第25話 野球観戦
悲鳴をあげすぎてぐったりしているフェイトと、対照的に楽しんだアルフを連れて両親と合流。
フェイトの悲鳴は外でも良く聞こえたそうだ。
両親が楽しそうにそう言うと、フェイトは恥ずかしそうに顔を赤らめる。
その後は昼食にし、午後もフェイトとアルフの乗りたいアトラクションを交互に回る。
フリーフォールでフェイトが悲鳴をあげたり、フェイトが大丈夫だと思って選んだコーヒーカップをアルフが思い切り回して、またフェイトが悲鳴をあげたり……。
あれ、フェイトの悲鳴ばかり聞いている気がするな。
勿論トリックアートや鏡の迷宮とかの悲鳴の上げない物もあったけどさ。
最後に観覧車に乗ってオシマイにします。
こんな都会でも、高いところに行けば眺めは良い物ですね。
ちょうど日も落ちてきたので、街もライトアップされ始めます。
「綺麗……」
「そうだね……」
「2人とも自分で飛べるけど、こういうのも中々良いでしょ」
「「うん」」
ゴンドラが頂上につく頃には会話もなくなり、景色を集中して見ている。
まだ野球観戦も残っているので終わりじゃ無いんだけど、これで一段落ってところなのかな?
「2人とも遊園地は楽しんで貰えたかな?」
「ああ。あたしは凄い面白かったよ」
「私は……怖い乗り物もいっぱいあったけど、それも凄く楽しかった。今までこんな事知らなかったし……」
「それならまた来ようね。ジュエルシードの事が終われば一息つけるだろ」
「……うん」
「フェイト……」
そしてゴンドラは下に到着してしまう。
なんだか名残惜しいけど、また来れば良いさ。
そうこうしているうちに時間になったみたいだ。
両親に連れられてみんなでドーム球場へ移動する。
「フェイト、バルディッシュを出してあげないか?」
「うん。バルディッシュ、ここで良い?」
そう言ってフェイトの左胸にバッチの様に付けられる。
小声でバルディッシュのお礼が聞こえる。
『Thank
you.』
そして、ドーム球場へ入って行く。
「うわぁ〜」
「凄いなこりゃ…」
フェイトとアルフが驚いている。
まだ、本番はこれからなのにね。
外野席の最前列にみんなで座り、試合前の練習を見ている。
「あ、あたしとタローがやったキャッチボールをやってるんだね」
「え、アルフ……タローとキャッチボールしたの?」
「うん。初めて会った日に、初めてやったコミュニケーションだよ」
「うん、あれは面白かった」
「むぅ……ズルい」
「今度はフェイトもやろうか?」
「え、良いの?」
「ダメなことなんてないよ」
「うん、ありがとう」
そんな会話をしながら試合開始を待つ。
試合開始が近付くに連れて、選手たちの纏う空気が緊張を帯びてくる。
野球を娯楽として見る人は多いが、選手たちは常に全力を尽くしている。
そのため、この試合が年間を通せばたったの1/144だとしても、けして手を抜いてはいないのだ。
そんな緊張感と熱気で球場は包まれる。
フェイトとアルフもそれを感じ取り、真剣に見ている。
僕は3人に試合が始まるまで、野球の簡単なルールを教えているが、どこまで理解出来るかな?
『……野球について、メモリーに登録しました』
小声でバルディッシュが答える。
これなら後でフェイト達も聞く相手がいるから平気だね。
「プレイボール!」
さあ、試合が始まった。
ゴールデンウィークなので客席も満員御礼が出ている。
乱打戦とまでは行かないが、一進一退の攻防戦。
手に汗握る、とても見応えのある試合だった…。
試合が終わり、興奮冷めやらぬままに球場を後にして、みんなで車に乗り帰路につく。
「野球……面白かったです」
「あれはなかなか興奮したねー」
「タロー、今度は私ともキャッチボールをして」
「イイよ」
「フェイト、家にテレビ置こうよ。野球はテレビでも見られるんだろ」
「うん。でも、母さんに許可を貰えるかな…」
うーん、流石にそっちの事情はな…。
お金にどれだけ余裕があるかだよね。
「それなら〜、ウチで見れば良いじゃない〜」
「「え!?」」
「お母さんに許可を貰えるまではそうすれば良い。お母さんには情報収集で必要だとでも言えば問題ないだろう」
相変わらずウチの両親は優しいね。
それに対して戸惑う2人。
「別に毎日来なければいけないと、言ってるわけではないよ。ジュエルシード探しに一息つく時に来れば良い」
「そうだね。息抜きも大切だよ。」
「「………」」
アルフはフェイトの顔色を伺っている。
そして、フェイトは悩んだ末に頷く。
「その時はよろしくお願いします」
両親は笑顔で頷く。
少しても息抜きになれば良いな。
家に帰る途中に夕御飯をみんなでレストランで食べた。
さすがにカレーにはしなかったよ。
今日は牛タンさ。
これがまた美味しくってね。
満足満足。
そしてフェイト達を家に送り届け、帰宅する。
玄関まで迎えに来た猫を抱き上げ、頭を撫でる。
そして今日の出来事を話してあげる。
猫の表情は良く分からないけど、嬉しそうに聞いていたな。
最後は涙を流していたけど、嬉し涙だったらいいな……。
そうそう、僕が撫でると猫の毛並みが良くなったりするんだよね。
怪我していたりしても、僕が撫でていると早く治ったりするんだ。
8歳の誕生日の時に、この猫を拾ったんだけど、その時は存在が希薄だった。
薄茶毛の山猫っぽいんだけど、図鑑で調べてもイマイチ良く分からなかった。
とりあえずその時は撫でてあげると、希薄だった存在がしっかりとしてきたから、家に連れて帰り両親に飼う許可を貰ったんだ。
最初はほとんど動かなかったけど、毎日撫でてあげていると、1ヶ月もすると普通に動けるようになってきた。
2ヶ月たったクリスマスの夜、枕元に猫耳の女性が立っていたんだ。
鶴の恩返しならぬ、猫の恩返しってものかな?
その時は良く分からない事を言っていた。
とりあえずその中で僕でも分かったことが、この猫の名前はリニスってこと。
自分の前の飼い主とその娘が心配なので、まだ消えたくはないと……。
何がどうなると消えるのか良く分からないんだけど、僕が撫でていれば良いらしいので、それから毎日かかさず撫でている。
人の姿になると魔力を使っちゃうから、その夜以降は猫のままで過ごしてる。
そんな姿では直接会話ができないんだけど、僕からリニスに向かってボールを転がして、リニスがそのボールを転がし返していると、キャッチボールの要領でコミュニケーションは取れるから気にしてない。
今日のことを話した後に、アルフに会ってから気になっていたことを聞いてみる。
「ねえ、リニス。もしかして君って使い魔ってやつだったの?」
「!?」
うん、返事が良くわからない。
とりあえずその後頷いていたので、きっとそうなんだろうと判断。
「あのさ、僕は念話ってやつが聞こえるから、話をしたかったらそっちでしても良いんだよ」
「!?!?」
猫の表情はわからないけど、凄い驚いているっぽいぞ。
(もしもし、タロー。この声が聞こえるんですか?)
「うん、聞こえるよ」
(!?……それなら早く教えて下さい! ボール転がして思考を読まれるなんて面倒な事しなくても良かったじゃないですか!)
「んーっと、聞こえるようになったのはつい最近だし、僕からは話が出来ないから不便なんだよ」
(え!? じゃ、じゃあ、なんで出来るんですか? タローにはリンカーコアがないのは分かってるんですよ)
「え? だから耳を澄まして聞いているだけだってば」
(いや、それはおかしい)
猫なのに器用に頭を抱えてうずくまっている。
(タローは色々と規格外ですね……。毎日撫でて私に魔力を供給したり、今回の念話を耳を澄まして聞いたり、ジュエルシードを持ってきて私の魔力源にしたりと、良く分からないことが多いので慣れました)
「へー、僕が撫でると魔力が回復するんだ」
(正確には少し違う感じですね。多分、撫でた相手の足りないモノ、スタミナだったり私のように魔力だったりを補填している感じです。最近は魔力も充実しているので毛並みが良くなってきてます)
「へー、意外と便利だね」
(驚かないんですか?)
「ん? 僕も自分の異常には慣れたというか、諦めてるからさ。むしろこんな事出来ないかなーってやってる事の方が多いし、面白いしね」
(良く分かりませんが、タローが納得しているなら、それで良いんですけど……)
「そう言えばジュエルシードを魔力源って?」
(え!? 意図してやっていたんじゃないんですか!)
「いや、全然。とりあえずリニスが元気になりますよーにって、願いを込めて首輪に取り付けただけなんだけど」
(……もう、良いですよ。簡単に説明すると、その願いをジュエルシードがしっかり叶えて、私はジュエルシードから魔力供給をしっかりして貰えているんです)
「あ、そうなの。それは良かったね」
(ですから、人型でずっといることも出来ます。さすがにタローのご家族に迷惑がかかるといけないので、このまま猫の姿でいるつもりですけどね)
んー、迷惑がかからなければ良いのかな?
今度、両親に聞いてみよ〜っと。