第24話 遊園地
今日は天気も良く暖かいから、野球観戦日和だね。
まぁ、ドーム球場で観戦だから、天気はあまり関係ないんだけどさ。
父の運転でフェイトの住むマンションに到着。
両親には待って貰い、フェイト達を部屋まで呼びに行く。
「おはよ」
「タローおはよ」
「おはようさん」
『Good
Morning.』
「準備が出来ているなら行こうか?下で両親が待ってるからさ」
「うん」
車に乗り込み、みんなで自己紹介。
バルディッシュは大人しく喋らなかったけどね。
車が走り出し、他愛もない雑談が始まる。
やれ、食べ物は何が好きだとか、趣味は何なのか……。
フェイトとアルフは食べ物ではカレーが好きと言ってくれた。
作ったかいがあったな〜。
そんな中、父がバックミラーでこちらを見つつ、ふと話し始める。
「そういえば、フェイトちゃんはジュエルシードが危険なものだと分かってるんだよね」
車内はちょっとした緊張感が走る。
そしてフェイトはコクリと頷いた。
「タローも、ちゃんと分かっているんだよな」
「うん。アレが野放しになっているのはかなり危険だと思う。現に、街は被害を受けたし、月村家の人々は傷ついた……」
「そ〜なのよね〜」
フェイトとアルフは僕を見ている。
「だから僕はユーノには悪いけど、誰の手に渡っても良いから、この地球から持ち去ってくれれば構わないと思うようになってきている」
実際、僕が直接関わった神社、学校、廃ビル、プール、猫は怪我人はないものの、一歩間違えれば大災害になっていたかもしれない。
そして、明らかに被害が出た大木、夜の一族……。
今度見つけたら、バットで宇宙に打ち出してみようかと思うぐらい。
「タローの気持ちは分かった。要するにここからなくなればユーノ君であれ、フェイトちゃんであれ、誰の手に渡ってもいいんだな」
「でも〜、それをここで使われたりされると困るわよね〜」
両親は鋭い。
折角地球から排除するために渡しても、地球を巻き込むように使われると困ると言ってるんだ。
「だから、あたし達が何に使うか知りたいってことかい?」
無言で頷く両親。
「……知らない」
フェイトはポツリと呟くように答える。
その言葉に両親はピクリと反応する。
「聞いていないから……知らない」
フェイトは再度そう答える。
つまり母親に頼まれて集めているだけで、何の目的なのか、何に使うのかすら分からない。
ただ、母親のプレシアさんに言われるままに、ジュエルシードを集めていると……。
車内が沈黙に包まれる。
しかし、その沈黙を破ったのは父であった。
「そっか、それじゃしかたがないな。じゃあ、この話はこれでオシマイ」
「そうね〜。これから折角のお出掛けなのに、変な話をしてごめんね〜」
「とりあえず、ジュエルシード集めも良いけど、根を詰めないようにね」
「そ〜そ〜。ちゃんと休まないと、逆に効率が落ちるわよ〜」
ふと、フェイト達と顔を見合わせて、苦笑いをしてしまった。
なんだかんだと、うちの両親には話をしているが、ここまでちゃんと考えていたとは思わなかった。
(フェイト、この人達は魔法のこととか知ってるんだね)
(うん、タローが話をしたのかな?)
(あぁ、タローなら普通にご飯を食べながら話しちゃいそうだよね)
(そうだね。でも、この人達は……)
(うん、普通にあたしたちのことを心配してるのか?)
(多分……そうなんだと思う。タローの父さんと母さんだなと……)
(あぁ、このペースは明らかにタローだね……)
あれ、またもや念話が酷いんじゃない?
最近、念話で僕の陰口を良く聞く気がするんだけど……。
そんなこんなで、ドーム球場の隣にある遊園地に着いた。
野球はナイターだから、それまで遊園地で遊ぶことになっている。
「到着したわよ〜。ふぇいちゃんと、あるちゃんは遊園地は初めて〜?」
「ふぇ、ふぇいちゃん!?」
「あるちゃん!?」
あぁ、うちの母は名前を短くしてちゃん付けで呼ぶんだよ……。
ちなみになのははなのちゃん、すずかはすーちゃんだし、アリサはあーちゃんだったな。
2人とも呼ばれ慣れない名前だから困ってるね。
でも、何を言っても無駄だから僕は言わないよ〜。
「それで〜、遊園地を見た感想は〜?」
「おっきいです」
「でっかいね」
2人とも驚きつつも、声が弾んでいるから、喜んでくれているのかな?
父がフリーパスを買って来てくれたので、みんなで遊園地に入る。
「さて、どこから回ろうか?」
パンフレットを仲良く見ているフェイトとアルフに声をかける。
アルフはキョロキョロと周りを見渡し、お目当ての物を見つけたのか、指を指して言ってくる。
「タロー、あれが良い。ジェットコースターに乗りたい!」
「んじゃ、みんなで行くか」
そう言ってジェットコースターに並ぶ。
そんな僕たちを両親は下で見ている。
さて、僕たちの乗る番だ。
ジェットコースターが動き始める。
最初は徐々に上がって行くんだよね。
「なんだか楽しみだね」
「そ、そうだねアルフ」
楽しそうなアルフに比べて、フェイトの声は緊張していた。
フェイトは高度が上がって行くに連れて、だんだんと身体がこわばっていく。
そして頂上に達し、徐々に重力に従い落ちていく。
「ひゃっほ〜!」
「きゃ〜〜〜〜〜………」
ジェットコースターから降りた後、フェイトはふらふらしている。
それを心配そうに支えるアルフ。
「ふぇ、フェイト、大丈夫かい?」
「う、うぅ……凄い怖かった……」
「フェイトって空を飛べるのに、あーゆーのはダメなもんなの?」
「だって、自分の意識で動いてる訳じゃないんだよ!」
そう言うものなのか。
そー言えば、昨日抱きかかえて移動した時も僕に思い切り抱きついていたけど、あれは怖かったからだったのかな?
まぁ、いいや。
「次は何にする?」
「こ、今度は怖くないのが良い……」
「そう言うならフェイトが決めなよ」
「うん……。じゃあ、アレが良いかな」
フェイトが指差す方向にあるのはメリーゴーランドだ。
これなら怖くはないけど……ちょっと恥ずかしい気もするね。
まぁ、いいか。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
さすがにメリーゴーランドは小学生ばかりだな〜。
まぁ、僕もフェイトも問題ないし、アルフは付き添いのお姉さんって感じだから違和感ないね。
3人で馬に乗って、音楽が鳴ってクルクル回る。
うん、外でから写真を撮ってる両親が楽しそうだ。
僕はこう言うの乗らないからなー。
フェイトもアルフも楽しそうにしているから、良いんだけどさ。
「今のは怖くなかったし、面白かった」
「あたしはもっとスピードがある方が良いけど、アレなら話しながら乗れるね」
「喜んでもらえて良かった。さて、次はアルフの行きたい場所にする?」
「うん、アルフどうぞ」
「ありがとよ。じゃあアレにしようか」
アルフの指差す先にあるのは……お化け屋敷。
そして「GW特別企画! 恐怖も距離も倍増! 地獄への招待状〜戦慄最恐迷宮〜」のキャッチコピーが書かれている……。
「ひぃ……」
それを見たフェイトは泣きそうだが、アルフは楽しそうにフェイトの手を引きお化け屋敷に向かって行く。
近くに行くと、お化け屋敷の内部の悲鳴が聞こえる仕組みになっていて、泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
そして退避口と言う、途中リタイアの人が出てくる場所が並ぶ列の近くにあり、泣きながら出てくるお客さんを見ることが出来る。
しかもこの遊園地の1番の目玉らしく、お客さんも多く、並ぶ時間が長くなり、恐怖心をガンガン煽ってくる。
なかなか手の込んだアトラクションだ。
「あ、アルフ……。本当にこれに行くの……?」
「あぁ、楽しそうじゃないか。フェイトも一緒に楽しもうね」
さすがにアルフにそう言われると、フェイトは逃げられなくなる。
きっとアルフが楽しみにしているんだから、自分も一緒に行かなきゃとか思ってるんだろうな。
そして数十分の待ち時間により、フェイトの恐怖心はどんどん膨れ上がっている……。
さて、僕達の番がそろそろだなと言う時、僕の手がいきなり握られる。
そっちを見るとフェイトが泣きそうな顔でこっちを見ているので、何も言わずに握り返してあげる。
そして僕達の番になり、アルフを先頭に中に入る。
「うわぁ〜」
「きゃ〜〜〜!」
ビックリしながらも楽しそうに進んで行くアルフに対して、恐怖の悲鳴を上げるフェイト。
本物の幽霊のほうが愛嬌があったな〜なんて思いながら進んで行くが、フェイトは涙目になり僕の腕にしがみついてくる。
「フェイト、大丈夫? 途中リタイアしようか?」
声をかけると涙目で首をぷるぷる横に振る。
「あ、アルフが楽しんでるんだもん。私も楽しいよ……」
いや、その涙目は楽しめていると言うよりは、完全に恐怖によるものでしょ。
「そう言うなら頑張って進もうか。大丈夫、本物はいないから」
「え!?」
その後も、アルフの驚きの声と、フェイトの悲鳴を聞きながらゴールを目指す。
本当に普通のお化け屋敷より距離があるね。
僕の腕はフェイトにより骨が軋むほど締め付けられている。
まぁ、そんな簡単に折れる骨でもないけどさ。
……魔力強化してしがみついてないよね?