第11話 防御人格
予定よりも早く現れた防御人格。
こっちの準備はまだできていない……。
クロノが僕の近くに寄り、小さく呟く。
「母さん達に応援要請を出してある。今は時間を稼げ」
コクリと頷く。
プレシアさん……プログラムは間に合っているか?
とりあえず僕のできることをやらないとな。
「闇の書って単体で動けたんだね」
「ページが埋まってなくとも空中浮遊ぐらいはしていたで」
「じゃあ、今はページが埋まったから……?」
僕の言葉にはやてが答える。
そしてそれを見て面白そうに笑う防御人格。
「そこの管制人格と違い、俺は200頁あれは次元転移、400頁で人格形成、600頁で自己蒐集や外部アクセスが可能となっていたのだよ」
「ならば、なぜ我らに何も語りかけなかった!」
「烈火の将……俺を消す相談をされていたのに、なぜその話し合いに参加せねばならぬのだ」
「我らはお前を元に戻そうと……」
「それはお前たちの理屈だな。昔の俺に戻す……つまり今の俺を殺すということだろ」
「そ、それは……」
防御人格の言葉にシグナムも言葉に詰まる。
確かに人格そのものを昔に戻すのでは、今の人格を殺すということか……。
「さて、お前たちも戻れ……我が闇に……」
その言葉で守護騎士4名の足元に魔法陣が現れる。
「「「「な!?」」」」
その魔法陣が光り輝くと守護騎士は消えてしまう。
「シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ!?」
はやての叫び声があたりに響き渡る。
防御人格はニヤリと笑いリインフォースの方を向く。
「管制人格……お前も戻れ……」
リインフォースの足元に魔法陣が現れる。
「リイン!? 嫌や!!」
「はやて……」
はやての泣き叫び、リインフォースの方へ行こうとして車椅子から落ちる。
そして泣きそうな顔をするリインフォース。
僕はそんな顔をさせるためにここにいるわけじゃない!
精神を集中させ目を細めてよく見ると、闇の書からリインフォースへ細い線が繋がっているのが見える。
「失敗したらごめん!」
一歩でその線が届く位置まで動き、両手で掴み引きちぎる。
闇の書とリインフォースを繋ぐ細い線は切れて消滅する。
「「は!?」」
リインフォースの足元にあった魔法陣も消えた。
唖然とするリインフォースと防御人格。
何とか間に合ったようだね。
「貴様、何をした!」
「た、タロー? 何をしたんや?」
声を荒げる防御人格に、不安げに聞くはやて。
まぁ、はやては意味が分かっていないだけだろうけどさ。
その横でリインフォースが手を動かしたり色々やている。
「はやて……落ち着いて聞いてください。私が闇の書から切り離されました」
「なんだと!?」
リインフォースの言葉に防御人格は更に声を荒げる。
「もう、私は闇の書の管制人格でも、夜天の魔導書の管制人格でもなくなってしまいました」
はやての瞳をしっかり見つめ、優しく語りかける。
「私は1人の個人として……リインフォースとして存在しています」
「どういうことや?」
「簡単に言いますと、プログラムから切り離されたので、人の様に生き、人の様に死んでいきます」
「今、直ぐ死んでしまうんか?」
「いいえ、人の様に老いて行きます。ですから、まだまだ先は長いですね」
リインフォースの優しい語りかけに、はやての不安げな瞳に光が戻る。
その分、防御人格はパニックに陥る。
「なんだそれは! ありえない、ありえないぞ!」
「タローと関わって、その言葉は無駄と知れ!」
リインフォースは立ち上がり、はやてを抱き上げ車椅子に座らせる。
あれ、今の防御人格に言い切った言葉って、僕を馬鹿にしてませんか?
まぁ、今更だからいいけどさ……。
「それなら……貴様をどうにかすれば良いのか」
防御人格はそう言い魔法陣を展開する。
「現れよ守護騎士!」
防御人格の周りに守護騎士4名が現れる。
しかし瞳に光はなく、こちらに対して反応がない。
「シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラ!!」
「いや、違うぞ主よ。烈火の将、風の癒し手、紅の鉄騎、蒼き狼だ」
はやての叫び声に笑いながら答える防御人格。
姿は同じでも別物なのか。
確かに気配が違うよね。
「貴様……再構成したな」
防御人格はリインフォースの言葉に対し高らかに笑う。
それを見て悔しそうな顔をするはやてとリインフォース。
「これでコチラは5人。さぁ、勝負と行こうじゃないか」
「そうだな。それが手っ取り早い」
防御人格の言葉に今まで沈黙を守っていたクロノが口を開く。
その瞬間、辺りが結界に包まれる。
「タロー、大丈夫?」
「こっそり近づいてたら遅くなっちまったよ」
僕の前にフェイトとアルフが現れた。
そして僕の方を振り向く。
「「誰!?」」
口を揃えて2人は言うけど……あ、成人姿だったっけ。
慌てている二人に早く説明しなきゃね。
「僕はタローだよ。リインフォースの魔法で25歳の姿になっているだけさ」
しかし2人は首を傾げている。
うーん、証拠とかないからな〜。
「バルディッシュは僕のこと分かる?」
『Yes! My friend.』
「「バルディッシュ!?」」
おぉ、バルディッシュはすぐに分かってくれるなんて嬉しいね。
『25歳の姿と推測されます』
「良く分かるね」
『いえ、収集したデータによるものです』
「ん? どんなデータを誰が入れたの?」
『タローの映像データや音声データをフェ……』
「バルディッシュ!?」
『……Sorry sir.』
バルディッシュが言おうとしたらフェイトが真っ赤な顔で止めている。
そしてそれを興味深そうに見ている、はやてとカリムさんがいるんだけど……。
まぁ、いいか。
「タローさん、遅くなってごめんなさいね」
その声に振り向くと、後ろには羽を4枚生やしたリンディさんがいた。
「ディストーションフィールド……この歪めた結界からは逃げられないわよ」
「ふん、逃げるつもりはない。ここでその不確定要素を倒す!」
リンディさんの魔法で逃げられなくしたようだけど、防御人格は逃げる気がない。
そして防御人格が指を鳴らすと地面に大きな三角形が描かれる。
「貴様の土俵で叩き潰してくれよう。セットアップ!」
「「「「セットアップ!」」」」
防御人格がそう言うと守護騎士も同じく合わせバリアジャケット姿に……?
「防御人格……それはなんだ?」
「管制人格よ見て分からぬか? これは……ユニフォームだ!」
防御人格と守護騎士はお揃いのユニフォーム姿になった。
そして手にはバットやグローブ、ボールを持っている。
「今回の蒐集でタロー関係者から多く魔力を貰っているんだが、その関係者みんなの頭の中で野球が万能とか凄いって刷り込まれていないか?」
「そう言われてみればそうよね。むしろ管制人格を振って出したタローさんを、凄いと思っていない人はいないわよね」
「私達もタローには救われているから、尊敬とか感謝とかしてる」
リインフォースの言葉にリンディさんとフェイトが答える。
「そしてミッドは野球ブーム。さらにゼストさん達はあの試合でタローが参加しているのを知っている……」
「クロノ、あの試合って?」
「管理局レクリエーション野球大会のことですよ母さん。あの最終打席に立ったのはタローです」
「なるほどね。今のタローさんの姿を見れば納得行くわ。私達は既に顔見知りだったのね」
何だか勝手に納得が行ってるハラオウン親子。
その間に防御人格が魔法で三角形の頂点にベースを作り出す。
魔法の無駄遣いだなー。
「聖王教会よ……古代ベルカのデバイスとして依頼する。野球審判員をせよ!」
その言葉にみんな驚くが、カリムさんは黙って頷いた。
「ロッサ、シャッハ。5対5の三角ベース、次元野球公式ルールに基づいて5回まで実施します」
「「はい」」
「現在、私とロッサは昨日の蒐集で魔法が使えない状態です。主審はシャッハ……頼みますね」
「了解しました、騎士カリム」
そしてクロノがみんなを集める。
「三角ベースだから5人の選手を選ばなければならないが、母さんは結界維持で動けない……」
その言葉にリインフォースへ視線が集まる。
「リイン……行けるか?」
「はい、はやて。防御人格に分からせてやります!」
「うん、頼んだで」
にこりと笑うはやてに頷くリインフォース。
「すまんな。蒐集されなければ俺が出ていたものの……」
「ゼストさん、気にしないでください。蒐集されていなくてもフルドライブの後でこの試合は危険です」
ゼストさんの言葉にクロノは答える。
さっき全力で投げちゃったから、どちらにしても連戦は難しいか……。
「それでは双方選手データの開示準備をしてください」
シャッハさんの声がかかるけど、データ開示って……?
「クロノ?」
「あぁ、タローは次元野球のルールを知らなかったな。簡単に説明すると、使える魔法は3個まで。しかし事前に開示すればその魔法は何回も使えるんだ。しかし開示すれば使える魔法数が減ってしまうから、3個までしか開示できない」
「なるほどね」
「まぁ、タローには関係ないんだけどな」
そう言ってクロノは笑う。
確かに魔法を使えない僕には関係ないな。
みんなデータ開示の準備をしながら、僕に次元野球ルールを説明してくれる。
……これは面白そうなルールだね。
こんな時に申し訳ないけど、ワクワクしてくるよ。