第13話 謎の結界
まだ仕事が終わっておらず来ていないメンバーもいるけど、翠屋でお疲れ様会が始まった。
食事を始めてながらみんなでワイワイやっていると、店内に空中モニタが現れる。
「おや、リンディ君。どうかしたのかね?」
モニタの向こうはアースラのブリッジのようで、リンディさん以外にもアースラクルーが映っていた。
「パーティーが始まっている所に申し訳ありません。緊急事態のためここに回線を開かせていただきました」
仕事モードのリンディさんがそう言うと、画面の周りに魔導師組が集まってきた。
そこから一歩離れた場所に僕やアリサ、すずか達が集まる。
「いや、緊急事態なら構わん。ここには身内しかおらんから、状況を伝えてくれ」
「はい。現在海鳴市周辺に謎の結界が複数発生しています」
「謎か……危険度すら不明ということだな」
「申し訳ありません。その結界について調査及び解析を行うため、これよりアースラを海上空へ移動させているところです」
リンディさんも何が起きているかはっきりと理解できていないみたいだね。
そんな話を聞いている間に士郎さんや桃子さんは料理をタッパーに詰める作業をしている。
「それではアースラに我々は移動しよう。海上空へ到着したら転送ポートを頼む」
「ハッ! 了解しました」
リンディさんがそう言うと空中モニタは消え、グレアムさんは僕達の方を振り返り頭を下げる。
「緊急事態のためパーティーを中断することになり申し訳ない。魔導師組は後ほどアースラへ移動、事件の解決に全力をつくす」
「はい!」
魔導師組はそれに返事をする。
んー、お留守番も暇なんだよねー。
「あのー、アースラで見学って出来ませんか?」
「た、タロー? 何言っとるんや。仕事なんやで」
「いやぁ、なんとなーく嫌な予感というか、気のせいであれば良いんだけど変な気配が周辺にね……」
うまく口では表せない感じがさっきからしている。
多分その謎の結界が大量発生してからかな?
しかし仕事だから一般人を連れては中々行けないよね。
「いや、タローはどう見ても一般人じゃないでしょ」
「え、アリサ? 僕って、口に出してた?」
「タロー君は口に出さなくても直ぐに分かるんだってば」
「すずかまで……」
アリサとすずかにアッサリと突っ込まれてしまった。
何と言うか確かに一般人じゃない気もするんだけど、一応普通の小学生だし……。
「「普通の部分が余分(だ)よ」」
……2人とも酷いや。
まぁ、良いけどさ。
「タローがそう言うのでは不安にならないか?」
「リイン……?」
「タローの感なら信用しても悪くはないであろう。グレアム提督、もし良ければタローも連れてはいけないであろうか?」
「ザフィーラまで……」
僕の何となくに対してリインとザフィーラがグレアムさんに掛けあってくれる。
元々真面目で口数の少ない2人にそう言われると、グレアムさんも悩まざるをえない。
「それならあたし達も連れて行きなさいよね」
「うん、そうだよ。ちゃんとタロー君の世話はする人も必要だよね」
「アリサちゃんにすずかちゃんまで……」
アリサとすずかの言葉になのはが呆れている。
そりゃ僕の世話って言われても、ペットとかとは違うんだけど……。
「タローの世話は私がするからイイよ」
「フェイトちゃんはお仕事あるんでしょ。タロー君のお世話は私に任せて」
あれ、何だかフェイトとすずかの雰囲気が怪しいんだけど、これって学校での続きになってませんか?
助けを求めようとアリサの方を振り向くけど、アリサははやてと話をしている。
「はやて……仕事で格好良いところをタローに見せるチャンスよ」
「むぅ……そないなコト言うても、タローと一緒にいたいから着いて行きたいだけなんやろ」
「お互いにプラスなはずよ」
「せやな」
そう言って2人はガッシリと握手している。
いや、なんでそうなるんだ?
ツッコむ守護騎士は……あぁ、僕の件でリインとザフィーラが交渉中だし、シャマルはまだ美由希さんと凹んだままだ。
と言うことは……。
「あたしに言っても無理なの分かんだろ」
「だけどヴィータ……」
「そんな事より転送のゲートが出来たから行くぞ」
ヴィータの指差す方向にはアースラからの転送ゲートが出来ており、エイミィさんが迎えに来ていた。
「さー、急いで急いで。早く全部終わらせてパーティーの続きだよー」
「ふむ、エイミィ君もそう言っていることだし、このままで居るよりは良かろう。タロー君達も着いて来たまえ」
グレアムさんがそう言うと、アリサとすずかが笑顔になる。
逆にフェイトが若干不機嫌ぽいけど気にしちゃ駄目なのかな?
アースラブリッジに全員が集合した。
お仕事のため無限書庫に行っているはずのユーノやプレシアさんもその場にいた。
「あぁ、フェイト。終業式お疲れ様」
「か、母さん!?」
「もう、我慢できなくてサーチャーでずっと見ていたわ!」
プレシアさんはフェイトに抱きつき頬ずりしながらそんな事を言っている、フェイトもプレシアさんにくっつかれるのは嫌ではないらしく、ニコニコしている。
「いや、仕事しなよあんた」
「そうなんだよ。お陰で僕の手間が余計に増えてさ……」
「すいませんユーノ。うちのプレシアが……」
アルフの冷たいツッコミに対してユーノが呟き、ユーノに平謝り状態のリニス。
むしろリニスが仕事してプレシアさんが普通に出席したほうが良かったんじゃないか?
「テスタロッサ家は放っておいて、エイミィ説明を」
「はい」
クロノの言葉にエイミィが説明を始める。
突如大量に発生した謎の結界について、現地で直接結界を調べる担当と、送られてきたデータ等から解析する担当を分けるとのこと。
「ユーノ君にいっぱい情報持ってくるの」
「母さん、頑張ってきます」
「私はどちらかと言うと後方なんやけどな〜」
「はやてご安心下さい。私達がお守りいたします」
「そうだよ。はやてはあたしらの後ろにいればいいんだからさ」
「守護獣として何人たりとも指一本触れさせません」
現地調査に行くのはなのは、フェイト、はやて、シグナム、ヴィータ、ザフィーラの6名。
後は二次戦力と解析担当になる。
その6名を見送ると、ブリッジに残ったのはアースラスタッフ以外では僕とアリサ、すずかとグレアムさんだけとなる。
「彼女らの持ってくる情報次第で多作を練れればいいんだが……」
「大丈夫ですよグレアム提督。彼女たちは既にエースといっても過言ではない実力を持っているのですから」
「そうだったな。信じて待たせてもらおう」
そう言ってグレアムさんは席につく。
僕達も席を用意して貰ったんだけど、何となく座る気になれなくてアースラのモニタに写される6人を見ていた。
30分も経つと出て行った6人のそれぞれから連絡が入り始める。
「……みんなと同じ姿の敵ですか」
「エイミィ、彼女らが嘘を言うわけがないんだ。僕達はそこから解析して行かなければならない」
「そうよ、クロノの言う通りだわ。なのはさんたちは引き続き結界を回ってください」
リンディさんの声になのは達が返事をして移動を始める。
ジャミングでもあるのか、こちらのモニタでは結界内が見えず、どんなことが起きているかは良く分からない。
だけどなのは達が言うにはみんなと同じ姿の敵がいて襲いかかってくる。
そして倒すと消えて行くと言うものだ。
「しかし、一体何なのだ……」
「ユーノ君とリーゼ姉妹、リニスにアルフの5名は無限書庫に到着しました。こちらから直接回線を開いてデータの共有を開始します」
グレアムさんのつぶやきにエイミィさんが答える。
残ったメンバーはアースラで解析をしているけど果たして……。
「謎解きは俺は苦手なんだがな」
「だいたい私達2人は管理局に属してすら居ないのだぞ」
「もぅ、2人ともそんな事言わないの」
クロイツとリインが文句を言い、シャマルがそれをなだめながらブリッジに入ってきた。
「3人ともどうしたのかしら?」
「いえ、ここの解析ルームじゃ文句を言う人がいるので……」
リンディさんの問いにシャマルが自分の後ろをチラチラと見ながらそう言う。
シャマルの後ろには立っているのはプレシアさんだ。
「あの部屋じゃフェイトの雄姿が見えないじゃない。ブリッジでも十分解析できるからここに居させなさいよ」
「あなたねぇ……最初出会った時と随分正確変わったんじゃない?」
「娘に情熱を注ぎ込むのは親として当然よ。リンディだってそうでしょ」
呆れるリンディさんの言葉を全く気にせずプレシアさんはそう言って空いている席に座る。
「当たり前よ。うちのクロノは可愛いわ」
「ちょ!? か、母さん……艦長!」
「何言ってるの? ウチのフェイトのほうがカワイイに決まってるじゃない」
「あーあ、また始まっちゃった……」
見えない火花を飛ばすリンディさんとプレシアさん。
そして恥ずかしそうに顔を赤らめるクロノと呆れているエイミィさん。
仕事中なんだけどなー。
「2人ともやめたまえ」
「「グレアム提督……」」
けっして大きな声ではないが、ブリッジ内にしっかりと聞こえるグレアムさんの声に2人は顔を合わせる。
「そういう事は言い争っても仕方が無いだろう」
「は、はい……」
「すいません……」
流石に2人は自分の親ぐらいの年齢の人に怒られて大人しくなる。
「大体だね……うちのはやて君のほうが可愛いじゃないか」
「「え!?」」
「いいかね、はやて君は……」
「再度、なのはちゃん達からデータ送信です」
グレアムさんが語りだしたのをぶった切って、エイミィさんが通信を繋げる。
残念そうな顔をしつつ大人しく仕事に集中し始める3人。
親になるとあーなるから大変だよなー、なんて思っていると僕の服の裾を誰かが引っ張っている。
そっちを向くとアリサとすずかがジト目で僕を見ていた。
「ねぇ、タロー。時空管理局ってこれでイイの?」
「ちょっとだけ不安になるよね」
「いや、何て言うか……プライベートと仕事は違うんだよ」
「「今、仕事中よ(だよ)」」
僕の言い訳もアリサとすずかには通用しない。
と言うか、僕のせいじゃないのに何で僕が責められているんだろうね?
みんな仕事してくださいよー。