第23話 バリアジャケット
フェイト達にジュエルシードを渡して、野球観戦の約束も取り付けられたから、本日の目的は達成されたね。
フェイトとアルフのテンションが微妙におかしいけど、気にしない方向で。
「さて、僕のやることは終わったけど、このあとはどうするんだい?」
「私達はこれからこの街を歩いて、サーチャーを撒き、ジュエルシードを探しに行く」
「へー、この街の地理分かるの?」
「「………」」
『地図データでしたらダウンロード済みですが、直接見ていないので把握しきれていません』
「そっかそっか。じゃ、僕も一緒に散歩に行こうかな」
「タロー、散歩じゃなくてジュエルシード探索だよ!」
「ん〜、僕はジュエルシード目的じゃないから散歩で良いんじゃない?」
あ、アルフが何だか呆れてる。
フェイトは首を傾げてこっちを見ている。
「まぁ、観光ガイドってところさ」
『サンキュー、タロー』
「「バルディッシュ!?」」
よし、バルディッシュの許可も出たし、お散歩お散歩。
出かける準備しないと……って、特に準備するものもないか。
どうせジュエルシードが見つかっても、フェイトが封印処理出来るんだしね。
(ねぇ、アルフ。なんでバルディッシュがあんなにタローと仲がいいの?)
(いや、全く分からないよ。何だか通じるモノがあるのかね?)
(どうしよう、バルディッシュを取られちゃうのかな?)
(タローはそういう事はしないから平気だよ。フェイトがバルディッシュを信じてあげなきゃ)
(うん、そうだね。私、バルディッシュを信じる!)
何だかとんでもなく失礼な念話が聞こえたんだけど……。
まぁ、いっか。
街中をタローの説明を受けながらみんなで歩く。
フェイトの格好は当然バリアジャケットではなく、黒いシャツに黒いスカート。
黒が好きなのかな?
「そう言えば、フェイトに聞きたいことがあったんだ」
「なんですか?」
「あの、バリアジャケットってフェイトがデザインしたの?」
「え、え? なんでそんな事聞くんですか?」
「いや、あれって水着みたいで露出多いけど、海やプールじゃない場所での水着って恥ずかしくない?」
「う……」
フェイトが赤面する。
アルフは何を言ってるのか意味がわかっていないようで首を傾げている。
仕方がない、ちゃんとフォローをしておくか。
「いや、人の趣味を兎や角言うつもりはないし、露出癖があっても僕は差別しないから大丈夫だよ」
「あうあう……」
フェイトは真っ赤になってワタワタしている。
アルフはそんなフェイトを見ているが、首を傾げたままだ。
「なのは……フェイトが1回戦った白い魔導師なんだけど、あの子は空を飛ぶのにスカートだし、趣味は人それぞれだよ」
もうフェイトは黙ってしまって、歩くのもやめてしまった。
「フェイトも小学生ぐらいだから、そういうのはあまり気にしないのかい? それとも封時結界の中なら、他の人に見られないから平気?」
疲れたのかな? と思い後ろを振り返りフェイトを見ると泣きそうな顔になっている。
あれ、なにかフォローを間違ったかな?
でも、このまま泣かれたらマズイよね。
まずは場所を移動だ!
「アルフ、マンションで落ち合うよ」
「え、どうしたんだい?」
そう言ってフェイトを抱きかかえ、僕はジャンプする。
電信柱や、ビルの壁面を蹴り、スピードを上げてフェイトの住むマンションへ一直線に進む。
フェイトは落ちないように、思い切り僕にしがみ付いてくる。
そのままフェイトの家の前に到着して、フェイトの鍵を使い室内に入る。
「ごめんね、フェイト。僕がデリカシーのないこと言って……」
あぁ、フェイトが顔を真っ赤にして震えてるよ。
よっぽど恥ずかしかったんだろうな。
外で聞くことじゃなかったね。
「……あの……降ろしてください……」
蚊の鳴くような小さな声でフェイトが言う。
僕はそっとフェイトを降ろす。
「「………」」
2人して沈黙してしまった。
なんて言えば良いのかな?
「ごめんね。もう言わないから」
「……ホント?」
「うん、ホントホント」
「そう……ならもう良い」
そう言って笑ってくれた。
うん、良かった良かった。
まだ顔は赤いけど、すぐには治まらないよね。
「あ、フェイト。バルディッシュ貸して?」
「う、うん。はい、どうぞ」
「ありがとう」
バルディッシュを受け取ると同時に、ドアが大きな音を立てて開く!
「こら、タロー! あたしを置いて行った事、ちゃんと説明しとくれよ!」
「あ、フェイトが説明してくれるよ」
「え、え、え? わ、私?」
「そうかい。フェイト、さっきのは何なんだい? フェイトも顔を真っ赤にして……」
「え、え、えー!?」
よし、とりあえずアルフはフェイトの方に行ったな。
今のうちにバルディッシュと話をしよう。
「バルディッシュ、ちょっと意見があるんだけど良いかな?」
『はい』
「実は……」
ちょっとした意見を言い、それをバルディッシュが了承してくれた。
なんとも素直なデバイスなんだろうね。
そのままちょっとバルディッシュと雑談。
新たに、牛タンの素晴らしさを教えることに全力を尽くした。
『……牛タンについて、メモリーに登録しました』
「「バルディッシュがまた変なことを覚えてる!?」」
あ、フェイトとアルフが帰ってきた。
フェイトの顔色も回復したみたいだし、アルフも何だか納得したようだから良かった良かった。
「そう言えばタロー。あんた何て移動方法で帰ってきたんだい!」
「そうだよタロー。私、凄いびっくりしたんだよ」
「ごめんごめん。普通に歩くよりも早く一直線に帰れるから、ジャンプしてっただけだよ」
「「『いや、それはおかしい』」」
なんで2人して……いや、今回はバルディッシュまでツッコミを入れてきた!?
「「バルディッシュ!?」」
さすがはインテリジェントデバイス!
ツッコミを入れられるぐらいの人工知能を積んでいるんだね。
「アルフ……バルディッシュが壊れちゃった……」
「フェイト……タローと接してるとこうなっちゃうんだよ……」
「じゃあ、私も!?」
「もう、ツッコミを入れてるぐらいだから、既に変わっちゃってるよ……」
「う、うぅ……」
フェイトはガックリと膝を着いてしている。
非常に不本意な会話をされているな。
良く、朱に染まれば赤くななんて言われるけど、僕はあまりツッコミは入れてないと思うんだけどな……。
「こんな調子じゃ、今日はジュエルシード探索は無理かな?」
「タローのせいだろ……」
「あ、フェイト。この時期は全国的にお休みだから大丈夫なんだけど、それが終わっても平日の昼間に1人で歩いていると、補導されたりするから必ずアルフと一緒に行くか、学校が終わる時間になってからにするんだよ」
「え、何で駄目なの?」
「うん、フェイトって見た目は小学生で、1人で学校にも行かずに歩いていれば職務質問されちゃうんだ」
「……気をつけます」
「あたしも気をつけるよ」
納得してもらえたね。
フェイトが補導されても、保護者がここに居ないんじゃ解放されないし、魔法で逃げたら逆に面倒な事になりそうだからな。
ちゃんとこういうことは教えてあげないと。
後は世間のことを知るためにテレビを見たほうが良いとは思うんだけど、この家にはないからな……。
「さ、夕飯の食材を買いに行こうか。僕はあまり料理できないけど、肉料理とかならなんとかなるからさ」
「お、肉はあたしの好物だ! 今日はどんなものが食べられるか楽しみだ!」
「もぅ、アルフってば……」
「今日はハンバーグでも作るさ」
さすがにハンバーグの存在は知っていたか。
アルフはお肉だから大喜びだね。
多めに作っておいて、食べなかった分は煮込んだから後で食べて貰おう。
この年齢じゃ仕方がないんだろうけど、料理を作れないフェイトとアルフの2人で生活させるのって駄目だよね。
本当に何とかしないといけないかな?
さて、そろそろいい時間だね。
帰って明日に備えなきゃ。
「それじゃ、明日は野球観戦を楽しもうね」
「うん、どこに行けばいいの?」
「両親に車で迎えに来てもらうから大丈夫だよ。それじゃまた明日」
今日もジャンプで華麗にショートカット。
自宅に帰りお風呂から出た後に、自室で猫の頭を優しく撫でながら、今日あった出来事を猫に話す。
フェイトのバリアジャケット話をすると、猫パンチをされてしまった。
僕が悪かったよ……。