出会いと、別れの、奇行文。
おかわり 7杯目
「で、お前らは何ですれ違ったのかもう一度話し合え。
そして結論が出たら、何故俺のお稲荷さんが握りつぶされたのかを説明しろ」
「お、おっきかった……お、お稲荷さんの、お稲荷さん……」
なのはさん、真っ赤になって悶絶するくらいならやらないでください。
危うく士郎さんとお兄様との勝負に白黒つける前に戦闘不能になるところだったのだから。
「後、お前らの呪いは解除したけど、傷までは治らないから。
それ治るの1週間はかかるから。
口を開く度に油断するとプツっといく苦しみを味わうがいい」
「酷いの、稲荷さん……」
「稲荷さん、呪いって、どうやって……」
気合いだ。
世の中には普通の藁人形に釘を打ち付けるだけでイケメンに呪いをかけれる煩悩高校生もいるんだから不思議じゃない。
ともかく、俺の機転により争いの火種は鎮火できた模様。
なのはとフェイトはお互いが改めて話し合う事で、どんな勘違いをしていたのか気付けたようである。
主になのはが。
国語が出来ないなのは。
これは黒歴史にカテゴライズしていいものなのだろうか。
「ところでなのは。
ユーノはどうした?
あいついつもお前と一緒に居なかったっけ」
「にゃ、にゃはは……
アリサちゃんに握られたまま、脱出できなかったみたい。
『僕に構わず先に行け!』って言ってたから置いてきたの」
「そいつは早く帰ってやらないと内臓的な何かがはみ出している可能性が高いな。
しかし今日は何故こんなにも握るという行為が危険になる日なんだ。
……はっ!
なのはさん、早く帰るのはなのはだけだからね。
俺は月明かりを楽しみながら帰るから」
「狐パパが学習した」
首吊りもホラーだが、体をすり減らされるのも嫌なんだ。
俺の言葉を聞いて心配になったのか、なのはは旅館へと急いで帰還していった。
因みにドラゴンボールは、なのはが持つことで決定したようである。
既に3個は所持している俺は興味無し。
「さぁフェイト、俺達も帰ろうか。
あ〜あ、この時間からじゃ飲み会は無理かなぁ……
ほら、なのはさんも行くよ」
「え、あ、うん、いいよ。
大きくても私頑張るから!」
何が?
「狐パパ。
顔を赤くしてモジモジするなのはママを見てどう思う?」
「股間をクラッシュさせられた後では何かの儀式にしか見えない。
完成させる前に連れて帰るぞ」
「……なのはママにはもうちょっと積極的に行くように言っておくね」
お前、俺の股間に何か恨みでもあるのか?
○ ● ○ ● ○ ●
旅館に着いたらもう0時を回っていまして。
フェイトとヴィヴィオは流石に限界ということで先に寝たが、大人達にとっては今がゴールデンタイム。
仕切り直して飲み会を始めた次第。
途中、なのはさんが実は19歳という事実を知り阿鼻叫喚になったのはいい思い出。
だが、楽しい時間とは足早に過ぎ去るもの。
気付いたら4時を回っており、その日の飲み会もお開きとなった。
そして翌日は午前中に旅館を出発したため、昼過ぎには俺の7割方平穏だった休暇も終わりを迎えたのである。
帰りは別の誰かに運転してもらおうと思ったが、なのはさんがどうしても譲らずまた行きと同じメンバーで帰った次第。
捕まらなくて本当に良かったです。
「また翠屋の日々が始まるんですね分かります。
あえて言おう。
なのはさんが働いているのなら、俺はもう働きたくないでござる」
「何言ってるの?
ニートになっちゃうよお稲荷さん」
フェイトさんちのアルフさんはそういう扱いじゃないのかね。
「まぁまぁ、いいじゃない!
一緒に働くと楽しいよ?」
「部屋に篭ってコメントが流れる動画見てニコニコしてるほうが楽しいです」
「またそんな事言って……
……ん? あ、いらっしゃーい!」
愚痴っていたらどうやらお客が来た模様。
テーブルに案内するため近寄ると、なんと先日まで旅行で一緒だったお子様2人組ではありませんか。
なのはは今居ませんが。
「いいのよ、あんなやつ!」
「ア、 アリサちゃん……」
興奮したアリサをすずかが宥める
喧嘩でもしたのかね。
また両成敗の出番か?
「あいつ、私達がいくら話しかけても何も喋らないで笑うだけなのよ!?
そんなに私達と喋るのが嫌なら1人で居ればいいのよ!!」
「ふ〜ん。
原因である俺が言うのも何だが、あいつもそうなるのは仕方ないんだ。
許してやれ」
「うるさ……ん? 原因があんた?」
「なのはの口の両脇をプツッとさせたのは何を隠そうこのワシだ。
治るまで今やつは喋る度に何とも言えぬ痛みを味わうことになる」
そして俺はアリサに蹴られてこれまた何とも言えぬ痛みを味わっている。
幼女と思って油断した。
スネは無いでしょうスネは。
「容赦って言葉が無いのかお前には」
「うるさい!
あんたのせいでなのはに酷い事しちゃったじゃない!!」
「そこはかとない理不尽さを感じたがどこもおかしくはなかった」
「アリサちゃん!
それよりも早くなのはちゃんに謝りに行こう!」
「そうね、こんなヤツに構ってる暇なんて無いわね」
言いたいことを言ったかと思ったら、2人はすぐに店から出て行った。
嵐のようなお子様達である。
「『大体こいつのせい』かぁ……
はやてちゃん元気かなぁ。
今ならこの言葉の意味がよく分かるの」
「むしろ俺が取り持ったおかげで被害が俺のスネだけだったことに感謝すべき。
まだジンジンする」
「それはそうなんだけどね。
こうも私の時と違ってくるとこう、言い得ないモヤモヤ感に襲われるの。
気晴らしにお稲荷さんの尻尾の毛、抜いていいかな?」
何故そうなる。
あ、ヴィヴィオ!
ちょっと助けて欲しいのだが。
「ん〜?
……はたらけー!」
無邪気さに溢れたその笑顔で発せられた言葉に、俺となのはさんの心は抵抗虚しく崩れ落ちた。
倒れた俺達の向こう側は、ガラス越しに青い空が広がっていたという。
○ ● ○ ● ○ ●
「休暇から帰ってきてすぐこれとは。
俺の安寧の地は温泉だったということか。
おいちゃん、今日はやけだ!
油揚げ10枚くれ!」
「お、狐の兄ちゃん今日はやるねぇ!
はいよ、持ってきな!
……それと聞いたか?
ちょっと街中になるが、新しくオープンした寿司屋の話。
稲荷寿司が結構美味いらしいぞ」
「詳細キボン」
翠屋での仕事を終えて家に帰る途中。
切らしていたお揚げを補充すべく、いつもの豆腐屋のおいちゃんのもとへ馳せ参じました。
そこで仕入れたこの情報。
なのはさんは、お揚げを買ったらすぐに帰ることって言ってたけど。
俺の熱きパトスは止められない。
場所も詳しく聞いたし、稲荷寿司を求めて三千里といこうか。
少し迷ったが、何とか目的地に到着した。
財布はもう空っぽだが、それでも十分に満足できる分買えたと思う。
心なしか歩調が速くなるくらいウキウキな気分で、家に帰る。
手に持つパックの中には、黄金のオーラを纏っている様に見える稲荷寿司。
早くこの封を解きたいものだ。
「……ん?
あ、これはまたドラゴンボールでは無いですか。
4個目かこれで。
本当にいっぱい落ちてるなここ。
サイヤ人もビックリするんじゃね?」
右手にドラゴンボールを持ち、呟く。
こんなにあったらシェンロンの大安売りができそうである。
いつものように尻尾に収納しようとした。
と、ここで背後から声が聞こえる。
「ああ—————!!」
「い、稲荷さん———!!
危ない—————!!」
何事かと振り返る。
親方! 空から少女が!
むしろ少女達が降ってきています。
何やら武器をこちらに向けて砲撃しながら。
「わお」
いつもピンク一色だった光に、今日は黄色が混ざった。
轟音のみが、耳に残る。
「い、稲荷さん……大丈夫、なの?」
「大丈夫に見えるなら眼科と脳外科に行くことをオススメする。
どこの世界にコゲて無事なヤツがいるか」
「大丈夫みたいだね」
フェイトがフェイトさんになる事を確信した瞬間である。
何故またこんなことになったのか聞いてみると、どうやら2人同時にジュエルシードを発見したらしく。
じゃあどっちが先に封印できるか勝負になったと。
で、空から封印の為の砲撃をしたら、発射と同時に俺がドラゴンボールと砲撃の間に来たらしい。
「なるほどな。
まぁ、今回は俺が悪いっポイから呪いは勘弁してやろう」
「よ、良かった……」
「あれのせいでアリサちゃんに怒られちゃうし、散々だったの……」
前回のは君たちが悪いんです。
じゃ、よく分からんが封印とやらは終わったのだろう?
さっさと帰って飯にしようぜ。
「あ、はい!」
「じゃあ私も、母さんがご飯作って待ってるから帰るね。
ジュエルシードは、なのはが持ってて」
「分かったの!」
うむ、うむ。
ドラゴンボールをなのはに渡して、フェイトはまた空へと舞い上がった。
はて、右手に持っていたハズのドラゴンボールを何故フェイトが持っていたのだろう。
謎が謎を呼ぶが、俺はいわゆる迷探偵。
事件を難事件に変えることはできるが、解決に導く事はない。
ぶっちゃけ、考えるのも面倒なので放置。
今の俺には、左手の稲荷寿司にしか興味は無い。
そう、左手の……
「あれ……?」
左手にあるはずの物がない。
辺りを見回す。
恐らく、俺が砲撃を受けたであろう爆心地。
その脇に、中身がグチャグチャになって散乱した、ナニカがアッタ。
なのはが怪訝そうな顔でこちらを見ているが、気にする余裕など俺にはない。
ただ、フラフラと、その残骸に近寄る。
両膝を地面に着く。
既に原型をとどめていないそれを、震える両手で掬い上げる。
仄かに香る、酢の香り。
小さく千切れてしまってはいるが、茶色い、色々な具を包み込んでいたであろう物。
そう、それは正しく。
俺が、先ほど有り金をはたいて買った。
楽しみに待ち望んでいた、稲荷寿司だった。
「あ、あの……稲荷、さん?」
今日の俺の唯一の楽しみだった物。
ほんの数分前までは、パックに綺麗に並んでいた物。
それが、今は無残な姿を、晒している。
「あの……えっ!?」
「……ひっく……ズズッ……えぐっ……」
「ガチ泣き!?
な、なのはさん、至急来て下さい!
稲荷さんが……稲荷さんが!!」
「ふぇぇ……ぐすっ……うあぁぁ……」
「お稲荷さん!
……っ、これは……酷い。
お稲荷さん、大丈夫!? しっかりして!」
「ぐすっ……俺の有り金……全部使ったんだ……
それでも……これだけしか買えなくて……
でも……でも……」
「分かったから!
それ以上、言わなくてもいいから!
この子達だって、食べては貰えなかったけどきっとお稲荷さんに買ってもらえて、ここまで想ってもらえて幸せだったと思うから」
「俺、俺……守れなかった……
絶対、絶対食べてやるって、1粒残さず食べるって、誓ったのに……」
「お稲荷さん!」
「……ねぇ、なのは。
僕は今来たばかりだからよく分からないんだけど……
これってどういう状況?」
「大丈夫だよユーノくん。
初めからずっと現場に居た私にもよく分からないの……」
いつの時も、出会いがあれば別れがある。
奇行文にも、そんな一節を加えてみたかったんです。
今回は、彼が出会い、そして別れを経験した悲しい物語。
今、この奇行文で全米が涙する……!
旅行編では3話も使ったのに、アリサとの喧嘩では1話で終わるとか。
大体こいつのせい。
筆者はとことんほのぼのが好きな人のようです。
だって速攻で終わる話には大体戦闘が絡んでるから。
という訳でおかわり7杯目でした。
お召し上がりありがとうございます。
もたれて来たかなと思ったので、塩味にしてみました。
お口直しになったのなら幸いです。