第3話 七夕祭り
フェイトが転向してきてクラスに馴染むのには時間はそんなに必要なかった。
あまりの可愛さに嫉妬をした女の子が嫌がらせをしようとして、次の日から真人間に変わったという事件があったぐらいか。
その子は「猫が……猫が……」と言って、猫を見ると怯えるようになった様です。
エエ、ボクハ、ナニモ、シリマセン。
「それで七夕祭りはアリサの家でやるってことでいいの?」
いつもの様にお弁当を食べながらアリサに話しかける。
「そうよ。タローの関係者がなん人いると思ってるのよ! 普通の家じゃ出来ないじゃない」
えっと、高町家5名とユーノ、月村家4名、八神家7名とイレイン、テスタロッサ家4名、ハラオウン家4名とエイミィさん、僕、アリサ……29名!?
「あたしの家でやるからパパもいるし、どれだけ大人数になると思ってるのよ!」
「ごめん……」
30人集まれる家なんてアリサの家か、すずかの家しかないよね……。
申し訳なさそうな顔でアリサを見ていると、アリサが慌てて僕に話しかけてくる。
「べ、別にイイのよ。あたしの家にタローはまだ来たことなかったんだし、パパもタローと話がしたいって言ってたし……」
「そうなの?」
「そうなのよ! だからそこまで気にしなくても良いんだからね!」
僕をここまでフォローしてくれるなんてアリサは優しいな。
「ありがとうね」
「べ、別にお礼を言われることをしてるわけじゃないわよ。七夕祭りはあたしも楽しみなんだし……」
「なるほど。そう言う理由を付けて親に紹介とは……やるやないのアリサちゃん」
黙っていたはやてがニヤリと笑いながら口を開く。
その言葉にアリサは顔を赤くする。
「ななな、何言ってんのよはやて!」
「ええって、ええって。分かっとる、分かっとる」
「はやてちゃん、それ明らかに分かってないよね……」
ニヤニヤしているはやてをすずかが軽く宥めるが、止める気は毛頭なさそうだ。
で、親に紹介するのって何か変なことなのかな?
そして七夕祭り当日。
今年は土曜日だから学校も休みだし、皆で騒ぐには良い感じ……かな?
「それでは楽しんでいってください」
アリサの父親であるデビットさんの言葉で、昼間から宴会が始まった。
ここはバニングス家の庭で、広いからこそ出来る流しそうめんだ。
他にもちらし寿司やら色々とある。
大人組は昼間からお酒を飲んでるんだけど、七夕だから良いのかな?
「ユーノ! 高町家の一員となった以上、高町流の流し素麺術を……」
「は、はぁ……」
既に士郎さん酔ってますね。
その横で恭也さんと美由希さんが一緒に人外な動きで素麺を取っているけど、あれが高町流なのかな……?
そしてあれがユーノの行末か。
「それで流し素麺というのは……」
「「ふむ、なるほど……」」
こっちはイレインに流し素麺について教わってる八神家一同。
しかも真面目に聞いているリインとクロイツがシュールだな〜。
「母さん、ちゃんと取れたよ!」
「さすがねフェイト。私にも箸の使い方を教えてくれるかしら?」
「はい」
こちらはフェイトとプレシアさんの会話か。
どうもフェイトの周りにサーチャーがいっぱいあるように見えるんだけど、僕の気のせいかな?
大魔導師の無駄な……いや、有意義な魔力の使い方ってことか……。
「うーん、あたしゃ箸はまだ苦手だねぇ」
「アルフ、フォークを使いますか?」
「ありがとよリニス」
「後で私と特訓ですけどね」
「えー」
フォークを受け取りつつも、嫌そうな顔をするアルフと、箸を使いこなしているリニス。
まぁ、使い魔同士仲が良いんだろうけどさ。
「今度ウチに食べに来てくださいね」
「是非ともそうさせて頂きます」
井戸端会議モードの桃子さんとリンディさん。
その横で一緒に居つつも、クロノのことが気になってしょうがないエイミィさん。
そのクロノとは言うと……。
「だからアリアもロッテもしがみ付くな!」
「えー、クロスケから魔力貰ってるんだから、近いほうがいいだろー」
「それよりも私達がクロノのことをご主人様と呼んだ方が良いのかしら?」
「それはやめてくれ……」
「「はい、ご主人様」」
その言葉にがっくりと首を落とすクロノ。
リーゼ姉妹も悪ふざけをしているというか、楽しんでいるんだね。
僕に被害が来なければ、クロノがいくらからかわれても良いんだけどさ。
「おい、タロー! 今変なこと考えただろ!」
「え? クロノは両手に花だなーって思っただけだよ」
「嘘つけ! それに両手に花と言うよりは……」
「「ご主人様?」」
クロノの言葉を遮り、リーゼ姉妹のクロノにしがみつく力が強くなる。
それを感じ諦めたように口を閉じるクロノだが、僕の方を向いてニヤリと笑う。
「そうだな。僕の両手に花が羨ましいようだから、後ろの2人にやってもらうとイイよ」
「ん?」
クロノの言葉に僕が後ろを振り向くと、そこにはアリサとはやてが居た。
「なんや、タローは羨ましかったんか? それなら私がやってあげるわ」
「しょ、しょうがないわね……。あたしもくっついてあげるから感謝しなさいよ」
そう言って近づいてくる2人と、それを見てニヤニヤしているクロノ。
まぁ、良いけどさ。
「そう言えば、タローは私のリハビリ手伝ってくれるんやろ?」
「うん、いつでもイイよ」
「リトルリーグない日ってあまり無さそうやけど、申し訳あらへんな」
「いや、はやてのためになら平気だよ」
「むぅ〜」
僕の言葉にニコニコとするはやてと、唸って僕の腕を抓りながら見上げるアリサ。
はて、どうしてこうなった?
そして流し素麺を食べていると、デビットさんがやってきた。
それを見て離れるアリサとはやて。
「はじめまして、君がタロー君かね。話は娘から聞いているよ」
「はい、はじめまして」
そう言って僕と握手をしてくる。
しっかりと握って来て、僕の瞳を覗きこんで来た。
僕もその瞳をしっかりと見つめ返す。
少しの沈黙の後、デビットさんはニヤリと笑う。
「ふむ、娘が入れこむからどれだけの子かと思えば、なかなか良い瞳をしているじゃないか」
「パパ!」
「はっはっは、何もしてないさ。今度ゆっくりと野球談義に花を咲かせようじゃないか。いつもは士郎君とサッカーの話が多いからね」
「はい、よろしくお願いします」
「それじゃゆっくりと楽しんで行ってくれ。食事会が終われば、うちの娘を連れて商店街の七夕祭りにも行ってみるとイイ」
「はい、ありがとうございます」
笑いながら去っていくデビットさん。
アリサの方を向くと真っ赤になってるけど、どうしたのかな?
「アリサちゃん、タローのことはなんて言ってあるんやろうね〜?」
「べ、べ、別に普通にクラスメイトって言ってあるわよ!」
「ほー、そうなんか?」
「そ、そうよ!」
ニヤニヤ笑うはやてとワタワタするアリサ。
何やってるんだろう?
「私も親ポジションに紹介せんとな〜。グレアムおじさん……いや、今ならリインとクロイツが夫婦っぽい……(ぶつぶつ)」
「はやてー、もしもーし。ダメね、反応がないわ」
はやてが考えこんでしまっているので、アリサは近くにいるシャマルを手を振って呼ぶ。
「シャマル、ちょっとはやてがアレなんだけど、任せても良いかしら?」
「はやてちゃん!? は、はい、大丈夫ですよ。シャマルさんにお任せです」
そう言ってシャマルは、はやてを車椅子ごと八神家一同の方へ移動して行く。
まぁ、みんなが居るなら大丈夫か。
そして、アリサと2人で流し素麺を食べる。
のんびりと時間が過ぎて行ってイイね〜。