第9話 砲撃!
ユーノがアリサとすずかに弄られてると店内から士郎さんと選手たちが出てきた。
「今日はすっげーいい出来だったぞ。次の大会でもがんばろう!」
「「「「「「「「「「はい!ありがとうございました」」」」」」」」」」
「それではお疲れ様」
「「「「「「「「「「「お疲れ様でした!」」」」」」」」」」
みんな解散していくな。
あれ、なのはが何かに気になってるな。
「なのは、どうしたの?」
「ん、うんん。何でもないと言うか、気のせいなのかな?」
なのはは首を傾げているけど、気のせいなら良いかな。
お、ユーノがやっと解放された。
「「面白かった〜」」
いや、面白かったって……、ユーノがグッタリしてるよ。
まぁ、ユーノだから良いか。
それじゃ、僕達も解散かな。
翠屋JFCを解散させた士郎さんがこっちに話しかけてくる。
「みんな午後から用事があるのかな?」
「私はお姉ちゃんとお出かけ」
「あたしはパパと買い物よ」
「僕は特に無いですけど、スポーツ用品店へ野球の道具を見に行きます」
(みんなにも疲れてるって言えたんだから、なのはは完全休養にしようね)
(わかったの)
「そっか、みんなも解散か。送っていこうか?」
「いえ、迎えに来てくれますので」
「おなじくー」
迎えに来るって……さすがはお嬢様だな。
なのはは……グッタリしてるな。
やっぱり疲れているんだろうね。
「私はおうちに帰ってのんびりする〜」
「そっか、なのはは一緒に帰ろうか。一之瀬君はどうするんだい?」
「僕はこのままジョギングしていきますので、お構いなく」
「それじゃみんな、今日は応援ありがとうね。またよろしくね」
みんな思い思いの方向へ解散する。
まぁ、僕は目的もなく走って行くだけなんですけどね。
「で、なんでタローはこんなところにいるのよ?しかも車で送ってもらったあたしより早く……」
「ん?普通に走ってきた」
ジョギングしてスポーツ用品店へ到着。
そして店の前で安売りカートを見ていると、いきなり後ろからアリサが話しかけてきた。
普通に返事をするとなぜかアリサは呆れた様な顔をする。
「いや……普通に走って車より早いってどうなのよ……」
「道でも混んでいたとか、走るコースのほうが短かっただけじゃないの?」
「はぁ〜」
なんだ? アリサが手を額に当てため息をついているぞ。
「なんだかあんたも大概非常識ね……」
「何が?」
「はぁ〜〜〜」
「そんなに溜息ついてると、幸せが逃げるぞ」
「誰のせいよ!」
「??」
なんでそんなに元気がいいんだろうか……?
ん? なんだこの感覚は……。
遠くで知らない女性の声が聞こえた。
そして大きく地面が揺れ始めた。
道を歩いていた人たちも「なんだ!?」「地震か!?」「危ない!」とか言ってる。
これは……。
迷わずアリサを抱えてジャンプする。
「ちょっ、ちょっと、何するの……」
アリサは驚いて僕の腕の中でジタバタしているけど、そんな余裕はない。
アスファルトがめくり上がり、地面からは木の根っこ生えて来た。
とりあえずアリサを抱えたままビルの屋上へ着地する。
そこから見える景色は木一色。
建物より大きいが森ではなく、どこからか枝分かれしたような木が広がっている。
「な、なんなのよ!? そ、それといい加減にお、降ろしなさいよ…」
あ、アリサを抱えていたの忘れてた。
「ごめんごめん。ヨイショっと」
「こ、こら! 女の子を降ろすのになんて掛け声してるのよ!」
ワガママだなぁ……。
まぁ、アリサらしいけどさ。
それよりも、この気配はジュエルシードだよね。
なのはたちも気が付いたかな?
「それで、タローはこれがなんだか分かるの? あと、ビルの下から上まであたしを……ごにょごにょ……お、お姫様抱っこして、連れてこれるってどういう事?」
「ん? ここに上がったのは普通のジャンプ。垂直跳びってやつだね。で、この木は……なんて言えば良いんだ?」
思わず首を傾げてしまったよ。
アリサは……なんだか呆れてるな。
なのははアリサ達に話をしていないのか?
「普通のジャンプでこんなところまで上がれる訳ないでしょ!」
「いやぁ……そんな事を言われても……」
「あと、これ! この辺な木みたいなものは何なの!」
んー、どう説明すればいいんだろ?
あ、アリサは息切れしてる。
そりゃ、あんだけはしゃげばしょうが無いか。
「まぁ、とりあえず落ち着いて。1つ1つ説明するからさ」
「誰のせいでこうなったと思ってるのよ……。まあ、いいわ。ちゃんと説明しなさいよね」
「説明する前に1つ約束して。けして怒らないこと。僕に対しては良いけど、特になのはに対してはね」
「え……それって、どういう事なの?」
「とりあえず約束してね。多分なのははアリサ達を巻き込まないように言ってなかったんだろうし……」
「わ、分かったわ。約束するからちゃんと説明しなさいよ」
アリサが落ち着いたみたいだから説明を始める。
魔法のこと、ユーノのこと、そしてジュエルシードのこと……。
アリサは怒らず最後まで聞いてくれた。
頭のいい子だからちゃんと理解しているんだろうね。
「って、ところかな。本当に怒らないで聞いてくれてありがとう」
「べ、別にあたしはちゃんと説明してくれれば怒らないわよ。ちょっとだけ、なのはがあたし達に言ってくれなかったのはアレだけど……。それでもこんなことに巻き込みたくないならしょうがないわ」
「うん、ありがとう」
「なんでタローがそんなにお礼を言うのよ!そんな事よりもアンタのジャンプ力も魔法なの?」
「いや、僕のジャンプ力とかは大体トレーニングのせいって事で諦めて」
「……もう良いわ」
なんでアリサはガックリと肩を落としているんだろう?
説明が悪かったのかな?
tell...tell...
おや、僕の携帯が鳴ってるな。
相手は…なのはか。
「アリサ、ごめんね。ちょっと電話に出るから」
カチャ
「もしもし一之瀬太郎の電話ですけど」
「タロー? ユーノだけど、今なのはの電話を借りて連絡してるんだ」
「あぁ、ユーノか。この木の事で何か?」
「現場にいるんだね。これもジュエルシードの発動なんだけど、人間が発動させちゃったみたいなんだ。人の強い思いで発動させると、1番強力なものになっちゃうんだ」
ユーノは随分と慌ててるな。
そう言えば封印してないジュエルシードを僕が持ったままだったね。
まぁ、良いか。
それよりも気配を探ると……あ、向こうの方のビルの上になのはとユーノが居る。
「ジュエルシードを封印するには接近しないと駄目なんだけど、これだけ広い範囲に広がっちゃうと、どこが根源だか分からなくって…。今、なのはがサーチャーを飛ばして探しているんだけど「見つけた!」ほんと? あ、タロー、なのはが見つけたみたいなんだ。場所は……スクランブル交差点のところ!」
どれどれ…あ、あそこか。
確かにあそこから気配が一番強いな。
ちょうどなのは達がいる場所から、僕達の場所を挟んで反対側か。
「今、なのはがここから砲撃魔法で封印するんだけど、木々が邪魔で何発か撃たないと駄目みたい。近くにいるなら避難して貰えるかい?」
「ああ、分かったよ。邪魔な木々を減らせば良いんだね。電話切るから、木々が減ったら封印よろしく」
「え、タロー? 何? もしもーし……」
さてと、今、手元にはバットもグローブもない。
ポケットにあるのはボールが1つか。
「タロー、今の電話は?」
「うん、さっき説明したユーノからで、あっちにユーノとなのはが居て、こっちに封印しなければいけないジュエルシードがあるってさ」
指で示し方向を説明する。
とりあえず上着を脱いで腕まくりして……。
「これからなのはが封印するから、その露払いをちょっと手伝うんだ。悪いけど、そこの端によってしゃがんでいてもらえるかい?」
「う、うん。ここでいいのね」
よし、アリサは言った通り端によってしゃがんでくれた。
さて、行くぞ。
ボールを持って若干助走を取り……。
「レーザービーム!」
ジュ!
ジュエルシードの方向にボールを投げる。
そこまでにある木々がはじけ飛ぶ!
そして、ジュエルシードの手前、アスファルトにボールが刺さる。
携帯を取り出しなのはへ電話する。
tell...tell...
ガチャ
「道は開けたよ。後は頼むね」
「え……っと……。う、うん……」
電話を切りジュエルシードの方向を見ていると、背後より轟音とともに桃色の閃光が走り抜ける。
後方より撃ち込まれた砲撃魔法は、力強い輝きを放ちながら、真っ直ぐにジュエルシードめがけて進み、直撃した。
ジュエルシードは抵抗も出来ず桜色の極光の中へと飲み込まれていく……。
「こ、これが魔法?」
あ、アリサが我に返った。
僕はアリサの方を向き説明する。
「そう、これがなのはの魔法。そしてアリサ達を巻き込みたくはなかった理由」
そう言いなのは達がいる方向を振り返る。
(いろんな人に迷惑かけちゃった……。私、気づいていたの。あの人が持ってるの……)
(なのは……。お願い悲しい顔しないで。なのははちゃんとやってくれてるよ)
(ううん、魔法使いになって初めての失敗……。自分のせいで誰かに迷惑がかかるのは一番つらいの)
(なのはのせいじゃないよ!僕がジュエルシードをバラ撒いてしまったから……)
(違うの。今まではユーノ君のお手伝いでやってただけなの。でも、これからは自分の意志でジュエルシード集める。もう、こんなことにならないように、自分なりの精一杯でなく、全力全開で!)
(なのは……)
なのはとユーノが話をしている。
確かに今回のジュエルシードは危なかった……。
次からは僕もちゃんと手伝ってあげなきゃな。
「アリサ、今日は巻き込んじゃってごめんね。なのはは今日のこの被害を出したこと、凄い落ち込んでる……。だから、僕にいくらでも怒って良いから、なのはには巻き込まれたこと言わないで欲しいんだ」
「……ばか。なんでタローが謝るのよ。あんたはあたしを助けてくれた。そしてなのはも一生懸命にジュエルシードを封印してくれたんでしょ」
アリサはこっちを向いて少し怒った顔で話を続ける。
「今日のことはあたしは何も言わないわよ。なのはから話してくれるまでは黙ってるわ。でも、手伝えることがあったら何でも言いなさいよ!」
「ありがとうアリサ」
お礼を言うとアリサは照れくさそうにそっぽを向く。
「べ、別にタローのためじゃないわ。この街に住んでいるんだから、あたしが出来ることはやらないと気がすまないのよ!」
「そっか……。それでもありがとうね」
「もー、本当にタローは人の話を聞かないんだからー!」
街の被害は酷いし、怪我人も数人出てしまった……。
でも、幸い死者は出なかった。
これだけでも良しとしよう。
なのはも決意を新たに頑張る様だし、僕も頑張って手伝うか。