第18話 開放
『いや、それはおかしい!』
せっかくの名乗りにみんなが全力でツッコミを入れる。
ユーリを含めたマテリアル……うーん、紫天一家は本気でツッコミを入れてるが、僕を知ってるみんなは思い切り笑ってるんだけどね。
「まぁ、それは良いとして……」
「良くないわ!」
「クライドさん」
「我を無視するなー!」
なんだかディアーチェがウルサイけど、放置して僕の気になったことを口にしよう。
「貴方の中に魂が2つ感じるんだけど、そのうちの1つがサークレットからなんじゃない?」
「!?」
クライドさんだけでなく、他のみんなも声を失う。
半分以上は僕が何を言っているか分からないと言う感じなんだろうけどさ。
「さっきまで……起きるまでは全然気が付かなかったんだけどさ。寝たから頭が冴えたのか、そのサークレットからすごい違和感を感じるんだよね」
クライドさんは現れた時からずっとサークレットをつけていた。
それが何なのか、どんな効果なのかは未だに良く分からないけど、誰かの存在を感じ取れる。
「フッフッフ……あーっはっは」
いきなりクライドさんは片手を顔にあて、大きな声で狂ったように笑い出す。
「白銀の護り手……?」
「壊れちゃった?」
シュテルとレヴィはクライドさんに心配そうに声をかけるけど、ディアーチェはサークレットを睨みつけている。
暫くの間、高笑いをつつけたクライドさんだったけど、笑いを止め顔から手をどけると表情が一転していた。
「私に気がつくとは良くもまぁ……つくづく非常識を感じさせられるよ」
「白銀の護り手!?」
「まぁ、その呼び名は正しくも正解ではない。私と彼が1つとなって白銀の護り手となっていると言ったところだよ。このサークレットには“記憶を転写する”と言う効果が込められている」
その言葉にプレシアさんの顔色が変わった。
「プロジェクトF……」
プレシアさんが搾り出すように口にした言葉に、クライドさんはニヤリと笑って話しを続ける。
「そう、大魔導師……貴女の研究成果だ。それを私なりに改良してね。私の記憶を持ったサークレットを創りだしてみたのだよ」
「ドクター……貴方が関わってるということは、この騒ぎの原因は!」
「あぁ、当然私の仕業と言ったところだよ。大体、闇の書の最深部に封印されていた無限連環機構やシステムU-D……闇統べる王ですら知らないものを、どうやって開放するというのだね」
プレシアさんの言葉にクライドさん……いや、ドクターは楽しそうに笑っている。
そう言えばドクターってどこかで聞いたことのある呼び名だよな。
「ついでに君たちは私に思考誘導されていたんだよ。大体、こんなところで顕在化した理由は? 目的は?」
「貴様!」
「あーっはっはっは。キミ達は私の操り人形の様なもの。なぜ管理局と対峙しているか、目的や理由でもなんでも良い……1つでも言えるかな?」
笑っているドクターにディアーチェがデバイスを突きつける。
「貴方を敵と認識しました」
「王様を怒らせるなんて悪い奴だー!」
ディアーチェの言葉にシュテルとレヴィもデバイスを構える。
だけどドクターは笑ったままだ。
「私に攻撃しても良いが、どうやって倒すつもりなんだい? このマテリアルの体は無限連環機構がある限り、永遠と回復し続けるんだよ」
「それでも、我らを利用した罪、万死に値する!」
ディアーチェが怒り狂っている中、アリサが僕のユニフォームを引っ張る。
「タロー、どうすんのよこれ……」
「どうするって言われても……ねぇ」
仲間割れなんだろうけど、お互いに倒せないんじゃ意味が無いよね。
でも、ディアーチェがやりたい事なら別に大変でもなんでもないんだよな。
「とりあえずタローの言葉から始まったんだから、なんとかしなさいよ」
「うーん。それじゃ、とりあえず……」
アリサの手をそっと僕のユニフォームから離させる。
そして、一歩でドクターの後ろに立ち、サークレットだけ奪い取り、一歩で元の場所に戻る。
「……こんな感じでどうかな?」
奪い取ったサークレットを指でくるくる回しながらそう言うと、みんなが「えっ!?」っと声を上げて驚く。
やっぱり体の調子が前より良いかもしれないなんて思っていると、サークレットが外れたクライドさんはその場に崩れ落ちる。
「いや……何とかしてって言った私が言うのもなんだけど、それは空気読まなすぎなんじゃないかしら?」
「さすがに一瞬で場が収まっちゃうと困っちゃうよね」
「気にしない気にしない」
「「タロー(君)がやったこと(だ)よ!」」
せっかく解決策として動いたのにアリサとすずかに突っ込まれる。
この扱いは酷いよねー。
「はいはい、タローのやることに疑問を持っても駄目よー」
「「プレシアさん?」」
パンパンと手を叩きながら、アリサとすずかをなだめてくれるプレシアさん。
言い方はアレだけで2人が落ち着いてくれればイイや。
「それでタロー。空気を読まずに場を完全に破壊したついでに、ユーリとマテリアルを繋ぐパスって守護騎士の時のように切れるかしら?」
「理由はわからないけど……ちょっとまってね」
プレシアさんの言葉に返事をしてよく見ると、前に見たようなものが紫天一家を繋いでいるのが分かる。
魔法の仕組みって良く分からないんだけど、こんな感じで良いんだよね。
「これでいいかな?」
「頼んでおいてなんだけど、相変わらず非常識に実行するわね。ユーノ、解析と確認を手伝って頂戴」
「分かりました」
見えたパスらしきものを普通に手で千切ると、ユーリから立ち上っていた魔力のオーラのようなものが小さくなって行く。
「そ、そこの男! い、一体何をした!」
「どーしたの王様ー?」
「はいはい、レヴィはこっちでお話を聞いてましょうね」
「えー。だって僕、意味が良く分からないよー?」
「普通に聞いてもわからないんですから、後でディアーチェが分かりやすく説明してくれるのを、大人しく待ちましょうね」
「はーい」
思い切り動揺しているディアーチェと、意味が全くわかっていないレヴィ。
そしてレヴィを連れて少し脇に逸れ、観客モードになるシュテル。
その間にユーノとプレシアさんが解析などを終わらせる。
「ふぅ……。見るのは3度目だけど、タローは相変わらず非常識だね」
「その非常識で救えるものが多いから、ツッコミを入れていいのか悩むのよね」
解析を終えた2人のため息が聞こえるんだけど~。
説明を求める複数の視線を感じたのか、プレシアさんは咳払いを一つしててから口を開く。
「詳しい説明は後でしっかりしてあげるから、まずは現実を見つめるために簡単な説明にするわよ」
「早くせい!」
説明を急かすディアーチェと、コクコクと頷くユーリ。
「まずは、タローが白銀の護り手からサークレットを奪ってしまったことによって、アナタ達を縛り付けるドクターと呼ばれる存在はここにいなくなった」
プレシアさんが1つ目と言って人差し指を立てる。
紫天一家マイナス1……クライドさんが倒れてるので……は頷く。
「次にタローがアナタ達を繋ぐパスを切ったので、無限連環機構は働かなくなって魔力過多による暴走や、思考回路の乗っ取りはなくなった」
プレシアさんがそう言って中指も立てる。
「ついでにサークレットが外れたことによって、白銀の護り手はドクターから開放され、元の人格として……クライドとして目が覚める可能性が高い」
プレシアさんがそう言って薬指も立てると、リンディさんやクロノがハッと驚くのが分かる。
「そして最後に……大体、タローのせいよ」
「いや、それはおかしいんじゃ……」
『おかしいのはタローです!』
責任の所在が何となく僕に来た感じがしたのでツッコミを入れると、他の全員にツッコミ返されてしまった。
むぅ……アースラの甲板をほじくってイジケちゃうぞー。
「ほら、そんな事でイジケないの」
「そんな事って……結構酷い気がするんだけど……」
そう言いながら、アリサが僕に覆いかぶさるように抱きついてきた。
「タローはタローのやれることをしてるんだから、なんて言われても平気でしょ」
「まぁ……ね」
「それなら気にしないで、ユーリたちに言いたいことを言いなさいよ」
僕の耳元でアリサが囁く。
僕はコクリと頷き立ち上がる。
「さ、そう言う訳でキミ達は自由なんだ」
「いや……どういうわけだかよく分からん……」
「ディアーチェ……この、タローのやったことは気にしても無駄のようなので、結果だけ受け入れれば良いんではないでしょうか?」
「むぅ……ユーリがそういうのであるなら……」
ユーリの言葉にディアーチェだけでなく、みんなが頷いている。
そんな事は気にしない気にしない。
「納得したみたいだね。キミ達はもう自由なんだから、キミ達のやりたいことをやっていいんだよ」
「「「「!?」」」」
ユーリ達が顔を見合わせる。
そしてヒソヒソと会話を始めるんだけど、正直なにすればいいのかわからない様だね。
しばらく相談した後に、ユーリが一歩前に出てきた。
「本当に私達は自由なのですか?」
「うん」
「まぁ、後で色々話は聞かせてもらう必要があるけど、それ以外は自由さ」
ユーリの言葉に僕が頷くと、崩れ落ちているクライドさんの様子を見ていたクロノが補足する。
まぁ、一応事件みたいになっちゃってるから、色々必要なのかもしれないけどね。
ちなみにクライドさんはリンディさんが膝枕をしている状態なんだけど、まだ目を覚ます気配はない。
「本当に何をやっても良いの?」
「人に迷惑をかけなければ平気だよ」
僕の言葉にユーリ達が顔を見合わせて頷く。
「それじゃ……あの……」
オズオズとユーリが話し始めた。
みんなの視線がユーリに集まり、何を言うのか聞き漏らさないように待っている。
「野球……やってみたい」
『はあっ?』
ユーリの言葉が予想外だったのか、みんなが声を合わせて驚く。
驚いていないのは紫天一家マイナス1と僕ぐらいか。
「えっと……」
「そう言えばタローの事を闇の書を通して知っているとか言ってたな」
「それやと、やっぱりあのクロイツを開放した次元野球が、データとしてあるっちゅうことか?」
「本当にシリアスが欠片も続かねーな」
「まぁまぁ、ヴィータちゃん。タロー君に関わったらこうなることは仕方が無いじゃない」
「まぁ、タローだしな」
「諦めも肝心かと」
「「「「「「「はぁ~」」」」」」」
はやてと愉快な守護騎士達が口々に何か言ってるけど、僕が口を出すことじゃないよね。
「どうすんのクロノ?」
「う、うん。言った以上はやるしかないさ。艦長もそれでイイですよね」
「えっ、ええ。戦闘するよりも被害が多分少ないはずだから、私は問題ないと思うわ」
「それじゃ艦長の許可も得られたので、次元野球を開始します!」
半分以上ヤケになったクロノの大きな声に、ユーリ達は喜ぶ。
人数の足りない紫天一家に僕とクロノ、リンディさんとリーゼ姉妹が混ざり、全員で次元野球が開始された……。