第4話 ストラックアウト
七夕祭りと称したバニングス家での宴会はまだ続いている。
大人組が特に身動き取れない……いや、身動きを取らないようだ。
そう言う訳で、フリーになった子供たちで商店街の七夕祭りの方へ行こうという話になったんだけど……。
「さ、行くわよタロー!」
「うん、お姉ちゃん達が先に行ったみたいだから、私とファリンも行くよ!」
「よろしくお願いします、タロー様」
温泉旅行の時の4人で行く事となったよ。
商店街に来ると、飾り付けられいつもと違って派手なアーケードになっている。
これ、火災になったら一発だろうな……。
「タロー君、なんだか不吉なこと考えてない?」
なんで思考が読まれるんだろうか……?
「タローが単純なだけよ。毎日、良く見てればすぐに分かるわよ」
「と言うことは、アリサ様はタロー様を毎日良く見ているんですね」
「えっと……」
ファリンさんの質問にアリサが言葉に詰まる。
そんなに見られていたのかな?
「私は見ていたよ」
「すずか!?」
「月村家が襲撃されて途方に暮れた時も、アリサちゃんに秘密を教えた時も、はやてちゃんを救った時も……」
すずかがいきなり独白してくる。
そう言えば色々あったっけなー。
「私が普通の夜の一族だと分かった時も、ファリンが自動人形だと分かった時も……いつも変わらず居てくれたタロー君を私は見てたんだよ」
「何だか僕が褒められてるのかな?」
すずかの言葉に少し照れてしまい、思わず頭をかきながら喋ったけど、それを聞いたすずかは静かに微笑んでいる。
これは照れくさいだけじゃなくて緊張しちゃうね。
「すずかってもしかして……」
「ううん、アリサちゃん違うよ。私のは憧れとか支えとかの方かな? まだ小学生だから良く分からないけど、お姉ちゃんと恭也さん見たいな感じには想像できないもん」
「すずかお嬢様……」
「うん、私から振っておいてなんだけど、そっちのお話は止めにしてお祭りを楽しみましょ」
そう言ってすずかは先に歩いて行く。
慌てて僕達は追いかけるけど、ちょっと考えちゃうね。
基本的に僕は出来る事をやってるだけ。
それが偶然なのはとユーノを助け、アリサやすずかを守り、フェイトとはやてを救った。
そんな事をしていれば、吊り橋効果で好かれてしまうこともあるだろう。
何だか罪悪感になるな……。
「タロー、タロー」
「ん? どうしたのアリサ?」
「何ぼーっとしてるのよ」
「そうだよ、タロー君。そこのストラックアウトやろうか?」
思考の海に沈んでいた僕をアリサの声が呼び戻す。
丁度いつも来ているスポーツ用品店前……ヤマダスポーツ主催のストラックアウトをやっている。
「じゃあ、私から行くね」
「頑張りなさいよ!」
「すずかお嬢様ふぁいと! です」
すずかがストラックアウトに参加するようだね。
そのマウンドにすずかが行こうとするが、僕の方を向いて待っているように感じる。
僕が首を傾げると、すずかは微笑んで口を開く。
「タロー君は応援してくれないの?」
「あ、あぁ。ごめんごめん。すずかは力を抜いてリラックスすれば大丈夫だよ。頑張ってね」
「うん!」
僕の言葉を聞いてすずかは嬉しそうにマウンドに向かう。
それを近くまで見送ったファリンさんが何かを見ている。
「タロー様……これ……」
「ん? どうしたのファリンさん」
ファリンさんが手で僕を呼ぶので近くに行くと、張り紙を指さしている。
その張り紙には注意書きがあって、そこには色々と書かれており……ファリンさんの指先に書かれている注意事項には“タロー禁止”と一言書かれていた。
「タロー様……ここで何をやったんですか?」
「えっと……確か前にストラックアウトを最初にここで作った時に、5球でパーフェクトしたぐらいかな?」
「えっと……タロー様。それって2枚抜きしかしてないと、5球でパーフェクトは出来ないんじゃないんでしょうか?」
「だから1マスずつ別れた、2枚抜きの出来ない作りに変えてあるのね……」
ファリンさんに思い当たることを言うと、苦笑いをしながら僕を見るファリンさんと、思い切り呆れた表情で見ているアリサが居た。
はて、なんでだろ?
「なんでだろじゃないわよ……もぉ……」
「タロー様ですからね。あ、すずか様が2枚目を抜きました!」
そう言うとファリンさんは最前列に小走りで移動し、すずかを応援しに行ってしまった。
そんなファリンさんを微笑ましく見ていると、僕の服の裾を引っ張る手がある。
「それはともかく、さっき何を考えてたのよ」
「いや、別に……」
「嘘言わなくて良いの! さっきの話じゃないけど、あ、あたしもタローのことはちゃんと見ているのよ」
アリサは恥ずかしそうに言うけど、顔を背けずにしっかり僕の目を見ている。
「顔……赤いよ」
「もぉ、そう言う事は言わないものなの!」
「はいはい」
僕の言葉にアリサはちょっと頬を膨らます。
でも、顔を背けず僕の目を見ている。
「アリサには参ったな……」
僕は降参と両手を挙げると、それを見たアリサはニッコリと微笑む。
「さ、ちゃちゃっと話しなさいよ」
「はいはい、ちゃんと話すよ。実はね……」
さっき考えてたことを素直にアリサに伝える。
アリサは真剣に聞いてくれるんだけど、全部聞き終えると深い溜息を吐く。
「タローはバカね……ホント馬鹿」
「いや、確かにあまり成績は良くないけど……」
「そういう事を言ってるんじゃないわよ……全くもぉ」
呆れた表情で僕を見るアリサ。
はて……なんでだろ?
「その事についてこんな外で話すのは恥ずかしいし、すずかももうすぐストラックアウトが終わるから、後日ゆっくりと話をしてあげる」
「へ?」
「もぅ、タローはしょうがないわね。とりあえずのんびり待ってなさいってことよ」
「う、うん」
良く分からないけど頷いておこう。
そんな話をしているとストラックアウトからすずかとファリンさんさんが戻ってきた。
すずかの手には景品があり、いい結果が出せたみたいだね。
「ただいまー。結構難しかったよー」
「でも、すずか様は5枚抜きで1ビンゴ達成ですよ!」
「すずか凄いわね。じゃあ、次はあたしがやるわ! タローはしっかり応援してなさいよ」
そう言ってアリサはマウンドに向かって行くので、僕達も近くまで移動しながら応援の言葉をかける。
「アリサ。頑張ってね」
「アリサちゃんファイト」
「アリサ様がんばって下さいねー」
結果はすずかと違って上手く当てられなく3枚抜き。
でも、運が良いのか狙ったのか分からないけど、綺麗に1ビンゴを取れたので、すずかと同じ景品をゲットしてきた。
「アリサちゃん凄いね」
「はい、アリサ様は狙ったのでしょうか?」
「どうかなー? でも、アリサちゃん負けず嫌いだから、最初からビンゴ狙いでも可笑しくないね」
すずかとファリンさんさんがそんな事を話している。
そこへアリサが戻ってきて、わーわーきゃーきゃー3人で話をしている。
「さ、ファリンも行って来なさいよ」
「そうだよ。ファリンも楽しまないとね」
「あ、ありがとうございます」
そして最後はファリンさんマウンドに向かう。
皆で一生懸命応援したんだけど、見事0枚抜きでした。
機械人形って戦闘能力とか高かったはずなんだけどな……。
「はぅわぅあ〜。全然ダメでした〜」
「戦うと強いのに不思議……」
「まぁ、ファリンだから仕方がないわね」
「……ドンマイ」
「うぅ……」
ファリンは僕らの慰めの言葉にガックリと肩を落とす。
それを見てアリサとすずかは一生懸命フォローしている。
なんとかファリンは元気になり、その後は七夕祭りを最後まで楽しんだよ。
結局恭也さんと忍さんには会えなかったけどね。
全く、どこに行ったのやら……?