第5話 地縛霊?
次の日、学校に行くと眠そうななのはがいた。
昨日は遅くまで外にいたから寝不足になっているのかな?
よく見るとなのはの身体にオーラみたいなものがあり、身体に対して負荷をかけているような感じだね。
「なのは、おはよ」
「タロー君、おはようなの」
ん、こっちへの返事に違和感があるな。
例えるなら何かをしていながら返事をしている様な……。
レイジングハートもなんだか活動している感じがするね。
こんな時のために持ち歩いている野球ボールをなのはに優しく投げ渡す。
「ほい、なのはキャッチ」
「わわわ……」
なのはは驚き慌てながらもボールをキャッチする。
まぁ、取れるように回転をかけて投げたんだけどね。
「タローくん、いきなりびっくりしたの」
「ごめんごめん。でもナイスキャッチだね。ほら、投げ返してくれるかい?」
「はい」
「ほい」
「わっわっわ。えい」
慌てながらも投げ返してくれるなのは。
そのまま僕も投げ返し、キャッチボールを続けた。
アリサとすずかが来たのでキャッチボールやめ、挨拶し授業の準備に移る。
ふむ、今のキャッチボールで分かったことだけど、現在なのはとレイジングハートは魔法の特訓をしているようだね。
レイジングハートが強い魔力負荷をかけていて、一挙手一投足に魔力をするという魔導師養成ギブス。
そしてレイジングハートが送信する仮想戦闘データを元に心の中でイメージファイト。
2つ以上のことを同時に思考・進行させるマルチタスクは戦闘魔導師には必須スキルってことか。
僕も魔法が使えたらこんな特訓ができるなら、魔法が使えるのも便利でいいかな。
授業が問題なく終わり、放課後になると母からメールが入っていた。
ノムさんから連絡があったらしく、電話して欲しいとの内容だ。
「もしもし、ノムさんですか?一之瀬です」
「おぅ、イチか。わざわざスマンの」
「それでどうしたんですか?」
「おう、前にイチに言われたヘンテコな宝石のことなんだが、うちのサッチーが色々情報を集めてくれて、それにより心当たりがあるぅらしいてな。」
「え!?」
なんでも数年前に廃ビルとなった場所があるそうで、そこに数日前から幽霊が出るという噂がある。
もしかしたら関係あるんじゃないかと……。
確かに噂が出たのとジュエルシードがバラ撒かれた時期が重なるな。
ありがたい情報なんだけど、どこからこんなピンポイントで情報を見つけてくるんだか。
サッチーの情報網はどうなってんだか?
「それではイチ、何をしたいかワシはよう分からんが、あまり無理ぃせんようにな」
「ありがとうございました。それでは失礼します」
電話を切ってから、とりあえず廃ビルに向かってみる。
ちゃんと野球用品を持って行かなきゃ。
ここが噂の廃ビルか。
ビルは4階建てで、人の気配は感じられないな。
でも、何か別の気配が感じられる……。
とりあえず中に入ろうかな。
ビルの中は電気がついていないから薄暗く、放置されてから時間が立っているのか綺麗ではない。
ビルの1階、2階、3階と気配もなく誰もいない。
でも、4階に辿り着いたときに何かの気配が濃くなる。
「……誰っ!?」
いきなり女の子の声が響いた。
声の方向を見ると僕と同じぐらいの年齢の女の子が宙に浮いていた。
宙に浮いているから幽霊なんだろうけど、足があるもんなんだな。
「こんな所に何の用よ? ここは子供の遊び場じゃないわよ!」
強めの言葉に驚くが、勝手にこの子のテリトリーに入ったから怒ってるのかな?
いきなりお邪魔したんだから、まずは謝罪から始めなきゃか。
「勝手に入ってごめんね」
「え、なんでいきなり謝るのよ?」
「いや、ここ君のテリトリーなんでしょ」
「そうだけど……」
「そして自己紹介が遅くなりました。僕の名前は一之瀬太郎」
「……あんた、バカでしょ」
あれ、なんだか呆れられてるな。
なにか間違ったかな?
「あんたねー! あたしを見てまずすることが謝罪と自己紹介ってありえないでしょー!」
「ん? 他には聖祥付属小学の3年生とか、好きなものが野球というぐらいしか伝えるものがないよ」
「自己紹介が足りないなんて誰が言ってるのよ!大体こんな廃ビルの薄暗いところで、あたしが今どんな形であんたの前にいるか分かってるの!?」
「えっと、宙に浮いてるように見えるけど?」
「だったらもっと驚いて! 普通はビックリするとか! 驚いて逃げるとか、悲鳴を上げるとかしなさいよ!」
はて、なんで怒ってるんだろ?
「幽霊なら浮くのも普通に感じるけど、生きてる人間だったら凄いな〜とは思うけどね。でも、君の気配は人じゃないし……」
僕がそんなことを言うと、女の子が大声で怒り始めた。
「そうよ、あたしは幽霊よ! ユ・ウ・レ・イ! なのよ。なんであんたは幽霊に対して何事もなかったかのように謝罪して、自己紹介なんかするのよ!?」
「別に僕は幽霊とか言うだけで差別することはないよ。元々は僕達と一緒の人間だったんだし……。それで君の名前は?」
「軽く流すな! そういう問題じゃない! あんた絶対おかしいよ!」
さっきからずっと大声を出している。
あ、息切れし始めた。
さすがに幽霊でも大声を出していたら息切れもするか。
そして、なんだかよく喋る幽霊さんだ。
「それで、君の名前はなんて言うの? 僕が自己紹介したんだから、そっちも教えてよ」
「本当におかしな子ね……。もうあたしが諦めるわ……」
「なんだか良く分からないけど?」
「もう……あたしの名前はアリサ・ローウェルよ」
「よろしくアリサ」
アリサは呆れたような顔をしてこっちを見ている。
なにか足りないのかな?
「それであんた……えっと、タローは何しにこんな廃ビルに来たのよ?」
「知り合いにここに幽霊が出ると言われたから、キャッチボールでもしようかと思ってさ」
「なんで幽霊とキャッチボールをしようとこんな所に来る子がいるのよ! そしてそれに対してなんで首をかしげて不思議そうな顔をしてるのよ!」
はて、何がいけなかったんだろうか?
アリサは随分と勢い良く喋るなー。
あぁ、もしかして幽霊で今まで話も出来なかったから、今みたいに話し相手がいるから嬉しいんだな。
「分かった、分かった。キャッチボールの前に話でもしよう」
「全然! 全く! 完全に分かってなーい! キャッチボールの前に、会話のキャッチボールができなーい!」
あ、また息切れしてる。
そりゃ、あんだけはしゃげばしょうが無いか。
少し落ち着くまで座って待つかな。
「タローは勝手に座り込んで……。もう、良いわよ。このままじゃあたしだけ大声出して馬鹿みたいじゃない」
「違うの?」
「違うわよ! 私はこれでもイギリスからの帰国子女で、成績は学年トップ、IQ200の天才なのよ!」
「へー、それはすごいんだね〜」
「また軽く流してる! もう、私の死因とか話してあげるから怖がって帰りなさい!」
なんだか一方的に喋りまくって来るアリサ。
ここからは相槌を打ちつつ、アリサの話を聞いたんだけど…。
アリサは孤児だったんだけど、勉強ができるので聖祥付属の4年7組に在籍していてたんだって。
これは僕より先輩なんだという相槌により、またアリサが大声で暴れたけど割愛。
死んでから今まで数年間地縛霊で、ふと数日前に窓から入ってきた青い宝石を見たら、急に身体を実体化出来るようになった。
それでビルをたまり場にしていた人や、ビルの取り壊しの業者をおどかして追い出していたみたい。
「この叡智と美貌でしょ。
あたしに優しくしてくれるのって、通っていた4つの塾のセンセーと、知育研究開発の人だけ。
まぁ、それでも良かったんだけどさ。
あたしのために、何かしてくれる子なんていなかった。
……寂しかった。
いつも1人でいたあたしは、数人の若い男に攫われて、このビルで殺されたの。
死んで地縛霊なって、直ぐにアイツらを思い切りブッ祟って、考えうる限り最高の死をプレゼントして……。
すっきりして、さあ逝こうと思っても、なんかまだ足りないのよね」
「どうすれば成仏できるんだい?」
「それが何なのか私のもわからないの…」
結構重い話だったな。
死者を冒涜するのが良くないことだとは分かっているが、そんな奴らは死んで当然だ……。
で、その心残りがあって成仏できないところに、ジュエルシードという望みを叶える宝石が来たら、地縛霊から実体霊になったという感じなのかな?
「よし、とりあえずキャッチボールでもしよう」
「……。タローには呆れたわ。もう何を言っても仕方が無いわね」
そして笑いながら僕の持ってきたグローブを手につけて、こっちへボールを投げてくる。
それを受け止めアリサが取りやすいように投げ返す。
パシーン、パシーン
誰もいない廃ビルにキャッチボールの音が響く……。
「ねぇアリサ」
「何よ」
「僕と友だちになろうか」
そんな言葉を言うとアリサは大暴投する。
まぁ、それを僕は普通にキャッチするんだけど……。
「な、な、なに言ってるのよ! 幽霊と友達だなんてオカシイでしょ! ……って、また何がオカシイのと言いたそうな顔でこっちを見ないでよ。分かった、ワーカーリーマーシーター。タローと私は友達ね。ここまで来て嫌と言ったら祟るわよ」
恥ずかしそうに顔を赤らめながら返事をしてくれるアリサ。
なんだ、天才少女とか地縛霊とか関係なくイイ子じゃないか。
「ありがとうアリサ」
その後もキャッチボールをしばらく続けた。
遅くなったのでそろそろ帰ると伝えると、あからさまに嫌な顔をするアリサ。
「そんな顔しないでよ。また明日も一緒にキャッチボールをしようよ」
「べ、別に寂しそうな顔なんてしてないわよ」
寂しそうな顔をしているだなんて僕は言ってないんだけど、これは黙っておくところだよね。
「それじゃ、また明日ね」
「うん、また明日」