第14話 闇の残滓
親馬鹿3人を放置して、リインとクロイツ、そしてシャマルは現場からのデータを受取り、解析を始めている。
「折角ブリッジに来たのに、これじゃフェイトが見えないじゃない……」
それを横目にボソリと呟いてるプレシアさん。
何と言うか、出会った時から比べて随分と性格が変わったなー。
変わった先からブレないけど……。
「そんな事言うなら、相手の結界ごと自分の結界で包めば良いだろ」
「それよ!」
ジト目で文句を言ったクロイツの言葉に反応して、ブリッジからプレシアさんは出て行ったけど何しに行ったんだか。
「クロイツの意見は、なかなか面白いわね。結界強度次第では相手のジャミング付き結界を無効出来るわ」
「そうは言うがシャマルよ。普通の魔力量では……そう言えばプレシアは魔導師ランクSSだったな。無駄にハイスペックな親馬鹿だ」
「リインも随分と口が悪くなったわね……」
リインの言葉にシャマルはため息を付いている。
だけど家の環境が人を変えるとか言うんだから、原因は八神家にいるシャマルにもあるんじゃないかな?
「艦長! アースラデッキ上にプレシアさんが……」
エイミィさんがそう言うと、ブリッジのモニタにプレシアさんが映しだされた。
若干禍々しい感じのする巨大な杖を片手に、露出度の高い紫色のドレス……初めて見た時のプレシアさんの格好だ。
それを見てリンディさんが頭を抱えてる。
「本当にやるのねプレシア……」
「広域封時結界が発動します!」
アースラを中心として数十kmが結界に包まれたみたいだ。
それによってモニタに今まで映っていなかった現地調査に行った6人が映し出される。
「なのはちゃんたちが戦ってる相手……」
「色違いのなのは達?」
すずかとアリサの言葉通り、なのは達の相手はなのは達のコピーみたいなものだ。
色違いだから意外と分かりやすいし、本人よりは弱そうだね。
「おい、クロイツ……」
「あぁ、あれは……」
「リイン? クロイツ? 2人とも何か知ってるの?」
シャマルの言葉にブリッジに居る全員がリインとクロイツに集中する。
その視線を受け、2人は頷き口を開く。
「今、皆が戦っているのはコピーのようなものだ。それはオリジナルあってこそのコピー……」
「そのオリジナルのデータを蒐集したモノがある。私達の夜天の魔導書……いや、闇の書がな」
クロイツとリインの言葉にみんな驚いている。
確かになのは達だけでなく、蒐集したゼストさんやヴェロッサさんも敵としているもんな。
「じゃあ、アレは闇の残滓とでも言うわけ?」
「そうだ。勿論蒐集した相手だけではなく闇の書に存在した私達6名や、リンカーコアをリンクさせて居たはやての姿もあるがな」
シャマルの質問にリインは答えるけど……。
「それが分かるなら解決策も分かるの?」
「いや、タローよ……。それが既に闇の書は存在していないため、俺達には分からぬのだ。あるいは夜天の魔導書を解析でもすれば、そのヒントがあるかも知れないが……」
クロイツは顎に手を当てて考えこむ。
そう言う物をここで解析できそうな人は……。
「あぁ、こんな所で結界張ってたらモニタが見えないわ!?」
アースラのデッキ上でアホな事を言ってるプレシアさんぐらいか。
僕と同じ事を思ったのか、リンディさんがため息を付いているよ。
「エイミィ。キミでは無理かい?」
「さすがに夜天の魔導書は無理だよクロノ君……」
「そうか。それなら無限書庫からユーノを呼び戻すしか無いな。エイミィ!」
「はいはいっと。お任せー」
クロノとエイミィは要領良く話を進めて行く。
さすがは執務官と補佐だね。
「すまないが私は少し席を外すよ」
そう言ってグレアムさんは立ち上がり、ブリッジを出て行こうとする。
「提督、どちらまで?」
「私も少しは働こうと思ってね」
「提督?」
リンディさんの言葉に笑いながら答え、グレアムさんはブリッジを出て行った。
「クロノくん。はやてちゃんにも連絡とったよ」
「ありがとう。これで何か分かるといいんだが……」
エイミィさんとクロノは更に動いている。
ホント真面目だね。
しばらくするとはやてとザフィーラが現場から戻って来た。
それに合わせてたのかは分からないけど、ユーノも無限書庫から戻ってくる。
なかなか良いタイミングで揃ったなー。
「それで、私は夜天の魔導書を出せばええんか?」
「そうだね。1度書き換えを手伝って仕組みとかは分かってるから、そこまで時間はかからないと思うんだけどね」
「了解や。ほな、出すで〜」
「こっちもデバイス展開」
そう言ってはやての前に夜天の魔導書が現れた。
そしてそれを包み込むようにユーノのデバイス“天使の梯子”が展開されて解析を始める。
「俺達も手伝おう。多少は効率が上がるかもしれない」
「我々の元となったものだ。手がかりを見つけだせるかも知れぬ」
「じゃあ、私はそれをリンクさせますね」
クロイツとリインはユーノの解析を手伝い始め、シャマルはデバイス“クラールヴィント”がその3人を繋ぐ。
へー、これでみんなの情報がリンクできるんだー。
「やっぱり魔法って便利だね」
「むしろ魔法以上に魔法みたいなことをやってるタローに、言われたくないと思うわよ」
「うん。何て言うかタロー君の場合、魔法よりも奇跡みたいな分類に入りそうだけどね」
「すずか、それは良く言い過ぎよ」
そう言ってブリッジは軽い笑いが広がる。
えっと……僕が馬鹿にされているんだよね?
「「気にしない気にしない」」
まぁ、アリサとすずかがそう言うなら気にしなくて良いか。
そんな事を思いながらモニタをふと見ると、闇の残滓というべくコピーの大群が……?
「艦長! 闇の残滓がアースラに向かって来ます。その数20!」
「え!? 外にいるなのはさん達は!?」
「なのはちゃん以下4名は各個に戦闘をしていますが、なにぶん数が多くて……」
エイミィさんとリンディさんが少し焦った会話をしている。
もしかしてはやてとザフィーラを、アースラに戻したからだったりして。
「艦長。闇の残滓の目的は、結界を上書きしたプレシアさんかと推測されます。まずは僕が出てアースラを防衛している間に、なのは達を呼び戻してください」
「そうね。クロノ執務官、頼めるかしら」
「はい!」
「私も行こう。リインフォース達と違って、解析とかには向かんからな」
「待って下さい!」
リンディさんの言葉に、クロノとザフィーラがブリッジを飛び出して行こうとするが、それを遮るエイミィさんの声。
「アースラ正面にグレアム提督が……」
続くエイミィさんの言葉にみんながモニタに視線を集める。
そこには管理局のバリアジャケットを身に纏い、杖の形をしたデバイスを持ったグレアムさんが映っていた。
「て、提督!?」
「あぁ、リンディ艦長。あまり若い子ばかり働かせるのも申し訳なくてな。しばらく私が持ち堪えよう」
「で、ですが……」
「なぁに、これでもまだ現役のつもりだよ。それにリーゼ姉妹はクロノに譲ったから、自分の魔力は全て自分で使えるしね」
そう言って自分の足元を杖でトンと叩く。
その瞬間、空中に100を超える魔力の刃が現れた。
あの魔法はクロノが使ってるのを見たから分かるけど、スティンガーブレイド・エクスキューションシフトだね。
「さて、久しぶりの戦闘だが……加減は出来んぞ」
『Stinger Blade Execution Shift』
魔力刃が雨のように向かってくる闇の残滓達に降り注ぐ。
闇の残滓達はそれをデバイスや魔法で防ごうとするが、その瞬間そこで爆散する。
周囲の視界が悪くなっているけど、そんな事は全く気にせずグレアムさんは再び足元を杖で叩く。
そうすると数十個の魔力スフィアが形成された。
「クロスファイアシュート」
『Cross Fire Shoot』
その魔力スフィアは、視界が悪くなっている中でもしっかりと闇の残滓達に向かって誘導され、闇の残滓達の死角から撃ち抜いて行く。
まさに圧巻……その2つの魔法で消滅しなかった闇の残滓は、新たに撃たれたクロスファイアシュートによって撃墜された。
「流石は“時空管理局歴戦の勇士”と呼ばれるだけのことはある……」
「この調子なら僕にリーゼ姉妹を預けなくても良かったんじゃないか?」
ザフィーラとクロノがモニタ見ながらそう呟く。
「そう言えばグレアムさんの魔導師ランクってどれぐらいなの?」
「……SS+」
ふと疑問に思った僕の言葉にエイミィさんが答えてくれる。
それってプレシアさんのSSよりも上って事だよね……。
「グレアムおじさんって凄かったんや……」
「無限書庫でのデータでは、若い頃からリーゼ姉妹を使い魔として従えていたとなってたよ。それがない今が単独での全開戦闘になるのかもしれないね」
モニタでは更に現れて行く闇の残滓を、どんどん迎撃しているグレアムさんが映っている。
本当に凄い人だなー。
「エイミィ。グレアム提督が闇の残滓を倒している間に、なのは達を呼び戻してくれ」
「う、うん。でも、この調子ならグレアム提督1人で充分な気がする……」
そう言いながらもエイミィさんは、なのは達へ通信している。
みんな怪我とかしてなければいいけど……。