第7話 夏の予定
「もうすぐ夏休みやけど、みんなはどうするんや?」
いつものように昼休み、屋上でお弁当を食べているとはやてがそう言ってくる。
「そんな事言っても、はやてちゃんと私は研修があるんだよ」
「アースラで研修させて貰えるから融通は利きそだけどね」
なのはの言葉にフェイトがフォローする。
「そう言えばアンタ達は嘱託魔導師の試験と、その後の研修があるのよね」
「そうやで。期末試験と併せてそっちの勉強もせなあかんから、結構大変なんや」
「それなのになんで夏休みの予定を聞いてるのよ!」
アリサの言葉に緊張感もなく返すはやてだけど、魔導師はマルチタスクがあるから勉強も楽なんだろうな。
「まぁまぁ、アリサちゃん。全部が全部お仕事なわけじゃないんだから、はやてちゃん達と予定を合わせて遊べば良いんだよ」
「そうだけど……」
「私達も家の予定があるんだから……ね」
すずかのフォローでアリサが大人しくなる。
そこに珍しくイレインが言葉を挟む。
「そうですよ。夏休みからそちらでお世話になるんですから」
「そうなのイレイン?」
「えぇ、八神家は既に私が必要ないぐらい家族がおります。それに料理などのことは、リインとクロイツがしっかりと覚えましたので……」
僕の問いにイレインが答えてくれる。
確かに八神家はイレインを入れて8人の大所帯。
イレインがお役御免となるのも仕方がないか。
「それにはやては自分で歩けるようになっています。それにより学校での介助も夏休みまでと言い渡されていますので……」
「そこでさくらさんにお願いしたら、あたしの家で働けるようになったということなのよ! 今度はちゃんとお給料をパパが払うって言ってたしね」
イレインの言葉をアリサが引き継ぐ。
確かにデビットさんも忙しいし、鮫島さんの負担が軽くなるから、イレインの次の職場としては丁度いいのか。
「ウチでも良かったんだけど、お姉ちゃんにはノエル、私にはファリンがいるから……」
「私は母さんが働いていても、リニスやアルフがいるから大丈夫だし……」
「私の家は元々問題ないもん。ユーノ君いるし……」
そう言う訳で消去法でもあるわけか。
口に出さないけどね。
「そう言う訳で、あたしはイレインの研修、パパとの旅行、習い事の予定があるわ」
アリサの言葉に合わせて、他のみんなも予定を言い合い、イレインはどこからか取り出したカレンダーに予定を埋めていく。
それにしても一番ハードなのはなのはか……。
「なのは……この山籠りってなに?」
「えっと、御神流を習う以上は山で修行だって、お父さんたちが張り切っちゃって……」
「ユーノ君も一緒に行くの?」
「うん。お兄ちゃんが地獄すら生ぬるい修行をやるって言ってたから、一緒に頑張るんだ!」
意味がわからない上に、それを頑張ろうとするなのはって……。
しかも、その言葉はユーノ個人に言っているような気がするけど、きっと気のせいだよね。
周りを見るとみんなも僕と同じように感じているようで、乾いた笑いになっている。
「ま、まぁ、なのはちゃんは頑張ってや。これだけの人数になると、全員が予定の合う日はこの辺だけか……」
「それより遅いと宿題が終わらない組が居て大変だろうから、ちょうど良いんじゃない?」
アリサの言葉にそっぽを向く魔導師組。
仕事があると中々難しそうだもんね。
「まぁ、その予定の合う日の夜に勉強会も組み込めば、ついでにアンタ達の宿題も終わりそうね」
「アリサちゃん、ありがとなー」
「ええい、はやては抱きつくなー! それとなのはとフェイトは捨てられた動物みたいな目でこっちを見るなー!」
「アリサちゃん大人気だね」
「すずかは笑ってないで何とかしなさいよー」
はやてをひっぺがしながら、アリサはすずかに助けを求める。
当然、笑って誤魔化され助けて貰えないんだけどさ。
「あーひどい目にあったわ。すずかだけでなく、タローまで笑って見ているんだもん」
放課後、魔導師組は仕事のためミッドへ早々と行ってしまい、残った3人で一緒に歩いて帰る。
「まあまあ。アリサちゃんは、はやてちゃん達がキライなわけじゃないんでしょ」
「それは当然よ! でも、それとこれとは話が違うというか、すずかは上手く誤魔化そうとしてない?」
「あはははは」
「笑って誤魔化すなー!」
そんな2人を見ながらのんびり歩く。
ある程度騒げばアリサも落ち着くだろうしね。
「こら! タローは一歩引いてないの!」
「まあまあ、アリサちゃん。タロー君が一歩引いているのはいつものことでしょ」
「そうだけど……」
「それよりも、みんなが集まれる時の予定はどうするの? ゴールデンウィークみたいに海鳴温泉って訳には行かないんでしょ」
「さすがに大人数過ぎて別荘とか使えないのよね。適度に1泊か2泊の旅行にして、海にするのが妥当なのよね」
すずかとアリサが悩んでいる。
一歩引くなと言われたら、意見ぐらい言ってみようかな。
「んーっと、この時期から宿を取ると大変そうだから、キャンプとかにしちゃうっていうのはどうかな?」
「「キャンプ!?」」
「海か山に絞る必要はあるけど、山でも川で水遊びとか出来るから同じだよ。キャンプ道具もレンタルとか結構あるし、お風呂とかは温泉で済ませられるしね」
僕の意見に2人が黙ってしまった。
やっぱりダメだったかな?
「タローにしては一般的な意見ね……」
「タロー君って普通の事も言えたんだ……」
「2人共……酷くない?」
「「酷くない(わ)よ」」
何だか珍しいツッコミに思わず凹んじゃうね。
僕が地面に“の”の字を書いていると、アリサとすずかは話し込んでいる。
「キャンプを2泊3日にして、勉強日を前後のどっちかに1日入れれば、みんなの予定が合う4日間になるね」
「勉強日を先にすれば、終わらなくても場合キャンプ場で何とか出来るわね」
「それなら終わらないとお留守番って言っておけば、みんな真剣にやるんじゃないかな?」
「すずか……鬼ね。でも、はやては直ぐにフザケるから、それぐらいが丁度良いのかもしれないわね」
何だかどんどんと話が進んで行くんだけど……。
「勉強組以外は前日に支度が出来るわね。移動手段はどうしようかしら?」
「バスを借りてみんなで乗って行くのが良いかな? ただ、お姉ちゃんやノエルの免許じゃ運転できないよ」
「鮫島が大型免許は持ってるわ。イレインも夏休み中に免許は取らせる予定だけど、普通免許を取るのが先なのよね」
「ノエルはそろそろ大型免許取りに行けるって聞いたけど、夏休み中に取れるかなー?」
うん、もう良いや。
予定を決めたりするのは2人にお任せしちゃうのが1番だね。
その後、家で別れるまで2人は色々と話し合っていたよ。
「それで、タローは僕にも休みを取れと言うわけか」
夜に帰宅したクロノを捕まえ、他の管理局組の予定を合わせられるか聞いているんだけど……。
「あのな……あの3人と守護騎士だけならともかく、仕事内容が違う僕やユーノ、母さんたちの予定を連続4日間合わせるなんてどれだけ大変だと思ってるんだ?」
「えーと……クロノが頑張ればなんとかなる程度かな?」
「はぁ〜。キミが僕をどう思っているか一度しっかり話し合ったほうが良さそうだ……」
「ん? 管理局で1番信頼出来る優秀な人」
「…………」
「リンディさんはしがらみが多いからクロノほど信頼出来ないし、プレシアさんとか頭いいけどクロノほどキレる訳じゃないかなーと」
僕の言葉にクロノは深い溜息を付く。
「お世辞なら、もう少し上手く言ってくれ……」
「……お世辞?」
クロノの言葉に僕は首を傾げる。
そんな僕を見て再度クロノは深い溜息を付く。
「分かった分かったよ。グレアム提督や騎士カリムにもお願いして、何とかしてみるよ。全員が揃う前提で予定を立ててくれ」
「大丈夫なの?」
「タローが言ったんだろ! そんな事真顔で言うなら僕だってやってやるさ!」
クロノは声を荒げて空中にモニタとキーボードを出して忙し気に打ち始める。
(ロッテ、アリア。タローのムチャ振りが入ったから、手伝ってくれ)
(タローが言うんじゃ仕方がないね)
(タローそのものが無茶な存在だからクロスケも大変だねぇ)
(意見と文句は後回しだ。母さんだけでなく、レティ提督にもお願いしないと……)
「僕はこれから忙しいんだから、タローはもう帰った帰った」
「うん、ありがとねクロノ」
僕の言葉に片手を上げることで返事をし、視線はモニタに向いている。
邪魔にならないようそっと部屋から出て行く。
そして魔導師組が学校に全員揃った日、昼休みのいつもの屋上。
「そう言う訳で、タローの意見からキャンプに決定したわよ!」
アリサの言葉に3人が驚く。
「タローがマトモなこと言うなんて……明日は雪やな!」
「はやて、意見を言ったのは数日前だから、その時に降らないとおかしいよ?」
「フェイトちゃん……それとは意味が違うんだけど……」
「え? なのは、何が違うの?」
はやての言葉から、何だかおかしな方向に進んで居るんだけど……。
「それは置いといて、キャンプの前に勉強会をやろうと思うの。そこで宿題も終わらせておけば楽でしょ」
「さすがはすずかちゃんや! 私達はその時に写せば全部終わるという訳やな!」
「教えるのは良いけど、丸写しはさせません! 大体、はやてちゃんは休学期間もあるんだから、しっかりやっておかないと後で大変だよ」
すずかの言葉にガックリとはやては肩を落とす。
僕も小学生時代のは昔の知識で何とかなってるけど、今後の為を考えたらしっかりと勉強しなおさないとなー。
社会人になると学生時代の勉強なんて使わないことばかりだから、今では結構忘れてるんだよね。
「ねえ。時間がある時でイイから、誰か僕に勉強を教えてくれると嬉しいな」
「「「「「!?」」」」」
僕の言葉にみんなが驚いた表情になる。
「た、タローが自分から意見を言うやなんて……」
「お、お、落ち着きなさいはやて。キャンプの意見もタローからよ!」
「タロー君、何か悩み事があったら私に言ってね」
「私はいつでもタローの味方だから安心して」
「調べごとならユーノ君と一緒に無限書庫に行ってくるからね」
みんなの優しい言葉が身に染みる……と言うより、僕ってそんな風に見られていたんだね。
しばらく落ち込んでしまいそうだよ。