第9話 疑惑
蒐集を行った次の日、ホテルの部屋をノックする音で目が覚める。
ちなみに全員で一部屋に泊まってます。
僕は一応小学生扱いだしね。
そして扉を開けるとカリムさんとシャッハさん、クロノとヴェロッサさんの4人がいた。
「タローさん、中に入ってもよろしいですか?」
「良いですよ。でも、はやて達が着替えるまでは隣の部屋で待ってくださいね」
「はい、分かりました。それではお邪魔しますね」
そう言って入ってくるカリムさん達4名。
とりあえず隣の部屋で待たせておき、はやて達を起こして着替えさせる。
そこそこ時間が経ったが、全員が着替え終えて集合する。
「お疲れのところ起こしてしまってすいません」
「平気やで。それで今日はなんのようなん?」
「今日は非公式でお話をしたいので、こちらにお邪魔させていただきました」
そう言ってカリムさんは僕の方を向き話し始める。
「クロノ執務官とはやて。騎士の皆さんは分かるんですけど……。タローさん、貴方は何なんでしょうか?」
カリムさんはそう言って僕の瞳を覗きこむ。
僕もカリムさんの瞳を覗き返す。
はて、何がなんなんだろう?
「「…………」」
妙な間が出来た。
しばらくするとその間に耐えられなくなったのか、はやてが僕を手で目隠しする。
「いつまで見つめ合ってるねん!」
「あぁ、ごめんね。なんか見られていたからさ」
「ちゃんとタローはこっちを向くんや!」
「いや、はやてが目隠ししてたら見えないんだけど……」
そんなやり取りを見てカリムさんは吹き出す。
「2人とも仲が良いんですね」
「そうや! タローは私のやねん」
「いや、僕は物じゃないんだけど……」
カリムの言葉に胸を張って返事をするはやて。
カリムはそんなはやてをニコニコ見ているが、ふと真面目な顔になって話し始める。
「闇の書改修……タローさんが言い始めたことのようですね」
「しかもタローの周りには大魔導師のプレシアさん、最年少執務官のクロノ君、無限書庫を整理したユーノ君……」
カリムさんの言葉を引き継ぐヴェロッサさん。
何が言いたいんだろ?
「君の周りには人が集まり過ぎている。そしてこの闇の書改修だ。これが成功すれば守護騎士までもが、君の周りの揃うわけだ……」
「管理外世界のタロー君は何を求めるのかしら?」
ポヤポヤしたお嬢様かと思えば真面目な顔にもなるんだね。
まぁ、そんな事はどうでも良いや。
「僕は……ただの野球選手です。力もなければ魔力もない」
ふと、はやての顔を見る。
僕の言葉を聞いて、何となく笑っている気がするけど……。
「僕の今の望みは、はやてが元気に歩けるようになり、家族と一緒に過ごせることですよ」
「それだけ? あなたの周りには色々な人がいるのよ。管理局の関係者として、聖王教会の騎士として注目するに値する人物なのよ」
カリムさんは真剣な目で見つめてくる。
だけど、僕の求めるものね……。
「これが落ち着けば普通に野球をやります。そして、面白そうなので次元野球の選手を目指すつもりです」
「「「は?」」」
カリムさんとヴェロッサさんだけでなく、シャッハさんも唖然としている。
しかし、クロノとはやては笑うのを我慢している……。
だって肩が震えているもん。
「要するに全力で野球がやりたいだけですよ。他は基本的にどうでも良いんだ。でも、はやては身内だから助けたいだけさ」
その言葉を聞いてクロノとはやては我慢できなくなり笑い出す。
守護騎士の皆は唖然としているが、ザフィーラだけは額に手を当てため息をついている。
「騎士カリム。タローはこういうやつです。別に力を求めるわけでも、何かをする気もないんです」
「私のためにタローは動いとるだけや。後は野球の事しか考えとらんのよ。人の気も知らないで……(ぼそ)」
はやてが何か呟いてるけど、どんな気持ちなんだか……。
(そういう訳ですよ。後は直接お聞きください)
(そうか……それではそうしよう)
カリムさんからの念話が誰かに届いたようだけど……?
そうするとドアがノックされ、1人の大きな男性が入ってくる。
その瞬間、守護騎士がはやてを守るように立ちふさがる。
あれ、僕のことはスルー?
「俺はお前たちに敵対する意思はない。武器を納めてくれ」
そう言いデバイスを下に置く。
守護騎士達は警戒を解けないでいる……。
正直、シグナム達より強い雰囲気はあるしね。
「皆、大丈夫や。それでおじさんは誰や?」
「俺は時空管理局・首都防衛隊所属、ゼスト・グランガイツだ。古代ベルカ式の使い手でもあり、教会騎士として名を登録してある」
「その騎士さんがなんや?」
「闇の書に蒐集されても良い者を騎士カリムが集めていて、俺にも声がかかったわけだが……」
要するに執務官や被害者なら問題はないが、不確定要素が混じりすぎているので心配だということかな。
「しかし、直接会ってやっと分かった。君がタローだったとはな……」
「ん? タロー、ゼストさんと知り合いなんか?」
ゼストさんの言葉にはやてが聞いてくるけど……。
「ん〜っと、良く分からないな。でも、夢の中で会ったような……なかったような……」
「夢の中って、そんなん覚えてられるか!」
「だって、そんな気がするんだよね。どうも記憶にモヤが掛かっているような……」
僕の言葉を聞き、カリムさん達がゼストさんを見る。
「それは俺達がそうしたんだ。俺は1度お前と会っている。その時お前は成人した姿だったがな」
「……?」
「分からないのも無理は無い。9回の表、2アウト、2塁。2−3で1打同点のチャンス……」
ゼストさんの言葉に、何を言っているんだと言う表情をするみんな。
だけど僕は……。
「ピッチャーはカツオ・イソノ。バッターは成人した僕……。あれは夢じゃなかったんですね」
「まさか!?」
僕の言葉にクロノは心当たりがあるようだ。
「思い出したようだな。あの日、管理局は毎年恒例の陸と海によるレクリエーション野球大会があってな……」
陸・海各部隊の予算を使用し外部から選手を呼ぶことも出来るんだが、予算の少ない陸では外部から有名な選手を呼べなかった。
そこで苦肉の策として、強制召喚で野球の上手い選手を呼び寄せ、招待選手として参加させるとのこと。
「そこで僕が呼び出されたと」
「あぁ、既に試合は終了間近。しかし呼び出されたのは魔力のかけらもない小学生程度の者。呼び出したメガーヌは僅かな望みに賭け、君を変身魔法で成人の姿にして1打席の参加を依頼したのだ」
「じゃ、じゃあ、イソノ氏の球を打ち同点とし、その後ホームスチールで逆転させたのは……」
「そこにいるタローだ。1打席とその後ピッチャーとして9回の裏を投げきり、元の世界へ帰って行ったのだよ」
クロノの言葉にゼストさんが答える。
そんな夢の内容だったけど、あれは夢ではなく現実だったのか……。
みんな意味がわからずポカーンとしているけど、ちゃんとゼストさんが説明を始めた。
「なるほど……あの、海の敗北事件にはタローが関わっていたのか……」
「イソノ氏の悲劇。しかし、その敗北を乗り越え今シーズンは絶好調……」
深刻な顔で言葉を紡ぐヴェロッサさんとシャッハさん。
そこ会話にハヤテの肩がプルプルと震えていて、ついに感情を爆発させる!
「なんでやねーん!! 闇の書を直すとか、色々な人が助けてくれるとか、タローが何を考えてるかとか、真面目な話をしているのに、なんで野球の話になってるねん! そして、タローが野球をやった!? んなもん、ここで関係あるかい!!」
そう言って肩で息をするはやて。
オロオロする守護騎士達……ザフィーラは頭に手を起き、やれやれといった表情だが。
「まぁまぁ、はやて。落ち着きなよ」
「大概タローのせいやと思ってたんやけど、今回のはなんやねん! 召喚? 成人? どないな感じや!?」
はやてが何を言ってるか良く分からない……。
その言葉を聞いてカリムさんが手元の何かをポチポチといじると、空中モニタが現れる。
そこには成人した僕がバッターボックスに立っている姿が写っていた。
「これですね。レクリエーション野球大会には行けませんでしたが、管理局関係者として映像データを貰ってありますので……」
「姉さん!? それって、イソノ氏に対して申し訳が立たないから、管理局で映像データは全て廃棄されたんですよ!」
「あら、そうなの? それは知らないって事なので、ロッサは黙っていてくださいね」
カリムさんの出した映像データに対してヴェロッサさんがツッコミを入れている。
まぁ、プロが誰だかわからない選手にやられたんじゃ……ねぇ。
「カリム……そう言うのは良くないで〜」
「あらあら、はやてまで……。はやてはこの写真いります?」
「まぁ、写真なら仕方あらへんな。とりあえずプリントアウトしたやつを貰って、データは闇の書に入れられるんかな?」
「「「「はやて(ちゃん)!?」」」」
ころっと変わるはやての言葉に守護騎士……ザフィーラは除く……は驚きの声を上げる。
「じゃあ、直ぐに用意しますね。L版とポスターサイズ、どっちが良いですか?」
「姉さん!?」「騎士カリム!?」
「両方や!」
そしてカリムさんの言葉に驚きの声を上げるヴェロッサさんとシャッハさん。
間髪入れずに返事をするはやて……。
そうしてこうなったんだろ?
「タロー、お前のせいだ」
あれ? 声に出してないのに、ザフィーラにツッコまれたよ!?
「自分は関係ないとか思ってるだろ。どう考えてもタローのせいだ」
「最近ザフィーラが冷たい……」
「自分の行動に少しは疑問を持て!」
何ともそっけない返事のザフィーラだった……。
そして向こうではカリムさんとはやてがワイワイ騒いでおり、それを守護騎士とヴェロッサさん、シャッハさんが色々言ってる。
これの原因を作ったゼストさんはクロノと何か話をしているし……。
どうすればいいんだ!?