第6話 リハビリ
本日は、はやてのリハビリに付き合っています。
守護騎士のみんなはお仕事で管理局へ、リインとクロイツも最近は忙しくてお出掛けらしい。
そんな訳で今日は仕事がないはやてのリハビリでプールに行く事になったんだけど……。
「なあなあ、タロー。この水着とこの水着、どっちがええ?」
「はやてなら黒よりは白い方が似合うと思うけど……リハビリは行かなくて良いの?」
病院のリハビリ施設へ行く前に、はやてが水着を買いに行こうと言い、なぜか水着売り場に付き合わされてます。
「なに言っとるんや! 水着がなければリハビリにならへんやん」
「いや……学校の水着じゃダメなの?」
「……タローの趣味はスクール水着の方だったんか!? それなら早う言ってぇな」
「いや、そう言う訳じゃなくて……」
はやてがなにを言っているか良く分からない……。
はやては「なんや、違うんか……」と言いながら、他の水着を見て回る。
結局、はやてが納得の行く水着が見つかったのは1時間後だったよ。
「ねえ、はやて」
「なんや、タロー?」
「なんで僕は女子更衣室に連れて来られたのかな?」
はやての車椅子を押していたのは僕だけど、はやてに誘導されて着いたは女子更衣室だった。
他に人は居ないから別に良いんだけどさ。
「なんや、そんな事か。見ての通り私は足が不自由やろ。だから、着替えも大変なんや」
「うん、大変なのは何となく分かるんだけどさ」
「だからタローは着替えを手伝って欲しいんや」
何を当たり前の事を聞いていると言う風なはやての態度。
しかし、顔が赤らんでるし、目が泳いでいるのは僕でも分かるよ。
「まぁ、頼まれごとは断らないから良いけど、ちゃんとタオルで隠してよね」
「そ、その辺はタローにお任せや。……タローに女とちゃんと意識して貰うのが目的やし(ボソ)」
語尾は随分と小さい声で呟いてるけど、僕には聞こえているんだよね。
とりあえずはやてをバスタオルでてるてる坊主の様にする。
「なんや、意外と紳士やな」
「小学生が相手とは言え、流石に気は使うよ」
そしてはやてを見ずに服を脱がし、水着を着させる。
子育て経験があればオムツ交換やらである程度、人の着替えは出来る様になるんだよね。
「その言葉や!」
いきなりはやてに指を差され言われる。
「タローは私達と視点がちょっと違うんや。まるで年齢が違う様に!」
僕が思わずビックリしてはやてを見つめる。
「あんな……多分やけど、タローは私達の好意に鈍感なんやない。気が付いているけどスルーしとるんちゃうか?」
「え?」
「天然なフェイトちゃんや、自分の気持ちがまだ分かっとらんすずかちゃんはともかく、私とアリサちゃんに好かれとるのは気が付いとるんやろ?」
はやての言葉にドキッとする。
確かに2人の好意は何となく分かるけど、それは所詮……。
「助けたから好意を抱いてるなんて思うてるか? 確かに大なり小なりタローはみんなを助けとるのは事実や」
はやての言葉に思わず頷く。
それは僕が悩んでいる事……。
「ただな、タロー。いくらそれで好意を持っても、likeとLOVEの線引きは自分で決めてるんやで……って、この先は私が先に言うたらズルやから、今度にするわ。アリサちゃんに誘われてるし……」
はやての言葉が胸に刺さる。
何だか自分を理解し来てない。
自分の勝手な意見で、みんなの好意を踏み躙っていた?
「タロー、そんな顔せんといてや。私から話を振っておいてなんやけど、今日はリハビリに付き合うてくれるんやろ」
はやては僕の表情を見て、そんな言葉をかけてくれる。
うん、今日ははやてのリハビリだ。
しっかり歩ける様に頑張らないとね。
「うん、ゴメンね……。ヨイショっと」
「キャ!」
はやてに謝罪して、移動のために抱き上げ、プールの方へ歩いて行く。
時間は有限だし、少しは歩ける様になって欲しいもんね。
「ちょちょ、ちょい待ちや、タロー」
「ゴメン。遅れた分をシッカリやるからね」
「いや、そっちやなくて……。あーもう、タローに任せるわ」
「うん」
「ほんま敵わんな……」
本当に小さい声で呟いたはやての最後の言葉は、呆れた様な嬉しい様な声だったよ。
プールサイドで軽く柔軟体操をしてからプールに2人で入る。
そして僕と両手を繋ぎ、一生懸命に歩く様、足を動かし前に進む。
「離さんといてな」
「うん。ずっと掴んでるよ」
「……あほ」
そんなこんなで30分間運動したので、軽く休憩に入る。
プールから抱き上げ、プールサイドの椅子にはやてを横に寝かせる。
「ふぅ、やっぱり大変やな」
はやては自分の足を揉みながら息を吐く。
使えなかった期間が長いから、なかなか上手く行かないみたいだね。
「はやて、僕がマッサージしてあげようか?」
「ほんまか? タローが私の足を触りたいって言うてくれるやなんて……」
「それ、言い方おかしいよ」
「ええねん、ええねん。ほな、頼むわー」
そう言ってはやてはうつ伏せになる。
じゃあ、足が動きやすくなる様に心を込めて、気合を入れてマッサージをする。
「なんや、タローはマッサージ上手いんやな。すごく気持ちええわ……」
はやてから褒められたら、もっと頑張るとしますか。
リハビリをたくさんやった様な、普通の人と変わりのない動きが出来る様に心を込めてモミモミ。
「やっ、あっ、た、タロー……」
「なに?」
「なんや、足が熱うなって来たわ」
はやては僕の方を振り向きながらそんな事を言って来た。
「痛いの?」
「んっ、ちゃう。痛くはないんやけど……」
振り向いたはやての顔を見ると、頬が赤らんでいる。
「……気持ちええんよ」
ボソッとはやてが照れ臭そうに呟き、そっぽを向いてしまった。
まぁ、痛くないなら、このまま全力でやらせてもらおうかな。
「ちょっ、た、タロー? なんや、いきなり、その、あっ、やっ、はふぅん……」
はやての声は嫌がっている感じがしなかったのでスルーしつつ、気合を入れた全力のマッサージをたっぷり時間をかけてやった。
その間、はやては悶えていたけど、痛くないなら良いかなーと。
「はい、終わりだよ。30分間揉んだから、だいぶ違うかい?」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「はやて、どうかしたの?」
はやては僕の言葉に返事をせず、息が荒く顔を赤くしてグッタリとしている。
「こっ、この……ど、どあほ!」
そう言ってはやては僕の顔を蹴ってくるので、とりあえず避ける。
「はやて。足、足」
「なんやねん! もうこんなにされたらお嫁に行けへん……って、足?」
はやてはそう言って、不思議そうに僕を蹴った足を見る。
そして自分で両足を動かしてみながら首を傾げる。
「タロー! 手、手を貸してや」
言われた通り両手ではやての両手を掴み、そのまま体を起き上がらせる。
そうするとはやては2、3歩前にフラ付くが、シッカリと自分の両足で立っている。
「た、タロー!?」
「うん、歩いてみようか?」
僕の言葉にはやては戸惑いながら頷き、僕が手を引くとそれに合わせてゆっくり歩き出す。
そして僕の手を離し、自分の足だけで歩き出す。
徐々にゆっくりから、普通の人が歩くペースまでスピードを上げて行く。
「タロー。私、私……」
「うん、良く頑張ったね」
そう言うと歩いた先から、僕のところへ小走りで近付いてくるけど、さすがに小走りまでは慣れていないせいもあって躓いてしまう。
それを僕が正面から抱きとめる。
「まだ、無理しちゃダメだよ」
「でもな、リハビリに何年も掛かる言われてたんや。それが歩ける様になったんやで! 嬉しゅうて……嬉しゅうて……」
僕に抱きついたまま泣き出したはやてをギュッと抱きしめ、頭を撫でる。
「うん、それでも無理しないようにね」
「うん……うん……」
はやてが泣き止むまでのんびりと待つ。
その後は水中ではなく、普通にプールサイドを歩いたり、飽きたらプールの中に入って遊んだりとした。
自分で歩けるようになったのがよほど嬉しいのか、はやては終始笑顔でいた。
そんな訳であっと言う間に時間が過ぎた。
「さて、そろそろ帰ろうか」
「そやな。今日は歩けるようになったし、みんなを驚かせたる!」
僕の言葉にはやてはうなずき、自分の足でしっかりと歩き出す。
そして僕の横に立ち、手を繋いで来た。
「えへへ。歩けるようになったら、これやってみたかったんや」
「僕とで良いの?」
「タローやからええんやないの」
「まあ、良いけどさ。自分で歩けるんだから、着替えはちゃんと自分でやるんだよ」
「はいはい、分かりましたよー」
そう言って今日のリハビリを終わらせる。
みんなを驚かせたいから車椅子は持ち帰ったけど、どんな反応したんだかね……?