第10話 炎熱変換
ゼストさんが参加してきた話し合いで大混乱。
僕の過去にそんな出来事があったとは……。
夢かと思ったよ。
「それで俺も協力しようと思うんだが、なにぶん休みが取れない。1週間も魔法が使えないんでは、首都防衛に穴が開いてしまうからな」
ゼストさんは残念そうに言う。
何でも管理局の地上部隊は次元航行部隊に比べ予算も人数も少なく、その中でミッドチルダの平和を守っている。
そのためS+のゼストさんが蒐集により魔法が使えない状態になるのは厳しいそうだ。
「すまないな。他に出来る事があるなら協力しよう」
「ええって。タローの成人バージョンの写真も手に入ったし、ゼストさんの気持ちだけで満足や」
ゼストさんの言葉にはやてはニコニコ答える。
僕の写真なんか手に入れて嬉しいものなのかなー?
「そうか。……タローは何かないか? 俺に出来る範囲でなら何とかするぞ」
「うーん……。それならレクリエーションで投げていたという炎熱変換魔球を投げて欲しいんだけど」
僕の言葉にみんな呆れる。
でも、折角の機会なんだよ〜。
「ふ、タローは野球馬鹿だな。それならこれから教会の庭でやるか」
「お願いします」
「シャッハ!」
「はい、騎士カリム。今から準備させておきます」
僕らのやる気にカリムさんも協力的だ。
呆れてる人達を連れて、教会の庭に移動する。
「折角ですから、その体ではなく成人モードになってやったらどうですか?」
「お、カリムええこと言うな。そやそや、ストライクゾーンが狭いんやとピッチャーに不利やで」
なんでノリノリなんだろうこの2人?
確かに僕に投げるんじゃゼストさんのほうが不利になるんだろうけど……。
でも、僕は魔法使えないからねぇ。
「それならはやて。私が蒐集した魔法の中にありますので、タローにかけますね」
「流石はリインや。是非とも頼むで!」
僕が関係なく話が進んで行く。
いや、言い出したのは僕なんだけどさ。
「はやて、何歳設定にします?」
「そやな……やはり大人のタローが見たいから25歳ぐらいにしとこか」
「はやて……良いですね。私より年上ってところが最高です!」
「分かりました。25歳設定で行きます」
はやてとカリムさんは何を言ってるんだろう……?
そしてリインフォースの変身魔法により、僕は25歳の姿となった。
服装は……適当な私服になってるのね。
「これが僕の未来の姿か……」
「一応今のまま成長して行くと、そうなると言う想像の姿です。未来は誰も分からないのですから……」
僕のつぶやきにリインフォースが答える。
「そうだね。未来は分からないから楽しいんだよな」
体の変化を自分で確かめる。
視線の高さや手足の長さが変わったことを注意しないとね。
「カリム、闇の書って撮影機能ないんか?」
「とりあえず私ので撮影してデータで送りますね」
「はやて……」「騎士カリム……」
何だか良く分からないテンションのはやてとカリムさんに対して、シグナムとシャッハさんが情けない声をあげる。
そして2人して顔を合わせて……ガッチリと握手する。
何だか仲が良くなってるけど、自分の上司みたいな存在がこれじゃあねぇ。
「ゼストさん、そろそろアップも終わります」
「うむ、それでは全力で行くとしよう」
「キャッチャーは私がやろう」
そう言ってザフィーラが借り受けたキャッチャーミットを構える。
ゼストさんが投球練習をするが、ザフィーラはしっかりとキャッチする。
「ほう、もう少し力を入れるぞ」
「遠慮するな。力だけでなく魔力も入れろ。私は盾の守護獣、どんな球でも受け止めてみせる!」
「それなら行くぞ!」
ゼストさんの投げる球が炎を纏う。
これが炎熱変換魔球か……。
ザフィーラはそれをしっかりと受け止める。
「流石はザフィーラだ。あのおっさんの炎の球も受け止めてるな」
「ザフィーラは寡黙ながらも護衛や警護には欠かせないものね」
「しかし、炎熱変換魔球とはなんだろうか……?」
ヴィータとシャマルがザフィーラを褒めているところに、リインフォースが呟く。
ただ、炎を纏うだけなら普通の球だ。
普通の投球よりもスピードは出ているが、打てない球じゃない。
「む!?」
次はザフィーラが捕球ミスをした。
体に当てて後ろには逸らしてはいないが、普通のストレートだったんじゃ……?
ザフィーラはその後、何球かグローブに収めることが出来なかったりしたが、しっかりと体で受け止めている。
「俺は準備できたぞ」
「はい、行きます」
ゼストさんの言葉に僕はバッターボックスに入る。
背筋を伸ばして後傾気味に重心を取り、右手でバットを垂直に揃え、左手を右上腕部に添える。
「でやぁぁぁぁ!!!」
ゼストさんは炎を纏った球を投げる。
スピードはかなりのものだが、これなら打てる……。
「!?」
ボールは僕のバットに当たることなく、キャッチャーミットにも収まらず、ザフィーラの体で止まる。
「タローが空振りしたやて!?」
はやての驚く声が聞こえるが、それは後回し。
「ゼストさん……面白い魔球ですね」
「そう笑っていられるとは仕組みに気が付いたか?」
「はい」
炎熱変換魔球……炎を纏うことにより球速を増すものばかりだと思っていたが、仕組みは簡単だ。
温度差を発生させ、何段階もの時間差で蜃気楼を出す。
実態がないため、非常に打ちにくい。
「しかし、俺の球がこれだけだと思うなよ」
ゼストさんは上体を反らせ、左足を高く上げ、魔力を込め振り下ろすことで真空を作り出す。
そこに全力で投げ込むことにより、空気圧の差で球を加速させる!
ズバーン!!
さっきの変化に対応すべく構えていた僕に対して予想外の豪速球によるストレート。
ザフィーラはミットに収めたものの、体を後ろに引き摺られる。
「さて、タロー。これで終わりかな?」
「いえ、楽しくなってきたところです」
二種類の球が同フォームで繰り出されると厄介だが、所詮はフォームが極端なだけに、どちらの球を投げるか分かりやすい。
それならそれに合わせるまでだ。
ゼストさんは上体を反らせた……。
豪速球が来る!
しかし、振り下ろした脚には魔力を込めていない!?
炎熱変換か!
投手側の足をすり足の様に移動させ、体を投手側にスライドさせながら踏み込んでスイングする。
ボールをカットしファウルにする。
「ほう、もうこれにまで反応されるとはな」
「なかなか面白い球ですね。だけど僕に二度は通用しません」
「言ってくれる……。だが、それも事実であろう。ならば全力で投げるのみ!」
そう言うとゼストさんの体に魔力が強く集まってくる。
「フル……ドライブ!!」
これがゼストさんの全力か……。
「なんなんだよあいつ! オーバーSの魔力が更に高まってるぞ!」
「タロー……大丈夫なんか?」
「はやて、タローを信じください」
「……うん。タローを私は信じとる!」
ヴィータの説明を受けて心配そうな声を出すはやて。
しかし、リインフォースが言葉を添えると、はやての目に光が灯る。
あれだけ信じられたら僕は打つしかないよね。
「でぇぇぇぇぇい!!!!」
渦巻く魔力により後押しされた豪速球。
そして炎熱変換による蜃気楼。
しかし……それは両方共、既に見ている!
振り子打法によりボールをギリギリまで見てから対応した。
カキーン!!
打球は三遊間を抜けて行く……。
ゼストさんは魔力を放出しきったようで、元の状態に戻る。
「タローが打ったで!!」
「さすがはタローさんですね。……素敵ですよね(ぼそ)」
はやての車椅子をカリムさんが押して僕の方へ来る。
僕も息を長く吐き、集中を解く。
これが次元野球か……。
1打席とはいえ、これほど楽しめるとはね。
ゼストさんも笑顔でマウンドに座り込む。
——ドクン
嫌な予感が僕の心音を高鳴らせる。
周りを見渡すとゼストさんの上に闇の書がある。
ゾワリ
全身の鳥肌が立つ。
あれはマズイ……。
そんな警告が僕の頭の中で響き渡る。
「ゼストさん!!」
僕の叫び声にゼストさんを皆が見る。
その瞬間、闇の書から腕が現れ、ゼストさんの胸を突く!
『蒐集』
「ぐぁぁぁぁぁあ!!!」
ゼストさんの胸からリンカーコアが出され、闇の書に蒐集されて行く。
そして闇の書の下とはやての足元に魔法陣が展開される。
『起動』
その言葉が闇の書から聞こえると、魔法陣より青い髪、青い瞳の成人男性が現れる。
そしてその男性が闇の書を片手に持つ。
「な、なんなんや!?」
「ん? 俺の事か、主。俺は……破損したプログラムの集合体」
「防御人格……なぜ現れた!」
「その呼び名は久しいな。しかし、管制人格よ。俺は既に防御人格ではなく、夜天の魔導書を呪われた闇の書と呼ばせたプログラム……闇の書の、闇」
ニヤリと笑い、はやてとリインフォースの言葉に答える防御人格。
みんな揃っていないし、オリジナルプログラムも用意できていない。
予定より早すぎる!