第15話 4基のマテリアル
ユーノ達が夜天の魔導書を解析し始めてから30分。
外で戦っていたなのは達も一時アースラに戻ってきた。
そのためプレシアさんもフェイトと話すと言って、艦内に戻って来てしまったため、現在プレシアさんの代わりにザフィーラと、無限書庫から呼び戻したリーゼ姉妹が広域封時結界を張っている。
「つまり3人がかりじゃないと、プレシアさんクラスにならないって事?」
「プレシアさんが凄いって言うべきか、3人でそれが出来るのが凄いって言えば良いのか悩むわね」
すずかとアリサがモニタとフェイトに抱きついているプレシアさんを見比べながら、そんな会話をしている。
まぁ、使い魔組が頑張ってるってことで良いんじゃないかな?
「艦長。グレアム提督はずっと戦いっぱなしなので、そろそろ休ませたほうが良いかと思いますが……」
「そうね。提督が下がったらクロノに出てもらうわよ」
「了解しました」
クロノとリンディさんがそんな話をしていると、夜天の魔導書の周りを覆っていた“天使の梯子”が元の形に戻って行く。
ってことは……。
「解析、終了しました」
「やれやれ、中々に苦労させられた」
夜天の魔導書を中心に解析を行なっていたユーノだけでなく、ボヤきながらクロイツとリインも出てきた。
随分と疲れている様子だね。
「それにしてもユーノの解析能力は素晴らしいな」
「い、いえ……それほどでもないんですけど……」
「謙遜することはない。明らかにこの中で君が一番優れている」
リインに褒められてユーノが照れている。
夜天の魔導書をはやてに渡すとそんな表情から一転、真面目な顔になって口を開いた。
「とりあえず簡単に説明させてもらうけど、今アースラの外でグレアムさんが戦っているのが闇の残滓と言う分類。闇の書で蒐集された人物の複製品。いわば劣化コピーって言った所で、本人並の能力があるわけでもなく、自我もないのは見ての通りです」
ユーノの言葉にブリッジに居るみんなは頷く。
確かに本人と同等の強さを持っていたら、グレアムさんだけで押さえられないよなー。
「そして、この劣化コピーの元となるオリジナルコピーと言えば良いのかな? 劣化コピーがいなくなればオリジナルコピーが出てくるといった仕組みだけど、それを出すのが最初の段階だね」
「まぁ、ここにいるメンバーで蒐集されていない者の方が少ない。最低限自分のコピーと事を構える覚悟をしなければならん」
「そしてオリジナルコピーには中心ともなるべき“王”と、知性を司る“理”に、振るうべき“力”と制御すべき“守”の4つとして存在します。それは特殊な方法でなければ消滅させられない」
ユーノの説目を引き継ぐようにクロイツとリインが口を挟む。
要するにみんなのコピーと戦う事になるってことか。
魔導師ランクが高い、プレシアさんやゼストさんのコピーもいるとなると大変そうだねー。
「そんなら
「蒐集されてない者たちで劣化コピーを倒し、オリジナルコピーと同等の戦力を確保しておくという方法、または全員で協力して全体の消耗を抑える方法ぐらいかしらね」
「前者やとグレアム提督とリーゼ姉妹、アルフの負担が大きいんやないか?」
「そうなのよね。しかもここにはいない聖王教会の人達のオリジナルコピーが出てくると、さらに数の上でも不利になるわ」
はやてとリンディさんが作戦を考え始めるけど、なかなかうまく行かないようだ。
そこにクロノ達も入って話し合いが始まる。
だけどアリサとすずかは話に入れずモニタでグレアムさんを見ているだけ。
「ねぇ、タロー君」
「何?」
「グレアムさんが戦ってる相手……誰のコピーなのかな?」
「しかもグレアムさんが劣勢っぽいし……」
「へっ?」
すずかとアリサにそう言われ、僕もモニタを見る。
そこに映っているのはグレアムさんと、白いスーツの様な服装に白い仮面を付けた男性らしき人。
蒐集には僕が全て立ち会ってるけど、あんな人は見たことがない。
「相手が強いと言うよりは、グレアムさんの癖を知っていて、その隙を付いているような攻撃をしている気がするね」
「そんな事、劣化コピーに出来る事なの?」
「僕に聞かれても、そう言うのは専門外だよ」
「まぁ、タローにそういうこと聞くのは無駄だったわね」
アリサの一言が酷い……。
グレアムさんは仮面の魔導師と魔法を撃ち合い、接近してデバイスで打ち合うを繰り返してるけど、疲労もあってグレアムさんが押されてる。
仮面の魔導師の弾幕をくぐり抜け、グレアムさんのデバイスが仮面を弾き飛ばす。
その瞬間、グレアムさんの顔が驚きに染まる。
「き、キミは……」
「それは大きな隙ですよ提督」
動きの止まったグレアムさんに、仮面の魔導師はデバイスで触れる。
「凍てつく棺にて眠れ! アイスコフィン」
『Ice coffin.』
その魔法が発動するとグレアムさんが氷の中に閉じ込められて行く。
話し合いをしていたみんなもそれに気が付き、モニタを食い入る様に見ていた。
「これでこちらの手札にはない“時空管理局歴戦の勇士”は封じた」
「く、クライド……」
「いえ、今の私は“
グレアムさんからデバイスを離すと、完全にグレアムさんは氷の棺に閉じ込められた。
多分このアースラで最大戦力のグレアムさんがこうなると言うことは、アレは劣化コピーじゃなくてオリジナルコピーということかな。
「おかしいわ! クライドは蒐集されてないのに、なんであそこに居るのよ!?」
「分かりません。ですが護り手と言う以上、4つのコアの1つと考えられます」
リンディさんの叫びに、ユーノが冷静に答える。
そんな中、クロノがブリッジから走って出て行く。
「クライド君!」
「お前、何やってんだよ!」
リーゼ姉妹が結界を張りつつも、クライドさん……いや、白銀の護り手に話しかける。
白銀の護り手はリーゼ姉妹に視線を送るけど、何も答えない。
「クライド!」
「しつこいですね。先ほどから言っているように、私はクライドではありません。紫天の盟主を守護する4基のマテリアルが1基“白銀の護り手”です。そして……」
「高魔力反応!? 攻撃魔法……後6秒」
白銀の護り手が名乗ると同時に、ブリッジでエイミィさんの叫び声が木霊する。
モニタには画面いっぱいに「EMERGENCY」の文字が出る。
「やらせるものか!」
「ザフィーラ!?」
エイミィさんの声で最初に反応したのは艦外に居たザフィーラだ。
全力で防御魔法をアースラの上に張ると、そこに火を纏った砲撃魔法がぶつかる。
「ぐぉおおおおおお!!!」
艦内を襲う衝撃。
数秒なのか、数分なのか分からないぐらい続いた砲撃が止むと、爆煙の中でザフィーラが立っていた。
ただ、両腕は酷い火傷になっている。
「今のを防ぐとは、さすがは盾の守護獣と言ったところでしょうか」
「シュテルンが手加減したからじゃないの?」
「私はあの船を落とすのに対して、手加減するほど愚かではありません」
「そっかー。じゃあ、あのワンコが凄いんだー」
随分と軽い調子で喋りながら、上空から2人の女の子が降りてくる。
その姿はまるで……。
「なのはとフェイトの色違い?」
なのはの白いバリアジャケットを黒っぽくした少女と、フェイトの金髪が青色になった少女だ。
「あぁ、色違いのフェイトも可愛いわ」
「母さん……真面目にやって」
「ご、ごめんなさいフェイト……」
いつものように親馬鹿を発揮したプレシアさんだけど、フェイトに怒られてシュンとしている。
いや、一応今は非常時だから、そう言うのは後にしましょうね。
「紫天の盟主を守護する4基のマテリアルが1基“
「僕は強くてかっこいい“
アースラの艦上に立ち、2人はそう名乗る。
なのは似のがシュテルで、フェイト似のがレヴィって事かな?
そんなことを思っていると、ブリッジ……いや、アースラそのものに衝撃が走る。
「エイミィ、何があった?」
「アースラの動力炉にダメージ!? このままでは飛行を維持出来ません!」
「くそ! 一体誰が……」
エイミィさんの答えにクロノは苛立っている。
まぁ、落ち着けといっても無理な話なんだろうけどさ。
「アレックスくんとランディくんは艦の維持! 上手く海に着水させて」
「「はい!」」
「ギャレットくんはここにいる民間人の安全確保をお願い」
「了解」
「エイミィさんはそのまま情報収集。申し訳ありませんが魔導師は全員艦上へお願いします!」
「はい」
リンディさんが指示を出すとみんな動き出す。
ユーノがブリッジからゲートを開くと慌ただしく飛び出して行く。
「タロー……」「タロー君……」
僕の左右に居るアリサとすずかが、不安気に僕の服の袖を掴む。
これは僕も外に行った方が良いのかな〜?
「さあ、君達はこっちの席でシートベルトで身体を固定して」
ギャレットさんが僕達の方へ来て席へ誘導してくれる。
僕ら3人は席の方へ歩いて行くけど、みんなのことも心配なんだよね。
「タロー?」「タロー君?」
急に立ち止まった僕にアリサとすずかが声をかける。
そんな2人にあまり得意じゃないけど、僕は笑顔を向けた。
「大丈夫。ちょっと僕も行ってくるよ」
僕の笑顔で少しだけ安心してくれたのか、2人はコクリと頷いてくれた。
ゲートは既にみんな通り抜け、最後の1人としてユーノがゲートを通ろうとしていたので、そのままユーノと一緒にゲートをくぐる。
「タロー!?」
「僕もお邪魔するね」
ユーノは一瞬だけ驚くけど、またかと呆れた表情になる。
そんなに僕は変なことしてるつもりはないんだけどなー。