第2話 転校生
僕より遅くに帰ってくる予定だったメンバーは全員地球に帰ってきた。
予定していたメンバーだけでなく、新たに人数を増やして……。
「それで、タローのお陰で何とかなったちゅうわけや。で、その事後処理が終わって帰ってきたんや」
「そうなんだ。結構大変だったのね」
皆が帰ってきた後の最初の学校。
朝のHR前にはやてがアリサとすずかに話をしている。
若干アリサが僕を睨んでいるようだけど気のせいかな?
「タローの人助けは相手を選ばないから。あたしも最初はそうだったし……」
そう言ってはやてにアリサは町中で発動したジュエルシードのことを話し始める。
「なのはちゃんが気にしても、済んだことなんだから……。それよりも決意を秘めた大事な事件でしょ」
「うん、すずかちゃんの言う通りだよね。ユーノ君の手伝いじゃなくって、私が進んでやり始めた大切な事件……」
なのは的には自分の失敗談だったらしく、ちょっと俯くけどすずかのフォローで立ち直る。
過ぎたことだし、気にすること無いのにね。
そして教師が教室に入って来たので話は終わりになる。
皆席に戻り、チャイムが鳴ってHRが始まる。
何だかこの教室……見られている気がするんだけど……。
「さ、今日は皆に新しいお友達……転校生の紹介から始めます」
そんな視線を誰も気にせず、教師は話を始める。
そして転校生という教師の言葉にクラスがざわつく。
はやてだけニヤニヤと笑ってるってことは……。
「さ、入ってきてください」
「は、はい」
教室に入ってきたのはガチガチに緊張したフェイトだった。
フェイトを知っているなのは、アリサ、すずかは驚いた顔になるけど、はやては相変わらず楽しそうにしているので、知ってたんだろうな。
教室の中はざわめいている。
教師は黒板に“フェイト・テスタロッサ”と書く。
「今日から皆と一緒にお勉強をする、フェイト・テスタロッサさんです。海外からの転校なので、皆さん色々と教えてあげてくださいね」
クラスの皆が大きな声で返事をする。
「それではテスタロッサさん、自己紹介をどうぞ」
「は、はい!」
フェイトは緊張した声で返事をする。
見られている視線が動画モードだけでなく、写真モードもあるような……。
むしろ窓の外に無造作に居る猫ってリニスじゃないか?
「フェイト・テスタロッサと言います。まだこっちの生活には慣れて居ませんが、みんなよろしくお願いします」
自己紹介を聞き、教室は拍手に包まれる。
その後、教師から今日の注意事項などが話され授業が始まる。
はやてが復学した時と同じで、クラスは中々落ち着かないね。
そして案の定授業が終わると、フェイトの席の周りにはクラスメイトが集まり色々と質問をしている。
フェイトはアワアワして困っているし、それを見て窓からリニスが入ろうとしている。
無言で僕は窓を閉めてる間に、アリサが手を叩いてみんなの視線を集める。
「はいはい、みんないい加減にしなさいよ。フェイトが困ってるでしょ」
「そうやで。私の時もそうやけど、がっつき過ぎやで」
アリサの言葉をはやてが重ね、クラスの皆は落ち着く。
やっぱりまとめ役はこの2人が適任なんだね。
前回同様、質問を紙に書いてアリサの机の上に置いておき、あとでまとめて答えて貰うってことで話は落ち着いた。
その後も授業を受けて、昼休みになると皆で逃げるように屋上へ退避。
フェイトの外見は目立つようで、他のクラスの子も覗きに来ていたからね。
「フェイトちゃん大丈夫?」
「うん、大丈夫だよなのは。でも、びっくりしたー」
「フェイトちゃん可愛いから注目されちゃうんだよ」
「そ、そんなことないよ……」
なのはの言葉に照れるフェイトだけど、屋上の隅っこで頷いてるリニスと、多分サーチャーばらまいてるプレシアさんはどうにかした方が良いのかな?
「そうだ、はやて!」
「ん、どないしたんや? フェイトちゃん」
「タローの部屋、はやてが言ってた場所には何もなかったよ」
「そ、そうなんか……?」
「うん、タローの部屋はベットないし、本棚は全部スポーツ関係の本しかなかったよ」
「「「…………」」」
フェイトの無邪気な言葉にはやては何とか頷く。
しかし、残りの3名によるジト目に耐えられなくなり顔を背ける。
「はやて、あんたフェイトに何やらせてんのよ」
「じょ、冗談やんか! タローの部屋にそーゆー本があるかどうか、アリサちゃんかて気になるやろ」
焦っているハヤテがアリサに助けを求めているけど、アリサは随分と余裕な表情だね。
「そんな事ないわ。もう、タローの部屋には泊まってるもの」
「なんやて!?」
アリサの言葉に驚くはやて。
そういえばアリサとすずかで泊まってるんだよな。
「そう言えばアリサちゃん。あの日タロー君の部屋、探索してたもんね」
「すずか! それは言わないでー!!」
すずかの一言でジト目の先がはやてからアリサに流れて行く。
いや、それを止めなかったすずかも同罪なんじゃ……。
更に言うと、僕の部屋で何やってるんだ?
「アリサちゃん……ズルいやんか!」
「ず、ズルくないわよ。すずかも一緒に泊まったもの」
アリサの答えではやての視線はすずかに向かう。
すずかは涼しい顔でその視線を流す。
「私はお家のゴタゴタがあって、お姉ちゃんに言われて泊まっただけだよ。アリサちゃんは違うけど……」
「すずか!?」
「ほー、やっぱりアリサちゃんは油断ならへん……」
わたわたしているアリサを問い詰めるはやて。
その横ですずかはニコニコしているんだけど、全部の原因はすずかだからね……。
「ねぇねぇ、タロー」
「ん、なんだいフェイト?」
「これから一緒の学校だから、一緒に学校に行こうね」
「ん? そっか、家が隣だから一緒に出れば良いのか」
「うん」
嬉しそうに頷くフェイト……と横で見ていて頷いているリニス。
もう、諦めて人間形態になれば良いのに……。
そんなカオスなお昼休みは何とか終了しました。
数日後、そろそろフェイトも授業に慣れてきたようだね。
フェイトは毎朝僕を起こしに来るんだけど、早朝ジョギングで既に起きているから申し訳ないな。
いつものように学校の昼休み、いつものメンバーでお弁当を食べる。
「そう言えばフェイトちゃん、宿題ってちゃんとやってる?」
「うん、ちょっと難しいけど何とかやってるよ」
すずかの言葉にフェイトが答えるんだけど、宿題ってなんだ?
「宿題……何かあったっけ?」
「ううん、タロー君はないんだよ。フェイトちゃんは外国からの転校ってことだから、漢字の読み書きとかの特別な宿題があるの」
僕の質問にすずかはすぐに答えてくれる。
良かった、宿題忘れたかと思ったよ。
「へー、そうなんだ。フェイト、頑張ってね」
「うん、ありがとう。でも、アリサは凄いよね。英語も日本語も完璧なんて」
「えっへん! パーフェクトバイリンガル!」
フェイトの言葉に胸を張るアリサ。
英語って僕は苦手なんだよね。
前世は赤点ギリギリだったし……。
「アリサすごいね。僕は苦手だから尊敬するよ」
「そ、そんなに凄いわけじゃないわよ。ほら、元々の生まれもあるし……」
さっきまで胸を張っていたのに、僕の言葉に照れたのか俯くアリサ。
小学生で英語ができるって自慢できるレベルだと思うんだけどなー。
「でも、フェイトの文系はともかく理系の成績にはビミョーに納得行かないのよね」
文系はアリサ(満点)>はやて(中の上)≧すずか(中の上)>僕(中の中)>なのは(中の下)>フェイト(かなり気の毒)なんだけど、理系はアリサ、フェイト、なのは、はやてが満点ですずかと僕が中の中。
正直、アリサとはやての成績の良さは異常なんだけどね……。
「アリサちゃん、魔導師の魔法の構築とか制御は理数系に近いんや。だから私達ができるのは当たり前なんや」
「むー、そう言う問題なの?」
はやての説明に納得の行かないアリサ。
「それにしても皆は凄いね。僕はこれでも頑張ってるつもりなんだけど、これぐらいが限界だよ」
正直この小学校のレベルは異常なほどに高い。
僕が前世の知識があっても使ってないものは全然覚えてないんだよね。
法律とか業務に関係していた知識ならなんとかなるんだけど、正直消防職員は脳筋ばかりだからなー。
「タローはあたしが直々に教えてあげるから安心なさい」
「あ、私も教えるで」
「ありがとう2人とも。特に夏休みの宿題の時にお願いします」
「「うん」」
アリサとはやての言葉はありがたいね。
今更夏休みの宿題だなんてどーやって進めれば良いかわからないんだよー。
昼休みも終わり、午後の授業はドッジボール。
はやては見学だけど、楽しそうに応援している。
「せやかて、タローとすずかちゃんのボールの投げ合いは面白いで。今回はそこにフェイトちゃんが加わるんやもんね。見学料をはろうてもエエぐらいや」
「そういうもんかね?」
「そういうもんや。だから気張ってや」
「うん」
はやての応援を受けてドッジボールが始まる。
最初のチーム分けでは僕と違うチームに他のメンバーがいる。
アリサのボールは普通に取れるし、なのはのボールは最近の運動が効いてきたのか、ちゃんと相手に届くようになってるね。
「もう、タロー以外を先に狙わなきゃ駄目ね」
「うん、アリサちゃん任せて!」
すずかの投げるボールって既に小学生レベルじゃないよね。
普通にスピードも早いし、回転かけて曲がるしで、どんどん内野がアウトにされていく。
まぁ、1人アウトにされるごとにこっちの反撃になるんだけど、僕が投げるボール以外は取られたりして、ジリ貧だね。
「さ、後はタローだけよ。フェイト、行きなさい!」
「う、うん。タロー、行くよ!」
フェイトの高威力なボールが飛んでくるけど、普通にキャッチして投げ返す。
その流れ弾でなのはがアウトになる。
「むー、私が投げたんじゃないのにー」
「なのはの仇……私が取る!」
「別に死んだ訳じゃないんだけど……」
なのはの言葉に対し、フェイトが真面目に答えてるけど、やっぱりどこか抜けてるな。
次はすずかからのボールだ。
あれ、もしかして夜の一族の身体能力全開で投げてないか!?
ダンプカーに跳ねられるような衝撃のボールが飛んできたよ。
「あれを止められちゃうんじゃ、私じゃ無理だよー」
「いや、これ普通の人が当たったら危ないから」
「え? だからタロー君に投げたんだよ。避けないだろうし……」
すずかって、僕の性格とかその辺も読んで投げたのね。
まぁ、さすがに避けないけどさー。
とりあえず落ちるボールを投げてアリサが取れずにアウト。
「悔しいなー。取れるスピードだったのにー」
「残念だね。少し油断した?」
「タローが手加減してくれたと思って油断したわ」
「まぁ、僕なりに手加減はしてるけどさ……」
そしてフェイトが投げてくるけど、魔法で身体能力上げてるから威力が高いし……。
もう、学校の授業でこれは駄目でしょ。
キャッチと同時に投げ返すと、フェイトは姿勢が崩れたままなので避けられずアウト。
その後、すずかが満足行くまで投げるのに付き合って、疲れたところにボールを当ててアウトにする。
他の子がドン引きだよ……。
「あー、思い切り全力出せてスッキリした〜」
「すずかちゃん、魔法で強化したフェイトちゃんと同じぐらいだったよね」
「うん、さすがに身体能力だけなら夜の一族は高いから。これが夜なら更に良かったんだけどね」
「夜に授業はないわよ。それより全部止めるタローの攻略方法を今度は考えましょう」
「「「うん」」」
何だか4人で物騒なことを話してるんだけど、もしかして僕が敵役なの?
はやてを見ると思い切り笑ってるし……。
まぁ、皆が楽しそうにしてるなら良いけどさ。