第7話 涙と笑顔
今日も公園でなのはちゃんとキャッチボール。
利き腕が逆のグローブを使ってるからやりにくいだろうけど、だんだん慣れて来たみたい。
それにしても、なのはちゃんって空間認識能力が常人よりも高いね。
俺の投げるボールをちゃんと自力でキャッチ出来ないとしても、飛んで来る位置などを把握しているんだよね。
ちゃんと身体が動く様になれば普通にキャッチボールは出来そうだ。
黙々とキャッチボールをするのも何なので、色々と話をした。
ただ、話の内容とかも話す前にキャッチボールしていると分かる様になっている。
もう、キャッチボールすると相手の事が分かるって事で諦めましたよ。
そんなこんなで分かった事なんだけど、なのはちゃんの父親が大怪我をして入院いているらしい。
それでも両親が経営している翠屋と言う喫茶店を母親が営業していて大忙し。
他の家族は兄と姉がいるが、家のことやお店のお手伝いをしていて、幼稚園が終わって家に帰っても誰もいない。
なのはちゃんもみんなを手伝おうとはしたのだが、まだ小さいし危ないからと言われて何もさせてもらえない。
夜にはみんな帰って来るけど、疲れ果ててすぐに眠ってしまうんだって。
そんな疲れ果てている家族を見て、自分の我が儘でみんなをさらに疲れさせる訳にはいかないと。
兄と姉だって大好きな剣術の修行をやらずに我慢しているんだから……。
それでも一人ぼっちが寂しくて、公園でブランコに座って時間を潰していたのか。
「なのはちゃん。俺も夜は一緒にいてやれないけど、昼間はこうしてキャッチボールをしたり話をしてやるからさ」
「え……」
「あと、キャッチボールをしていると相手の気持ちとか感情が伝わってくるから、俺の前では心を抑え込まなくても良いんだよ」
あ、最後のは余計だったか?
なのはちゃんの表情が一気に変わって行き……。
「ふぇーん」
あらら。
泣き始めちゃった。
流石に泣かれると……。
「よしよし。思いっきり泣いてイイぞ」
とりあえず抱き締めて俺の胸になのはちゃんの顔を当てて思いっきり泣かせてあげよう。
泣いてる顔はあんまり見られたくないだろうしね。
前世で泣かれた時もこーやったっけな。
俺は泣いてる人にはこれしか出来ないからね。
しばらくすると泣き止んだんだけど、恥ずかしいみたいでこっちを向いてくれないや。
今日は色々と話をしたし、なのはちゃんが溜め込んだ物も少しは発散出来たかな?
なのはちゃんと出会って一ヶ月。
毎日、幼稚園が終わったら公園で野球の話をしたり、キャッチボールなどをする日々が続いていた。
そして、ようやく父親が良くなって退院出来ると嬉しそうに話してくれた。
その翌日からなのはちゃんは公園には来なくなった。
おそらく家族と一緒にいるのだろう。
ちょっと寂しいけど、子供の頃の出会いってこんなものなんだろうな。
俺の役目は終わったみたいだし、公園でやるトレーニングも限界が来ていたから丁度良かったのかな?
一応数日間は公園に通ったけど、結局その後はなのはちゃんと会えなかったよ。
俺も公園にはもう来なくて良さそうだね。
さて、次は山とか森でトレーニングしようかなーっと。