第12話 終業式
僕の悩み事を友人たちに話した事によって、皆に伝える決心がついたんだけど、中々タイミングと言うものは合わないらしい。
魔導師組は代わる代わる研修やら任務に駆り出されていて、その合間に行われるテスト勉強ではアリサとすずかは先生として大忙しだ。
そして、全員が同時に揃うことがなく期末テストが終わり、あっという間に終業式となってしまった。
「何、タローは少し落ち込んでるのよ」
「いや、なんだか儘ならないなーってさ」
「何が儘ならないのよ? あたしに分かるように説明しなさいよ!」
あんな告白があったのにアリサは今までと変わりなく僕と接してくれている。
いや、アリサだけでなく同じく告白したはやても変わらないし、吸血したすずかもいつもと変わらない。
元々特に何もなかったなのはとフェイトは変わり様がないんだろうけどさ。
「最近、少しだけ変よ。違うわね。元々変だけど、今は普通に変よ……の方が良いかしら?」
「それ、余計に酷い意味になってるんじゃないかな?」
「気のせいよ。それよりも教室に早く戻るわよ」
そう言ってアリサは自然に僕の手を引っ張って行く。
さっきまで体育館で終業式が行われていて、それが終わったの教室に戻っている途中なのだ。
「あー、アリサちゃん。いつの間に手ぇ繋いどるんや?」
「べ、別に良いでしょ。こうしておかないとタローがちゃんと歩かないのよ」
「そんな訳ある……んやろうね」
既に車椅子を使わず、自分の足で歩いているはやてが僕らを見つけて走って来た。
廊下は走っちゃ危ないよーなんて思っていると、はやてが僕の空いているもう1つの手を掴む。
「な、何やってんのよ!」
「こうせんとタローが歩かんのやろ。だったら、私もてつどうたるわ」
「むー。タローも何とか言いなさいよ」
「なんとか」
「バカぁ!」「アホか!」
僕に振ってきたので普通に返したら、同時に2人から酷いツッコミを受けてしまった。
おっかしいなー?
左右からステレオサウンドで色々と話しをされながらも何とか教室に到着したので、各自席につくためそこで別れる。
そして待つこと数分、教師が教室に入って来たので日直が号令をかけて、1学期最後のホームルームが始まった。
「はい、1学期も皆さんお疲れ様でした。通知表を配る前に、新しいお友達の紹介です」
教師の言葉にクラス中がざわめき立つ。
今日で1学期も終わりなのに転入してくるなんて、色々と事情があるのかもしれないな。
そんな事を思っていると教室の扉が開き、1人の女の子が教室に入って来た。
赤毛で生意気そうな瞳をした……。
「はい、自己紹介をどうぞ」
「ヴィータ・八神……です。よろしく」
「「「「「ヴィータ(ちゃん)!?」」」」」
突然の転入生は守護騎士の1人、鉄槌の騎士でもあるヴィータだった。
当然ヴィータを知っている人達は驚いて……って、何で一緒に住んでるはやても驚いてるんだろう?
(はやてちゃん、なんでヴィータちゃんが転入してきてるの?)
(そうだよはやて。何で私達に教えてくれなかったの?)
(いやぁ、私も知らんかったんやけど……。一体、どないなっとるねん)
魔導師3人は念話でヒソヒソと会話を始めるが、念話を使えない2人はその3人に視線を送っている。
魔力のない人も念話みたいなのが使えると良いよねー。
そんな事をしている隙に教師はヴィータの紹介を始める。
「ヴィータ・八神さんは八神はやてさんの親戚の方で、まだ日本に来て日が浅い様です。色々と苦労すると思いますが、皆さんも手伝えることは手伝ってあげてくださいね」
「はーい」
教師の言葉にクラスが1つになった返事をする。
返事があまりの勢いがあって、ヴィータは若干顔をひきつらせているんだけどね。
「じゃあ、まずは八神さん……あ、これだと名前が混ざってしまいますね。それでは、ヴィータさんとはやてさんとお呼びしましょう。それではヴィータさん、はやてさんの後ろの席を使って下さい」
「わかった……りました」
無理な丁寧語を使いつつ、テクテクと歩いてその席に座る。
表情は緊張しているようで、手を振っているクラスメイト達にも気が付かない。
「質問とかお話はホームルームが終わってからにしてくださいね。それでは1学期の通知表をお配りしますよ。まずは……一之瀬さん」
「はい」
そう言って名前順でもある出席番号順に通知表を配り始める。
僕は“い”なので一番最初になって、はやてが“や”で一番最後。
そんな事はどうでも良い事なんだが、教師は通知表を配り終えると、次に夏休みの宿題を配り始めた。
この時にクラス中が溜息を付いたのは言うまでもないであろう。
ホームルームが終わると、クラス中が騒がしくなる。
それは始まったばかりの夏休みを喜んでいるのか、新しいクラスメイトであるヴィータと話したがっているのか……。
「はいはい。もう夏休みでみんな早く帰らなきゃいけないんだから、質問は簡潔明瞭に行くわよ!」
パンパンと手を叩いてクラスメイトの視線を自分に集め、この場を仕切るアリサ。
うーん、こういうのは似合っていて良いよね。
「それじゃまずはテンプレな質問から消化しちゃうわよー」
住んでる場所……八神はやてと一緒。
前の住んでいた場所……イギリス(嘘)。
趣味……老人会のゲートボールと犬散歩。
特技……<s>破壊と粉砕</s>特になし。
好きな食べ物……はやての料理とアイス。
そんな感じでポンポンとアリサが仕切りヴィータが答える。
それにはやてが合いの手を入れて、無愛想なヴィータを面白おかしくして行くと言ったコンビネーションを見せる。
「それにしても凄いな」
「うん、流石はアリサちゃんとはやてちゃんだね」
僕の言葉にそう返事したのは、いつの間にか僕の隣に立っているすずかだ。
あの日以来、妙に身体能力が高くなっているようで、しばらくは吸血はいらないかな?
「ううん、そんな事無いよ。タロー君がくれるならいくらでも欲しいよ」
「僕、口に出てた?」
「違うよ。あれから調子が良くて、何となくだけどそう言うの分かるの」
僕の血液ってもしかしてドーピング?
「かもね」
そう言ってすずかは僕に向かってウインクする。
まぁ、調子が良いならイイんだけどさ。
そんな風にすずかと話をしているとヴィータへの質問が終わったようで、みんなが戻ってきた。
「あれ、さっきからこっちに居ないと思ったら、すずかはずっとタローと話をしていたの?」
「うん。あんまり囲まれちゃったらヴィータちゃんも大変だから、離れているこっちにいたんだよ」
「そうなんだー。私もそうすれば良かったんだ……」
フェイトとすずかが仲良く話をしている様だけど、フェイトの視線が何だか僕に突き刺さっている気がするんだけど……。
「にゃははは、なんだかフェイトちゃんが必死なの」
「最近出番ねーからじゃねーか? なんか知らねーけど、タロー争奪戦に出遅れてるよーだし」
なのはの言葉にヴィータが答えながら、アリサとはやてに視線を送る。
その2人は動揺しながら明後日の方向を向いて、吹けない口笛を吹いているフリをしていた。
「ねぇ、アリサとはやて。もしかしてこの間の事……」
「さ、さあ、ヴィータへの質問が終わったようやから、早く帰るとするで」
「そ、そうね。翠屋で1学期お疲れ様会をやらないといけないものね」
はやての言葉にアリサがすぐさま同意し、ずんずんと歩いて行ってしまう。
なのはとヴィータは顔を合わせため息をつき、2人の荷物を持って追いかけて行く。
「すずかって最近妙に機嫌が良いし、体の調子とか良いよね」
「そ、そうかな? フェイトちゃんと違ってお仕事があるわけじゃないから、しっかり体を休められるからじゃない?」
こっちはこっちでまだ何かやってるんだけど……。
「そうなんだ。でも、この間タローからすずかの匂いがしたんだけど、アレってなんだろうね?」
「えっ!?」
フェイトの言葉にすずかがものすごく驚く。
しかし、そんな驚きの表情は一瞬で消え、ジト目でフェイトの顔を見つめる。
「……でも、なんでタロー君の匂いをフェイトちゃんが知ってるのかな?」
「ん? 家が隣でお部屋も良く行き来するからじゃないかな?」
「それ、理由になってないよね」
何だか妙な気配になってきたから、2人はおいて僕は先に行ってしまった4人を追いかけるとするか……。
「「タロー(君)どういう事?」」
後ろでそんな声が聞こえたけど、僕は知らないーっと。
色々なものから逃げるように早足で翠屋に到着すると、既にお店は貸切状態になっている。
貸し切っているのは身内といっても良いメンバーで、店内ではお疲れ様会の準備をしていた。
「お帰りなさい」
僕達をすぐに見つけて駆け寄ってくるのはリニスだ。
「ただいまリニス。相変わらずエプロン姿が似合うね」
「そ、そうですか?」
僕の言葉にピンと耳が立って尻尾がせわしなく動き出す。
貸切で簡易結界も張ってあるから、ワザワザ耳や尻尾を隠す必要がないみたいだ。
店の奥を見れば普通にアルフとザフィーラも、耳や尻尾が出たまま料理を運んでるみたいだし……。
「なぁ、アリサちゃん。ここにリーゼ姉妹が揃うと5本の尻尾が揃うんや……。つまり尻尾喫茶やね」
「それなら喫茶テイルって名前なんてどうかしら?」
「なるほど、ええ商売になりそうやな。管理局員や無くて、喫茶店経営もええなぁ」
「はやては料理上手だもんね」
はやてとアリサが訳の分からない会話をしている。
この使い魔たちは爪も牙も鋭いから、テイルと言うより濁点を付けてデイルっていう方が……。
まぁ、そんな事はどうでも良いや。
「おぉ、お帰り。ヴィータ君、学校はどうだったかな?」
「グレアム提督!?」
「はっはっは。仕事じゃないときはグレアムおじさんで構わないよ」
いつもの制服姿ではなく、リラックスした私服でくつろぎながら声をかけてきたのはギル・グレアムさん。
色々あってはやて達の後継人をやっているため、まだ管理局からは引退していない。
使い魔たちはクロノに引き継いだから、数年以内に退職するとの噂はあるけどね。
「まぁまぁだった」
「そうか、それは良かった」
ぶっきら棒に答えるヴィータに嬉しそうに笑顔を向ける。
その笑顔が恥ずかしいのか、ヴィータはプイッと横を向いてしまうが……。
「なぁ、グレアムおじさん。もしかしてヴィータの転入って……」
「ああ、私のサプライズだよ。驚いてくれたかな?」
「そりゃぁ、驚きましたけど……。せめて一言教えて欲しかったわー」
「それじゃサプライズにならないじゃないか」
ぶーたれるはやてに対しても笑顔で答えるグレアムさん。
なんか、本当に良いおじいちゃんって感じだよね。
「あのぉ……ユーノ君はまだ帰ってないの?」
「そう言えばかーさんは?」
「何気にシグナムとクロイツも居ねーぞ」
なのは達の言葉に周りを見渡すとその4人だけでなく、ハラオウン一家も居ないな。
それについては直ぐにグレアムさんが、まだ仕事中と説明してくれた。
まぁ、ちゃんと今日中に来るって話だし、特に問題ないのか。
「それじゃ、先にお昼を皆食べちゃいなさい」
奥から士郎さんと桃子さん、恭也さんによって作られた料理がドンドンと並べられる。
バイキング形式なので好きなモノが食べられるし、これは楽しいね。
ここにいる高町家では、若干1名料理が出来なくて拗ねている人がいるけど、僕の視界には入れてません。
その1名をシャマルさんが慰めているけど、アレって傷の舐め合いのような……。