第16話 振り子打法
僕が月村家に来て、レプリカとイレインを倒す。
それにより追い詰められたはずの氷村だが、なんだかまだまだ余裕があるんだよね。
そして、氷村に対して感じる違和感はなんだろう?
本人と違う何かの力を感じるんだよね。
「昔さくらに僕が倒されただと? ふはははは、そんな過去は忘れたわ! 今の、この僕の力を見るが良い!」
そう高笑いをしながら氷村が言うと、身体から複数のコウモリが現れ襲いかかってくる。
まさにコウモリの竜巻!
さくらさんがそれを見てみんなに警告を発する。
「このコウモリに噛まれると危険よ! 下手をすると一瞬で血液が奪われるわ!」
「そうだ、これが新たな力を得た僕の能力だ!家畜の血を吸うのはアレだが、この僕が侮辱された分、貴様らの全ての血を吸い尽くしてくれる!」
忍さんとさくらさんの上に、ノエルさんとファリンさんが被さるように乗り、コウモリの攻撃を防いでいる。
恭也さんと美由希さんは小太刀で自分の身を守る。
しかし、この数の暴力には敵わず、小太刀で反撃していた恭也さんが1匹に噛まれた。
直にコウモリを切り落とすが、恭也さんは貧血状態となり膝を付いてしまう。
このままだとジリ貧だよね。
とりあえず素振りでコウモリを吹き飛ばし、その発生した竜巻を氷村に当ててみる。
しかし、竜巻を当てた氷村は霧状になり平気な顔をしてこっちを見ている。
「バカめ! その程度の攻撃、避けるまでもないわ」
避けるまでもないって、避けられなかったけど無効の間違え何じゃない?
まぁ、イイけど。
「遊、貴方にそんな力はなかったのに……」
霧になった氷村に対してさくらさんが言う。
氷村は実体化し、こっちを見下す。
その際にコアの様なものが一瞬見えた気がする。
「これが今の僕の力だよ。この高貴な僕に相応しき力だ! この力を持って夜の一族の頂点に立つ!」
「だから私達月村家を襲い、その後は綺堂家と言うことだったのね」
「あぁ、ついでにそこの自動人形も貰い受けようと思ってな。高貴な僕の世話をさせるには良いだろう」
「ノエルとファリンは物じゃないわ!私の家族よ」
「「お嬢様……」」
そうだよね、家族や友達に種族や種別は関係ないよね。
そんな良い話をしている忍さん達に対し、氷村は苛立ち怒鳴る。
「そんな事はどうでも良い。お前らはみんな僕の物になれ!」
氷村は霧状になり僕達全員を包み込む。
瞬間的に霧から足を実体化させ、さくらさんを蹴り飛ばす。
さすがに誰も反応できない速度、そして凄い力だ。
伝承とかで言われているけど、ヴァンパイアの最大の能力は化け物じみた筋力だったよね。
「どうだ、この僕の高貴な力!」
その後も現れて美由希さんを殴り飛ばす。
そして今度は僕に対して殴りかかってくる!
それをグローブにてキャッチ。
バシッ
「何!? 人間が反応できる速度じゃないぞ!」
その後もパンチにキックと僕に対して氷村は攻撃を続ける。
バシッ、バシッ、バシッ……
まぁ、グローブでキャッチを続けるけど、霧に対してこっちからはどうしよう。
良く見ればコアを見つからないかな?
……あれ、氷村の霧の中にジュエルシードの思念体が見えるんだけど。
「氷村、もしかして青い宝石とか拾った?」
攻撃を全部グローブでキャッチしつつ、とりあえず聞いてみる。
返事は期待してないけど、こう言うのは意外と反応してくれるかなーと。
「青い宝石……それはこの僕に新たな力を与えたものだ。それにより僕は神と等しい存在となる!」
「うん、良く分かった」
氷村の答えに絶句している月村家のみんなを置いておいて僕が返事をする。
要するにジュエルシードの力で強くなったわけね。
やっぱり迷惑なロストロギアだな〜。
まぁ、ジュエルシードさえどうにかすれば何とかなるのは分かった。
バットを構え、氷村のコアとなるジュエルシードを狙う。
これは内野安打を狙うかのように、ピンポイントで打つ振り子打法。
氷室の霧からジュエルシードだけ打ち抜く!
カキーン
ジュエルシードは三遊間を抜けたー。
いや、三遊間が何処だよとか言わないでね。
ジュエルシードが無くなった氷村は霧状から人型に戻る。
「な、何が起きたんだ?」
いきなり人に戻れば氷村は混乱するよね。
混乱してるのは月村家の皆さんも一緒なんですけど……。
「はい、氷村……タッチアウト」
ドグシャ
今度はほどほどに加減して、首から下を全て地面に埋めてみた。
氷村は気絶しちゃったけどさ。
さすがにヴァンパイアだから死なないよね。
「これにて、ゲームセット!」
あの後、ジュエルシードを拾いポケットに仕舞う。
恭也さん、美由希さん、さくらさんは重傷。
忍さん、ノエルさん、ファリンさんは軽傷。
重傷者を抱きかかえ、屋敷内のベットへ寝かせる。
ついでに氷村は簀巻きにして放置。
イレインとレプリカはパーツを集めて一箇所にまとめておいた。
これ、直せるのかな? 賠償金とか払わせられないよね……。
そんな処理をしていると夜が明けてきた。
あ、今日も学校なんだよね。
「忍さ〜ん、今日は学校なので僕、帰りますね」
「え、え、えー?」
「じゃあ、学校が終わったらすずかと来ますので〜」
「ちょっと、ちゃんと説明していきなさいよー」
屋敷から外に出て、ボールを家の方へ投げ、それに乗って帰る。
何だか忍さん達が言っていたけど、学校が終わってからにしてもらおう。
そーっと窓から自分の部屋に入る。
「ただいま〜(ボソ)」
「「お帰りなさい!」」
「あれ、起こしちゃった?ごめんね」
部屋の中ではアリサとすずかが起きていた。
もう少しそっと入ってくれば良かったかな?
「なに馬鹿なこと言ってるのよ。タローを待っていたに決まってるじゃない」
「そうだよタロー君。怪我とかしてない?」
「ん、特に何も問題ないよ。強いて言えば汗をかいたぐらいだね」
さて着替え着替え……。
「タローが無事で良かった……」
「心配してくれたのかい?」
「あ、あたしが頼んだことなんだから、心配するのは当たり前でしょ」
「そっか、ありがとアリサ」
「もぅ、また話をちゃんと聞いてないんだから……」
ん、何か足りなかったか?
あぁ、そっかそっか。
「言い忘れてた、月村家はみんな無事だよ。氷村とイレイン、レプリカはしばらくは動けないと思うよ」
「えっ、タロー君。それって……」
「うん、もう安心ってことだね。学校が終わったら家に帰れるよ」
その言葉を聞くとすずかは泣き始める。
アリサもすずかを抱きしめ泣いている。
さて、僕はこの隙にシャワーでも浴びて着替えてこようかな。
着替えを持って僕はそっと部屋から出ていく。
シャワーを浴びて着替えて部屋に帰ると、もう泣き止んだ2人が着替え終えていた。
ちゃんと落ち着いたみたいだね。
そのまま布団をたたみ、朝の支度をし、うちの両親と朝食を摂る。
そして学校へ出発!
学校での授業中も昼休みもすずかは落ち着かない様子だった。
なのはがすずかのことを気にはしていたけど、すずかは大丈夫と言って誤魔化していた。
後でちゃんと話さないと駄目なんだろうけど、今日はそんな時じゃないね。
なんとか1日の授業が終り帰宅時間。
さすがに直接関わってないアリサとなのはは連れて行けないから、学校で別れて月村家に向かう。
「おねーちゃん!」
「すずか!」
月村家の前ですずかと忍さんが抱き合って泣いている。
ん〜、とりあえず僕はノエルさん達に話しかけるとしよう。
「ノエルさん、みなさんは平気ですか?」
「太郎様、昨晩はありがとうございました」
「タロー様、本当にありがとうございました」
ノエルさんとファリンさんが頭を深々と下げてお礼を言う。
「恭也様、美由希様は負傷と疲労で、まだ部屋で休んでおります。さくら様は氷村様を連れて綺堂家の方にお戻りになりました」
「そっか、お家騒動は僕には良く分からないからね」
「あとの処理はさくら様が全て任せて欲しいとのことでした。夜の一族の頭首会議で氷村様の処遇を決めるそうです」
「そうですか、じゃあ、僕には何も出来ませんね」
「いえ、大したことはしていないですよ」
「いえ、太郎様にはお礼をいくら言っても足りないぐらいです」
「そーですよー。タロー様には感謝しきれませんよー」
ん〜、本当にそんなに感謝されることをしたわけじゃないんだけどな。
頼まれたから僕がやれることをやっただけなんだけど……。
それよりもイレインとレプリカを壊しちゃったのが申し訳ないな。
忍さんとすずかが落ち着いたところで、屋敷の中へ案内される。
恭也さんや美由希さんも疲労の色はあるが食堂に全員が揃う。
2人共、僕に対し頭を下げてお礼を言ってくる。
「タロー君、昨晩は本当にありがとう。俺だけじゃ忍を守りきれなかった……」
「タロー君のお陰で怪我程度ですんだのよ。ありがとう」
「ん〜、本当に大したことをしたつもりはないんですけど、ちょっとアリサに頼まれたから、やれることをやっただけなので……」
「それにしてもタロー君は何者なの?機械人形を破壊でき、夜の一族まで倒せるなんて……」
「普通の野球選手ですよ」
「「「「「「いや、それはおかしい」」」」」」
そう言うとみんな笑い出す。
そんなおかしい事を僕は言ったっけな?
まぁ、いいや。
そんなことよりも、この騒ぎには結局ジュエルシードが関わっているので、その辺の説明をしないといけないんだよね……。
「氷村の力について、心当たりがあります。ちょっとだけお話ししてもいいですか?」
「えぇ、タロー君が分かることを教えてくれる?」
「はい。ただ、説明する前に1つ約束して欲しいのです。けしてなのはに対して怒らないこと。恭也さんと美由希さんは家族なので特にお願いします」
「なのはが関係あるのか!? ま、まぁ、怒らないことは約束する。聞かせて貰えないか?」
「あたしもなのはを怒らないから教えて」
「それでは落ち着いて聴いてくださいね……」
魔法のこと、ユーノのこと、ジュエルシードのこと……。
今回はそれに追加して氷村がジュエルシードを手に入れ願ったんではないかと。
強い思いで発動させると強力すぎる力になる。
野望や欲望がある氷村はジュエルシードの思念体に囚われたんじゃないかと。
みんな黙って最後まで聞いてくれた。
「なるほど……ウチのなのはがそんな事に巻き込まれているなんてな」
「今回のジュエルシードは、なのはちゃんたちは気が付かなかったのかしら?」
「多分気が付かないと思います。僕が直接見て感じられたぐらいなので……。氷村の力が異色だったせいもあるかと思います」
「そういうものなの?」
「はい、現に幽霊になった少女のジュエルシードにも気がついてません。ですので今回も同様かと……」
ついでに廃ビルの件、木の化け物の件もみんなに説明する。
そしてまだジュエルシードが半分も集まっていいないことも……。
「分かったわ。今後、夜の一族のネットワークや、知り合いのツテを使って、ジュエルシードの探索に協力させてもらうわ」
「俺もそれとなく協力させてもらおう」
「あたしはなのはの体調管理とかかな?ウチの人達は結構無理しちゃうもんね」
「太郎様、私達にもなんなりとお申し付けください」
「タロー様のためになら私も協力しますよー」
何だかみんなを巻き込んでしまった感じなんだけど……。
それでもこの協力はありがたいね。
「皆さんありがとうございます」
僕のお礼にみんなが逆に頭を下げて、お礼の言い合いになった事は割愛させてもらいます。