第13話 選手交代
防御人格と始まった次元野球。
しかし、2回の表を終えてクロノは倒れ、アルフは戦闘不能。
リインフォースのダメージは少ないが、フェイトのダメージは大きい。
「さ、早く打席に立ってもらおうか」
防御人格の言葉にリインフォースが打席へ向かう。
ここは少しでも時間を稼がないと、みんなが立ち上がれない。
「リイン……私は止めないから、頑張ってな」
「はい、はやて。行ってきます!」
(タロー)
(ん? どしたの)
(私には粘るとか時間を稼ぐのが良く分かりませんので、必ず塁に出ますから後をお願いします)
(分かったよ。僕が1時間でも2時間でも粘るさ)
リインフォースはそう念話で僕に伝えると、素振りをしつつ魔法の準備に入る。
マルチタスクって便利でいいなー。
烈火の将は球を投げるが2球ほどリインフォースは見逃す。
時間がかかる魔法なのかな?
3球目を投げた瞬間リインフォースの魔法が完成する。
「闇に、染まれ」
リインフォースを中心に球形の闇が広がっていく。
あの闇って純粋な魔力攻撃なのかな?
「デアボリック・エミッションだと!?」
防御人格が驚きの声を上げる。
「「パンツァーシルト」」「「障壁」」
みんなシールド魔法を唱えるが、その上からガリガリと魔力を削られている。
その隙にリインフォースはヒットを打ち、一気に3塁へ進む。
向こうは一度マウンドに集まり、風の癒し手の魔法でみんな回復して行く。
しかし、回復する相手が多いからなのか、回復する量が多いからなのか、風の癒し手の疲労は多そうだ。
「さて、時間を稼がせてもらうとしようかな」
「タロー、頼んだでー」
「任せといて!」
背筋を伸ばして後傾気味に重心を取り、右手でバットを垂直に揃え、左手を右上腕部に添える。
烈火の将は炎を纏い、威力を込めた球を投げてくる。
投手側の足をすり足の様に移動させ、体を投手側にスライドさせながら踏み込んでスイングする。
振り子打法で全てカットしファールとする。
根競べだね。
フルカウントになってもしつこくカットしていると、流石に烈火の将も焦れてきた。
再設定しても元はシグナムだ。
時間稼ぎや逃げの戦法は好きじゃないだろう。
25球を超えた所で、アルフをぶっ飛ばした魔法を使ってくる。
「紫電……一閃」
「タロー、危ない!!」
はやての叫び声が響き渡る中、烈火の将がボールごと僕を斬りつけてくる。
しかし、所詮は斬撃だ。
点や線の攻撃なら避けられないはずがない!
「!?」
烈火の将は呆然としている。
紫電一閃をくぐり抜け、カットしてファールにしたんだからね。
はやて達の方を向くと驚いた顔をしていた。
これならプレシアさんのジェノサイドシフトを全てキャッチする方が難しいよ。
「あんなのを見せられたら、おちおち寝てもいられないよ……」
クロノはバットを杖にしてネクストバッターズサークルに向かって進む。
しかし、バランスを崩し倒れて……。
「クロノお疲れ。ここから君の代わりに出るよ」
「……遅いぞフェレットもどき。大体、僕の代わりになんてなるわけ無いだろ」
「フェレットもどきは酷いな。真っ黒クロスケ」
倒れかかったクロノをユーノが支えている。
フェイト達の側にはリニスとプレシアさん、なのはもいる。
「ユーノはユーノだ。僕の代わりではなくお前としてやれ」
「ふふふ、言われなくてもそうするさ。それよりはクロノを休ませるのが先だね」
ユーノはクロノに肩を貸し、フェイト達の元へ向かう。
それを見届けマウンドを向くと、烈火の将が全身に魔力を纏わせている。
地面には火が舞い、僕の方を真っ直ぐ見ている。
そして投球フォームに入る。
「行くぞタロー! 翔けよ隼!」
投球後、弓を引く構えを取る。
「シュツルムファルケン!」
魔力の矢が音速の壁を超えて飛翔してくる。
投げた球にその威力が乗り、爆炎と衝撃波が発生する!
時間稼ぎもいらない、正面勝負なら、僕に逃げる気はない。
振り子打法とは、スイングスピードの速さがあってこその技。
僕のスイングスピードでその爆炎と衝撃波……消させてもらう!
カキーン!
しっかりと内野安打にさせてもらったよ。
その間リインフォースはホームへ向かう。
防御人格はホームに送球する。
だが、それは悪手だ。
その隙に僕は三塁へ回りセーフ。
リインフォースもしっかりホームインし1点獲得。
「クソ、なんて足の速さだ!」
「君が投げなければ良かっただけだよ。目先の1点に囚われすぎたんじゃないかい?」
「ふん、そんなことはない! それよりも選手交代するならデータ開示を早くせい!」
その言葉でシャッハさんよりユーノ達のデータ開示が行われた。
ユーノ
フローターフィールド
フィジカルヒール
なのは
ディバインバスター
アクセルシューター
リニス
フィジカルヒール
プレシア
サンダーレイジ
そしてクロノに代わってユーノが打席に立つ。
向こうは烈火の将と紅の鉄騎が守備位置を替えている。
そして紅の鉄騎が投球すると同時に鉄球も打ち出してくる。
「シュワルベフリーゲン」
「ラウンドシールド!」
鉄球は全てユーノの展開したシールド魔法に防がれる。
当然ユーノは無傷だ。
紅の鉄騎は再度鉄球を打ち出してくるが、ユーノはしっかり防ぐ。
3球目……飛ばしてくる鉄球はユーノではなくベンチサイドへ攻撃してきた!
「僕は攻撃魔法が使えない……。けど、ちゃんと守ることは出来る!」
なのは達を守るように大きなシールドが張られる。
それによりベンチには全く被害がない。
だが、守れることとヒットが打てることは違う。
見逃しの三振としてワンアウトとなる。
「ごめん、打てなかったよ」
「でも、ユーノ君は私を守ってくれたよ」
「それは当然だよ。守った上でそれぐらい出来るようにならないとなー」
ベンチに戻りなのはと話をするユーノ。
次の打者は……フェイトだ。
ダメージは大きく代わりの選手がいるんだから交代すれば良いのに……。
「……フェイト」
「母さん?」
「貴女は私の娘。まだ、やれることが残っているのに代わるなんてしないわよね」
プレシアさんの言葉に、決意を秘めた顔でフェイトは頷く。
「……はい!」
「まだアルフも代わっていないんだから、しっかりやりなさい」
「あぁ。あんた……いや、プレシアの言いたいことは分かったよ」
寝ていたアルフも無理に立ち上がり、ネクストバッターズサークルへ移動する。
フェイトは打席に立つと、精神集中を始める。
待っているアルフも同様に集中する。
紅の鉄騎は投球するが、フェイトは別のものに集中し見逃す。
「アルカス・クルタス・エイギアス。煌めきたる天神よ。いま導きのもと降りきたれ」
「バルエル・ザルエル・ブラウゼル。撃つは雷、響くは轟雷」
フェイトとアルフの呪文詠唱が続く。
天候を操作し、雨雲を発生させる。
紅の鉄騎は2球目を投げるがそれも見逃す。
「「アルカス・クルタス・エイギアス」」
フェイトとアルフの声が重なる。
そして第3球目を投げたのに合わせフェイトの魔法が完成する。
「サンダーフォール!!」
烈火の将が捕球に走るが、紅の鉄騎と一緒に雷に打たれる。
「「ぐぁぁぁぁぁl!!!」」
しかしダメージを受けながらも、烈火の将は一塁へ送球してフェイトをアウトにする。
僕はその間にホームインし、追加点を奪った。
「ごめん母さん……。アウトになっちゃった」
「良いのよ。ちゃんと私の言葉からやるべきことを理解していたんですもの」
「母さん……」
ベンチに戻ったフェイトをプレシアさんが優しく抱きしめる。
そしてアルフに代わって打席に立つ。
紅の鉄騎は先程のダメージもあり、動きが少し悪い。
「貴女からフェイトが受けたダメージの分、しっかりと貴女に返させて貰うわね」
紅の鉄騎は1球目を投げる。
「サンダーレイジ!」
素振りすらせずに紅の鉄騎に雷撃をぶち当てる。
雨雲が発生しているから、消費魔力効率はかなり高い魔法だ。
しかも、無詠唱魔法なのでプレシアさんが使うと連射できるんだけど……。
紅の鉄騎はシールド魔法で防いではいるが、雷のダメージはシールドを撃ち抜いて行く。
「まだ、それだけじゃ済まさないわ。フェイトに攻撃したことを後悔しなさい」
第2球目に合わせ、迷わず電撃を撃つ。
しかも今度は全範囲だ!
防御人格達は各々防御魔法を唱えて防ごうとするが、ダメージはかなり大きい。
第3球目も同様に広範囲に電撃を落とすが、近くにいる僕達に全く影響がないのは凄いよね。
まぁ、相手にダメージを与えるのは良いけど、それって見逃しの三振だから……。
チェンジしたのでフェイトに代わってなのはが守備に入る。
守備と言ってもなのはは投手、そしてユーノが捕手へ。
プレシアさんが一塁手になり、リインフォースが三塁手へ。
なのはが投球練習するけど、山なりに何とかボールが届くぐらい。
風の癒し手が打席に立つけど、あの投球で大丈夫なのかな?
「ディバインバスター!」
なのはが投球と同時に砲撃する。
そして加速された球はシールド魔法で守られたユーノがキャッチする。
「ナイスピッチ、なのは」
「えへへへへ」
もしかしてこの2人って、恐ろしいバッテリーなんじゃないか?
なのははディバインバスターだけでなく、アクセルシューターで縦横無尽に変化をつけたりし、風の癒し手を空振りの三振にする。
続く紅の鉄騎と烈火の将は先程のフェイトとプレシアさんの攻撃により、ダメージが大きく三球三振でチェンジ。
向こうも投手を防御人格に代えてきて、リインフォースをあっさり三振に取る。
普通に身体能力がベルカの騎士は高いから、魔法なしで野球をやられるとマズイかな?
その後、僕はヒットを打てたものの、ユーノとなのはは三者凡退。
でも、一応バットに当てられただけ良い方か。
チェンジして防御人格が打席に立つが、なのはは変わらず魔力によるゴリ押し投球。
「さすがにそれだけでは俺をアウトには出来んぞ」
しっかりヒットを打たれたが……実は守備に穴がある。
そう、運動系が苦手なプレシアさんだ!
捕球をもたついている隙に、防御人格は3塁へ進んでしまった。
続く蒼き狼もアクセルシューターの変化球をカットし、ディバインバスターの直球に的を絞りヒットにする。
しかも打った先はプレシアさん……。
1点を取られてしまった上に、三塁打になってしまった。
そして風の癒し手は蒼き狼とは逆にスピードの遅いアクセルシューターの変化球に的を絞り魔法を使う。
「渦巻く嵐!」
前方に竜巻を発生させ変化を消し、スピードを極限まで抑えさせて打つ。
打球は3塁線へ飛んで行く。
「旅の鏡」
風の癒し手の前方に鏡が現れ、そこから打球が出てくる。
1塁へ走っている途中にそんな状態で打球が現れたら……。
「あ、え、はぅ」
プレシアさんは当然取れませんよね。
しっかりとヒットになり更に1点取られてしまいました。
そして打順は紅の鉄騎。
なのはは先程三球三振に取っているのでディバインバスターの直球で攻めますか……。
「ギガントシュラーク!!」
しかし、巨大化させたバットでそれをホームラン性の当たりにしてしまう!!
「タロー!」
ユーノと目が合い僕は迷わずジャンプする。
「フローターフィールド!!」
そしてユーノが展開してくれた足場を使い、さらにジャンプして捕球する。
そこからプレシアさんのグローブに収まるよう回転をかけて、プレシアさんに向かって投げる。
「プレシアさん!」
「は、はい!」
腰が引けてとりあえずグローブを出している状態だったけど、何とかそこにボールが収まった。
塁を離れていた風の癒し手はアウトになる。
プレシアさんはアウトの言葉を聞き、自分のグローブの中を何度も確認し、やっと理解したのか喜び始める。
「フェイトー! やったわ。母さんもちゃんと球を捕れたわー!!」
「母さん凄い!」
なんだか大喜びの親子。
それを見て呆れているリニスとアルフ。
「まぁ、今までのエラーはプレシアさんのところやったやないか……」
はやての呟きを聞こえてしまったクロノは苦笑いしているね。
続く烈火の将の紫電一閃によるピッチャーライナーを、ユーノとなのはの張った防御魔法によりノーダメージでアウトにする。
ユーノ……なのはに対する防御魔法の発動が早過ぎるんだけど。
もしかして待ち構えてるの?
「ユーノ君……ありがとう」
「なのはは僕が守るって言っただろう」
「うん」
なんか、もういいや……。
そしてウチの方は相変わらずプレシアさんの私怨攻撃ならぬ支援攻撃。
防御人格達にダメージをガンガン与えている。
正直、魔力を削ってくれるのは嬉しいんだけど、せめてバットぐらい振ろうよ。
しかも高笑いとかって、昔に戻ってますよね。
4回の裏、4対3で現在ワンアウト。
リインフォースが打席に立つ。
「ここで防御人格……お前を止める!」
「何を馬鹿なことを……やってみるが良い!」
防御人格が投球する間も魔法に集中するリインフォース。
2球目の時にそれは発動する。
「彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け。石化の槍、ミストルティン!」
「くっ、烈火の将!」
ピッチャーライナーでありつつ、マウンドに魔法陣が現れる。
そして魔法陣を中心に6本、そして中心から1本の光の槍が放たれる。
しかし、高速移動してきた烈火の将が、防御人格をそこから弾き飛ばし捕球する。
アウトにはなったが、烈火の将は石化して行く……。
「よくぞ守った」
「御意」
褒めてやったぞと言いたげな態度の防御人格。
だが、烈火の将を見る瞳に悲しみの色が浮かんで見えるのは、僕の気のせいだろうか……。
石化した烈火の将を外野手とし、試合を続けようとする。
「ちょい待ち! そのままやるんか!? シグナムが可哀想やんか!!」
「何を言う。これは次元野球だ。死合であって試合ではない!」
「そんなんおかしいやんか!」
「騎士がまだ戦えると訴えるのに、無理に引かせるのは主にあらず。主は常にドッシリと構えていれば良いのだ」
「それは違うんや! 私は主や無くて家族や!!」
はやてのその言葉を聞き、防御人格は優しく笑う。
「今は死合中だ。同じ所に立てないなら黙って見ておれ」
そしてマウンドに立つのを見て、僕も打席に入る。
「ほう、貴様は俺に文句を言わないのか?」
「……貴様じゃない」
「ん?」
「僕の名前は一之瀬太郎だ」
「ふん、俺には名前がない。だから貴様も貴様で十分だ」
そして投球フォームに入り僕は初球から打ち返す。
あえて外野には落とさず内野安打で済ませる。
しかし、続くユーノはバットに当てたものの、旅の鏡でキャッチされスリーアウトチェンジ。