第26話 さざなみ寮
さて、ゴールデンウィークと言えども平日は存在する。
そんな訳で今日は学校があるわけだ。
「おはよー」
「「「おはよー(なの)」」」
教室に入って挨拶をすると、三人娘がすぐに返してくれる。
なんだかすごい久しぶりに感じるんだけど、気のせいかな?
「タローは休み中、何をやってたの?」
「ん? 遊園地に行って野球観戦だよ。アリサは?」
「あたしはパパとお買い物に行ったりしてたわ」
「そっか、その髪留めはその時に買って貰ったのかい?」
「え……。よ、よく見てるじゃない……」
「うん。よく似合うよ」
「……ばかぁ」
隣にいるすずかやなのはが聞こえないぐらい小さな声で言わなくても……。
どれだけ小さい声でも僕には聞こえるんだけど、褒めたのにバカはないよね。
その後はみんなで何をしたとかで盛り上がる。
なのはは家族が忙しかったのでお散歩をユーノとしたとか言ってるけど、明らかにジュエルシードの探索だよね。
アリサとすずかもそれに気がついているけど、口には出さないな。
後は、朝のジョギングをなのはが始めたと言っていた。
朝は恭也さんと美由希さんが修行をしているので、それに合わせて早起きしているそうだ。
あれ、やっぱりこれってフェイトとお話するためのトレーニングだよね。
そんなに数日じゃ効果は出ないけど、やらないよりは全然良いな。
そのことを恭也さんにちゃんと説明して、無理のないトレーニングメニューでも作ってもらおうかな。
そんな事を考えながらの雑談をしていると、ホームルームが始まり、授業になる。
けど、みんな連休の合間なのでソワソワしている。
ここの平日を休んじゃう子も結構いるようだ。
真ん中を休めば9連休だもんね。
昼休みに三人娘を屋上でお昼ごはんを食べる。
ここでの会話は温泉旅行の話。
随分と楽しみにしているんだな〜。
あ、ユーノに話ししなきゃいけないな。
放課後にでもなのはの携帯電話に連絡して、話をあわせてもらうか。
「あ、そう言えばアリサ達の家って動物いっぱい居るけど、温泉旅行の時はどうするの?」
「あたしは鮫島が世話をしてくれるわ。旅行に行くのはあたしだけだしね」
「私はさくらさんが預かってくれるそうです」
へー、ワーウルフとは言え、動物系だから仲が良いのかな?
「ウチも1人猫がいるんだけど、両親がいるから平気だね」
そんな会話をして昼休みは終わる。
なのははユーノのことを言わなかったけど、それにみんな気がついているんだよ。
早くみんなに話せるようになるとイイね。
放課後はみんな塾なので、僕だけ1人で帰る。
今日はフリーだからたっぷりトレーニングが出来るぞー。
いつもはイメージ負荷を多めにかけて、日常生活そのものをトレーニングにしているけど、やっぱり走り回れないと駄目だよね。
そんな訳で、国守山にやってきました。
道無き道を駆け巡り、イメージ相手が投げてくる打球を打ち返す。
イメージを固めれば17人呼び出して試合できないかな〜?
おや、そんな事を考えていると誰か来たぞ。
美由希さんと同じぐらいの年齢の女性なんだけど、気配が猫っぽいんだよね。
「あれ、こんな所で子供が何やってるのだ?」
「初めまして、猫さん」
「にゃ!? にゃんのことかにゃ?」
「いえ、気配が猫っぽかったのでそう言っただけなんですけど、動揺しすぎて尻尾が出てますよ」
そんな僕の言葉に慌てて尻尾を探すけど、当然そんなものは出ていない。
なんだか単純な人だな〜。
「にゃ! 嘘ついたら駄目なのだ!」
「いや……、さすがにその動きをされると僕も困りますけど……。隠すなら上手く隠してください」
「……」
あ、拗ねた。
しばらく様子を見ていると復活する。
「にゃっはっは。このあたしの正体を見破るとはやるのだ。名前を名乗るといいのだ!」
「あぁ、自己紹介が送れました。一之瀬太郎です」
「一之瀬……タロー……? あれ、神奈の昔の苗字と一緒なのだ?」
「んー、その神奈さんと一緒だか分かりませんが、陣内神奈さんは叔母ですよ」
「にゃにぃ! それでは……あちしと従姉妹ではないか!」
「んーっと。じゃあ、もしかして陣内美緒さん?」
「そうなのだ」
そこからあれよあれよと話が弾む。
美緒さんは、僕の叔母である神奈さんが結婚した陣内啓吾さんの娘。
初対面の僕に話すことじゃないと思うんだけど、実は啓吾さんが拾って来た猫又で、二本の猫尻尾と収納可能な猫耳を持っている。
そしてここ国守山にあるさざなみ寮に住んでいる。
城西高校の2年生で、海鳴商店街内のペットショップ『フレンズ』でアルバイトをしている。
今度リニスの遊び道具を買いに行こうかな。
僕がトレーニングをしていると言うと、鬼ごっこで足腰を鍛えてくれるって話になった。
要するに僕が追いかけて美緒さんが逃げると。
「それじゃ……よーい、どん」
さすがは猫又……、凄い運動能力だ!
普通に走るだけでなく、木々の上まで登ったりして逃げて行く。
これは……楽しめそうだ。
「にゃんがにゃんがにゃー♪にゃーらりっぱらっぱらっぱらにゃーにゃ♪」
「そんな余裕をしていると、すぐに捕まえちゃいますよ」
美緒さんは余裕で逃げられると思ったのか、鼻歌なんて歌っていた。
その真横に瞬時に現れてみたら、思い切りビックリしているね。
そこからさらなる反応をし、速度を上げ縦横無尽に逃げまわる。
「やせいのちから、ナメたらいけないのだ」
これは面白い。
こっちも追いかけ回してみる。
捕まえちゃうと終わっちゃうので、正面や真横に現れて驚かして、さらに追いかける。
……30分後
息1つ乱れていない僕の前で、地面に大の字に寝転がってゼーハー言っている美緒さんがいる。
「大丈夫ですか?」
「だめなのだー、年下に良いように追い掛け回されて、しかも息切れ一つされないなんて……」
「でも、僕は楽しめましたよ」
「それではなにかに負けてしまうのだ!魂的に!」
そんな事言っていても、全く動けないみたいだね。
仕方がないので、美緒さんを担いでさざなみ寮に向かう。
「うぅ……。申し訳ないのだ……」
「気にしないでください。僕は気にしませんから」
「あちしが気にするのだ〜」
そんな言葉をスルーして、さざなみ寮にたどり着く。
呼び鈴を鳴らし、誰かが出てくるのを待つ。
そして出てきたのは190cmを超える大きな男性。
「はいはーい、どなたですかーって、美緒!?」
「こーすけ、負けたのだー」
「えっ?」
「はじめまして、一之瀬太郎と言います」
「これはご丁寧に。俺は槙原耕介です。と、とりあえず中に入って……」
さざなみ寮の1階にあるリビングに案内され、お茶を出される。
そして美緒さんとの鬼ごっこの話をする。
耕介さんは呆れてるね。
んで、槙原耕介さんは僕の従兄に当たる人だと美緒さんから説明があった。
そこからはお互いに自己紹介が始まる。
こんなに近くに住んでいても機会がないから会わないもんだね。
まぁ、僕はまだ子供なので、大人のイベントに参加していないからかもしれないけどさ。
耕介さんは僕の父の姉、槙原彰子さんの子供で、このさざなみ寮の管理人。
既に結婚していて、妻の愛さんはさざなみ寮のオーナーで、槇原動物医院・院長。
そしてリスティさんと言う養女がいて、現在は警察関係の仕事をしている。
その後も色々話をしていたら日も暮れてきたので帰ることにする。
耕介さんがバイクで送ってくれるというけど、トレーニングついでに走って帰ると返事する。
でも、そう言うと僕が遠慮しているように感じるみたいで……。
「安心して、うしろに女の子乗せてコケたことは、まだ一度もないから!」
「いえ、僕は男ですので安心できませんよね」
「あっはっは、タロー君も言うね〜」
「いえいえ、耕介さん程でもありませんよ〜」
何となく漫才みたいな会話になっちゃったな〜。
結局、耕介さんに押し負けてしまい、バイクに乗せてもらって帰ることになった。
800ccの大きなバイクでスピードも早かったよ。
途中で美緒さんのバイト先である、フレンズって言うペットショップで猫じゃらしとかも買った。
リニスは喜んでくれるかな〜?