映画上映会。
おかわり 10杯目
右よし。
左よし。
前よし。
後ろよし。
上よし。
下よし。
「狐パパ、何やってるの?」
「前フェイトんちで“見え”ちゃったからな。
もし普段その辺を歩いているときに“見える”のならば、公衆の面前で失態を晒すことになるから警戒してる」
フェイトの家へ拉致されてから数日後。
また俺の仕事休みの日が訪れた。
ここ最近は、暇があればフェイトんちの悪夢の再来を防ぐために頑張っている。
あんなものが毎日その辺に見えるとか正直勘弁願いたい。
何とか調節が効かないものか。
そう思い練習はしているがしかし、まずは普通の状態で見えるようになるという前提条件すらクリアできない。
要練習である。
果てしなく本末転倒な気がするのは何故だろう。
「ふ〜ん……
それはいいけどお客さんだよ?」
「興味なし」
「持ちなさいよ、お客よ?」
俺とヴィヴィオしかいない部屋に聞こえる第三者の声。
だが聞いたことあるなと思いながらその声の先を見ると、あらビックリ。
プレシアさんがいるではありませんか。
後ろにはフェイトとアリシアも。
どっちがどっちか分からんけど。
「また既に敵は内部に侵入していたパターンか。
で、どうしたん?」
「あなたの作った幻影を使って、管理局をうまく騙せたから晴れて自由の身になったのよ。
だからお礼と報告に来たわ」
ん、もう終わったのか?
意外に早かったね。
「あなたがアリシアを生き返らす時に使ったジュエルシードの力を、管理局が気付いたらしくてね。
あの2日後にはもう来てたわよ?
あ、これもあげるわ」
「なにこれ。
見た目直径3センチ程度の正方形の鉄板。
こんなのプレゼントされて喜ぶのは鉄工所の人だけ」
「まぁ、確かに見た目は普通の鉄板だけど……
それ、ストレージデバイスって言うのよ。
まぁあなたに分かるように言ったら、ビデオカメラかしら。
管理局の連中が結構面白かったから、撮ってみたの」
レンズもボタンも無いのにどうやって撮影できるのか。
謎は深まるばかりなので、なのはさんが帰ってきたらみんなで上映会をすることにする。
ストレンジデバイスだっけ。
名の通り奇妙な形をしたビデオカメラを部屋にあったテーブルの上に置き、折角来たのだからと雑談を開始する。
フェイトとアリシアはヴィヴィオと共に遊びに出かけた。
アリシアが何ともいえない表情をしていたのは何故だろう。
「あの子、幽霊になった後もずっと私の側にいたらしくて。
肉体年齢こそまだ小さいけど、精神年齢は大人よ。
おかげで色々と怒られたわ」
「リアルバーローとか。
少年探偵団に引っ張りまわされる構図なのですね。
なるほど、それは確かにどう接すればいいか分からない」
「舌足らずな感じでお母さんって言ってくれた日が懐かしいわ。
今は妙に大人びていて……いやそれでも可愛いんだけど。
でも今は中身も見た目通りのフェイトの方が可愛いかも……」
プレシアさんの中では何かしらの葛藤があるようで。
俺はそこまで他人の家族関係に興味がないので聞き流す。
あ、そういや今日の上映会、一緒に見ない?
撮影側からのコメントもあると面白いので。
「いいの?
そんなに長い間お邪魔してても」
「桃子さんには言っておくので安心してくりゃれ」
今から夜が楽しみである。
○ ● ○ ● ○ ●
フェイト一家もご相伴に預かることになったので、大賑わいの夕飯となった。
テーブル無いじゃんという俺の突っ込みは、幻影で出しなさいというプレシアさんの一言で打ち砕かれた。
その発想は無かった。
今度から俺もそうしよう。
因みに今日は、最近ずっと夕飯の時顔を出していなかったなのはが出現した。
管理局の拠点であるアースラで数日泊まっていたのだとか。
初耳である。
てかアースラって聞いたことあるんだが、なんだっけ。
……あぁ、光る会議室だ。
なのはにはお父さんとお母さんに、ジュエルシード探しの許可を取ったときに一緒に言ったはずだと言われたのだが。
あの時俺はペットボトルの醤油と格闘していたので記憶にない。
覚えているのは、黒い液体に浸ったサバ焼きだけ。
そんななのはが、プレシアさんを見た時に凄い驚いていた。
なんでここにいるのー!? って。
プレシアさんがここに来た経緯を説明すると、燃え尽きた感じになっていたが。
「私の苦労はなんだったの……?」
「知らん。
さて、それでは皆さん御覧ください。
ここに居る俺の友人、プレシアさんの提供により、なのはの勇姿が見れるそうです」
拍手喝采。
なのはさんに、プレシアさんから受け取ったビデオカメラを手渡す。
流石は手慣れたものか、戸惑うこと無くなのはさんはビデオカメラをいじりだす。
「えっ?
にゃはは、撮ってたの〜?
恥ずかしいなぁ…………ん?
にゃぁああああ!!
再生しちゃだめえぇぇぇぇえええ!!」
「何いきなり騒いでいるんだ?
なのはさん、再生準備OK?」
「うん、それじゃあ再生するね」
やめてよぅやめてよぅと騒ぐなのはを尻目に、その場に居た者はリビングの中央に出現した大スクリーンに釘付けになる。
映像は、プレシアさんが以前アリシアを蘇らせた研究室っぽい部屋で、カプセルに入ったアリシアに縋りついているシーンから始まる。
『プレシア・テスタロッサ!
貴女がジュエルシードを得るために護送船を襲撃したこと。
更に、そのジュエルシードを使って先日次元震を発生させたことは既に調べで分かっている!
よって、ロストロギア不正所持、及び護送船への攻撃容疑であなたを逮捕します!
武装を解除してこちらへ』
どこかのRPGを思わせる装備をした管理局員達が、プレシアさんに近づく。
彼らは持っている杖から、ビームをプレシアさんに放つが、見えない壁で防がれる。
プレシアさんは、うるさいわねと一言呟き、反撃で紫の雷を放つ。
管理局員は、その攻撃を防ぐことが出来ずに全滅してしまったようだ。
「撮ってる時も思ったのだけれど……
あなたの作る幻影って何なの?
私と同じ力で攻撃出来るのっておかしいと思わない?
いやその前に、あの幻影の性格自体おかしいと思わない?」
「お稲荷さんの理不尽な幻術は、私が未来でもっと凄いのを体験しました」
「幻がおかしくなるのは今に始まったことじゃない。
だから二度と使うまいと思っていたのに唐揚げと日本酒片手に脅すからこうなる」
『たった数個のロストロギアで、アルハザードへ辿りつけるかは分からないけれど。
でも、もういいわ。
全部終わりにする。
この子を亡くしてからの暗鬱な時間も。
この子の身代わりの人形を、娘扱いするのも……』
映像の中のプレシアさんは、今初めて映ったが通信が繋がっていたなのはとフェイトとその他大勢の人達に語りかけている。
てかこのセリフ、デジャヴ。
「母さんの幻影って、基本あれしか言わないから」
『聞いていて?
あなたの事よ、フェイト。
折角アリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ』
『やめて!』
プレシアさんの言葉に、なのはは叫ぶ。
『アリシアは……いつでも私に優しかった……
フェイト。
あなたはやっぱりアリシアの偽物よ。
アリシアの記憶をあげても、あなたじゃダメだった』
『やめて、やめてよぅ……!』
『だからあなたはもういらないわ……
どこへなりとも、消えなさい!!』
『お願い! もうやめて!!』
おやおや、なのはが何やら必死ですね。
どうですか、士郎さん、桃子さん。
「あなた、なのはが物語の主人公みたいですよ!」
「フェイトちゃんが悲劇のヒロイン、なのはがそれを助ける主人公か。
クッ、こんなことならウチの剣術も教えてもっとカッコよくしておくんだった……!」
盛り上がってるようで。
ところでなのは。
「なーに?」
お願い! もうやめて!
……ぷっ。
「にゃああぁぁぁぁあああ!!!!」
「うお、桃子さん、なのはが発狂した」
「あらあら。
なのは、メッ」
「だってぇ……」
まぁ俺も同じ立場だったら1ヶ月は部屋から出ないがな。
必死にやってるのに実は空回り。
当事者にとっては悪夢である。
「時にフェイトは何であそこにいる?」
「なのはの手伝いをしてる時に、民間協力者として一緒にアースラへ連れて行かれたんです。
丁度幻影の母さんがモニターに映ってる所だったからちょっとビックリしましたけど」
「じゃ、じゃあフェイトちゃんが、アースラでさっきの言葉を言われたときに微妙な顔をしていたのって……」
「うん、あれが稲荷さんの作った幻影であるのは知ってたんだけど。
改めて見ると酷いなぁって思って」
フェイトの言葉に更に落ち込むなのは。
俺は悪くない。
「心配したのに……」
「ごめん、なのは。
でも母さんと稲荷さんの話からすると、バラすとまずいかなって」
「口止めしておいて正解ナリ」
「本当ね」
っと、事態は進んでいるようだ。
プレシアさんのもとに、少年が1人たどり着いた。
…………誰?
『世界は、いつだって……こんなはずじゃないこと、ばっかりだよ!!』
「あいつ今いいこと言った。
肩のアクセサリーのトゲは少々気になるが名言集に深く刻んでおく。
で、あいつ誰?」
「お稲荷さん知らなかったっけ?
私達の世界のフェイトちゃんの、お兄さんだよ。
クロノくんって言うんだ」
「あぁ、クロノってあいつだろ?
ラヴォスに戦いを挑んだ」
「むしろそっちが誰?」
クロノ・トリガーを知らんのか。
お、フェイトが登場したぞ?
隣に居るのは……アルフさんじゃないか。
未来と変わらぬ姿に安心したぞ。
『母さん!』
『何しに、来たの?』
『……いやそれは私にも分からない。
むしろ何をすればいいの?』
『……消えなさい。
もうあなたに用は無いわ』
『はぁ……』
テンションの噛み合わない2人がシュール。
アルフさんも、どうしていいか分からない感じにオタオタしている。
そうこうしているうちに、プレシアさんが持っていた杖を1回、地面に突く。
広がる魔方陣。
揺れるフェイトんち。
床には、見ていて気持ちの悪い変な配色の光が揺らめいていた。
なのはさん曰く、虚数空間って言うらしい。
「へぇ。
初めて見た」
「お稲荷さん、虚数空間って知ってたの?」
「まぁな。
初号機も突入したことあるからね。
なんだっけ、ディグダの海とも呼ばれてるんだっけ?」
え、何、ディラックの海?
そういやそんな感じ。
難しい言葉をよく覚えてるねなのはさんは。
そして崩壊するフェイトんち。
広がる虚数空間。
プレシアさんはフェイトとクロノ、アルフを一瞥する。
『私は向かう……アルハザードへ!
そして、全てを取り戻す。
過去も、未来も。
そして、たった1つの幸福も……!』
遂にプレシアさんの足場にしていた床も崩れ去り、辺りは虚数空間に飲まれた。
カプセルに入ったまま隣に居たアリシアは言わずもがな、プレシアさんと一緒に虚数空間へと落ちていく。
『あ……
えと、母さんバイバイ』
『フェイト、ここもそろそろ崩れる』
『あ、じゃあ帰ろうかアルフ。
クロノも、早く帰らないと危ないよ?』
『何で君たち2人は、そうも平然としていられるんだ……
特にフェイト・テスタロッサは、母親が虚数空間に落ちたんだぞ?』
『あの2人は虚数空間でもたくましく生きて行くと思うから大丈夫』
クロノとアルフを引き連れ、フェイトはその場を後にしようとする。
と、そこで天井からピンクの砲撃が降り注いだ。
なのはが、壁抜きならぬ床抜きをして、別の部屋から救援に駆けつけたようである。
『フェイトちゃん!
プレシアさんは……?』
『えと、落ちた』
『っ!?
フェイトちゃん……
泣いている暇は無いの。
今は一刻も早くここから脱出する事が先!
大丈夫。
辛いと思うけど、私が一緒に居てあげるから』
なのはさん、巻き戻して。
『っ!?
フェイトちゃん……
泣いている暇は無いの。
今は一刻も早くここから脱出する事が先!
大丈夫。
辛いと思うけど、私が一緒に居てあげるから』
「もういっそ殺してくれなの———!!!」
いい。
凄くいい。
なのはさん幼少期の黒歴史が溜まっていく。
思わず笑ってしまった。
なのはさんに頭を鷲掴みされた
思わず泣いてしまった。
後は4人とも、転移魔法で帰還。
あまり大きな次元震ではなかったので周りに被害は無かったが、フェイトんちは爆発したらしい。
爆発って……一体何で出来ていたのかが果てしなく気になるところではある。
で、そのまま虚数空間に落ちていったとか。
「いやぁ、面白かった。
しかし家が爆発とか、ホームレス小学生が誕生するんですね分かります。
書いたら売れそうだな。
で、プレシアさん実際のところ家はどうするの?」
「少し前に貴金属をこの世界のお金に換金してもらったから。
それをもとにマンションを借りてあるわ」
用意周到なこって。
「因みにジュエルシードだけど、もう全部集まったことになってるわよ。
足りない分は、時の庭園と一緒に虚数空間に飲み込まれたことになってるから」
「マジでか。
じゃあ俺らもそろそろ潮時ですね。
まぁ、いい感じに黒歴史集まったから不満はない。
喜べヴィヴィオ、帰れるぞ」
「本当!?
フェイトママに会えるー!」
「ふふっ。
ヴィヴィオも、元の世界に帰れたらなのはちゃんみたいに学校行こうね?」
「勉強したくないでござる」
なのはさん、その鬼のような目をこちらに向けるのやめて下さい。
俺のせいじゃないでござる。
「あ、そういや帰る前に、またスカさんと3人で飲もうって言ってたんだな……
計画しとくからまた数日後に連絡でいい?」
「構わないわよ。
あ、フェイトとアリシアも来たがってたから一緒にいいかしら?」
「無問題。
フェイトが来るならなのはとユーノも来るか?」
「え、えと……行きたいの!」
「あ、お願いします」
うむ、うむ。
じゃあ豪勢に行きましょうか。
ヴィヴィオとなのはさんは強制参加で。
全員で9人か?
大勢で押しかけても大丈夫な所を選ばなければ。
ともかく、残り僅かな滞在時間。
楽しんで過ごしましょうかね。
なのはのユニークアクセスで2位に居るんですが。
なにこれこわい。
卒論の現実逃避に書き始めた奇行文もよく分からない成長を遂げました。
もう無印も終わりですね。
StSよりも終わるの早かったのは何故だろう。
アニメを見返す。
無印は全13話だった。
StSは全26話だった。
気付かなかった俺は凄かった。
さて、次でエピローグ……かな。
書いてみて量が多いようなら2話に分けますが。
もうおひつの中には隅っこにご飯がちょっと残っている程度です。
これ、サービスするんでどうぞ食べちゃってください。
あ、伝票ここ置いておきます。