第6話 友達
今日も学校へ行くと、三人娘が話をしていた。
「おはよー」
「「「おはよう(なの)」」」
さて、今日で今週の学校も終わりか。
そんなことを考えながら授業の準備をしていると三人娘が寄ってくる。
「タロー、明日の試合は何時からどこでやるの?」
「明日の13時から河川敷の球場でやるよ」
「分かったわ。明日はホームランでも打って活躍しなさいよね」
「アリサちゃん、無茶なこと言わないの」
「善処するよ」
「「タローくん!?」」
内野安打よりホームランのほうが簡単だからいいじゃないか。
ただ、先頭打者ホームランってあまり意味がないからなー。
ノムさんだと普通のヒットを求めるからね。
いつもの様に授業を終えて、放課後となった。
さて、廃ビルに行くとしようかな。
「おじゃましまーす。アリサいるかい?」
そう言いながら廃ビルの4階へ上がって行く。
ん、気配が薄くなって来ている?
「あら、タロー来たのね。こんにちは」
「こんにちは。今日はどうするかい?」
やはり気配が薄い……。
アリサは遠慮がちに口を開く。
「タロー、お願いがあるんだけど」
「あぁ、いいよ」
「ありがとう……って、何も言う前に返事をするな! 悩んで頼むあたしが馬鹿みたいじゃない!」
また元気に暴れてる。
それはそれで流しておこう。
「アリサは無理なお願いをするほど馬鹿じゃないだろ。僕に出来ることなら何でもするさ」
「簡単に言うけど……。って、何笑ってるのよ? もぅ、タローには何を言っても仕方が無いって学んだからね」
アリサはコホンと一呼吸置き話を続ける。
「あたしって地縛霊なんだけど、あたしを藤見台に連れていって欲しいんだ」
「んじゃ、僕に取り憑くかい?それとも道具のほうがいいならバットやグローブがあるよ」
「また軽く了承するし……。取り憑くのはタローでいいわよ。でも、本当に良いの? って聞くまでもないのね。それじゃあ、ヨイショっと」
アリサがそう言いながら僕の背中に乗ってくる。
うん、違和感を感じるな。
肩が凝ってる感じだね。
「ちょっと重みになるんだね」
「誰が重いのよー! わ、私は太ってないわよ!」
なんだか言ってるけど、そのまま廃ビルから出ようと階段を降りる。
「こら! 放置すんな!」
肩の上でアリサが騒いでるけど、廃ビルの外に出る。
「うん、久しぶりの外だー」
一気に機嫌が良くなったな。
久しぶりの外って、地縛霊じゃそうでしょ。
「外でこの状態でいるのは目立っちゃうから、消えてるからねー。着いたら呼んでね」
「分かった。30分ぐらいで着くから」
そう言うとアリサは消えた。
それにしても藤見台に連れて行って欲しいってことは……。
うん、途中で花束でも買って行こうかな。
「アリサ、着いたよ」
そう言うと僕の肩辺りからアリサが出てくる。
キョロキョロとしながら何かを探している。
「タロー、あっちに行って」
「分かった」
移動した先には一つのお墓がある。
そこに刻んである名前は……アリサ・ローウェル。
「そう……ここがあたしのお墓。」
寂しそうにアリサがつぶやく。
僕は無言でうなずき、後ろに隠し持っていた花束をお墓に添える。
「え、タロー?」
「藤見台に行きたいと言われればお墓参りぐらいしか思いつかないよ。だから来る途中に用意したんだよ」
「ありがとう……」
泣きながらこっちを見るアリサ。
そして少しづつ薄くなっていく……。
「私の心残りはあたしに友達が出来ること……。
そしてその友達にお花ささげてもらうこと……。
タローと出会ったら、あっと言う間にそれが叶っちゃうんだもん……。
ズルイよ……」
「本当は生きてるうちに会いたかったかな?明日なら僕の所属するリトルリーグの試合とか見に来れたのに」
「うん、タローのホームラン見たかったなぁ……」
「あぁ、任しておけ。明日、下からホームランを届けるよ」
「うん、あたしは上でそれを待ってるね」
もう、アリサは薄くなりすぎて朧気にしか見えなくなってきた。
僕が視点を合わせても、薄っすらとしか見えなくなって来ていると言う事は……。
「友達って良いもんだね。
久しぶりに暖かくてイイ気持ち。
私の分までいっぱい幸せに、なるんだよ……。
……バイバイ……ともだち……。
……大好きだよ……」
アリサが光となって消えていく。
そこに残ったのは9と書かれた青い宝石、ジュエルシードのみ。
僕はそれをおもむろに掴みポケットにしまい込む。
「またな」
そうつぶやく僕の言葉は風にかき消されていく。
僕はアリサに何をしてあげられたんだろう。
結局、僕は無力なのかもしれない。
想いを叶える事は出来ても、死者はけして生き返らない。
万能の力なんて存在しないんだよ。
色々と思いを馳せながら藤見台を後にする。
ちょっとした出会いと別れを経験し……。