第20話 フェイト
アルフさんと買い物をすませ、フェイトとアルフさんの住むマンションへ向かう。
それにしても僕に対して警戒心を解いてくれたのは良いんだけど、このままフェイトに会わせて平気かな?とかならないんだろうか……。
だってフェイトが今、休んでる原因の1つは僕なんじゃないかなと。
とりあえずその件についてアルフに話をしてみようかな。
「アルフさん、自分から言っておいて何なんだけど、僕がフェイトの住んでいるところに行っていいの?」
「ん、どう言う意味だい?」
「だって、フェイトが精神的なショックを受けたのって、白い魔導師に負けたからなんでしょ」
「あぁ、多分そうだね」
「僕その現場にいたんだけど……」
「……え?」
あ、アルフさんが停止した。
しばらく停止したアルフさんを見ていると、また間合いを取り、僕に対して構えを取る。
「タローは敵だったのか!? それにあの現場に居たってことは魔導師かい!」
「いえ、僕は誰の敵にもなりませんよ。そして、魔導師でもありません」
「じゃあ、一体タローは何なんだい!」
「野球選手です」
「……」
あれ、何だか呆れた顔でこっちを見ているんだけど……。
そして構えを解き、ため息をつく。
「はぁ、タローって……。いや、なんでもない。タローはあたし達に対して敵対しないんだろ。それならフェイトは安全だからいいよ」
そのままフェイトの住むマンションへ歩いて行ってしまう。
んー、アルフさんがそう言って納得してくれたんだから良いんだろう。
今はそんな事よりカレーを作らなきゃ!
フェイトの住むマンションへたどり着きました。
……あれ、僕の家から凄い近いんですけど。
ほら、思い切りジャンプすれば着くぐらい近い。
そんな事を考えていると、アルフさんが部屋の前で立ち止まります。
お、ここなのかな?
表札は……出てませんね。
最近は家に表札付けない人が多いんですよ。
ちなみにゼンリンの地図に書いてある個人の家の名前は、表札見て登録しているらしいです。
ですので、表札をローマ字表記にすると、ゼンリンの地図ではカタカナで表記されるんですよ。
個人情報とか色々気になるけど郵便物とかの関係で表札は付けたいなー、と言う人はローマ字表記にすると良いかも。
救急車を呼んだりした時に、表札はあったほうが間違えにくくて良いんじゃないかなとも思いますし……。
消防署の地図ってゼンリンの地図を使ってるところ多いからね。
さて、おもいっきり話がずれました。
ここがフェイトとアルフさんのお宅ですね。
アルフさんが玄関を開けて入っていくので、僕も後から入っていきます。
室内は結構大きめの4LDK。
ですが、家具などがあまりなく、生活感が薄い感じがします。
そして、リビングのソファーに黒い魔導師が寝てます。
「フェイト、ふぇーいーとっ、起きておくれよ」
アルフさんが近くまで寄って呼び掛けても目が覚めません。
よほど疲れているのか、先程のなのはとの戦いが堪えているのか……。
とりあえず、少し乱れている毛布をかけ直してあげよう。
「さて、アルフさんはフェイトを見ていてあげていいですよ。僕は台所を借りて調理を始めますので」
「そうかい、悪いね。あたしも昨日の夜にここに来たばかりで、少し疲れてるんだ」
「じゃあ、フェイトと一緒に寝ててくださいよ。布団とかあるんですよね」
「あぁ、奥の部屋が寝室になってるから、そっちにフェイトを移動させて一緒に寝てるよ」
「はい、分かりました。料理ができたら起こしますから、1時間程ですが軽く寝てください」
そう言うとアルフさんはフェイトを毛布ごと抱きかかえ、奥の部屋へ行く。
僕はそれを見届けた後、調理を始める。
さて、後は煮込むだけだから、この間に自宅に電話をしておこう。
ちょっと友達の看病をするって言えば大丈夫かな?
……うん、予想していたけど全然平気だった。
むしろ泊まって来ても良いって言われるとは思わなかったよ。
まぁ、あの2人の状況次第で考えようかな。
上手にできました〜!
うん、量はルーを2箱も使って作ったから、普通に20皿分ってところかな?
まぁ、アルフさんはいっぱい食べてくれるだろうから、そんなに保たないかもしれないけどね。
一応フェイトは僕と同年代らしいから甘口にしておいた。
喜んでくれるかな〜。
さて、起こしに行こう。
トントントン
ドアを3回ノックする。
あ、ノックの回数ですが、良く言われるのが2回はトイレ、3回は親しい相手、4回は初めて訪れる所や礼儀の必要な相手とされてますよね。
でも、そんなものは何処の書物にも表記されてません。
ですから、とりあえず自分のノックは3回と決めておいて、他人のノックは気にしないで上げるのが優しさなんじゃないかなと。
目くじらを立てる人もいますが、じゃあ、何処の書物でそんな事が言及されて書いてあるんですか?と聞いてみましょう。
そんなもんマナーだって返されるかも知れませんけど、何処にも書いてないマナーって変だよね。
っと、今日はよく電波が飛んでくる。
返事がないのでそっとドアを開けて中を覗くと、フェイトとアルフさんがベッドの上で仲良く包まって寝ている。
毛布がベッドの上に見当たらず、床に落ちているので、寝相で全部はだけてしまったようだ。
フェイトの服装なんだけど、水着のようなデザインで身体にぴったりフィットしている。
当然、身体のラインがはっきり確認できる訳で……。
誰がこんなデザインしたんだろ?
さっき月村家で見た格好だから、バリアジャケットなんだろうけどさ。
バリアになってないんじゃない?
もし、本人が考えたのだと……いや、僕は変態さんでも露出狂さんでも、人様に迷惑かけなければ差別しないよ。
そんな事を思っていると、ドアが開いたことにより寝室の中にカレーのいい匂いが漂ってきた。
アルフさんの鼻がヒクヒク動き、目を覚ましたようだ。
アルフさんが動いたことで、フェイトも目を覚ました。
そしてこっちを見て……ベッドを挟んで僕と逆側に飛び降りる。
「バルディッシュ!」
『Yes,
sir.』
フェイトの言葉に応じるようにデバイスの声が聞こえた。
きっとバルディッシュってのが名前なんだろうな。
その間にフェイトの手にはデバイスが握られていた。
服装は変わってないから、やっぱり今の格好がバリアジャケットなんだね。
「ちょ、ちょっと、フェイト。待っとくれよ」
「アルフ、侵入者だよ! 油断しないで!」
「いや、違うんだよフェイト。タローは食事を作りに来てくれたんだよ」
「……?」
アルフさんがワタワタしながらフェイトに説明してくれている。
僕はその間に部屋から出ていき、カレーをよそって食事の支度をする。
しばらくすると落ち着いたのか、フェイトとアルフさんが寝室から出てくる。
フェイトはバリアジャケットではなく黒色の服に着替えている。
バリアジャケットのまま寝ていたって、よほど精神的なショックが大きく怖かったのかな?
「挨拶するのは初めてだよね。僕の名前は一之瀬太郎。君の名前はフェイトで良いのかな?」
「う、うん。フェイト・テスタロッサ」
「うん、よろしくねフェイト」
「う、うん。よろしくタロー」
何だかぎこちないけど、ちゃんとすぐに自己紹介を返してくれた人は珍しいかも。
「さて、カレーが冷めちゃうから、とりあえず食べ始めよう」
「あぁ、そうだね」
「カレーって……?」
「説明すると長くなるから、とりあえず食べながらにしよう」
「うん、わかった」
「それじゃ、いただきます」
「「いただきます」」
アルフさんはガツガツと言う効果音が聞こえそうなほど、かなり勢い良く食べ始める。
お代わりの準備をしておかないとかな?
そしてフェイトは……恐る恐る一口目を食べる。
あ、目が思い切り大きく開いた。
その後は黙々と食べ続ける。
カレーは気に入って貰えたみたいだね。
アルフさんが僕にお代わりをよそって貰っているのを見て、フェイトも恥ずかしそうにチラチラとこっちを見ている。
あぁ、食べ終わってお代わりがしたいけど言い出せないのかな?
僕は黙ってフェイトのお皿を取り、お代わりをよそって渡す。
フェイトは驚き、恥ずかしそうにしながら、また黙々と食べ続ける。
どうやらカレーに魅了されたようだね。