狐物語。
はしご 5件目
翌日。
ヴィヴィオのシュークリーム代と称され、翠屋で1日ただ働きをしてきた次第。
でもなのはさんと一緒に早めに上がらせてもらえたので、夕方には家に帰れたけど。
今はリビングでなのはさんとグデーっとしている。
しかしあれだ。
解せぬ。
子どもの尻拭いをする親とはこういう気分なのだろうか。
などと考えていたら突然鳴り出すインターホン。
「ヴィヴィオー、客だ。
よろしくー」
「はーい!」
とてとてという音と共に、部屋からヴィヴィオが出て行く。
俺となのはさんは無言のまま、それを見送った。
このなんとも言えぬまったり空間。
何故か隣でなのはさんがニヤニヤしているのが気持ち悪いです。
「こういうの、いいなぁ」
「何を突然言い出しますか」
「狐パパー!
ちっちゃいフェイトさんだったー!」
「む、客はフェイトか。
俺は未来に帰ったから居ないって言っといてー」
「はーい!」
しかし、前の呼称はちっちゃいフェイトママじゃなかったっけ?
「あ、本格的に姓を高町にするから、フェイトちゃんはママって呼ばないようにするらしいよ」
「マジか。
あの人もヴィヴィオにママって呼ばれるの嬉しく思ってなかったっけ。
未来に戻ってヴィヴィオに『あなたはママじゃない!』って言われたら発狂するやもしれんな」
「お稲荷さんもどう?」
名前って、どう? って言われて簡単に変えるものだっけ。
その場で考えた名前が定着している俺が言える立場じゃないのかもしれないが。
「なのはママー!
狐パパ居ないなら、なのはママは居ないかって言ってるよ!」
「今お稲荷さんとまったりするのに忙しいから居ないって言っといてー!」
「あの、前も言いましたがそういうのは出来ればこっそりして欲しいです……」
フェイトの呟きが聞こえた。
どうやら居留守がバレたらしい。
ガッデム。
仕方無しに顔を出す。
その光景は以前と同じ。
フェイトが困った顔をしてヴィヴィオの対応をしていた。
「お、フェイト。
その上下白い制服は……」
「あ、はい!
今日、なのはの学校に転入してきたんです!」
「へー。
ヴィヴィオも」
「イヤでござる」
この子の将来が心配である。
「ところで、なのはは?」
「えと、サプライズするから家で待っててって言われました」
「絶対なのは、サプライズの意味合い分かってないだろ。
宣言してどうする」
まぁ、家で待っててと言われたのなら立ち話もなんだ。
俺がさっきまで居たリビングにフェイトを通す。
なのはさんがフェイトを見て、楽しげに話し出した。
フェイトの表情が微妙なのは、さっきの居留守がバレたからに違いない。
とりあえずソファーに座らせる。
「飲み物はっと……
六甲のおいしい水……いろはす……森の水だより……
やっぱり高町家のおいしい水道水でいいか」
「それって家の水道水って事だよね?
流石にフェイトちゃんにそれは可哀想だよ。
いろはすにしよ?」
「絶対フェイトが飲み終わった後のペットボトルが目的だろ。
やだよ、なのはさん何故か知らないが捻り潰すじゃんあれを。
凄いニヤニヤしてるし、一体何に見立てて捻ってるのか分からないから見てる方が怖いんだぞ」
「あ、あの。
そんなに気を使って頂かなくても……」
水はお気に召さないと申すか。
でも冷蔵庫には水しかない。
というか水しか無い冷蔵庫って何ぞ。
昨日の夕飯ではお茶がちゃんと出てきたのに。
不審に思いながら扉を閉める。
そこに張ってある、開けるときには気付かなかったメモが不意に目に入った。
『恭也専用棚・水の都』
お兄様も最近、何か心に病を持っているのだろうか。
そうこうしているうちになのはが帰宅。
手には多分ケーキが入っているであろう箱が握られている。
フェイトの近くにまで歩み寄り、箱をフェイトに見せながら、ジャーン! と言う。
「フェイトちゃんの入学祝いなの!
後、一度サプライズってやつをやってみたかったんだ!
どう、驚いた?」
「えと、うん。
わー、凄く驚いた。
ありがとう、なのは」
フェイトの空気を読む対応に心打たれそうです。
若干棒読みなのが哀愁を誘う。
「時になのは。
さっきから気になっていたんだが、その胸のふくらみは何だ?
その年からそんな事するなんてお兄さん関心しないな」
「ふん!」
脛を蹴られた。
「翠屋から帰る途中に道路の脇に居たの。
その……ほんのちょっとだけ、なのはさんと稲荷さんの関係が羨ましくて」
そう言いながら制服の胸の部分を少し開く。
うむ、絶壁である。
なのはではなく、なのはさんに後頭部をグーパンされた。
あべしである。
「あ! 狐さんだー!
狐パパ以外の狐さん、初めて見たー!」
「何?
誰だ俺のアイデンティティを奪おうとするヤツは」
「お稲荷さんのアイデンティティは狐であることじゃないと思う」
何が言いたい。
腑に落ちない所はあるが、それは置いといて。
なのはの胸元を改めて見てみる。
そこには、俺が子狐フォームに変化した時と似たような姿の狐が居た。
パッと見で分かる違いと言えば、尻尾の数だろうか。
「そう言えば子狐なのに尻尾が9本あることにあの時の小坊共は突っ込んでこなかったな。
して、俺となのはさんの関係が羨ましいということはこいつを使い魔にするのか。
お前さん、名前は何だい」
「……くおん」
「それは鳴き声か名前かどっちだ」
「……名前」
「へー」
会話が続かない。
無口属性な子のようだ。
そして何か引っかかるこの違和感は何だろう。
見ると、なのはもなのはさんも驚いた表情をしている。
「お稲荷さん、狐さんが喋ったのに何でそんなに自然に会話できるの?」
「……なるほど、感じた違和感はそれか」
「違和感なんてレベルじゃないよ……」
犬が喋り、人形が喋り、ドラゴンボールがあって、魔法があった。
今更何に驚けと。
次に俺が驚くのは山にある修行場で斉天大聖孫悟空と格ゲーをやる時だ。
「す、凄い凄い!
くおんちゃん、私の使い魔になってよ!
フェイトちゃん、アルフさん居るんだから使い魔にする方法って知ってるんでしょ!?」
「え、うん。」
「じゃあさ、じゃあさ!
エサとかも毎日あげるから!
私の使い魔になってよーくおんちゃん!」
未だ胸の中にいるくおんに、必死に話しかけるなのは。
使い魔にするかどうかは当人同士の問題だから別にいいとして。
「なのは、ユーノはいいのか」
「え?
ユーノくんは使い魔じゃなくて友達だよ。
それに、はやてちゃんの所に遊びに行ったっきり帰ってこないの!
ユーノくんなんて知らない!」
遊びに、ね。
確かに犬形態のザフィーラさんにくわえられてブンブン振り回されてたら、楽しそうかもな。
見てる分には。
近々ユーノの墓が必要かもしれん。
「とにかく、くおんちゃんは私の部屋で話そっ!
フェイトちゃんも来て!
私に使い魔を作る方法を教えて欲しいの!
じゃ、稲荷さん、なのはさん、ヴィヴィオちゃん、またご飯の時に!」
「……怖い」
「え、あ、うん」
「大丈夫かな……」
「ういうい」
「またねー」
元気に走り去るなのはと、それに引っ張られていくフェイト。
くおんは胸の中から結局出なかったので、逃げ道はない。
狐にとって、なのはシリーズは天敵なのではないかと思った瞬間である。
嵐の様な時間が過ぎ、リビングに残った俺達3人はまたぐでーっとし始める。
「あの狐さん、何なんだろう。
お稲荷さんの兄弟?」
「俺、元は人間だからね。
ちゃんと兄弟も人間で居るからね」
「そうなの?
一度帰らなくて大丈夫?」
「以前生存報告と状況報告のメールしたら、兄ちゃんとオカンからリア充乙って返ってきたから別にいい」
「あ、連絡は取ってたんだ」
突込みどころはそこじゃない。
後、あの狐だっけ?
大方またどこかにローブのおっさんが現れたんじゃね。
「ヴィヴィオもケーキ食べたかったなー」
「少しだけでいいから……何のために、今日1日ただ働きをしてきたのか……思い出して下さい……」
「なんだっけ、それ。
狐パパに教えてもらったけど忘れちゃった」
「最後の物語10作目のラストシーンな。
これも忘れるとは勉強不足な。
もう一度叩き込むか」
「バッチコイ!」
お前ネタに関しては努力を惜しまないよな。
あ、そういや連絡忘れてた。
『スカさん、スカさん。
闇の書ってヤツをいじってみたくないですか』
「あぁ、君がそういう面白いメールをくれるのを心待ちにしていたよ」
「メール着信と同時に現れるのやめてくれませんかね。
てかどこにいた」
「時には電信柱の影から。
時には草むらから。
稲荷くんが居れば必ず愉快な事が起こると予測できたからね。
常に監視させてもらったよ。
抜かりはないさ。
クックック」
抜かって下さい。
「まぁまて、プレシアさんにも聞いてみないと。
……む、着信。
噂をすれば何とやら、プレシアさんじゃないか」
メールを開く。
『是非』
「ど、どこだ!?
どこで見てやがる!?」
「私のここ数日の宿だったからね、彼女の家は。
大方、稲荷くんが帰ってきていると聞いてサーチャーでも飛ばしたんじゃないかね」
「そんな無限の剣製ができそうな名前のものをポンポン飛ばさないで下さい。
てかここに来てもらって悪いが、はやての予定を聞かぬといかんからまだ数日待ってくれ」
「アーチャーではないのだがね。
しかしこんな素晴らしい研究材料を目の前にお預けとは。
こういう気持ちを、なんと言うんだったかな?」
ちゃくしん。
『wktk』
「そう、それだ。
実に、実にワクテカするよ。
ハッハッハッハッハ!」
「スカさん以上に2チャン用語が似合わない人は居ないと思う。
てか何故アーチャーを知っている」
「アリシア・テスタロッサが色々とゲームをやっていてね。
妹の名前と同じゲームだと言ってやり始めたのを、見せてもらったのだよ」
「純真なスカさんになんて事を。
アリシアに抗議してやる」
『(`皿´#)』
そーしん。
ちゃくしん。
『(´・ω・`)』
風邪引きました。
PCとか、光る画面系を見ると恐ろしく気持ち悪くなる現象で数日唸ってました。
問題は、車に乗るとナビが目に入ってしまい気持ち悪くなること。
陰謀を感じました。
気温の変化が凄いです。
雪が降って、晴れて、雪が降って、今日晴れました。
雪の日には半袖しかなく、晴れの日には長袖しか乾かなかった私はきっと特別な存在なのです。
そんな私が孫にあげるのはタンクトップ。
何故なら、彼もまた特別な存在だからです。
稲荷の全てを置いてきた店が潰れていたので、別の店で5件目としました。
どこ行ったんだろう。