1冊目のP32〜P40を抜粋。
お稲荷さん観察記
×月×日。
PT事件の後、未来に戻った私はスバルの救助隊の活動を手伝うことになった。
お稲荷さんとヴィヴィオは、私も居ないし家にいても暇と言うことで海に遊びに行っている。
お稲荷さんが朝早くから、楽しそうにシャチ型の浮き輪を膨らましてたっけ。
いいなぁ……私も行きたかった。
お稲荷さんと海……楽しいだろうなぁ。
でも管理局で働いている手前、嫌ですとは言えない。
翠屋を継ぐ事、本気で考えようかな。
今回の任務は、嵐にあって沈みかけた船に取り残された姉弟の救出。
時間はもうあまり残されていないらしい。
急いで現場に向かう。
「うっひょー!
見ろヴィヴィオ、リアルタイタニックだぜ!!
突入せざるをえない!!」
「ワクテカ!
ワクテカが止まらないよ狐パパ!!
嵐に負けずに沖に出たかいがあるね!!」
……何か聞こえた。
数分後。
沈んでいく船から、シャチに掴まった姉弟と、シャチにまたがったヴィヴィオが脱出してきた。
そして船が沈むことにより発生した渦に、脱出が遅れてプカプカ浮いていた黄色い何かがグルングルン回りながら飲み込まれていく。
状況は分かったの。
あ、スバル駄目だよ。
救出はいいけど、人工呼吸は私の仕事だから。
×月×日。
エリオとキャロが辺境自然保護隊に入ったと言うことで、お稲荷さんがその仕事を見学しに行こうと言い出した。
今日は特にすることもないし、2つ返事でOKする。
ちょっと多めのお弁当も持って、目的地へ。
緑溢れる土地。
空には幾つかの島が浮いている。
「わー……
狐パパ、あの島はなんだろ」
「オスティア」
そんな会話をしていたら、エリオとキャロが出迎えに来てくれた。
2人とも、相変わらず元気いっぱいだね。
こーら、お稲荷さん!
その藁人形どっから出したの!
え、彼女いる奴には制裁を?
だ、だったら私が……つ、付き合ってあげるよ!!
どこに? じゃないよぅ……
楽しくお話して、みんなでご飯を食べて。
さぁ帰ろうってなった時、お稲荷さんが居ないのに気づいた。
慌てて近くの職員に聞いた所、9本の尻尾を生やした狐なんて見たこと無いし、恐らく絶滅危惧種だから向こうの建物に保護しているんだとか。
迎えに行ったら、首輪を鎖で繋がれたお稲荷さんが檻の中で体操座りしていた。
私とヴィヴィオも、その光景には流石にちょっと泣いちゃった。
×月×日。
お稲荷さんは私に興味が無いのだろうか。
ちょっと……いや、かなり不安になった。
ほんと、いつからなんだろう。
こんなにお稲荷さんのことが好きになったのは。
だからこそ、お稲荷さんの気持ちを知りたい。
私は、お稲荷さんが起きてくる少し前に、居間の床に私のパンツを広げて置いてみた。
ヴィヴィオには事情を説明して、一緒に隠れてもらっている。
途中ヴィヴィオが呆れた表情をしたのは何故なんだろ?
お稲荷さんが起きてきた。
当然、床にあるパンツに気付く。
お稲荷さんはじっとそれを見つめる。
たっぷり10分は見つめ続けただろうか。
やがてゆっくりと腰を下ろし。
パンツの前あぐらをかいて、やっぱり凝視し続ける。
それから更に30分。
始めの頃と比べ、お稲荷さんの目は純血し、息は荒くなり、手はワキワキしている。
良かった。
全く興味が無い訳じゃないんだね!
でも何だろう。
微妙に求めてるものとは違う気がする。
何、ヴィヴィオ?
「当たり前やがな」
×月×日。
また過去に戻った。
今度はヴィヴィオが原因だった。
だからあれほど、お稲荷さんの背中ばっか見てちゃダメだよって言ったのに……。
そう言えばヴィヴィオも、お稲荷さんから色々聞いて魔法を使えるようになってるみたい。
どうやって教えたのか気になったのでお稲荷さんに聞いてみた。
「ん? 気合い」
お稲荷さん魔法使えないもんね……。
でもヴィヴィオが魔法を使えるなら、デバイスあげたほうが良くないかな?
「魔法が使えるとデバイスが必要になるのか?
よく分からんが、用意しとく」
いまいち理解していないみたいだったけど、用意する伝手はあるみたい。
あれ? でも地球にデバイスって用意できる場所あったっけ。
その日の夜。
お稲荷さんが、デバイスをヴィヴィオに渡したって言ってたから見せてもらう事に。
ヴィヴィオ。
お稲荷さんからデバイスもらった?
「うん!」
どんなの?
「これ!
8ギガのやつ」
……へぇ、棒状なんだ。
8ギガって何の事かよく分からないけど、良かったね。
それで魔法の練習も、ちゃんとしてね?
「え、あ、うん……
え、USBを杖にして魔法使うの?
それなんて羞恥プレイ」
×月×日。
お稲荷さんが庭でヴィヴィオと一緒に何かやっていた。
聞けば、何でも気合いで出来たからスキマが開けないか試してるとの事。
スキマって何だろ?
ヴィヴィオは分かってるみたい。
うぅ、私もお稲荷さんの話についていけるように、もっと勉強しないとダメかな……
何かとっても真剣だったから、あまり邪魔する訳にもいかず。
庭への出入口部分に腰掛けて、その様子をぼーっと眺めていた。
「あらあら。
精が出るわねぇ」
突然隣から聞こえた声に驚きながら視線を向ける。
そこには、頭にナイトキャップ?みたいなのを被った金髪の女性が私と同じように腰掛けていた。
手には閉じた日傘が。
服装も……中々独創的なドレス?だ。
何で陰陽模様がついているのだろう。
「あ……貴女は?」
「あら、申し訳ございません。
無視していた訳ではありませんのよ?
そうですね、貴女の狐さんの知り合い、でいいかしら。
お互い会ったことはありませんけれど」
よくないと思います。
「まぁ、彼にはこう言っておいて貰えれば分かると思います。
『幻想郷は、貴方達をいつでも受け入れます』と。
藍も気になっているみたいですしね。
では、私はこれで失礼します。
勝手に上がってしまってごめんなさいね?
では、ごきげんよう」
そういった次の瞬間。
私の瞬きと同時に、その女性は消えてしまった。
夢……じゃないよね?
ともかく、お稲荷さん達が一段落したら、今起こったことを話してみよう。
その後、お稲荷さんは数日間は片時も私の傍を離れようとしなかった。
幻想郷って何?
あの女の人は誰?
謎は深まるけど、怖がってるお稲荷さんを引き連れて一緒にお風呂に入れたのは嬉しい誤算だった。
あ、因みにヴィヴィオはお稲荷さんの尻尾から一歩も外に出ませんでした。
×月×日。
ヴィヴィオが魔法をどのくらい使えるのか見るために、模擬戦をすることになった。
舞台はいつも私が魔法の練習をしていた高台。
結界を張って、準備は万端。
お稲荷さんがお母さんに掴まって今日は来れなかったことは残念だけど。
私が先にセットアップをする。
バリアジャケットを身に纏い、杖となったレイジングハートを手にする。
ヴィヴィオを見ると、右手と左手を胸の前でパンっと合わせた。
同時に、威圧感というか、ヴィヴィオを中心に風が吹いているような錯覚に陥った。
構える。
ヴィヴィオはポッケに手を入れたまま、自然体で立っている。
ふざけているのかな。
お仕置きも兼ねて、魔力弾を2個程形成。
シュート。
ヒット。
無傷のヴィヴィオがそこにいた。
なんで?
更に5回は色んな角度から撃ってみたけど、ヴィヴィオには全く届いていないみたい。
痺れを切らした私は、少し距離を置いてディバインバスターを放つ。
これならいくら何でも通るだろう。
ドォン!!!!
そんな音が聞こえ、ディバインバスターは私とヴィヴィオの丁度真ん中辺りで消え去った。
意味が分からない。
もう一発撃ってみる。
ディバインバスターが私とヴィヴィオの真ん中に到達した瞬間。
ヴィヴィオの手が一瞬ブレ、またあの音と共に消滅した。
「なに、したの?」
「豪殺居合い拳」
……教えたのお稲荷さんだろうか。
ともかくディバインバスターは通用しない。
ならばと、辺りに漂う魔力を収束。
私の必殺技。
スターライトブレイカーだ。
十分魔力も集まった所で、ヴィヴィオも動いた。
だけど、私のほうが早い!
「スターライト……ブレイカ————!!!」
先ほどのディバインバスターとは比較にならない太さの砲撃がヴィヴィオに迫る。
その迫り来る光を見ながら、ヴィヴィオは懐よりカードを1枚取り出した。
なんだろ、あれ。
「虹符『虹天剣』」
前面に突き出したカードからほとばしる虹色の光。
それは私が放ったスターライトブレイカーをいとも容易く消し去った。
「なに……したの?」
「ボム」
意味が分からない。
アメフラシがたまたま発見したなのはさんの日記である。
稲荷と相談した結果、ネットに配信してみようと言うことになったので掲載する。
ここで注意してもらいたいのは、配信者は稲荷という事だ。
決して、決してアメフラシが配信したのではないという事。
それだけはどうか、分かってもらいたい。
特に、もし偶然この日記が配信されているのを見つけてしまったN.Tさんや、その取り巻きのF.T.HさんやH.Yさん。
そのご家族の方々には十分に理解してもらいたいところである。
最後に大事なことなので2回言わせてもらう。
配信者は稲荷だ。
送信っと。
いい仕事をした。
ん、どうしたヴィヴィオ。
後ろ?
……罠だ!
これは稲荷が俺ことアメフラシを陥れるために仕組んだ
ジュッ