第5話 バルディッシュ・アサルト
夜、窓をノックする音が聞こえたのでカーテンを開けた。
隣の家……つまりテスタロッサ家のベランダから、フェイトが身体を乗り出し、バルディッシュを棒のようにして、僕の部屋の窓を叩いている姿が見えた。
僕は無言で窓を開けると、逆に叩く窓がなくなりバランスを崩して落ちそうになる。
「危ないよ」
そう言ってフェイトの腕を掴んで一本釣り!
僕の部屋に放り込んだ。
「はぅ〜、落ちるところだった……」
「フェイトって空飛べなかったっけ?」
「…………あ!」
僕の素朴な疑問に今、気がついたかのような声を出す。
……本当に今、気が付いたんだろうな。
「そ、そんな事はともかく、こんばんは」
「うん、こんばんは。どうしたのこんな夜に?」
「えっと……私よりも用事があるのはこっち!」
そう言って物干し竿モード(僕命名)だったバルディッシュが、待機モードである三角形に戻る。
『こんばんはタロー』
「こんばんは、バルディッシュ。何だか形が違うけど、僕の気のせいかい?」
前は普通の三角形だったけど、今は何だかスタイリッシュな感じ?
上手く説明できないけど、形が違うんだよね。
『そうです。フェイトが模擬戦でシグナムに勝てないため、プレシア達が中心となって私達を改造しました』
「ちょ、ちょっと!」
『ちなみに参加者はプレシア、リニス、リインフォース、シュベルトクロイツ、マリエル技術官です』
バルディッシュの言葉にフェイトが慌てるけど、バルディッシュはマイペースに話を続けている。
うん、僕もとりあえずスルーしておこう。
「私達?」
『はい、私だけでなくレイジングハートも同様の改造を受けています』
「へー、どんな風に変わったんだい?」
『まずは名称変更です。私が“バルディッシュ・アサルト”そして“レイジングハート・エクセリオン”となりました』
「うんうん」
何だか強そうな名前になったんだね。
魔法の杖と言っても武器みたいなものだから、強そうな方が良いのかな?
『名称変更に合わせ、タローからの呼び名変更を申請します』
「「え?」」
バルディッシュの言葉に僕とフェイトの声が重なった。
ピコピコと光りながらアピールしつつ話を続ける。
『もしよろしければタローは私の事をバル、レイジングハートの事をレイハとお呼び下さい』
「どうしたの急に?」
「そ、そうだよバルディッシュ! 私もなのはもそんな事言われたことないよ!」
『長い名前の場合、友人同士では愛称で呼ぶものだとリーンフォースとシュベルトクロイツが嬉しそうに話しておりました』
あー、そう言えば長いから愛称にしてたよね。
アレってそんなに喜んでもらえてたんだ。
『そのためタローには是非とも愛称で呼んで欲しいのです』
「うん、イイよ。バル、これからもよろしくね」
『はい!』
「うぅ……バルディッシュが私には言ってくれない……」
僕が愛称で呼ぶと嬉しいようで、ピカピカと光って喜ぶバル。
そして何だか部屋の隅で拗ねているフェイトがいるけど、それは置いておこう。
「それでバル。他の機能は何かついたの?」
『はい。これが夜天の書を参考に作っていただいた新機能!』
バルが自慢気に言うと「ポン!」っと言う音と共に、バルに羽が生えた。
そして羽をパタパタと動かしながら飛んでいる。
「おー、すごいすごい」
僕が拍手をしながら褒めると、それが嬉しいのかバルは僕の周りを飛び回る。
『レイハにもこの機能は付いています。夜天の書はさらに次元移動機能があるので、今度はそれを付けていただきたいと思っているところです』
「私、その機能知らなかった……」
何だか余計に沈んでいるフェイト。
あそこまで行くと可哀想なので、バルの方を見て以心伝心っと。
「他に付いたのは無いのかい?」
『はい、フェイトの新しいフォームです』
バルのその言葉に、無いはずのフェイトの犬耳がピンっと立った気がする。
『それではお見せします。sir!』
「う、うん」
バルの言葉に嬉しそうに立ち上がり、バルを掴んでフェイトがポーズをとる。
「バルディッシュ・アサルト、セーットアーップ!」
『Assault form, cartridge set.』
フェイトが一瞬光りに包まれて、その後変身した姿で現れる。
僕の動体視力だと変身シーンが全部見えるけど、それは触れないほうが良い事だよね。
『新フォームだけでなくカートリッジシステムも搭載してあります』
「あのね、タロー。カートリッジシステムっていうのは……」
フェイトは嬉しそうにカートリッジシステムの説明をしてくれる。
詳しい説明をしてくれたけど僕が理解できたのは、圧縮魔力を込めたカートリッジをロードすることで、瞬時に爆発的な魔力を得るってことかな?
その後も色々な武器の形になって説明をしてくれたけど、さすがにそんなに覚えられないけど、嬉しそうに説明するのでノンビリとその話を聞いていた。
「それで、やっぱりそう言う服装になるんだね」
「え?」
僕の呟きを聞いたフェイトは、意味がわからないようでキョトンとしている。
しかし僕の視線を追うように自分の服装を確認すると、顔を赤らめてワタワタと説明し始める。
「ち、違うよ。今はほら、ヒラヒラのスカートモドキだけじゃなくって、ちゃんとスカートになってるし……」
あー、確かにミニだけどスカートになってるんだな。
「それとほら、ちゃんと下はこう言う風になってるんだよ!」
そう言って自分でスカートをたくし上げ、スパッツのようなものを履いてることをアピールしてくる。
うーん、小学生だからさほど問題はないと思うけど、大人になってもこのままじゃ心配だよね。
しばらくすると自分のやっていることに気が付き、真っ赤になってマントで自分の体を隠し、部屋の隅っこに隠れてしまう。
「いや、それ全然隠れてないし……」
「うぅ……恥ずかしいよぉ……」
「よしよし」
それからフェイトが復活するまでずっと髪を撫で続ける。
随分と長い間撫でるハメになったけど、フェイトが落ち着いたから良いか。
ちなみにフェイトが拗ねたことがバレて、後日リニスにたっぷり説教されました。
文句はバリアジャケットを設計したプレシアさんに言って欲しいところです。
次の日、学校の昼休み屋上にて。
「そう言う訳でレイハも飛べるんでしょ」
『はい、バルと同じく羽が生えるようになっています』
そう言うとレイハがピカピカと光って羽が生えて飛び始めた。
その姿を唖然と見ているなのは……なのは?
「フェイトちゃーん! 私レイジングハートのこの機能聞いてないよー」
「なのはー、私も聞いてなかったんのー」
ヒシ! って擬音が聞こえるかのように、なのはとフェイトが抱きしめ合う。
そしてその周りをパタパタ飛び回るバルとレイハ。
「ねぇ、この子たちってどういう仕組なの?」
機械好きなすずかの目が怪しく光っている……。
なんとなく危機を感じたのか、慌ててなのはとフェイトの元へ隠れる。
いつの間にやら人間的になったんだなー。
「私の夜天の書は元々飛べるけど、羽は付いとらんからなー。今度付けてもらおうかな?」
「何だか羽が付いただけで可愛く見えるわよね。あたし達もそのデバイス……だっけ? 欲しくなるわ」
「そうだよねアリサちゃん! そのためには構造とか仕組みとか知らなきゃね!」
今日はすずかが暴走してるなー。
その言葉を聞いて夜天の書は次元転送でどこかへ逃げて行ったよ。
でも、アリサとすずかにデバイスか……僕も持ってるだけにお願いしてみたほうが良いかな?
「そう言えばタローはデバイス持ってたわよね」
「うん、荷物入れにしかなってないけどあるよ。僕にはリンカーコアってのがないから、魔法が使えないんだよ」
「そっか……あたしもリンカーコア無いのかな……」
なんとなくだけど、しょんぼりとしながらなのはに自分のリンカーコアの有無を聞くアリサ。
結果はやっぱり無いみたいで、ガックリと肩を落とす。
魔法……使いたいのかな?
「タロー君のデバイスでいいから、少し分解させてくれないかな?」
「すずか……今日は積極的だね」
「うん、それでどう?」
「さすがに貰ったものを分解させるわけにいかないよー。僕も仕組み良く分かってないしね」
「うーん、残念……。後でお姉ちゃんに相談してみよ……」
とりあえず僕のデバイスの安全は確保されたようだけど、これはそのうちデバイスを手に入れそうだね。