エロス
おかわり 5杯目
スカさんとプレシアさんとの飲み会から数日。
今日も今日とて、喫茶『翠屋』で過ごす日々。
この数日で変わった所と言ったら、我が食卓に揚げ尽くしが並ぶようになったことである。
桃子さんの料理は天の贈物。
しかし、なのはさんはもとより、なのはでさえリリカルマジカル以外の黒歴史を中々さらけ出さない。
まぁ、年がら年中思い返すと悶え苦しむような事をしていたのなら、今頃なのはさんは東尋坊や富士の樹海に行っていてもおかしくないので仕方がないと言えば仕方が無いのだが。
あぁ、忘れてた。
後、なのはさんも翠屋で働くことになった。
だがホールではなく、厨房で料理を教わりながら作っているようである。
この辺りから桃子さんの俺を見る視線が生暖かいものに変わった気がする。
「回想は終わった?」
「何故バレたし。
桃子さんも新種のサトリ説が浮上」
「5分近く同じテーブルの一部分だけ拭き続けてたら気づくわよ?
ほら、そこだけピカピカだし」
俺頑張った。
「まぁそれはそうと。
大きい方のなのはとヴィヴィオちゃんには言ったんだけど、今度の連休に家族旅行に行く予定があってね?
稲荷くんも一緒にどうかなって」
「目的地は?」
「海鳴温泉の旅館よ」
素晴らしい。
温泉なんていつ以来だろうか。
「あぁそうだ、修学旅行以来やもしれん。
是非行きたいとです」
「そう、良かった。
じゃあ明後日出発だから、明日までに準備済ませといて頂戴ね」
「合点。
ヴィヴィオー!」
「狐パパ、呼んだ?」
テーブルに残った食器を片付けていたヴィヴィオが、呼び掛けに応えひょっこり顔を出す。
「温泉だ。
カメラとビデオの準備はいいか。
ちゃんと湯けむり対策しとけよ」
「狐パパってたまに欲望に忠実だねー
またなのはママに怒られるよ?」
だってお前、女性が温泉に誘うっていうことは覗いてくれっていうのと同義って何かの本で読んだぞ。
む? ということは桃子さんが俺に気があるということか。
モテる狐は辛いね。
「こんな狐パパを持ったヴィヴィオも辛い」
「最初に目の前の者で代用したのはお前だお前。
あ、桃子さん。
因みにその温泉旅館にはしっぽ穴のあいてる浴衣って置いてあるかな?」
「う〜ん、置いてないと思うけど。
穴あけちゃダメよ?」
温泉で浴衣が着れないとか。
明日安売りの浴衣探しに行こう。
○ ● ○ ● ○ ●
そんなやりとりがあったのが2日前。
昨日、近くの服屋を見て回っていたらまだ4月だというのに、いい柄の浴衣が安売りしてたので買ってみた。
因みに店員さんが、俺の姿を見てしっぽ穴まであけてくれた。
ここの地域の人達は優しい人達ばかりである。
一部を除いて。
財布が俄然軽くなったが、悔いはない。
「遂にこの日がやってきた。
手ぬぐいの準備もOK。
いざ行かん幻想の郷!」
「張り切るのいいけどまだ家の前だからね。
お稲荷さん、頭に乗せた手ぬぐいをおろしなさい。
恥ずかしいから……」
ぬう。
「あ、あんたね!
なのはの言ってた狐って!」
渋々ながら手ぬぐいを頭からおろしていると、なのはが何だか騒がしい子ども2名を引き連れてやってきた。
「高町家に住みつく狐と言えば俺だが、俺はお前を知らない。
初めまして稲荷です。
ところでなのは、どちら様だこの金髪幼女とその隣の……
ま た 紫 か」
どうも俺は紫の髪を持つ人に縁があるようである。
「にゃはは……
えっと、こっちの金髪の子はアリサちゃんって言うんだ。
紫の髪の子はすずかちゃん。
2人とも、私のお友達だよ!」
「アリサ・バニングスよ。
よろしくね」
「月村すずかです。
えっと、稲荷さん……ですよね?」
おぉ、君たちが。
あれだね、あんまし話した訳じゃないけど未来と雰囲気が違うね。
で、すずかは何か用かね。
「えっと、その尻尾って本物、ですか?
人間、ですよね……?」
「最近その辺の境界が曖昧になってきた。
もう種族:稲荷でいいよ。
人でも妖怪でもキョドるからダメなんだ。
堂々としていれば何も問題はない。
因みに尻尾は本物だが、触りたければ揚げを持ってこい」
「堂々と……
は、はい! 分かりました!」
揚げをゲッツできそうである。
「ところで、後ろのなのはソックリの人は誰よ?」
突然話題を振られた、俺の後ろで黙って立っていたなのはさん。
なのはの姉に当たるんだけど、今まで外国にいて最近戻ってきた設定らしい。
なのはが産まれる前の事だから、なのは自身は知らないとか。
ここ数週間だけ日本に居れるんだとか。
息を吐く様に嘘が出てくる出てくる。
「何、その設定とか、しかも名前が高町このはって。
あなたなのはさんじゃないですか」
「なのはが2人居たら怪しまれるでしょ?
昨日お母さんと考えてつけてみたんだ!
可愛いでしょ」
えっ。
「さ、ヴィヴィオ。
車に乗るとしようか。
数台停まってるけど俺達はどの車だろうなー」
「ちょ、お稲荷さん!
可愛いでしょ? このはって可愛いでしょ!?
ねぇ!?」
以前車に乗ったときは2人乗りの車に3人だったからトランク行きだったが、今回は溢れたのが丁度3人だったから新たに車を1台借りたらしいので、普通にシートに座れました。
車2台で9人乗れるのに、後3人誰よ。
とか思っていたら、すずかの姉の忍さんって人と、ノエルとファリンとかいう月村家のメイドと名乗る人が出てきた。
一緒に旅行についてくるらしい。
俺には忍さんとすずかとファリンの違いが縦の大きさでしか分からなかった。
同じ顔が揃うとかあいつらも多分クローン。
みんな紫だし。
唯一、ちょっと顔が違うノエルでさえ紫。
きっとみんなスカさん一味。
「なのはさん」
「どうしたの?
あ、みんながいる時はこのはって呼んでね」
「拒否。
免許持ってたんだね」
「何で!?
というか当たり前だよ。
向こうじゃ色んな乗り物乗ったりするんだから」
「いや、地球での免許」
「あっ……」
「なのはママ、大丈夫?」
「だ、大丈夫!
うん、そんなに長い間は運転しないし、事故らなければバレないよね!
あ、ヴィヴィオも向こうではこのはって呼んでね」
「拒否」
うむ、うむ。
染まってきてるのは嬉しいが、純粋だった頃のヴィヴィオを懐かしく思うのは何故だろうね。
そんな事を話してる内に目的地に到着。
確かに移動時間は1時間程度だったが、帰りは別の誰かに運転してもらいたいものである。
「んっ——————!!
っくあぁぁああ……」
「扉を開けたらそこには幼女なオッサンが居た。
なのは、お前にそれは早過ぎる。
それは30を過ぎて人生に疲れた人がする行為だぞ。
まぁ……緑溢れる場所での背伸びが気持ちいいのは分かるが」
「だって、旅行中は訓練お休みってなのはさんに言われたの。
この2日間だけは、あのピンクの光から解き放たれるの……」
遂にお前もその域まで達したか。
なのは本人がこういうことを言うって事は、六課のチビッ子達はどれだけMだったかって話だな。
だがなのはがピンクの光に包まれる時は、俺はその数倍は包まれている事を理解して頂けると嬉しい。
「でも、強くなってるとは思うの!
もうどんな攻撃も気絶せずに受けれそう!
これであの子ともお話できそうなの!」
「そうか。
避けたり反撃するって選択肢は無いんだな。
まぁ、頑張ってフェイトの攻撃を受けてこい」
うん! と元気な返事を残してなのははみんなのもとへと走っていった。
……あれ、そもそもあいつらって何のために戦ってたんだっけ。
何か忘れてる気がするけど……まぁいいか。
○ ● ○ ● ○ ●
「こうなると思ったよ」
「わぁ、ひろーい!」
「いつもと一緒なんだから文句言わないの」
旅館に入り、案内された部屋。
高町家やその他の大人組で1部屋。
子ども組で1部屋。
まさかの未来組で1部屋である。
ところでヴィヴィオ。
お前は子ども部屋じゃなくていいのか。
「遊びには行くよー!
でも寝るのは狐パパとなのはママと一緒がいい!」
「この子ってば時たま純粋な頃に戻るよね。
いつもとのギャップで俺の心がボロボロにされていくのだが」
まぁいいさ。
さぁ、ここに来たからにはやることはただ1つ。
「温泉に来て温泉に入らず何をしろというのか。
ヴィヴィオ、なのはさん。
温泉に行くぞ。
ヴィヴィオ、カメラの使い方は覚えてるな?」
「うん!
ビデオは?」
「思ったんだが、ビデオ撮ってもリビングで見るしかないから危険度が高すぎるんだ。
何が悲しくて入浴シーンを本人が横にいる状態で見ないといけないのか。
という訳でカメラにする」
「お稲荷さん、ヴィヴィオに何撮らせるの?」
「裸体」
カメラからフィルムをビーってされた。
「うああぁぁぁぁぁぁ……」
「もう!
ヴィヴィオ、行くよ!」
「うん」
意気消沈したまま温泉に向かい、服を脱いで脱衣所から風呂場に続くドアを開ける。
今から湯船に浸かろうとしている誰かがいた。
「おや、稲荷くん。
君も先に温泉かね。
……どうしたんだい?」
「あぁ、士郎さん。
いえね、男のロマンを先ほど破壊されてきたので」
「……あぁ、なるほど。
だがな、それは正解だ。
仮に成功してもその後バレると……
あぁ、今思い出しても背筋が凍るよ」
ま、まさか士郎さん。
あなたも……
クッ、涙が止まらんよ!
「士郎さん!」
「稲荷くん!」
「何をやってるんだ父さん達は……」
嫌な物を見たと言うような視線でこちらを見ているお兄様。
どうやら今、風呂場に入ってきたようだ。
確かに男2人が涙を流しながら抱き合っているところは見た目相当キモイかもしれん。
かけ湯をして、3人揃って湯船に浸かる。
「しかし士郎さんの体は凄い。
これは切り傷?
これは……銃傷?
傷の多さと筋肉の付き具合が顔と合わない」
「いやいや、稲荷くんの体もなかなか凄いじゃないか。
細いと思ってはいたが、無駄なものが無いだけなんだね。
かなり理想的な体つきだと思うよ」
毎日逃げまわってましたから。
傷は負っても治るから残らないのはある意味僥倖。
「……お?
なんだなんだ、こっちの方も凄いじゃないか稲荷くん」
「ちょ、どこ見てるんですか。
む、そういう士郎さんもなかなか……」
「何の話をしているんだ父さん達は」
「ふ、温泉での語らいと言ったらまずこれだろう。
さぁ恭也も、そんなタオルで隠すな。
温泉にはタオルを浸けてはいけないルールだろう」
「ちょ、何するん……あ」
……ふほほ。
流石お兄様。
士郎さんに迫るものがある。
「これで忍さんとしっぽりするんですね分かります」
「稲荷くん!」
「ハッハッハ、照れるな恭也。
稲荷くんも、主のなのはをよろしくしてやってくれ。
それなら大丈夫だろう?
ま、稲荷くんも恭也も、俺のには勝てそうにないがな」
「前半はともかく後半は聞き捨てなりませんな」
「あぁ、父さんには負けないさ」
「お? じゃあ勝負と行くか?」
『ちょ、お母さん! 忍さんとこのはさんが鼻血出して倒れたの!』
『あらあら、まだまだねぇ……』
『何が!?』
何やら女湯の方が騒がしい気がするが……まぁいいか。
さぁ、士郎さん、お兄様。
いざ、勝負!
「ドローか。
いい戦いだった。
しかし湯当たりとは……なのはさん、情けない。
とりあえずそこのソファーに寝かせとけばいいか。
さてヴィヴィオ、コーヒー牛乳とフルーツジュースどっちがいい?」
「コーヒー牛乳!」
「お、醍醐味が分かってきたな。
じゃあ行くぞ。
準備は万全か?」
「うん!」
「それでは!
………………………クッはぁぁあ」
「おいしーい!」
「風呂上りのコーヒー牛乳は何故こんなにも美味いのか。
トリビアの種に送ったら検証してくれそう」
「……あなた、稲荷よね?
何やってるの、こんな所で……」
「おぅ?」
1話で終わらそうと思ったら終わらなかったとです。
温泉に行くとぶっちゃけ話とかこういう話によくなる筆者。
いや、周りがね……
でも読者サービスシーンは書いてて前回同様楽しかった。
誰が忍で、誰がすずかで、誰がファリンかを見た。
すずか以外クリソツで分からなかった。
あの世界では家族は同一人物にちまいない。
1つ心残りがあるとすれば。
浴衣を出せなかった。
おかわり5杯目です。
ありがとうございました。
多分次回で温泉は終わるので、6杯目もご一緒にいかがですか?