第第10話 プール
今日は随分と忙しい日だったな。
あの後、ビルからアリサを抱きかかえて飛び降りたら、なぜかアリサにむちゃくちゃ怒られた。
怒ったアリサを宥めつつ、アリサを父親との待ち合わせ場所に送り届けると、そこでアリサの父親のデビットさん、執事兼運転手の鮫島さんが待っていた。
2人共随分と心配したようで、怪我がないかとか色々と聞いていたな。
さすがに街が酷いことになっていたので、今日は買い物は中止で帰るそうだから、アリサとはそこでお別れした。
お買い物に行けなくて不貞腐れているアリサを、デビットさんが一生懸命なだめていたりしたな。
夜になると、なのはからメールが来た。
何でも、お兄さんの恭也さんが新しく出来た温水プールでアルバイトをしているらしく、明日なら無料で入れるとの事。
学校が終わったらみんなで行こうとお誘いのメールだった。
特に問題はないから、参加できるよと返信。
そうすると直ぐになのはから電話がかかってくる。
「もしもし」
「もしもし、ユーノです」
あれ、なのはじゃないのか?
「どうした、またジュエルシードでも発動したか?」
「ううん、違うんだ。ちょっとお願いがあって……」
「いいよ」
「まだ何も言ってないんだけど……。でも、タローなら簡単に返事しそうだよね」
なんだか呆れた声でユーノが話してくる。
最近みんな僕の扱いが悪いんじゃないか?
「明日のプールの件なんだけど、なのはが僕も連れていきたいらしくて……」
「さすがにプールに動物は駄目なんじゃない?」
「そうなんだよ! それでも一緒に行きたいみたいなんだ。だから魔力も回復してきているから、人型に戻って行こうと思ってさ。タローの友達という感じで一緒に行ってくれないかい」
省エネモードではなくて平気なら、随分と魔力は回復したのか。
まぁ、ユーノが魔法使ってるの僕は見たことないから、魔力も回復するんだろう。
「返事はさっき言った通りだよ。放課後そのまま行くっぽいし、プールの前で集合しようか」
「うん、わかった。タローありがとうね。それじゃまた明日」
「また明日な〜」
そう言って電話を切る。
それにしても、電話で話さないといけないのに、ユーノが携帯を持っていないのは結構面倒だな。
あいつお金とか持ってないのかな……。
いや、むしろ持ってないと明日水着買えなくね?
仕方がないから、明日はお小遣い多めに持って行っておこう。
キーンコーンカーンコーン
「さて、授業終わり」
「準備おっけー」
「待ち合わせの場所へ出発!」
チャイムが鳴って授業が終わると同時に三人娘が騒いでる。
ちなみに上からアリサ、すずか、なのはの順番ね。
なのははちゃんと身体が休まったのか、とても元気だな。
アリサも昨日あんなことに巻き込まれたのに…。
「今日のプールは楽しみ楽しみ」
「ちゃんと水着持ってきた?」
「タロー君のお友達も来るんだよね」
いきなりなのはが話を振ってくる。
ユーノのことなんて言おうかな……。
まぁ、気にしないで名前を伝えてしまえ。
「うん、海外の友達でユーノ・スクライアって言うんだよ」
「「「え?」」」
(ユーノ君。タロー君がユーノ君の名前を言っちゃったけど平気かな?)
(え? あ、そうなんだ。でも、名前を言わないと呼べないし、フェレットの方は偶然同じ名前って事にしておいたら?)
(うん、そうするね)
「ウチのフェレットのユーノ君と名前が一緒なんだ〜」
「そうだね。偶然だね」
「一緒にいるときは呼び方に気をつけてあげないとね」
すずかはすぐに納得してくれたみたいだけど、アリサはなんだか首を傾げてこっちを見ている。
あとで説明してあげなきゃ駄目かな?
そんな話をしているとすずかの家のメイドさん達が車で迎えに来てくれた。
1人はメイド長のノエルさんと言う人で、もう1人はすずか担当のメイドさんでファリンさん。
ファリンさんはノエルさんの妹だそうだ。
ノエルさんの運転で温水プールに着いた。
僕が走って行くと言ったらアリサに怒られた辺りは割愛。
プールの前に僕達と同じぐらいの男の子が待っていた。
アレがユーノの人型ヴァージョンなのかな?
「やぁ、タロー。久しぶりだね」
「やぁ、ユーノ。君も元気そうで何よりだ」
(なのは、これが僕の本当の姿だよ)
(えーーーーーー)
うん、当たりだね。
それにしても念話って便利だな。
僕は耳を澄ませて聞くことしか出来ないんだけど、どうやって伝えれば良いんだろう?
後でユーノに相談してみようかな。
ユーノは……っと、三人娘と自己紹介してるね。
そうしていると、高校生ぐらいの眼鏡をかけた女性がこっちにやってくる。
「なのはー」
「お姉ちゃん」
来た人はなのはの姉で高町美由希さん。
そう言えば中には兄の高町恭也さんもいるんだよね。
僕だけ2人とは会った事がないのか。
僕と美由希さんはお互いに自己紹介をして、みんなでプールに入っていく。
ユーノと僕は男子更衣室だ。
「ユーノは水着持っていたのか?」
「うん、早めに来て買っておいたんだ」
「お金持ってたの?」
「うん、第97管理外世界……じゃなくて、地球に来る前にミッドで換金してきたんだ」
なんでも管理外世界に行くには申請が必要だったり、そこの星のお金に換金してくれたりする場所があるらしい。
管理外世界と言ってる割には意外と親切だな。
そんな雑談をしながら更衣室から出るとアリサが待っていた。
「男のくせに遅いわよ!」
「「ごめんごめん」」
「まぁいいわ。それよりもタロー、ちょっとイイ?」
アリサに僕だけ呼ばれたので、ユーノに待ってて貰うよう伝え一緒に移動する。
みんなに言葉が届かない場所へ行き、アリサが話し始める。
「あのユーノってフェレットのユーノでしょ!」
「うん、そうだよ。アレが本当の姿で、フェレットの姿は魔力回復させる省エネモードらしいよ」
「やっぱり……。と言うことは、あたしたちはユーノを撫でくり回していたの!?」
「あぁ、そうなるね。ついでに言うとユーノはなのはと同じ部屋で一緒に生活してるよ」
「……ま、まぁいいわ。なのはも納得してるんでしょうし…。あたしが気をつければ良いだけね」
アリサはやれやれと額に手を当てて呆れている。
「そういえばタローは水泳も出来るの?」
「ん? あぁ。スポーツと名のつくものなら大概出来るよ」
「じゃ、じゃあ、あたしに泳ぎを教えなさいよ!」
アリサは照れくさそうに言ってくる。
泳げないのがそんなに恥ずかしいのかな?
「イイよ。野球だろうが泳ぎだろうが何でも教えるよ。頑張れば水上歩行ぐらいすぐだよ」
「いや、それはおかしいわ」
そんな話をしながらみんなの元へ戻る。
もうみんな着替え終わってるようだ。
1人見慣れない男の人がいるけど、雰囲気が士郎さんに似ているから、きっとあの人が恭也さんだろう。
「アリサちゃん、タロー君と何話してたの?」
「タローに泳ぎを教えてってお願いしてたのよ」
「そうなんだ〜」
アリサは普通にみんなに混じって行く。
僕は恭也さんに自己紹介をしておこう。
「はじめまして、一之瀬太郎です。高町恭也さんですよね」
「ああ、そうだよ。はじめましてタロー。良く分かったね」
「えぇ、お話は聞いていましたし、雰囲気が士郎さんに似ていましたから」
自己紹介をしていると、恭也さんが施設の説明をしてくれる。
温水プール以外にも温泉施設とかもあるようで……。
温泉と聞いてノエルさんが喜んでいたけど、温泉好きなのかな?
「恭也さん、あのお立ち台はなんですか?」
「あぁ、あのお立ち台は歌を歌ったり、ダンスを披露したりする場所で、素人でも関係なく使わせてくれる場所だよ」
「水着だらけの水泳大会ですね……(ボソ)」
「お姉さま……なんですかそれ?」
恭也さんの説明に対してノエルさんが何か呟いてるけど、それかなり古いから!
それよりも、この世界にもあるの?
真面目でクールなメイド長かと思ったけど、全然そうでもなかったよ。