目
「いらっしゃーい」
店主の挨拶を聞きながら暖簾をくぐる。
カウンター席が10席程度。
座敷も、カウンターの後ろに2つ、横に1つしかない。
木造のこじんまりとした居酒屋だ。
風情がある。
なのに店名が『アルハザード』だったのはきっと店主がまだ厨二病を患っているのだろう。
稲荷です、と店主に告げる。
彼は奥の座敷へと案内してくれた。
目的の場所には、既に2人の人物が腰をおろしている。
店主に礼をいい、2人のもとへと向かった。
「やぁ、こちらでは初めまして、になるのかな。
君は知っていると思うが、ジェイル・スカリエッティだ」
「遅れてスマンな。
なのはさんがどうも疑り深くてなかなか抜け出せなかった。
とりあえず今俺は1人海で夜間水泳を楽しんでいることになっている。
しかし未来と全然容姿が変わらんな。
蓬莱人かお前は。
で、こちらの方が……?」
「あぁ、私が君のことを話した知り合いの、プレシア・テスタロッサだよ」
「プレシアよ。
あなたが稲荷?」
「あぁ。
まぁ自己紹介も済んだことだし。
先に注文して、話すことにしようや」
メニューを見る。
俺はレモンチューハイを。
スカさんとプレシアさんは生中を頼んだ。
後はおつまみを少々。
異口同音で子どもだな、と言われた。
ビールの味はまだよく分かんねーんだよ。
「まずは、乾杯っと。
いやぁ、開催が遅れてごめんなスカさん。
予想外の出費で計画が狂った」
「何、構わないさ。
もっとも、プレシアの方はそうではなかったようだが」
「当たり前よ。
私は一刻も早く目的を達成したいの」
「愚痴はフェイトに言ってくれ。
あいつの1130円のせいで2日働けば行けたかもしれないものを、大事を取って3日間働いてから来たんだからな。
てかフェイトのオカンなら1130円払え」
「何よ、そのくらいでケチケチ言わないでよ。
後、娘じゃないわよ、あんな人形」
日給3000〜4000程度の俺に1000円単位がどれほど重いか貴様に分からいでか。
「ん? 人形?
プレシアさんって実はパペットマペットだったのか」
「何の話よ。
フェイトは私がプロジェクトFから造り出した、ただのクローン。
私の娘は、ただ1人よ」
「そうか。
興味なし。
おっちゃん! 枝豆追加!」
あいよ! とカウンターの中から威勢のいい返事が聞こえる。
「ふ、普通は怒るんじゃないかしら、人を人形呼ばわりされたら」
「稲荷くんは普通じゃないからね」
「今の俺は枝豆の方が興味ありんす」
「クックック、あぁ本当に面白い。
未来で私が君に興味を持ったのもよく分かるよ」
それは褒めているのか貶しているのか。
「産んでないから生みの親ではないという解釈なのか。
文化の違いだねぇ。
ともかく、生みの親ではないとしても育ての親には違いない。
帰るまでに絶対1130円は頂く」
「はいはい分かったわよ……
育てたには違いないし……
あ、生中おかわり貰おうかしら」
「私も頂こう」
「で、プレシアさんの俺に用って何だったの?」
「えぇ、それなんだけど。
あなた、ジュエルシードを使って未来からやってきたって言ってたわね?」
ジュエルシードってドラゴンボール?
スカさんの分析が間違っていないのならそうだと思う。
「普通はジュエルシードって、まともな願いを叶えてくれないらしいのよ。
だから、数を集めて伝説の地、アルハザードへの道を開くつもりだったんだけど」
「すげーな。
ここって伝説の店だったのか。
ならもう目的達成じゃね?」
違うわよ、と怒られた。
なんでも、死者蘇生とか、そういった伝説級の魔法が眠る地なんだとか。
「私も正直、ここの店名見た時は吹き出したわよ……」
「おっちゃんが関係者じゃないことを切に願う。
てか死者蘇生とかやめてよ俺ホラー苦手なんだから」
「おや、プレシアが君に願うことも死者蘇生なのだよ?」
マジでか。
「そう、蘇らせたいのは私の一人娘のアリシア。
あれは約7年前、次元航行エネルギー駆動炉ヒュウドラの実験中……」
「あ、その話、長くなりそう?
なら飛ばしていいよ」
プレシアさんにガッされた。
「ここから私の悲劇の物語が始まるんじゃない」
「どう考えても悲劇なのはプレシアさんよりも死んだ娘さんな罠」
「クックック。
過程を気にせず結果が知れればそれでいい、か。
私達科学者とはまさに対極の存在だね」
「聞いても理解できないと怒られるのをここ最近学んだ。
けど説明を飛ばすように求めても怒られる。
俺に逃げ場はない。
あ、カルピスサワーをお願いします」
「そりゃあ、一生懸命説明して分かってもらえなかったら叩きたくもなるでしょ。
でもあなた、カルピスとか本当に子どもね。
あ、私にはこの黒龍ってお酒頂戴。
ここのお酒は初めてだから楽しみだわ」
「まぁそれも稲荷くんの美点なのだろう。
ふむ、私は酒呑童子というにごり酒を貰おうか」
唐揚げが来た。
レモンが効いててウマス。
「で、その娘さんを俺がドラゴンボールで蘇らせて欲しい、と。
できるんじゃね?
確か悟空も何回か蘇ってたし」
「誰よ悟空って。
それはともかく本当なの?
嘘だったら殺すわよ?」
「日本酒片手に唐揚げ食べながら凄まれても怖くねッス。
まぁ試してみてもいいんじゃない?
マイナスにはならんでしょ」
そう、と一息つくプレシア。
「時間移動も出来るのなら、死者蘇生も夢ではなさそうね。
後は成功した後にどうするか、か……
私自身も病気で結構マズイし、何より違法研究とかやって管理局に目をつけられてるから。
ジュエルシードの護送船も襲撃しちゃったし。
あら、このお酒美味しいわね……」
「何、プレシアさんも犯罪者?
スカさんといい、科学者はそういうのが多いんだね」
「私はまだ君の言う管理局襲撃はしていないけどね。
しかし襲撃してみるのも面白いな……
あのスポンサー諸氏にはウンザリしてきた所だしね。
こちらのにごり酒もなかなかだよ」
「ヤメテ。
この世界でも『大体稲荷のせい』って言われちゃうから。
因みに病気って何でさ。
いいもん、カルピス美味しいから……
おっちゃん、ナンコツくれナンコツ!」
「知らないわよ。
ちゃんと1日2回は注射で栄養補給してるし。
睡眠時間も1時間は取ってるのに」
「そりゃ病気になるわ。
ちょっとフェイトと一緒に温泉行ってこい。
この地域にあるから。
プレシアさん1人だと何しでかすか分からん」
「あなたに言われるのは何か癪ね」
人が心配して言ってるのにこの仕打ち。
「ふむ、だが管理局の方はどうするのかね?」
「みんなの見てる前でそっくり人形でも投身自殺させたらー?
今の俺はナンコツにしか興味がない」
「いい案をくれたら、1130円と一緒に稲荷寿司も奢ろうかしら」
「俺がプレシアさんと娘さんの分身を作りましょう!
喋って動ける本人ソックリなのを妖気で!
二度と使わない気でいたんだけどまぁ、自分のじゃないし大丈夫でしょ。
……所で俺も犯罪者になるってことはないよね」
身内にそういうのに敏感ななのはさんが居るのですが。
「使うのは私だし、あなたには危害が及ばないようにするわ。
その妖気ってのを調べたいものではあるけど……
あ、お酒もう1本貰えるかしら?」
「死亡フラグにしかならないので全力で拒否します。
俺はライムチューハイを」
「おや、残念だね。
私も少し興味があったのだが。
ふむ、では麦焼酎を貰おう」
「じゃあこれでプレシアさんの悩みはすべて解決?」
「そうね、後は実行するだけ……ね」
そうかそうか、それは重畳。
でもやる前に温泉行ったりしてまずは体治してからな。
「後、なのはさんのなのは育成もなんかノリにノッてきてるから、ドラゴンボール集まるまでやらせて頂けると嬉しい。
途中で止めると俺にどんな被害がくるか分からない。
それに俺もいくつか持ってるから、そのお願い自体は行けばいつでも出来るし」
「何で持ってるんだい?」
「歩いてたら結構落ちてるもんだよ、これ」
何故プレシアさんは頭を抱えるし。
「ま、まぁいいわ。
蘇生できそうって事が分かったし、精神的にかなり楽になったわ」
そうかそうか。
あ、ついでにメルアド教えてね。
何かあったら連絡するから。
「しかし、このメンツが管理外世界の、ひっそりと佇む居酒屋で仲良く酒を酌み交わすとはね。
あぁ、世界はなんて面白くできているんだ。
クックック……ハッハッハッハッハ!」
「俺は一人演劇をしているスカさんを見ているだけで面白いのだが」
「感情が高ぶるとこうなるのよ、こいつ。
スルーしなさい」
どうやら一番酒に弱いのはスカさんのようである。
「なかなかに楽しかったよ、稲荷くん」
「アリシアが死んでから初めてだわ、こんないい気分になれたのは」
「そいつは良かった。
俺が帰るまでにまた飲もーな」
「えぇ。
あ、そうそう、これフェイトが支払いを押し付けたお金ね。
1130円よね」
「お、サンキュ。
これで明日の朝はお揚げが買える。
……じゃ、またなー」
別れの挨拶を交わすと、2人は一瞬の内に消えた。
あれが転移魔法ってヤツだろうか。
何とも便利なものだ。
飲酒運転にならないし。
さて、それじゃあ俺も帰るとしますかね。
もう午前1時だし。
部屋に戻るとバレるからリビングのソファーで寝ようかな。
○ ● ○ ● ○ ●
「みんな就寝済みだろうけどただいまっと」
「おかえりお稲荷さん。
誰と飲んでたの?」
「スカさんとプレシアさん……
な、なのはさん、何故……」
なのはさんがゆっくり、俺の首を指差す。
首?
……おいおい、またお前か。
存在が希薄すぎるぞ首輪よ。
「発信機がついてるって前に言ったよね?
初めて役に立ったなぁ。
お稲荷さんが居酒屋に居ることは分かったんだけど、誰と一緒までかはちょっと分からなかったんだ」
「それでこの誘導尋問とか。
汚いさすがなのはさん汚い」
「全くもう……
いつものことだし、騒ぐとみんなに迷惑だから今は流すけど、後でちゃんと聞かせてね?
後、何でお稲荷さんは、私と一緒には行かないの?」
行きたかったの?
「うん」
ありゃ。
今日は何か素直ね。
いつもと違う行動は危険信号。
俺、何されるのよ。
連れていかないとか言ったら俺蒸発しちゃうので今度ね、と答えておく。
「じゃあ今日は嘘ついた罰として、一緒に寝てもらおうかな」
「えっ」
そう言って俺達の部屋に連行される。
中には既にヴィヴィオが就寝中だったので、起こさないように寝間着に着替えて布団へ向かう。
なのはさんも続いて入ってきた。
マジで一緒に寝るつもりか。
眠かったのか、すぐに寝息が聞こえてきた。
俺これから何されるのだろうか。
なのはさんの寝言や寝返りにいちいちビクビクしながら、更に夜はふけていく。
気にせず無理矢理寝てしまえばビクビクせずに済んだのではと思ったのは、一睡も出来ずに目を充血させて朝を迎えた時だった。
実は書いてて超楽しかった回。
居酒屋へ行きたくなってきました。
飲んでる時ってこんな感じですよね。
でも稲荷と同じくチューハイとか梅酒しかダメな人です。
焼酎も少しいけますが。
いいんです、美味しいから。
身内が絡まないとこんなに平和になるんですね。
なのはwikiの時系列表だとスカさんはもう25歳はいってるようで。
StS時何歳よあんた。
若すぎじゃね。
という訳でほのぼの回のおかわり4杯目。
お口休めのお茶タイムでした。
またよろしくお願いします。