第8話 聖王教会
聖王教会……ユーノ曰く聖王を崇め、聖王の偉業を語り継ぎ、数多くの次元世界に影響力を持つ有数の大規模組織。
要するに宗教団体っと。
ついでに、聖王縁のロストロギアを回収し、古代ベルカの技術を悪用されないように保管する、管理組織的な一面もある。
「よーするに、夜天の魔導書ってロストロギアで、古代ベルカの品ってことなの?」
「簡単に言うとそうなる。毎回起きる闇の書事件の後、事後処理や被害を受けた人達の救済、被害を受けた地域への支援などを行ってるんだ」
「へー、結構働いてるんだね」
僕の質問にあっさりと答えてくれるクロノ。
はやて達は緊張しているため、口数が少ないから寂しいんだよね。
「僕は前回の被害者の一人だ。そこから色々と支援して貰ったのさ。そんな中で仲が良くなった人物に、ヴェロッサ・アコースと言う人物がいるんだよ」
「そしてヴェロッサの義姉にカリム・グラシアと言う、聖王教会の教会騎士団に所属する騎士がいるんだ」
「女なのに騎士なんだ〜」
「まぁ、カリムは戦えないだろうけど、そう言う部署にいるってこと。だから色々話をしてあるから、カリムのツテで騎士の協力を得られるんだよ」
「タロー、我らヴォルケンリッターは騎士だ。性別で分けるな」
僕のつぶやきにシグナムが口を挟んでくる。
ヴィータは何だか睨んでるし……。
「ごめん。女であると同時に騎士だったね。以後気をつけます」
「む……女である前にと言いたいところだが、女でないとはやての母親は出来ないからな」
僕の謝罪に口を挟むリインフォース。
あー、母親ポジションなんだ〜。
じゃあ……チラ。
(我は狼だ。犬ではないし、ペットポジションではない!)
(いや、まだ何も言ってないんだけど……)
(タローから視線が来た。それだけで十分だ)
ザフィーラにあっさり言われたのでションボリ……。
聖王教会前にたどり着くと、そこには緑髪の男が立っている。
クロノはその人物を見て笑っているし、向こうもこっちを見て笑っている。
「やぁ、ヴェロッサ。シャッハさんから逃げてきたいのかい?」
「おいおいクロノ君。僕を何だと思ってるんだい? それと初めまして皆さん。ヴェロッサ・アコースです」
そう言って軽く会釈するヴェロッサさん。
僕達も自己紹介を済ませる。
「それでヴェロッサさん……」
「嫌だな〜、はやて。今までどおりロッサと呼んでくれて良いんだよ」
「今までって、今日、初めて会ったんやないか!」
「あっはっは、気にしない気にしない」
ふむ、中々良いボケだ。
そんな事を思っていると、ヴェロッサさんの後ろから女性が現れて耳を引っ張る。
「イタタタた」
「ロッサ、お客様に対して何て言う口の聞き方ですか!」
「いや、僕はこの緊張している雰囲気をほぐしてあげようと……」
「そんな事言って迷惑をかけないの! 皆さんすいません。あ、申し遅れました。私、シャッハ・ヌエラと申します」
そう言ってヴェロッサさんの耳を引っ張ったまま頭を下げるシャッハさん。
ヴェロッサさんは相変わらず痛がってるけど、放置なのかな?
「さ、皆さん。騎士カリムがお待ちです。こちらへどうぞ」
そう言ってヴェロッサさんを引っ張ったまま、シャッハさんは僕達を案内してくれる。
はやて達は苦笑いして付いて行く。
1つの部屋に通されると、金色の髪をした女性が優雅に紅茶を飲んでいる。
「あら、シャッハ。やっとロッサを捕まえたのですね」
「はい、騎士カリム。遅くなって申し訳ありませんでした」
「いえ、大丈夫ですよ。そして皆さん初めまして。聖王教会、教会騎士団所属のカリム・グラシアです」
そう言って優雅に挨拶をする。
なんて言うか……お嬢様?
僕達も慌てて自己紹介を済ませる。
「さ、あまり時間もないことですし、夜天の魔導書について話をしましょうか」
そう言ってカリムさんは話を始める。
あくまでカリムさんのお願いできる範囲で、蒐集に付き合ってくれる人達を探したようだ。
「ありがとうございます」
「良いのよ、はやて。お互いに古代ベルカ式の継承者。闇の書の呪いになんて負けさせないわ」
そう言って立ち上がり、はやての近くに行き抱きしめる。
「色々と辛いこともあったと思います。でも、全てを諦めずしっかりと生きてきた貴女は立派です。そういう人のために聖王教会は力を尽くすのです」
「カリムさん……」
「カリムで良いですよ。お姉ちゃんって呼んでくれると嬉しいわ」
そう言ってお茶目にウインクをする。
それにみんな釣られて笑顔になる。
意外と凄い人だな〜。
「お姉ちゃん(裏声)」
「ロッサ、貴方は遊びすぎです!」
「シャッハ!? 僕の腕はそっちに曲がらないよ!」
「まっが〜れ」
「それ、僕のセリフ……じゃなくって、無理無理!」
「大丈夫です。人体に骨は沢山ありますから」
「折ることを前提にしないで!!」
そして相変わらずじゃれているヴェロッサさんとシャッハさん。
「仲が良いんですね」
「ええ、ロッサとシャッハは仲良しなんですよ」
「その仲良しと言うよりは、虐待されてるんですけど……」
「貴方は不真面目すぎます。今回の事だけでなく、いつもいつも……」
僕の質問に笑顔で答えるカリムさん。
そしてシャッハさんに怒られているヴェロッサさん。
でも、緊張している空気が緩んだから、ワザとなんだろうな……。
それが落ち着き、皆で中庭に移動すると数人の騎士が待っていた。
はやては1人1人お礼を言い、シャマルと蒐集を始める。
今回はプレシアさんとリンディさんのダブル結界はないものの、リインフォースが覚えた結界で痛みを緩和させている。
これが蒐集によって手に入れた魔法なのかな?
「さ、私もお願いしますね」
「騎士カリムもやるのですか!?」
カリムさんの言葉に驚くシャッハさん。
近くにいた他の騎士たちも驚いている。
「皆さんにお願いしておいて、私がやらない筈ないでしょ。皆ではやてを闇の書の呪いから解き放つのですから」
「じゃあ、僕もお願いしようかな。1週間は魔法の使用を控えなきゃいけないなら、ゆっくりと休めそうだしね」
「ロッサまで!?」
周りにいた騎士曰く、2人とも
そんな2人から蒐集するなんて……と言うことらしい。
でも、本人たちが良いって言ってるんだもんね。
「シャッハはダメよ。私達をちゃんと守るんだからね」
「ですが、騎士カリムとロッサがやるのに……」
シャッハさんは困っている。
そりゃ、上司がやるのに部下がやらないんじゃぁねぇ。
そんなシャッハさんに対してカリムさんは微笑む。
「全員が動けなってしまったら、誰が皆を守るというの? これはシャッハにしか出来ないお願いよ」
「動けなくなる僕を運んで欲しいしね」
「ロッサまで……。分かりました。今回私は蒐集されません。ですが次の機会があるなら、私からも蒐集してください」
みんながすごい協力的だね。
闇の書が古代ベルカの品である夜天の魔導書を改悪したものだから、それをどうしても元に戻したいと言う教会サイドの都合もあるらしいけどさ。
でも、確実に夜天の魔導書に戻せるかは分からないので、全員が協力的ではないらしい。
直せる保証がないから難しいよね。
逆にこれだけで信じてくれている仲間たちに報いないとな〜。
そう言う訳で、夜には蒐集が終わった。
聖王教会の近くにあるホテルのレストランで夕飯を食べていると、ヴィータが闇の書のページをめくりながら口を開く。
「すげぇな……もう600ページ超えてるぞ」
「ほな、教会の人達には感謝しないとアカンな」
「そうね。皆あんなに協力してくれたんですもの」
「ありがたい限りです」
はやての言葉にシャマルとシグナムが同意する。
ヴィータとリインフォース、ザフィーラも頷いているね。
「まだ信じ切ることは出来ねーんだけどさ……。でも、タローなら信じても良いかな」
「そうね。魔力もない一般人がここまでやってくれるんですもの」
「シャマル……タローを一般人の枠組みに入れるのはどうかと思うが……」
「タローとその友人なら信じられる」
「ここまでやってくれた以上、防御人格を叩き起こし、共に夜天の書に戻ろう!」
ザフィーラのツッコミはスルーされた。
ちょっぴり悲しそうな背中が哀愁を漂わせている。
「ザフィーラ、ドンマイ!」
「いや、殆どタローのせいなのだが……」
ザフィーラのジト目がちょっぴり心に痛かった……。