年を気にする奇行文。
五日酔い。
今日も今日とて、ヴィヴィオとまったり昼の散歩を楽しんだ後帰宅する。
惜しいのは、稲荷寿司やお揚げを買い食いできないこと。
財布の中にお金は入っているんだけど、いかんせん野口さんや樋口さんしかいない。
福沢さん?
誰それ。
まぁ何が言いたいかと言うと。
多分ミッドなここと、地球とでは貨幣が違うということでして。
懐かしの無一文に逆戻り。
そんなこんなで買い物の類は全くせず、ただ観光がてらの散歩。
今日ものんびりとした1日だった。
高町家に到着し、玄関のドアを開け。
渇いた喉を潤すために、ヴィヴィオと共にリビングへと足を向ける。
するとそこには。
「グス……」
涙目の高町さんがテーブルに座って俯いていた。
「ヴィヴィオ。
あれに絡まれると厄介な気がする。
安全確実に、このエリアを脱出するぞ」
「ラジャ」
姿勢は前を向いたまま。
ゆっくりゆっくり後退する。
ギィィィィィイ。
しんっとしていた空間に、そんな甲高い音が響きわたった。
「安全確実にって言っただろう。
足音立てるとか何やってるんだヴィヴィオ」
「ヴィヴィオは1歩も動いてないから狐パパの足音だと思う。
痩せなさい」
子供って時に残酷よね。
あ、高町さんがこっち見てる。
「ヴィヴィオ、敵兵に見つかった。
こういう時、どうすればいいか分かるな?」
「何食わぬ顔で戻ればいいんだね!」
「マーベラス。
では早速」
クルッと後ろを振り向き、俺達の部屋へと向けて歩き出す。
尻尾を引っ張られる。
振り返ると、無表情で泣きながら俺の尻尾を掴んでいるなのはさん。
視線を前に戻すと、俺の目の前で十字を切って祈っているヴィヴィオ。
「なるほどなるほど。
ゆりかごの中で俺がなのはさんにした行為って、こういう精神的ダメージがあったのか。
高町さん、怖いんで無表情で泣かないで下さい。
そして尻尾をはなしテ!」
「……の……で」
高町さんは何かを呟いたようだが、声が小さかったのに加えて発声と同時に顔を俯かせたので何を言っているのか聞き取れなかった。
「……!
狐パパ、ダメ!!
その人の言葉に耳を傾けては!!」
「なんでさ」
「……ちの……いで」
尻尾をつかむ手の力が増していく。
やめてくれませんかね。
特に根元握るの。
「あなた達のせいでぇぇぇええええ!!」
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!?」
「うわぁ……」
尻尾の根元を両手で握られ、力の限りグッされた。
「で、今日ヴィヴィっ子の学校の友達と会ったら、高町さんの顔を見た瞬間に悲鳴を上げて泣き出した、と。
事情を聞こうと思って近づいたら、ゴメンナサイを連発した後、稲荷さんは別に好きじゃないと言っていたと。
俺、会ったこともない人に好きと言われても嬉しくないんだが」
というかそんな理由で尻尾を握られたのか。
冗談じゃない。
「冗談じゃないから!
本気で殺すから!」
「落ち着け高町さん。
今あなた、警察に捕まってもおかしくないレベルの発言してるから」
「狐パパが殺されそうになるのは割と日常茶飯事」
えっ。
「まぁそれは置いといて。
ガチで身に覚えがないんですが。
その子の名前は?」
「……アインハルト・ストラトスさん」
ストラトス……だと……?
「知ってるの? 狐パパ」
「あぁ、織斑っていう男が唯一操れる女性専用兵器だ」
「女性専用なのに男性が操れるとか。
狐パパ、矛盾って言葉知ってる?」
「ヴィヴィオこそ漢字で書いてみろよ」
むー!
と頬を膨らますヴィヴィオ。
はっはっは、まだまだ俺をおちょくるには経験値が足りぬわ。
それは置いといて。
名前を聞いてもやっぱりピンとこない。
俺を好きと言わせたあの呪いをかけたのは、ISじゃなく覇王だから。
しかもヴィヴィオの学校の友達ということは、小学生辺りの年齢ということになる。
だが覇王さんは、どう幼く見ても高校生くらいだったと思う。
はっ。
俺はとんでもない思い違いをしていたのではないだろうか。
稲荷という俺がこの場に居ることは、この世界の人にはヴィヴィっ子と高町さんとフェイトさん、そしてヴィヴィっ子の友達2人組しかいないはず。
即ち、これは巧妙に仕組まれた罠。
高町さんの矛先を俺へと向けるための完全犯罪だったのだ。
そして、そんな腹黒い芸当をするのはただ1人。
「謎は全て解けた」
「うちのヴィヴィオが犯人とか言ったらスターライトブレイカーするからね」
どうやらこの事件は迷宮入りのようだ。
「まぁそれはともかく。
なんでその最終兵器彼女に会おうと思ったのさ」
「最終でもなければ兵器でもないからね?
アインハルトちゃんに会おうと思ったのは……ヴィヴィオと一緒にストライクアーツやってるって聞いたから。
今週末に企画してる、春の大自然旅行ツアー&ルーテシアもいっしょにみんなでオフトレーニングに誘おうと思って」
へー。
「ルーテシアってのは記憶の奥底に眠っている気がするんだけど、思い浮かぶのは何故かダンゴムシ。
というかそんな話、初耳なんですが」
「何言ってるの狐パパ。
ヴィヴィオもなのはママも、もうとっくに準備終えてるよ?」
なるほどなるほど。
「つまり、俺は危うく置き去りの刑に処せられる所だったと。
ヴィヴィオ、何故黙っていた。
あぁ、何も言わなくていい。
その後ろに隠したカメラで大体の思惑が分かった。
だがなのはさんは何故だ」
「狐パパが落ち込んだ時に、高町さんを悪役にして自分は慰める作戦で好感度アップとか言ってたよー」
「自重するって言ってたじゃないかあの人。
そんな事しなくても、なのはさんに対する好感度は結構いいレベルにあるんだがなー。
む、メール着信」
お。
噂をすればなんとやら。
なのはさんだ。
何々……?
『それ、本当?』
どこで見ている。
「『俺のログには何もないな』っと、送信」
「上げて落とすとか、狐パパサイテー」
「黙らっしゃい」
覗き魔に人権はない。
で、高町さん。
俺もその春の大自然旅行ツアーに参加してもいいのでせう?
「え、いいけど。
オフトレは?
最後には大規模な模擬戦も予定してるんだけど」
「流れ的に多対多対1になるのは目に見えている。
模擬戦と書いてリンチと読むんですね分かります。
てかどう頑張っても闇の書との最終決戦レベル」
「そんな酷い事は……
稲荷さん、闇の書との戦いに居たの!?」
俺だけじゃなくてヴィヴィオも居たぜ。
ほれ、証拠の映像。
鉄板型のビデオカメラを高町さんに渡す。
前になのはさんが再生した時も思ったんだが、どうやって再生してるんだろうか。
何度触っても、あの空中に出てくる画面が表示されないんだけど。
「……過去から来たっては聞いてたけど。
なんでフェイトちゃん達が各2人ずつ居るの……
なんでプレシアさんとスカリエッティが仲良さそうに高笑いしてるの……
そして稲荷さん、特に何もしてないの。
あ、暴走体が光に包まれた」
何度見てもいとアワレ。
光の中心が俺じゃなくて本当に良かった。
もう2度と、『狂符「六課神将の宴」』は使わないと心に決めた瞬間である。
夕方。
フェイトさんが仕事から帰ってきて。
ヴィヴィっ子達が学校から帰ってきた。
何でも、今日はツアー前の試験の日だったらしく。
その結果を高町さんとフェイトさんに見せに来たのだとか。
何故『達』かというと、以前出会ってしまった……リオとコロナだったか。
彼女達も何でか知らないけどなのはさんに成績表を見せるんだそうだ。
で、今はその3人娘を対面に。
俺とヴィヴィオとなのはさん、高町さんとフェイトさんが座っている。
足りない分のソファーは気合で出してみた。
「よくやるねー。
ヴィヴィオなら絶対見せないけどなぁ。
特になのはママには。
後でどんな特訓が追加されるか分かったものじゃない」
「ヴィヴィオ。
後で算数のドリル買ってくるから、一緒にやろうね?
大丈夫、私がずっと見ててあげるから」
「ウヴォアー」
ふ、馬鹿かヴィヴィオ。
そういうのは言葉にはせず、黙って実行するものだ。
1度知られると、ずっと警戒されるからな。
で、3人娘の内の事情を知らない2人は俺達を見て大慌て。
ヴィヴィっ子が必死に説明をして、こちらを恨めしそうに見ている。
それも数分もすれば終わり、とりあえずは高町さんに成績表を公開することに。
「花丸評価いただきました!」
「3人そろって」
「優等生ですッ!」
アベレージ100の化け物も花丸評価で纏めるとは、さすが小学生。
わぁ、みんなすごいすごーい! と高町さん。
これならもう堂々とお出掛けできるね! と俺にアイアンクローするフェイトさん。
じゃあ一旦おうちに戻って準備しないとね、と再度高町さん。
え、もう出発するのでせうか? と俺こと稲荷。
「準備ってお前。
荷物どころかパンツの替えさえ危ういのだが」
「狐パパ、前それでスカさんと一緒に独房に入ってたよねー」
「だがパンツに罪は……あるか」
さてどうしたものか。
「狐パパ」
「なんだヴィヴィオ」
「今ヴィヴィオ達が座っているソファーは、どこから出したの?」
何を今更。
お前散々見てきたじゃないか。
俺が妖力的な何かをこう……ワーッてやって作り上げ……。
「おぉ、ヴィヴィオ。
お前は天才か。
着替えも作ればコストも掛からないジャマイカ。
やはり勉強が出来るヴィヴィっ子より、頭のいいヴィヴィオだな」
「何言ってるのかな稲荷さん。
今の時代、やっぱり勉強もできないとダメだよ。
いい大学だって入れないし」
「そうだよ稲荷。
後々困るのはヴィヴィオなんだよ?
だから勉強も出来る私たちのヴィヴィオはやっぱり凄いんだ!」
ヤバス。
子供自慢に走るオカン達の群れに餌を投げ込んでしまったようだ。
助けてなのえもん!
……あれ?
「何か静かだと思ったらなのはさんが暗い。
こう、ダークを背負っているような」
「あー、ヴィヴィオが服を作ればいいって言っちゃったからだね。
ごめんなのはママ。
ホントは狐パパと服とか一緒に買いに行きたかったんだよね?」
「……うん」
ふふーん。
そんなに俺ちゃまとデートがしたかったのかね。
「うん」
「あ、狐パパ顔が赤いー!」
黙らっしゃい。
じゃあ今度、ゆっくり行こうや。
金無いけど。
「うん!」
満面の笑みで俺の腕に手を絡めてくるなのはさん。
うむ、うむ。
いいものである。
と、タイミングを見計らったかのように来客を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「このタイミングとか絶対見てただろ。
汚い、流石忍者汚い。
ヴィヴィオー!
客だー!」
「はーい!」
とてとてと足音を立てながら玄関に向かうヴィヴィオ。
俺もなのはさんも高町さんもフェイトさんもにこにこしながら見送っていたが、ヴィヴィっ子は少ししてからハッとした表情をする。
慌ててヴィヴィオを追おうとするが、もう既にあいつは来客の相手をしているので手遅れ。
ナンテコッタイ状態のヴィヴィっ子がそこにいた。
「狐パパー!
ノーヴェさんとストラトスさんが来てるー!」
「ウチはIS学園には入りませんって言っといてー!」
「はーい!」
そもそもISを起動できる人がこの中に居るのだろうか。
リビングにいる人たちを一瞥する。
全員問題なく乗れそうである。
「狐パパー!
ヘルプ」
「前から思ってたんだけど、何かあるとヴィヴィオってまずお稲荷さんを呼ぶよね。
ちょっと羨ましいなー」
「助けを求められても俺に対処出来ることは少ないことをそろそろ学んで欲しい。
何かあったかね」
リビングから玄関に顔を出す。
そこでは知らない女性と少女がヴィヴィオと話していた。
「ヴィヴィオ、私だって!
ノーヴェだよ!?
忘れちまったのか!?」
「ヴィヴィオのログには何も無い」
俺のネタがパクられた。
「ヴィヴィオの方もカオスだな。
そしてそちらの少女さんは微妙にいつぞやの覇王さんに似てるんだが。
妹さんか何かか?」
「え、あの……すみません。稲荷さんは好きじゃないです!」
何故俺は初対面の人にこんな事言われなきゃならんのだろうか。
「お稲荷さーん。
どうしたの?」
「あ、なのはさん。
初対面の人に嫌われて俺の心がブロークンファンタズム」
「なのはさん!!
ヴィヴィオが大変です!
あたしの事忘れちゃったみたいなんですよ!!」
「えーと……誰だっけ?」
「ノーヴェですよ!?」
「あぁ!
……誰だっけ?」
クッソォォォォォォオオ!!
と頭を抱えながら床をゴロゴロ転がる自称ノーヴェ。
なのはさんの登場と同時に涙目になってごめんなさいを繰り返すIS。
何がなんだかわからない様子のヴィヴィオとなのはさん。
やれやれだぜ、のポーズを取る俺。
ハッ、殺気!
後ろを振り向く。
高町さんが、天高くフライパンを掲げているのが見えた。
世界がスローになる。
神速を使ったわけじゃないから、そう感じているだけなのだが。
やがてフライパンは、高町さんの手により。
頂点から、一気に俺の頭目掛けて下降してきて。
この時俺は、頭を打った時に星が見えるという言葉の意味を知ったのだった。
「俺、悪いことしたっけ」
「多分ヴィヴィっ子ちゃんにお出迎えさせてあげるべきだったんじゃないかな?」
「分からんよそんなイベント……
まだ頭がグァングァン言ってる」
「私の膝枕でも効果なし?」
「別の意味で効果あり。
気持ちいーよー」
「じゃあ、もっと気持ちよくしてあげる」
「ん?……んっ!」
「ん……ちゅ。
……どうだった?」
「ヤバス。
主に息子が」
「ふふ、気持よかったでしょー!」
「ちくせう」
「狐パパとなのはママは今日も大胆でしたっと。
さて、こっちも収拾つけないと」
「な、なのはママ……?
フェイトママ……?
その藁人形どうしたの……?」
「あそこまで露骨に披露されるとね。
自分だから余計にかもしれないけど。
……グス。
私だって彼氏欲しいの、イチャイチャしたいのー!」
「私も同じ想いだよ、なのは。
というかそれ以上に、なのはを取られた感じがして自分を抑えられない。
大丈夫だよヴィヴィオ。
毛は入手してるから」
「大丈夫じゃありませーん!!」
「あ、フェイトちゃん私にも1本頂戴?
代わりにはい、五寸釘と金槌」
「流石なのは、準備がいいね」
「いくら狐パパやなのはママを呪っても、23歳という年には勝てない罠」
「うっ」
「はうっ」
「なのはママ!?
フェイトママー!?」
「ヴィヴィオの勝利」
お久しぶりです、アメフラシです。
危うく2ヶ月丸々空いてしまう所でした。
色々ありまして、9月一杯でジョブチェンジすることになりまして。
10月からオニューな海で漂う事になったアメフラシ。
波に乗るのに今までかかってしまいました。
加えて、今回は難産でした。
また息抜きに飲み会話を書くべきか。
あれは書いてて楽しい自分がいるので。
スッカサーン、出番ですよー!
そしてアメフラシ、今度は夏目友人帳にハマりました。
にゃんこ先生いいですね。
リスペクトしたいキャラナンバー1です。
マダラとにゃんこ先生、声優一緒なんだぜ……。
感想一杯、メールも何通も、送って書いていただいたのに反応できなくてすみません!
ちゃんと読ませて頂きました。
何か皆さん色々なネタをお持ちで。
脱帽です。
時にはリスペクトしたり、時にはアレンジしたり、時には突発的な思いつきで進んでいく奇行文。
まったりのんびり進行中なので、細長い目をしてお待ちくださいませ。
え、酔ってる時にはキャベツがいい?
それを飲み物にしたのがキャベジン?
よーし、おいちゃんキャベツ食べるぞー!
……別の意味で気持ちが悪いとです。