体内爆弾奇行文。
おかわり 9杯目
今日の翠屋のシフトは、俺が休みでなのはさんが出勤。
ヴィヴィオは気分に任せて店の手伝いをしているようだが、今日は俺と一緒に休むらしい。
なのはさんがヴィヴィオを羨ましそうに見ていた。
六課に居た頃はワーカーホリックだったのに、ここに来てからなのはさんもニートに憧れてきているようである。
「さて、今日は貴重な休みだ。
なのはさんという死亡フラグも居ない今、俺の平穏を脅かすものはない。
一日中家でゴロゴロしてやる」
ピンポーン
「脅かされた。
ヴィヴィオ、客だ。
新聞だったら爽やかな笑顔で一昨日来やがれって言っといて。
純真な心の持ち主なら多分自殺するから」
「はーい!」
ペタペタという音が聞こえそうな足取りで玄関に向かうヴィヴィオ。
新聞なら追い返せと言ったものの、俺の第六感が新聞じゃ無かった場合は更に面倒な事になると告げているのだが。
どうしたものか。
「狐パパー!
新聞じゃなかったよ!
ちっちゃいフェイトママだった!」
ヴィヴィオが玄関から大声で状況報告をしてくる。
なるほどなるほど、フェイトだったか。
「ヴィヴィオー!
俺は居留守してるから誰も居ないって言っといて!
対応するの面倒だから!」
「はーい!」
「あの……出来ればそういうやりとりは玄関に招く前にヒッソリとやって欲しいんだけど……
後、ちっちゃいフェイトママって?」
ガッデム。
敵は既に内部に居た。
仕方が無いので玄関に向けて重い腰を上げる。
そこには、人差し指でコメカミを抑えたフェイトの対応をヴィヴィオがしていた。
だが俺が来たことに気付いたのだろう。
ヴィヴィオを見ていた視線が、俺に向いた。
「あ、稲荷さんお久しぶりです。
母さんが、稲荷さんに頼みたいことがあるらしくて。
普通じゃ行けない場所なので、迎えに来ました」
「悪いけど俺、今から陽の光に耐えながら羊の数を数える使命があるのでな。
ヤツら、大人しく数えられていればいいものを、50を超えると何かしらの術を使うのか意識が朦朧としていかん」
「あ、すぐに来てくれたら、稲荷寿司を奢るとも言ってました。
……えっ、消えた!?」
「狐パパなら後ろにいるよ?」
神速が使える俺に隙はなかった。
稲荷寿司が食えると聞いて、速攻で寝間着から着替えて靴に履き替えた。
凄いだろ?
「え、えっと……
キ、キモいですね!」
「誰から教わったその言葉。
そして用途を間違えてはいないか?」
「ヴィヴィオはあんまり間違ってないと思う」
ヴィヴィオにも再教育が必要なようですね。
○ ● ○ ● ○ ●
早速出発しようとしたのだが、歩いていける場処ではないとの事なので。
フェイトに転移魔法とやらで、家の前まで連れてきてもらいました。
「六課に居た頃はヘリしか移動手段なかったので新鮮ナリ。
てか出来るなら転移しろよ。
どう考えても緊急時とかこっちのが早いだろう常識的に考えて。
で、ここがフェイトんち?
ラストダンジョンのオーラを漂わせているのだが、これもゆりかごじゃないよね」
「ゆりかご?
ここは時の庭園って言うんです。
高次空間内に浮かぶ建物なんです」
「つまりはヴィヴィオ、どういう事だ?」
「ちゅうにー!」
なるほどなるほど。
俺が足を踏み入れてはならない場所だったか。
「帰るぞヴィヴィオ。
ここにいては俺はエターナルソードを取り出してダオスを倒さなければならなくなりそうなのでな」
≪その発想が出るだけ危ないと思うなー≫
「何を言う。
過去の俺ならこのまま突入して、プレシアさんに突っかかってる可能性があるぞ。
ただ剣を振り抜くだけで、天翔龍閃とか言っちゃうかもな。
今の俺は大丈夫だが」
≪好きなの? 御剣流≫
「そこはかとなく。
だがまさかフェイトが知ってるとは思わなかったがな」
「あの、稲荷さん、誰と話してるんですか?」
「狐パパの頭が遂にイッちゃった……
ごめんなさい、なのはママ。
ヴィヴィオも守れなかった……」
何でそうやってすぐ痛い子認定するかな。
てかフェイト、お前いつ服着たよ。
今マッパで俺と話してたじゃないか。
ほら、まだ目の前にはお前とソックリさんのマッパな子が半透明で浮いて…………
半透明……だと……?
「クソッ!
ここはリアル幽霊屋敷だったのか!
ヴィヴィオ逃げるぞ!!」
呆けるフェイトを他所に、ヴィヴィオを脇に抱えてその場を後にしようとする。
だが、あと少しで危険域を脱出できそうというときに、俺の体を紫の輪が縛り上げた。
「母さん!?」
「まずい、捕まった……!
ヴィヴィオ、今すぐ俺の身代わりになれ!
お前のことは未来永劫忘れないから!」
「狐パパが真っ黒になっていく」
そうこうしてるうちに、ほら!
半透明のフェイトもどきが来てる! 来てる!
うあぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!?
「……で、この子が生き返らせて欲しいって言ってたアリシアか。
あ、俺の半径10mには近寄らないでね」
≪それはちょっと酷いよ≫
「泣くなよ。
だって近寄られたら俺漏らす自信あるもん。
てか嘘泣きだろお前、何計画通りって顔してるんだ」
「稲荷、あなた、アリシアを泣かせたの!?」
「むしろ泣かされそうです」
あの紫の輪はプレシアさんが使った魔法だったそうで。
俺がいきなり逃げ出しそうだったから、慌てて捕縛したらしい。
おかげで俺の周りにはアリシアが常に飛び回ってて、しかも逃げれない。
何という悪夢。
「で、何であなたは“見える”のよ」
「知らんがな。
いつもは見えない、見たくない。
もしかして、俺の中に眠っていた力が覚醒したのか?」
何故笑いが起きる。
≪稲荷さんって妖怪ってヤツでしょ?
幽霊も妖怪も似たようなもんなんだから、見えてもおかしくないと思うな≫
「何いきなり近寄ってきてるわけ?」
「あなたの反応見てるだけで、アリシアがどこにいるか手に取るように分かるわね……」
「正直いっぱいいっぱいです。
早く蘇生させちゃおう。
じゃないとこいつ、見える俺に付きまとってくるから。
平穏な日々におさらばしなければならなくなる」
「あ、稲荷さん。
姉さんの事、よろしくお願いします」
そのよろしくする姉さんは今、君に浣腸するスタイルを取っているのだがいかがなものだろうか。
あ、炸裂。
フェイトの顔が微妙に歪んだ。
何、尻に違和感を感じた?
そりゃあ存在自体違和感で構成されたものが攻撃してますから。
そんなこんなで時の庭園内に侵入。
どう見ても一般家庭の様式とは思えない内装。
というかどこかゆりかごを彷彿させます。
何でも、奥には玉座もあるらしい。
どんな家庭かと。
で、通された一室。
研究室のようにも見えるその部屋の中には、死体アリシアがカプセルの中で浮いていた。
「何とまぁ……
ヴィヴィオ、シャッターチャンス」
「富竹フラッシュ!」
うむ、うむ。
「あなた達、何を撮ってるのよ!?」
「裸体」
≪照れるねー≫
またフィルムをビーってされた。
温泉の時といい、どうも写真には縁がないようである。
今回は幼女なため、そこまで悲しくもなかったけど。
≪それはそれで複雑なんだけど?≫
「近い近い。
般若心経唱えるぞフォルァ。
そういやプレシアさん、俺をここに呼んだ理由ってなんだった訳?」
「本当は先に私とアリシアの分身ってヤツを作ってもらおうと思ったのよ。
多分近々、ここの居場所もバレそうだし。
身代わりとしてジュエルシードで虚数空間作って、飛び降りさせる計画を発動させようかしらって」
「ふ〜ん……本当に俺も犯罪者にならないよね?
まぁ、なったらなったですぐに未来へ帰るけど。
……はっ!?
ヴィヴィオ、今の聞いて……」
「今度、狐パパの尻尾をブラッシングさせてくれたらなのはママに黙っててあげるー!」
俺の尻尾はそう遠くない未来にハゲそうである。
○ ● ○ ● ○ ●
時間移動も出来るドラゴンボールが死者を蘇生できないハズがない。
悟空とか事実蘇ってたハズだし。
いやぁ凄いね、ドラゴンボール。
まぁ、ヤツの場合死んでも頭にリングつけて現世をふらついていたが。
とにかくドラゴンボールを発動させた結果、アリシアを難なく蘇生させることが出来ました。
今回もシェンロンの召喚を試みたのに出なかった。
残念である。
しかし、蘇生させる際にプレシアさんの言ってた、魔力が強すぎて軽い次元震が発生したってどういう意味だろうか。
アリシア蘇生後は例の幻を渾身の力を込めて作ってみた。
「もう終わりにする。
この子を亡くしてからの暗鬱な時間も。
この子の身代わりの人形を、娘扱いするのも。
フェイト、よく聞いて。
私はね、あなたを創りだしてからずっと、あなたのことが大嫌いだったのよ!
アッハッハッハッハ!
私達は、旅立つの!
忘れられた都、アルハザードへ!」
目がイッちゃってる幻が出来た。
俺やヴィヴィオはもちろん、プレシアさんやフェイト、蘇生させたアリシアまでもが『うわぁ……』って視線を向けたのは言うまでもない。
アリシアの方は、カプセルに浮かばせるだけだったので適当にやった。
反省はしている。
何はともあれ、これでプレシアさんとしていた約束は果たしたことになる。
うまくいったら連絡をくれるように頼んで、再びフェイトに送ってもらった。
フェイトんちを後にする時、何かアリシアが今までの事全部見てたよって言ってプレシアさんを怒ってたけど、あれはなんだったんだろうね?
因みにあの幻は、うるさかったのでダンボールに押しこんでおいた。
使用する日になったら開封してください。
「狐パパ、回想終わった?」
「だから何でお前らは俺の脳内読み取れるの?
もしかして俺ってサトラレか?」
「帰ってきたら既に夕方。
家の玄関先を見つめたまま動かない狐パパを見たら大体予想つくよ?」
そう、フェイトんちは空が常に暗かったので時間の感覚なんてわからなかったが。
帰ってきたらもう夕方。
俺の死亡フラグのない素晴らしい休日は、こうも無残に終わりを告げてしまった。
「一戸建てというかもはや神殿クラスの家なのに時計の1つもないとはね……」
「お礼の稲荷寿司も貰いそびれたしね」
あっ…………
「ただいまー」
「なのはママ、おかえりー!」
「おかえり、なのはさん。
疲れてるところ悪いけど、俺とデートしない?」
「うん、いいよ。
……へ? デート?
え、あ、うぇぇぇえ!?」
何その驚き方。
「え、ちょ、ちょっと待って!
何で、突然、いきなり、えぇぇえ!?」
「俺はもう、待つのはやめたんだ。
積極的に行って、モノにする。
だからお願いします」
俺の為に、稲荷寿司を奢ってください。
もう2回、食べる機会を逃してるから。
……ヴィヴィオ、何こっち見て拝んでるんだ?
「え、えと、じゃあ……行こっか?」
「やった!
これでようやく稲荷寿司食べれる。
ヴィヴィオ、どうやら俺の渇きを癒すことができそうだぞ」
「……へ?
稲荷寿司?」
「おぅ。
もう2回、食べる機会が逃げていったんだ。
三度目の正直。
確かなのはさん、奢ってくれるって言ってたでしょ?
ごちになりまーす!」
明るく元気にお礼を言う俺。
無言でこちらへ歩み寄ってくるなのはさん。
目のハイライトが若干消えてるのが怖いのですが。
両肩を掴まれる。
俺何される。
「やめろショッカ……っ!?」
「んっ……」
「わぁ……なのはママ、大胆……!」
唇に当たるやーらかい感触。
俺の舌に絡みつく、なのはさんの若干小さい舌。
喉を通り過ぎるひんやりとした何か。
5秒だったのか10分だったのか分からない時間が通り過ぎた後、離れる。
なのはさんの顔は、真っ赤になっていて。
俺の顔は、真っ青になっていて。
湧き上がる疑問。
「……何を、飲ませた?」
「私ってね、魔力の収束が得意なんだ。
それを球状にとどめてお稲荷さんに送り込んでみたの。
もし、私が収束された魔力球を開放したら……」
パーン。
と、両手をあげて素晴らしい笑顔で答えるなのはさん。
何という残酷な技を、作り出してくれたんだ。
「罰だよ」
「何の!?
てか非殺傷仕事してよ!?
というか根本的に人の体に爆弾仕込むってありえねぇぇぇぇええ!!」
「うわぁ……なのはママ、大胆……」
ヴィヴィオでも顔が真っ青なんだからきっと大したことなんだと思う。
「じゃ、デート行こうか?」
「この状況で何を楽しめと。
仮に稲荷寿司が体内爆弾を刺激したら俺に未来はにぃ」
「魔法に影響を与える稲荷寿司なんて聞いたこと無いから大丈夫大丈夫!
ヴィヴィオはどうする?」
「ん〜、食事中に狐パパが破裂するの見たくないから家でご飯食べる」
ちょ、どういう事?
「じゃあ今日は2人で食べに行こっか!
ちょっと着替えてくるから、待っててね」
そう言って部屋に戻るなのはさんを見送る。
姿が見えなくなったら、視線をヴィヴィオに戻す。
「俺、なんか悪いこと言ったっけ」
「言ってないけど言ったと思う」
それ即ち矛盾と言う。
程なくしてなのはさん再登場。
向こうはもう行く気満々である。
「ヴィヴィオ。
俺、稲荷寿司食べに行くのにここまで身の危険覚えたの初めて」
「こら、またそんな事言って。
文句ばっかり言ってると、お稲荷さんをキュッとしてドカーンしちゃうよ?」
リアルなフランがココにいた。
まさか対象を俺にされるとは夢にも思わなかったが。
もしかして姉の美由紀さんは運命を操れるんじゃなかろうな。
「狐パパ、なのはママ、行ってらっしゃい!」
「いってきます」
ヴィヴィオに見送られ、俺達は以前の寿司屋へ出かけた。
唯一助かったのは、恐怖が体を支配していたのに稲荷寿司の味が分かった事だろう。
絶品だった事を記しておく。
土日帰ってきたら夜で。
コタツに入ったら朝で。
布団に入ったら昼だったのでこの時間。
反省してません。
書ける所まで行くのにアニメを3話くらい見ないとダメになった。
というかこの流れだと後何を書けと。
多分無印自体後2〜3話で終わりそう。
だって稲荷があまりに動かないから。
最近、なのはさんとイチャイチャしてるこいつにムカツイて酷い目に合わせてやりたいのですが。
でも当事者になると洒落にならない状況なので何とか押し留まってます。
いいなぁリア充。
という訳でおかわり9杯目でした。
ありがとうございます。
材料が残り少ないので、無くなったら申し訳ございません。