第19話 使い魔
楽しいお茶会も終わりの時間。
お茶会ついでにジュエルシードも手に入ったし、温泉旅行のお誘いも受けた。
温泉旅行は、高町家5人、月村家4人、アリサ、ユーノ、僕と言うメンバーだそうだ。
総勢12名だけど移動手段平気かな?
駄目なら僕は走って行けば良いか。
解散となったので、バスで帰る恭也さんとなのは、車で迎えが来たアリサ。
さて、僕はいつもの様にジョギングをして帰ろう。
ジョギングで家に向かう途中の公園付近まで来ると、さっき月村家で感じた気配が迫ってくる。
気配が迫ってくる方向を見ると、前を見ずに荷物を抱え走ってくる女性がいる。
「話が違うじゃないか……あの女!」
文句を言いながら走っているから、僕のことを気がついていないみたい。
このまま行くと僕にぶつかりそうだな……。
回避しようとしたが、僕の後ろから自転車が走ってきている。
これじゃ僕が避けても自転車にぶつかっちゃうかも。
仕方がないから、そのまま僕がぶつかってクッションになって、荷物と女性を受け止めれば良いか。
「あぁ!」
女性は僕にぶつかり、声を上げ荷物をばら撒いてしまう。
とりあえず、荷物を全てキャッチしながら女性の方を見ると、自分で上手く態勢を整えていた。
「考え事をしていたんだ、悪いねアンタ」
「いや、大丈夫ですよ。狼さん」
「!?」
女性は素早く僕から間合いを取り、戦えるよう構える。
何だか敵意を抱かれたみたいだね。
僕は荷物を持ったまま両手を上げ、敵意がないことを示す。
「待った待った。なんでいきなり敵意を向けるの?」
「なんなんだい、アンタは!」
女性は構えを解かず、警戒したままこちらに問いかけてくる。
あぁ、名前を名乗って居ないから敵意を抱かれたのか!
それなら聞かれたらちゃんと名乗らないとね。
「僕の名前は一之瀬太郎。狼さんのお名前は?」
「くっ、アンタ何故あたしが狼の使い魔だと気が付いた!」
「ん、狼の使い魔? なんですかそれ」
「誤魔化すんじゃないよ! アンタ、あたしのことを狼って言っただろ!」
「いや、気配が狼っぽかったのでそう言っただけなんですけど……。あと、アンタじゃなくてタローですよ。名前を教えたんだからちゃんと呼んでくださいよ。そして狼さんのお名前は?」
女性は構えたまましばらく僕を睨んでいたが、ため息を付いて構えを解く。
「……はぁ。殺気も嫌な匂いもアンタからはしないんだねぇ。何だか警戒しているあたしが馬鹿みたいじゃないか」
なんだか呆れられている様な気がするんだけど……。
うん、気にしちゃだめだな。
僕の周りの人もこんな感じの反応をするしね。
「とりあえずちゃんと話をしませんか?どうも齟齬があるようですから」
「アンタと話すことなんてないよ!」
「アンタじゃなくてタローですよ。とりあえずそこの公園のベンチに行きましょう。自販機で飲み物を買ってきますね」
「おい、アンタ……人の話を聞かないとか言われないか?」
何か言っていたような気もするけど、自販機の方へ向かう。
飲み物を2本購入し、ベンチの方へ向かう。
あ、いたいた。
「お待たせしました狼さん」
「別に待ってないよ。つーか、アンタ……タローがあたしの荷物を持ったままだから、仕方なくここにいるんだぞ」
「あ、狼さんすいません。軽いのですっかり忘れてました。はい、荷物と飲み物」
「狼じゃなくてアルフだよ」
「ありがとうございますアルフさん」
やっと名前を教えて貰えた。
「で、タローと話すことなんて特に無いんだけど。まぁ、ジュース1本分は話をしてやってもいいけどさ」
「んーと。じゃあ、キャッチボールをしましょう」
「はい?」
アルフさんはキャッチボールを知らないのか、首を傾げている。
僕はカバンの中からゴソゴソとグローブとボールを出して、アルフさんにグローブを渡す。
そしてグローブの付け方を教え、装着してもらう。
「これでボールをお互いに投げ合い、コミュケーションを取ることをキャッチボールって言うんですよ」
「へー、そうなのかい。そんなんで良いならやってあげるよ」
「ありがとうございます。じゃあ、行きますよー」
「はいよ」
パシーン、パシーン。
アルフさんは最初、僕の方向にボールを投げるだけで、力加減が分からず暴投ばかりだった。
僕はそれをとりあえずジャンプなどをして全部キャッチし、アルフさんの構えるグローブにボールを投げ入れる。
それを何度か繰り返していくと、アルフさんも要領がわかったのか、ちゃんと僕のグローブに向かって投げてくれるようになる。
そしてしばらく無言でキャッチボールが続く……。
アルフさんは狼素体の使い魔で、フェイト・テスタロッサと言うご主人様がいる。
外見年齢16歳だが、実年齢は2歳。
そのフェイトは僕と同年代で、母親のプレシアさんに言われるままに、ジュエルシードを集めさせられている。
そして今日、月村家にてなのはと戦いに敗れ、肉体的なダメージは殆ど無いが、精神的なショックが大きく、現在は自宅マンションにて休息中。
アルフさんはフェイトのために食べ物を買って帰る途中だった。
なるほどね。
母のために頑張る娘と、それを支える使い魔さん。
ちょっとだけお節介を焼いても良いかな?
キャッチボールを止め、アルフさんに僕から話しかける。
「アルフさん、キャッチボールありがとうございます」
「いや、いいんだよ。タローはあたしが言った使い魔とかのこと聞かなかったから、それのお礼も含めてやってやったんだよ」
「あ、聞かなくてもキャッチボールというコミュニケーションを取ると、何となく分かるんですよ」
「え?」
アルフさんの方に近付き、キャッチボールで分かったことを少し濁して伝える。
それによりアルフさんはまた警戒心を高め、一瞬僕に対して構えるが、呆れたように溜息をつき構えを解く。
「タローに警戒しても意味がなさそうだから止めとくよ。他の人には言わないでくれよ」
「はい、良いですよ」
「それにしてもそんな事で分かるなんて、この第97管理外世界のキャッチボールってのは凄いんだねぇ」
「はい、野球というスポーツのものなので、今度機会があったら見てみてください」
「はいよ、何だか面白そうだ」
アルフさんは野球に興味を持ってもらえたようだ。
うん、こういうのは嬉しいな〜。
おっと、本題に入らなきゃ。
「それで、アルフさんは休息しているフェイトに食べ物を買って帰る途中でしたけど、そんなカ○リーメ○トやS○YJ○Yじゃ栄養は取れますけど、美味しく無いですよ」
「なんだい、そうなのかい? このカロリーってのが取れれば良いんじゃないのかい」
「栄養素が揃っていても、満足感が違いますよ。アルフさんは狼さんなんだから、野菜よりもお肉のほうが好きでしょ」
「そうだね。昔、リニスに野菜ばかり食べさせられて泣きそうになったっけな〜」
リニス……?
まぁ、今はいいや。
「良かったらカレーという、この地球でもトップクラスの美味しさを誇る料理を僕が作りましょうか?」
「お、なんだいカレーってのは?」
「はい、カレーというのは……」
カレーの説明はこの小説、無印 6〜8歳の「第1話 三人娘」を参照です。
カレーは素晴らしいものだから、カレーの説明を始めると結構長くなるんだよね。
そんな説明を懇切丁寧にしたところ、アルフさんがヨダレを若干垂らしている気がするんだけど……。
「タロー、もし良かったら一緒に材料を買いに行って、ウチでフェイトのためにカレーを作ってくれないかい? あたしも食べたいし、フェイトにも元気になって欲しいからね」
「はい、それではまずは買い物に行きましょう!」
「おー!」
なんだかキャッチボールとカレーによりアルフさんと意気投合出来たぞ。
意気投合って漢字には、投げるって字が使われているから、きっとこれもキャッチボールのお陰なんだろうな。
やっぱり野球は偉大だね。