第13話 夜の一族
忍さんに食堂に連れられて来たけど、凄い大きさだな。
さっきの部屋も僕の家より大きいんじゃないだろうか?
やはり相当の資産家なのかな。
でも、人らしい気配は4つしかないんだよね。
「おまたせしました」
すずかとファリンさんも食堂に揃い、忍さんが説明し始める。
その間にノエルさんとファリンさんは食事の用意をして、こっちに持ってきてくれる。
バランスのいい食事なんだけど、僕は苦手なんだよな……。
こう、ジャンクフードで良いのに。
忍さんの説明なんだけど、月村の家には忍さん、すずか、ノエルさん、ファリンさんの4人しか住んでいない。
昨日血を吸ったのは、この月村が夜の一族と言うもので、吸血種…つまり吸血鬼らしくて、足の切断による出血の回復と、足そのものの回復に血液が必要だったため僕の血を吸った。
夜の一族とは異常な肉体能力、並外れた回復力などの高性能なものだが、体内で鉄分生成のバランスが悪く、完全栄養食として血を欲する。
発祥は西ヨーロッパで、国内の夜の一族である「月村」「綺堂」「氷村」がある。
この襲撃(?)はこの国内の夜の一族同士の勢力闘いみたいなもので、氷村が月村の土地や財産、ノエルさんとファリンさん、そして忍さんを自分の物にしようとしたものらしい。
なんでノエルさんとファリンさんを狙うのかというと、2人は自動人形という今は失われた技術で作られたものなので、とても珍しく高価な物になるらしい。
昔はあまり感情とかなかったが、綺堂家や月村家の人間と接し、今では人間と変わらないほど感情があるという。
機械人形ならロケットパンチとかあるんですか?という僕の質問にノエルさんが、私には装備されていますと答えてくれた。
これは凄い!と思わず喜んでしまったよ。
喜んでいる僕に対しすずかが、遠慮がちに話しかける。
「あの……タロー君は私達が怖くないの?」
「ん、どこが?」
「え!? だって普通の人間じゃないんだよ! 血を吸うんだよ! 化け物なんだよ!」
「ん〜、化け物って何処で区別するのか僕は良く分からないけど、無差別に人を襲ったりするわけでもないんだろ」
「人を襲うなんてしないよ!」
「じゃあ、良いじゃないか。この間、幽霊とも友だちになったんだけど、今度はそれが夜の一族と自動人形ってだけでしょ。そんな事で差別なんてしないよ」
「「「「………」」」」
すずかだけでなく忍さんやノエルさん、ファリンさんまで絶句している。
僕は何かおかしいこと言ったかな?
大体、血を吸うのを気にするんだたら、蚊だって血を吸うのにね。
首を傾げているとすずかとファリンさんが泣き始める。
「え、なんか変なこと言っちゃった? ごめんね」
「違うの……」
「すずかお嬢様ぁ……」
忍さんとノエルさんは、やれやれと言う感じにこちらを見ているし、すずかとファリンさんはしばらく泣いていた。
その間、僕は普通に目の前に出されていた朝食を食べる。
う〜ん、このパン美味しいけど、上品な味で何個も食べられないな。
「タロー君はマイペースね」
2人が泣き止み、全員が落ち着いて食事を済ませると忍さんがそう言ってくる。
「そうですか?」
「そうよ、泣いてる2人を放置して食事を始めるなんて普通出来ないわ」
「タロー君は学校でもマイペースだもんね」
そういうものかな?
1人で泣いてるなら胸でも貸すけど、2人で泣いてるなら満足行くまで泣いたほうが楽だと思ったんだけどな。
大体、2人同時に胸なんて貸せないし、ファリンさんは年上だから年下に慰められるのも困るだろうに。
「さて、こんなことを私達から全部話しておいて何なんだけど、夜の一族の秘密を知った者は秘密を守るか、この件について記憶を失うか選んでもらわないといけないのよ」
「じゃあ、秘密を守る方で」
「……随分とあっさり言うわね。死ぬまで誰にも言ってはいけないのよ」
「はい。この僕の魂と、野球人生にかけて今後一切口に出したりしません」
「タロー君……」
「変わってるけど、いい友達ね」
「「すずかお嬢様をよろしくお願いします」」
すずかはまた目を潤ませてこっちを見ているし、ノエルさんとファリンさんはすごい頭を下げているけど、何か僕はしたのかな?
それより学校に行かないと遅刻しちゃうよ。
外泊を親に許してもらえても、欠席までは許してもらえるか怪しいからね。
話はこれで終わりとなり、シャワーを借りて汗を流し、車にて学校に送ってもらう。
車の中で、また放課後に話があるか月村家に来るように言われた。
遅刻してきた僕達を見て、アリサがなんだか文句を言って来たけど割愛。
授業中は問題なく終わり、昼休みに散々アリサに絡まれた。
でも、さすがに今回のことは秘密と約束もしているから言えない。
上手く流してもらうために、シッカリと正面からアリサの目を見つめ、両手をアリサの肩に置き……。
「僕のことを黙って信じて欲しい」
と言ったら、そのあとからは聞きに来なくなったよ。
流石はアリサだね、ちゃんと分かってくれたんだな。
放課後、月村家にすずかを迎えに来たノエルさんの車に乗り一緒に行くと、また食堂に通された。
そこには初めて見る女性と恭也さんがいた。
「タロー君、はじめまして」
女性は綺堂さくらと言い、忍さんたちの叔母で、ノエルさん達を忍さん達にプレゼントした人。
そして、今回の襲撃騒ぎを起こした氷村遊の腹違いの兄妹。
ここからまた詳しい説明があって、氷村は純血の吸血鬼で、さくらさんは人狼との混血。
氷村は純血こそが素晴らしく、人間を家畜としか思っていないらしい。
さくらさんのところにも今日の昼間に来たらしく、月村家を潰したら次は綺堂家だとわざわざ言いに来た。
昔、学生時代に一度やりあっていて、一度倒したのでもう懲りたかと思ったら、全く反省もしていなかったようだ。
そして、月村家の財産とノエル達を狙われたことは昔もあったらしい。
その時の主犯は月村安次郎と言い、イレインと言われる戦闘向けの自動人形と、イレインのコピー品のレプリカ数体だったと言う。
その時はノエルさん、恭也さんによりなんとか撃退し、暴走したイレインに安次郎も巻き込まれ、イレインがやらかした月村家炎上の責任を安次郎が取らされ、警察に逮捕されて行ったみたい。
今回、氷村が襲撃してきた時にそのイレインとレプリカを連れてきたことから、前回の安次郎事件も裏で氷村が手を引いていたんではないかと。
そんな事より、戦闘用自動人形と戦える恭也さんって一体……。
ちなみに前回の事件から、恭也さんと忍さんはお付き合いをしているそうだ。
そんな惚気話まで聞いていると、食堂に1匹のコウモリが入ってくる。
そして天井の照明に止まり、手紙を落とす。
みんなは手紙だけでなくコウモリも警戒して見ている。
手紙は僕がおもむろに拾い……どれどれ……忍さん宛だね。
「はい、忍さん宛だよ」
「え、えぇ」
忍さんと恭也さんが手紙を読む。
その間コウモリはこっちをずっと見ているな。
そのコウモリに対し、ノエルさんが左腕を構えている。
ま、まさか、あれがロケットパンチの構え!?
ドキドキしちゃうな。
「く、ばかにしている!」
恭也さんのそんな声で我に返らされる。
駄目だね集中しないと。
手紙の内容を恭也さんが話してくれたけど、明日の夜中0時に迎えに行くから用意しろと。
歯向かうなら容赦はしない。
そんな簡単な内容だった。
センスのない文章だな……。
コウモリは怒っているみんなを嘲笑うかのように飛んで屋敷から出ていく。
そういえば吸血鬼だからコウモリ使役とか出来るんだろうね。
そして食堂は沈黙に包まれる……。
「タロー君、お願いがあるんだけど」
「いいですよ」
沈黙を破るように、僕に話しかけてきた忍さんに対し即決する。
「まだ内容を話してないんだけど……」
「いえ、別にどんな内容でも出来るお願いなら聞きますよ」
「もぅ……。でも、良いわ。お願いは明日の夜、すずかだけあなたの家に泊めて貰えないかしら?」
「お姉ちゃん!?」
「いいですよ」
驚いたすずかを置いておき、家に電話をかける。
母が電話に出たので、上手く濁しつつすずかの宿泊を許可してもらう。
「ちょっと、タロー君も!?」
「はい? 母の許可を取れましたので、問題ありませんよ」
すずかに対して忍さんと恭也さん、さくらさんが説明と説得をしている。
要するにこの屋敷で迎え撃つから、すずかは安全な場所へ行って欲しい。
最悪の事態があってもすずかは助けられると。
随分と説得に時間がかかったけど、最後はすずかも納得してくれたみたい。
迎え撃つにしても戦力のアテはあるのかと聞いたら、何でも恭也さんは古武術「永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術」の師範代。
その御神流は二本の小太刀をメインの武器とした殺人術。
父親の士郎さんは引退したけど、恭也さんと美由希さんは今でも現役で、修行をしているらしい。
どおりでこの人達の雰囲気が強者なわけだ。
その現役の恭也さんと美由希さん、自動人形のノエルさんにファリンさん、夜の一族の忍さんとさくらさんと言う、本人たち曰く人外なメンバーで戦うそうだ。
前回は恭也さんノエルさんの2人で撃退できているので、今回は更に多いので十分な戦力だと言う。
次の日には全て片付いているから安心して欲しいって言われたけど、僕はすずかを家に泊めれば良いだけなので、特に問題はないかな?