ストリートファイト奇行文。
四日酔い。
恒例となった朝の散歩。
惨劇が起きた日の次の朝が清々しいのは何故だろう。
考えてみたが数秒で悲しくなってきたのでやめる。
高町さんちから、歩いて十数分のここはもう商店街。
地球の人達ほどではないが、ここの人達もいい人が多い。
「おう、兄ちゃん!
いい尻尾してるね!」
通りがかりのおっちゃんも。
「あら、狐さん新顔かしら?
安くするから是非買いに来てね」
店先のおばちゃんも。
「きつねさーん!
わーい!」
近所の子どもたちも。
「中々の実力者とお見受けします。
あなたの拳と私の拳。
どちらが強いか試させて下さい」
だが街灯の上に立つ少女よ、てめーはダメだ。
「というかその金属製のナックルつけてる時点で、俺の拳より硬いのは確定的に明らか」
「防護服と武装をお願いします」
街灯から地面に降り立ってそう言う少女。
全く話を聞いていない。
てか防護服なんてねっす。
「そうですか」
防護服ないって言ってるのに何構えてるんですかあなたは。
「まぁ待て。
それ以上踏み込んだら、お前は恐ろしい目にあうことになるぞ?」
グッと力を込めて、後数瞬でも俺の発言が遅れていたら恐らく殴りに来ていただろうその少女は、この一言で踏み留まる。
心の中でガッツポーズしているのは言うまでもない。
右腕を伸ばし、少女を指さす。
「そこから一歩でもこちらに踏み込んだら。
稲荷さん大好き!を語尾につけてしまう呪いをかけてやる」
「……稲荷とは誰の事ですか?」
俺の事です。
「なっ……!?
卑怯ですよ!!」
「フハハハ。
何とでも言うがいい。
俺は自分の危機回避の為なら、どんな事でも躊躇わずにできるのだよ」
さぁどうする、変態街灯少女よ。
先ほどの踏み留まった体勢でしばらく悩んでいたようだが、意を決したのか再び重心を落とし、足に力を入れて一歩を踏み出した。
「そんな呪いなんて聞いたことがありません。
はったりですね?」
「そう思うならそう思えばいい。
こっちに踏み込んだから呪いは発動させる。
そしてこれが……仕上げだ」
懐から携帯電話を取り出す。
アドレス帳を開き。
あ行で検索。
1人しかおらん。
通話をポチッとな。
『合言葉は?』
「エル・プサイ・コングルゥ」
『要件は?』
「“機関”が動き出した。
今、俺の元にエィジェントが送り込まれている。
緊急を要する。
ケルベロスを解き放て」
『なんだと!?
そうか、それもシュタインズ・ゲートの選択……か。
分かった。
通信をケルベロスへ繋げる』
「頼む……」
『健闘を祈る。
エル・プサイ・コングルゥ。
あ、なのはママー!!
狐パパから電話だよー』
『はいはーい。
お稲荷さんどうしたの?』
「なのはさん、へるぷ」
「……誰と電話をしているのか知りませんが、私を無視しないでもらえますか?
稲荷さん、大好き!!
……え?」
何言っちゃってるのこいつ。
『お稲荷さん、何か聞こえたんだけどどういうことかな?
ちょーっとお話聞かせてもらいたいかなー』
「変態街灯少女よ。
なんて事をしてくれたんだ」
「あなたのせいでしょうあなたの!
稲荷さん、大好き!!」
事態は悪化の一途を辿る。
幸いなのは、なのはさんに俺が今いる位置が知られていないということ。
ほとぼりが冷めるまで、家に帰るのはよそうと思うんだ。
『へぇー……お稲荷さん、商店街の近くにいるんだね。
今すぐ行くから待っててね?』
「何故分かる」
『お稲荷さん、まだ私のあげた首輪してくれてるんだね』
……お前のせいかぁぁぁああああ!!
存在感無さすぎだぞ首輪!!
てか発信機埋めこまれている設定を今の今まで忘れていた罠。
まぁあれだ。
首輪もつけ続ければネックレスをつけてる気分になるんだね。
通信を切る。
正面を見る。
視界に映る少女がセルフエコノミー。
「俺は……とんでもないものを世に解き放ってしまったのかもしれん」
「何を言ってるのかわかりませんが……
謝りますから!
もう試合はいいですから!
この呪いを解いて下さい……
稲荷さん、大好き!」
「自分の事を大好きって言わせる呪いをかけて、涙目で解呪を頼まれるのも何か心に響く。
だがその前にもう1回だけ言ってもらおうか」
「うぅ……列強の王でもここまで酷くはありませんよ……
稲荷さん、大好き!」
「残念。
お稲荷さんは私のだから。
ポッと出のあなたになんか渡さない」
バカホワイトが、現れた。
この隙に逃げざるをえない。
「あ、待って下さい!
この呪いを解いて下さい!!
稲荷さん、大好き!」
「お稲荷さんが好きなのは私だけで十分なんだから!!」
このリア充展開。
夢にまで見たこの展開が目の前で起こっているのに全くワクワクしてこないのは、きっとなのはさんの持ってる杖がガションガションブシューって言いながら変形してるから。
FFのオメガでもあそこまで恐ろしくはあるまい。
あ、そうだ。
「去る前にお前の名前を聞いておこうか」
「だから帰る前にこれ解いて下さい!
……名前は、『覇王』と名乗らせてもらっています。
稲荷さん、大好き!」
あぁ、なるほど。
こいつも厨二病だったのか。
「それ以上お稲荷さんの名前を口にするなぁぁぁぁぁああああ!!」
なのはさんは少し黙って下さい。
結界を張っていたから通常空間に支障は無いはず、なんだが。
あれだけ綺麗だった街並みは、世紀末覇者が闊歩しそうな風景に。
時の流れとは無常なものである。
さて、その原因となった核の炎だが。
未だにピンクの光となってあっちこっちを焼き尽くしている。
変態街灯少女は意識が朦朧としているようでフラフラで。
バカホワイトは涙目である。
敢えて言おう。
泣きたいのは俺である、と。
そもそも、あの変態街灯少女は拳がどうこう言っていたから、多分だが近接戦闘がしたかったのではなかろうか。
なのに、何か一言でも喋れば飛んでくるディバインバスター。
いつぞやの俺VSフェイトさんのように、まるでB29から爆撃されている歩兵のようである。
流石にアワレになってきた。
よくよく考えれば、この後お話されるのって俺じゃないのか。
さっき電話越しに、そう聞こえた気がする。
つまり、今の変態街灯少女は未来の俺の姿である、と。
落ち着け俺。
落ち着いて携帯を開いて、今度はアドレスのさ行。
ポチッとな。
「スカさん緊急事態だ。
俺はどうすればいい。
Dメールを送って、過去を改変すべきか。
それとも、なのはさんの追ってこない地の果てまで逃げるべきか」
『落ち着きたまえ。
君が歩んできた時間をなかった事にしてはならない。
というより何故そうなったんだい?
今北産業で頼むよ』
「ふむ。
・変態街灯少女に襲われる。
・稲荷さん大好きという呪いをかける
・世界は核の炎に包まれた
今ここ」
『なるほどなるほど。
中々に愉快な事をしているようじゃないか。
こうして拘留されていなければ、私も現場でその様子を観察したいものだよ』
見世物じゃねっす。
で、解決策は?
『実は前に、ヴィヴィオくんから面白い画像を貰っていてね。
稲荷くんにも送るから、それを彼女に見せれば収まると思うよ』
「よく分からんが、早急に頼む。
もう少しで変態街灯少女が沈む。
そうなったら俺に未来はにぃ」
『ハッハッハ。
分かったよ。
結果は後で教えて欲しいものだがね?』
そう言って電話が切れる。
しばらくして着信。
画像添付のメールが来た。
時間がないので、ダウンロードしながらなのはさんのもとへ走る。
画像を見る時間はないが仕方ない。
スカさんを信じよう。
「なのはさーん!」
振り向くなのはさん。
その眼前に、携帯の画面を持っていく。
何顔を赤くしてはるんですか。
「お稲荷さん、これ、何?」
「何って……
強いて言うなら俺の気持ち」
主に俺が惨劇を回避したいっていう。
どや?
「……うん、私も同じ気持だよ」
マジデカ。
なら別に俺がここまでしなくても、惨劇は回避出来たのね。
「良かった。
本当に、良かった」
「うん、私も嬉しい……!」
いや、喜ばれても。
あなたが惨劇を起こすつもりがなかったのなら、元々俺に何の被害もなかったんですがね。
「じゃ、じゃあお稲荷さん!
今日、2人で寝よう?
ヴィヴィオは、ヴィヴィっ子ちゃんに任せて。
ね?」
……何だろう。
何か凄まじく間違った方向へ進んでいる気がする。
思い出せ。
俺が何をしていたのかを。
思い出せ。
俺は何をしていないのかを。
あ。
そういや何の写真が送られて来たのかね。
携帯を裏返す。
そこには俺となのはさんの濃厚なキッスシーン。
そして先ほどのやりとり。
つまり。
「貞操の危機」
「大丈夫。
私も初めてだから」
何が大丈夫なんですか。
なのはさんの一声で、あそこまで荒廃していた大地が元の商店街に。
さながら世界線を移動しているような錯覚に陥る。
気がつけば、変態街灯少女も居らず。
居るのは右手に腕を絡ませているなのはさんだけ。
顔を赤くして、ほら、帰ろう?って言ってくる。
「このままだとギシアンモードに突入する」
「これからお稲荷さんとシちゃうんだぁ……
お父さん、お母さん、お兄ちゃん。
なのはは、女になります!」
「なのはさんのギシアンはギシギシアンアンかもしれんが、俺のギシアンは疑心暗鬼である事を知ってほしい。
というかそのセリフはかの煩悩霊能力高校生のじゃないか」
「そう言えば、お稲荷さんの子供ってやっぱり尻尾あるのかな?
ね、ね!
名前はどうしよっか?」
聞いて下さい。
そしてなのはさん。
まだ朝なんですが。
「大丈夫!
むしろ日中の方が、みんな家に居なくていいと思うから!」
大魔王からは逃れられないようである。
どうしてこうなった。
どう考えてもヴィヴィオとスカさんのせいじゃないか。
今回俺は悪くないハズ。
なんて考えていたらもう高町さんちに到着。
元々十数分の距離だったからだろうか。
全く時間稼ぎができませんでした。
家に入るとなのはさんはすぐに「待っててね」と言い残して、この時間帯なら高町さんが居るであろうリビングへと向かっていった。
それと入れ違いに笑顔のヴィヴィオがやってくる。
「ヴィヴィオは妹が欲しいなー」
「その幻想をぶち殺す」
「ぶー!」
ぶーじゃねーべさ。
お前のせいで俺の貞操がマッハ。
あ、後スカさんもか。
「これも全て、あの変態街灯少女のせい。
ヴィヴィオ。
お前に豪殺居合い拳の使用許可を出す。
安全確実に、標的を七条大槍で葬り去れ」
「標的が誰か分からない上に、街中でヴィヴィオに何をやらせようとするか」
「大事の前の小事だ」
「むしろ大事の前の大惨事」
こまけぇこたぁ気にすんな!
なんて言い合っていたら、リビングからガィィンって音。
そして聞こえてくる足音。
視線を向けると、そこには鬼の形相をしたなのはさん。
「なんぞ悪いことしたかね」
「なんぞじゃありません!
あなた達は朝っぱらから人の家で何をしようとしてるんですか!」
「むしろナニをしたがっていたのはなのはさんジャマイカ」
「私は!
高町なのはです!!」
いや知ってるけどさ。
そこまで自己アピールするのは如何なものかと。
グーパンが飛んできた。
あべしである。
「だから私は高町なのはです!!」
「だから知ってるって」
「にゃぁぁぁぁあああ!!!
何て言えばいいのこの状況!?」
何て解釈すればいいのこの状況。
なのはさんも頭が飽和状態なのか、言葉が少し昔に戻っている。
と、そこで服をクイッと引っ張られる。
なんだいヴィヴィオ。
「あの人はなのはママじゃないと思う」
と、言いますと?
あぁ。
まさかの高町さんか。
そうならそうと言ってくれ。
髪を下ろしたなのはさんと桃子さんよりたちが悪い。
「何度も言ってました!
いきなりなのはさんが来たと思ったら、その……えっと……アレをするから部屋貸してなんて言い出すんですよ!?
そもそもどんな日常を送っていたら朝からそんなセリフが出るんですか……」
どんな日常って。
「こけしが飛ぶだろ?」
「赤べこが舞うよね。
たまに狐パパも舞うけど」
「そんでシャケが落ちてくる」
そんな日常。
「全くわかりません……
まぁ、もういいです。
でもウチではしないで下さい……」
なのはさんに言って下さい。
そう言えば、そのなのはさんは?
……いや、やっぱいいです。
さっきから左手に持ってるフライパンと、その凹みで何となく想像できましたから。
「頭痛いよぅ……」
「なんでフライパンが凹むくらいの勢いで叩かれて、痛いで済むのかね」
「お稲荷さんだってそうじゃない……
ヴィータちゃんの魔法受けて、たんこぶだったよね……」
「あれは魔法じゃない」
「ねぇ、お稲荷さん。
頭どうなってる?」
「ネジが外れてるのはいつもの事だが。
う〜ん……やっぱりたんこぶになってるな」
「うぅ……」
「今ヴィヴィオが氷持ってきてくれるから、我慢だな」
「うーあー……
ガンガンするよぅ……」
「しかし、フライパンってなかなか凹まないと思うんだが。
力あるんだね、なのはさん」
「今元気なら、お稲荷さんの顔を握りたい気分かな……」
「ごめんなさい」
「……お稲荷さん」
「ん?」
「……もうちょっと、自重するね」
「あー、うん。
でも、サンキュ」
「何が?」
「……いや、何でもない」
「フフ、変なお稲荷さん」
「少しだけでいいから……
氷を持ってきたヴィヴィオの事……
思い出してあげて下さい……」
お久しぶりですこんばんわ。
月刊奇行文。の時間です。
感想へのお返事し終わってから新話投稿と思っていたのですが。
アメフラシの中に封印されしヤツが動き出したので、意識を失う前に投稿。
世界中にいるみんな!
オラにちょっとだけ休日を分けてくれ!!
1人1日の有給でいいから。
60億日は有給取れる。
つまり約4万5千年は遊んで暮らせる。
後、見て分かったと思うのですが。
シュタインズ・ゲートが面白かったです。
すぐ感化されるアメフラシ。
友人のチキンラーメンに見るよう勧めてみました。
そしたらチキンラーメン。
俺は時の流れに逆らう!
とか言い出して24話から見始めました。
感想が『マリアが刺される事を岡部は知っている事を俺は知っている』でした。
マリアという人物が出てきた時点でお前は何も知らない。
さて、今回も酔いが冷めぬままに来てしまったわけですが。
気持ち悪さが4日目たぁどういう事ですか。
どうしたら良いこの気持ち。
10件以上もはしごするんじゃなかったかも知れぬ。