第16話 砕け得ぬ闇
僕とユーノが艦上へ到着すると、僕達側と対峙するように
さっきと違って新たにもう1人増えてるけど、その姿は……やっぱりはやての色違いだよね。
「ほう、これで塵芥共は全員揃ったといったところか? 我は“
「お願いやから私と同じ姿して、そんな口調で喋らんといて……」
自分と同じ姿のディアーチェが偉そうに喋るのに耐えられないのか、はやてが頭を抱えている。
まぁ、色違いとはいえ、自分がそんな風に喋ってたら辛いよね。
「ま、まぁ、はやて……私の方よりマシだと思って……」
「なんだとオリジナルー! このサイキョーで、カッコイー僕に対して何を言うんだよー!」
フェイトがはやての肩に手を置いて慰めているけど、それは明らかに相手に対する挑発だよね。
明らかにレヴィが怒ってるもん。
でも、そんなフェイトとレヴィを見て喜んでるプレシアさんがいるんだけどさ。
「私のは普通で良かった……」
「高町なのは。逆に私と同じ姿で脳天気そうな貴方に言われたくはありません」
「うぅ……酷い言われようなの……」
1人ホッとしていたなのはだけど、シュテルに逆に言われ凹んでる。
それをユーノが慰めようとオロオロしてるんだけど、ちゃんと行動を起こさないとだめだよなー。
まぁ、これぞまさに三者三様の反応ってやつなんだろうか。
「と、父さん……」
「ふむ、何度も言うようだけど私は“白銀の護り手”ですよ」
そんな3人娘の反応を放置して、クロノがクライドさんに話しかけている。
だけど、そっけなく返されてしまってるね。
リーゼ姉妹もなにか話したそうにしているけど、さっき冷たく返されたから難しそうだな。
「ディアーチェ。オリジナルと遊んでいないで、そろそろ動いて貰っても良いですか?」
「うむ、小鴉と遊んでいても時間の無駄だったな」
クライドさんの言葉にディアーチェがはやてを馬鹿にしたように笑う。
それを見てはやてが怒らないわけないよね。
「なんやて!」
「はやて、落ち着いて」
「せやけどヴィータ……」
そんなはやてをヴィータが宥めているのは違和感があるな。
どっちかって言うとヴィータのほうが先に怒りそうなもんだけど……。
「まずは王として配下の者を呼び出すとしよう」
「さすが王様、すごーい」
ディアーチェがそう言うと、緊張感のないレヴィが合いの手を入れる。
そして指を鳴らすと複数の魔法陣が現れ、そこに人が現れていく。
現れたのは守護騎士達や、プレシアさんやクロノ達。
若干色素が薄いというか全体的に色が違うけど、外見上の変化は殆ど無い。
「蒐集した者達をデータとして再現してみたが、意外と上手く行くものだ」
そう言ってディアーチェは楽しそうに笑う。
魔法陣はまだまだ増えていき、ドンドンと召喚されて行く。
「……多いよね」
「……多いな」
「……多すぎじゃね」
守護騎士達が呟くけど、確かにすごい人数だ。
「闇の書に蒐集された人と考えると、ここにいるメンバーだけでなく聖王教会の人々がいるから、すごい人数になるんだろうね」
「更に実力者であるゼストさんや、ヴェロッサとか騎士カリムまでいるのか」
ユーノとクロノが分析してるけど、ゼストさんって凄い強かったよなー。
既に人数で僕達が劣勢なのに、どうしよう?
「聖王教会の騎士程度ならどうとでもなるが、あの男は危険だ」
「幸いなのは蒐集された時のままということか。あのシュテルとレヴィのデバイスには、なのはやフェイトのデバイスのようにカートリッジシステムが導入されていない」
「しかし、そんなものがなくてもシュテルの砲撃は脅威だぞ。炎熱変換能力もあるため、俺の両手はこのザマだ」
クロイツとリインが話をしている所に、両腕を熱によって負傷しているザフィーラがやってきた。
その腕を見てシャマルが回復魔法をかけ始める。
「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神……」
だけど向こうはもう待ってくれない。
ディアーチェに召喚されたコピー達がデバイスを構え、その一番後ろに位置しているプレシアさん(偽)が聞き慣れた詠唱を始めた。
「あかん! このままではアースラも巻き込まれる」
「はやての言うとおりだ。全員散開し、アースラから離れろ!」
はやての言葉にクロノが皆に命令を下す。
それによって全員が飛行してアースラから離れて行く。
「アースラの守りは私が出るわ。エイミィさん、アースラの魔力を私に!」
「はい、艦長!」
「ディストーションシールド!」
背中に妖精のような羽を4枚生やしたリンディさんが、アースラに防御魔法をかける。
それにしても……。
「アッサリとここに置いていかれましたね」
「うん。まぁ、わかってるんだけど、飛べないって不便だよね」
「それはキミが魔導師ではないからでしょう」
敵側であるクライドさんにそう言われるのは非常に情けないんだけど、僕はアースラの上に立ったままだ。
コピー達も散開して、みんな上空で戦闘を始めていた。
直接剣を交えたり魔法が飛び交っている中、僕の目の前には4人のマテリアルが立っている。
「君達4人は戦わないの? さすがに4人がいなければ僕達の方が有利だよ」
「確かにそうです」
僕の言葉にシュテルが返事をする。
だけどデバイスすら構えず立ったままだ。
「それに僕だって飛べなくてもここからやれることはあるんだよ」
僕が白球を握り締めると、さすがにマテリアル達もデバイスを構える。
「貴方の力、闇の書を通して我々は知っています」
「凄い強いんだよね」
シュテルとレヴィの言葉から分かるように、今までのことは見られていたと言うことなのかな?
「つまり僕と次元野球をしたいと」
「そんなことは誰も言っておらんわ!」
「あれ?」
僕の言葉にディアーチェが怒鳴る。
おっかしいなー?
「ホントこんな場面で非常識な人ですね」
「あっはっは。タローって面白い」
「レヴィは笑っておる場合か!」
何だか酷い言われようなんだけど……まぁ、いいか。
「さて、オリジナルが勝つかコピーが勝つか。それだけの戦いではないですけど、まずは1番のイレギュラーを、私達の手でどうにかさせてもらいますね」
クライドさんの視線が僕に向く。
僕の手にある白球をみんなの方へ、とりあえず一発投げつけようかと思ったんだけど……。
「一之瀬太郎……貴方は明らかに異常だ。夜天の書作られた太古から今まで出会ったことのない存在。どんな攻撃も受け止め、打ち返す……」
「えっ、異常?」
クライドさんの随分な言葉に返事をしたら、無言で他のマテリアル達が頷いてる。
微妙に周りで戦闘をしているみんなも頷いている気がするけど、ちょっと酷いんじゃない?
「そうだよイレギュラー。この世界の異端。最強にして最凶。攻撃では防がれてしまうからこそ、攻撃ではないこれをキミに与えよう……」
クライドさんがそう言うと、マテリアル達が僕を中心にして四方に移動する。
そしてその足元に魔法陣が現れると、僕の足元には正三角形を組み合わせた六芒星が回転し始めた。
はやてを中心に六芒星が回転して、その後守護騎士が現れた闇の書が起動した順番と逆のように……。
「システムU-D……砕け得ぬ闇よ起動せよ!」
「そして“永遠結晶エグザミア”よ。彼の者を“無限連環機構”に取り込むが良い!」
僕を中心に描かれた六芒星の頂点から黒い光が天に伸び、僕を闇の球体が包み込む。
あれ? 捕まっちゃったのかな。
「暖かな温もり、心地良き夢……」
僕が闇の球体から出ようとすると、クライドさんの言葉が聞こえてくる。
何かされてもいいように、とりあえずグローブを出して手にはめておこう。
動かないでその場で警戒していたんだけど、いつまで経っても何かが飛んでくるわけでもない。
「狭いから出るかな」
闇の球体を手で触れると、ズムムと言う音が聞こえるような感じに、腕がその闇に沈んでいく。
腕を抜こうと引っ張ると闇ごと僕の方へ出てきて、腕が開放されない。
「眠りをもたらす安らかなる闇に沈め」
クライドさんの言葉が聞こえると、僕は急激に眠くなって行く。
そして徐々に周りの闇が僕を包み込んで行くけど、けして嫌悪感や敵意を感じることはない。
まるでそこにいるのが当たり前のような……。
※
「……だよ…お……よ」
なんだかとても懐かしい声が耳元で聞こえ、誰かが
でも、これは逆に眠気を誘う動きだよ。
「休みだからって、いつまでも寝てないでよ」
「ん~?」
身体を揺するのが止まった瞬間、シャーと言う音と共に閉じた目に光が差し込む。
誰だカーテン開けた奴は!
「ほらほら、
「ああ、分かったよ
「分かれば良いんです。ちゃんと顔を洗ってリビングへ来てくださいね」
足音が部屋から遠ざかって行く。
仕方なしに重たい瞼を開けると、部屋のカーテンが開いているだけでなく、窓までバッチリと開いている。
当然、俺にかかっているはずの布団はなく、春先とはいえ冷たい風が吹き込んできていた。
「起こすためとはいえ、コレはないだろ。ったく、手加減のない妻だ」
俺は頭をポリポリとかき、アクビをしながらベッドから起き上がる。
ちゃっちゃと怒られる前に顔だけでも洗うとするかね。
「おとーさん遅いよー」
「悪い悪い。布団が俺を手放してくれ無くてな」
顔を洗ってリビングへ行くと、既に食卓には料理が並び、息子が椅子に座って待っていた。
「今度僕もその言い訳使って良いー?」
「
「僕、赤ちゃんじゃないもん! おにーちゃんだもん!」
愛美の言葉に明はプーッと頬を膨らませる。
「おいおい、明だって流石に小学1年生になったのに、オネショはしないだろ」
「そうでもないのよ孝助さん。この間……」
「わーわー! おかーさん、おとーさんには言わない約束だよー」
愛美の言葉を遮るように、明は一生懸命小さい手で愛美の口を塞ごうとする。
そんな明に思わず俺と愛美は笑ってしまった。
「そうだったわね。それじゃ内緒って事で」
「俺には内緒か……。寂しいなぁ~」
「むぅー。で、でも内緒なんだもん!」
愛美の言葉に俺がわざとらしくそう言うと、明はどうしようか少し悩む。
だけど恥ずかしいのか、内緒だと言いはるが、話の流れ的にオネショしたんだろうな。
俺が愛美を見るとアイコンタクトで俺の想像があってることを伝えてくる。
「それより飯にしようか」
「そうね。ほら、明」
「はーい」
「それじゃ……」
「「「いただきます」」」
みんなで声を揃え、手を合わせてから食事を開始する。
「そう言えば今日はどうする?」
「お買い物ー!」
僕の質問に間髪入れずに明が答える。
反射的に答えているんだろうけど、買い物に行けば何か買って貰えるとでも思っているんだろうな。
「そうね、私は買い物で良いわよ。スポーツ用品店で明の入学祝いに買ってあげましょ」
「なになに? 何買ってくれるの?」
明が身体を乗り出して俺に聞いてくる。
1年生の入学祝いでスポーツ用品か。
「それならグローブでも買って、俺とキャッチボールするか?」
「グローブ?」
「……孝助さん?」
俺の言葉に2人は驚きの表情を浮かべ、不安気に見つめてくる。
「ど、どうかしたのか?」
その雰囲気が変なせいか、それとも今起きている軽い頭痛のせいか、言葉がどもってしまう。
「いえ、孝助さんは学生時代ずっとサッカーをやっていましたから、明にはサッカーボールを買ってあげると思ってたので……」
「おとーさんとサッカーの試合を見に行った時、サッカーボール買ってくれるって言ってた」
「……そっか、そうだったな。うん、ごめんごめん。ちょっと間違っただけだよ」
そうだ、俺はずっとサッカー1本でやってきてたんだ。
国立の地にも立ったし、就職した消防でもサッカーをやってる。
うん、なんでそんなことを忘れて
「もぅ、しっかりしてくださいな。近所の人が親子でキャッチボールしてるのが羨ましかったんでしょ」
「そーいえばゆーすけ君、おとーさんとキャッチボールしたって言ってたー」
「……うん、そうだね。親子のコミュニケーションはキャッチボールって感じだったからだな。俺も親父とやったんだぞ」
「おじーちゃんと?」
「うん、そうだ。その時は野球じゃなくてソフトボールだったな。まぁ、サッカーボールでもキャッチはしないけど、キャッチボールみたいなのは出来るから問題ないさ」
「うん、楽しみー」
なんだ?
なにか変だな。
昨日仕事して今日は休みだ。
だから疲れが取れてないだけか?
「それじゃ、お片づけが終わったらお買い物に行きましょうね」
「はーい!」
思考の渦に沈んでいきそうな俺だったが、愛美の言葉でハッと我に返る。
そうだ、今日は折角の休みなんだから、家族サービスしつつ楽しまなくっちゃな。
だから俺は今日、家族で買い物に出かけ、そこで購入したサッカーボールを使って、明とサッカーをして遊んで過ごす。
その日が終わる頃には頭痛も治まっていた……。