第33話 カメラ機能
なのはとフェイトによる第2戦目。
それはなのはの初の敗北となった。
敗北から何かを掴んでくれると良いんだけどさ。
フェイトは今回のでジュエルシードが合計3個になって、なのはは6個に減ってしまったね。
まだなのは達が有利なんだけど、どうなることやら……。
とりあえずまだ夜だから旅館に戻らないとね。
ユーノの腕の中で、なのはが目を覚ました。
「あれ……私……? え、えっ!?」
あぁ、ユーノがお姫様抱っこして運んでいたんだったな。
最初は理解していなかったなのはが、やっと状況をつかめたみたいだな。
「あ、なのは。目が覚めたのかい?」
優しい声をかけるユーノとなのはの目が合う。
「えーーーーーー!!!!!」
悲鳴とともにプシューと言う音が聞こえるぐらいに、なのはは赤面して俯いてしまった。
僕は耳を塞げたけど、ユーノはなのはを抱っこしているので悲鳴を防げずクラクラしている。
さすがに近距離からの悲鳴はダメージ大きそうだね。
フラつきから回復したユーノから、なのはは説明を受ける。
その説明で、なのはは自分が負けたことを理解したみたいだ。
「そっか……私、負けちゃったの……」
『すいませんマスター。私が不甲斐ないばかりに』
「そんなことないよレイジングハート。……えっ!? レイジングハートが日本語喋ってるの!」
『今回の敗北は、向こうのコンビネーションによるものです。私達もコンビネーションを上げるために、日本語でコミュニケーションを取るようにしましたが、問題があれば元に戻します』
「ううん。レイジングハートともっとお話したいから、このまま日本語でお願いなの」
『わかりました』
そのままみんなで旅館へ帰る。
なのはは……もう動けるだろうに、ユーノにお姫様抱っこのままだ。
真っ赤になりつつ降りないって、ユーノに甘えてるな。
まぁ、今は敗北の心の傷を癒して貰わないと。
とりあえず僕はそのことに触れずに話を進めるか。
「みんなはまだ寝ているだろうから、そっと窓から戻ったほうが良いかもね」
「そうだね。僕たちは魔法で飛べるけど、タローはどうする?」
「んー、僕はこのまま温泉に入ってから戻るから良いよ」
「そっか、じゃあここで別れて行こうか」
「うん。あ、そうだ。なのは、携帯電話での撮影方法ってどうやるの?」
「ふぇ!? えっと、そこのボタンを押せばカメラが起動するから、画面を見てそれを押せばいいの」
「うん、わかった」
えっと、こうして、こうやって……。
連写モードってなってるけど、これでいいのかな?
「なのは、ユーノ。はい、チーズ」
「「え!?」」
カシャカシャカシャカシャカシャ
「はい、ありがとうね。んじゃ、お休み〜」
「「えーーーーーー!!!!!」」
「2人とも、まだ夜だから静かにね〜」
さてと、温泉に入ってゆっくりしよーっと。
戦いとかを見ているだけだったから、僕は汗すらかいてないんだけどさ。
でも、あれだけ爆発が近くで起きると埃っぽいよね。
カポーン
こんな時間には誰も温泉には入ってないから、まさに貸切状態だ。
う〜ん、いい湯だ。
僕の家のお風呂もこうならないもんかね。
家の庭を掘って温泉は出てこないかな〜。
そんな事を考えていると、脱衣室の扉が開き誰かが入ってくる。
こんな夜中に誰だろう?
……って、この気配は!
「随分と広いんだ。アルフが喜んでた訳だね」
やっぱりフェイトか……。
ここは男湯なんだけど分かってるのかな?
しかも湯船に向かって小走りで向かってくる。
「えい」
ジャボーン
僕の思考を遮って、フェイトが湯船に飛び込んで来た。
なかなか予想外だね。
水飛沫を僕にかけた事により、湯船に人がいることに気がついたみたいだ。
「あ、ごめんなさい」
「あぁ、別にイイよ。それよりもフェイト、男湯って文字は読んで入って来たのか?」
「え!? あ、た、タロー!?」
「慌てるのは分かるが湯船から出ると全部見えちゃうから、とりあえずタオルを使って少し隠しなよ」
手持ちのタオルをフェイトに投げて渡す。
後はフェイトが持っているタオルを使えば、上下で隠せるだろう。
ワタワタしながらフェイトはタオルを体に巻き付けている。
「な、なんでタローがここにいるの?」
「ん? ここ男湯だよ」
「え!? 9歳以下はどっちに入っても良いって書いてあったから、普通に入って来たのに……」
「その理論で行くと、僕もどっちに入っても良くなるわけだよね……。じゃあ、気にしない方向で」
「気にするよ……」
「大丈夫だよ。もう目を瞑ったから」
「うん……。最初の見た?」
「最初から温泉に入っていたのは僕の方だよ。当然、はしゃいで湯船に飛び込んだのは見てたよ。ヒャッホーとか言って飛び込んだよね」
「ヒャッホーなんて言ってないよ!」
「うん、言ってないね」
その言葉にフェイトはため息をつく。
とりあえず少し落ち着いたかな?
「それじゃあ、僕が温泉から出ようか?それともフェイトが女湯に移動する?」
「えっと……。その、このまま少しお喋りしたいな……。駄目……かな?」
「別に良いよ。叶えられるお願いごとは、基本的に断らないさ」
「……ありがとう」
その後、沈黙が続く。
お喋りっても何を話せばいいんだかね。
「あ、そうだ。今日は初勝利おめでとう」
「あ、ありがとう……。でも、結構ギリギリの戦いだった」
「それでも勝利は勝利さ。そして、その勝利に胡座をかかず、次も負けないように努力をすればいいのさ」
「……うん」
「勝っても負けても得るものはあるからね。そういう意味では、初戦の敗退はある意味良かったのかな?」
「あ、あれは……。た、タローが素振りで猫からジュエルシードを出すから……」
「そうだっけ? 良くあることでしょ」
「それはない」
おっかしいな〜、ミッドチルダではないことなのかな?
ここ海鳴市なら割かし良くある事なのに。
電撃をバントしたのはデバイスだと思ったから気にはしなかったらしいけど、リンカーコアが僕にないことを知っていたら、もっとビックリしたんじゃないかなって言われた。
別に普通のことでしょ。
その後は何となく雑談。
野球とか他のスポーツの事とかを僕が話して、フェイトが相槌を打つ。
あまりフェイトは積極的に話さないから、僕がいっぱい喋る事となった。
野球に興味を持ってくれているので、今度キャッチボールをする約束になった。
そんな雑談をしていると、段々とフェイトの目がトロンとしてきて、相槌を打ちながら寝てしまった。
慌てて湯船に顔が浸からないように支えるけど、完全に寝ちゃっていて起きないね。
こりゃ、面倒な事になったな〜。
仕方がないので脱衣所へ移動させ、バスタオルで身体を拭いて着替えさせる。
まぁ、子供の世話だと思えばどうってことはない。
僕も着替えて、フェイトを背負ってアルフの気配がする部屋へ向かう。
旅館の部屋だから鍵も閉まっておらず、普通に入れた。
アルフは……ぐっすり寝てるね。
辺りを見回すと、テーブルの上にはバルディッシュがいた。
『タロー?』
「こんばんはバルディッシュ。フェイトが温泉で寝ちゃったから連れてきたんだ」
『Thank you.』
布団にフェイトを寝かせ、部屋から出ようとする。
『タロー、お願いがあります』
「良いよ」
『温泉に入ってみたいです』
「うん、分かった。じゃあ、一緒に行こうか」
『はい』
テーブルの上にいたバルディッシュを連れて、また温泉に入りに行く。
バルディッシュと静かにノンビリと温泉に浸かる。
沈まないように湯船に桶を浮かべて、バルディッシュに入って貰った。
デバイスって機械っぽいけど、錆ないものなのかな?
月を見ながら露天風呂。
感傷的なのは苦手だけど、前世を思い出してしまうね。
そうすると、僕の家族はどうなったのかとか考えてしまう。
もう二度と会えることはないし、会っても別人なんだよね。
無事に楽しく生きていれば良いんだけど……。
『タロー、悲しそうな顔をしていますがどうしました?』
「ん? 僕、そんな顔になってた?」
『はい、今にも泣きそうでした』
「そっか……」
『そうです』
バルディッシュはデバイスなのに良く気が付くね。
ちょっとした独り言をするかな。
「ちょっと過去を思い出していただけさ」
『そうですか。それで泣きそうで悲しそうな顔をしているということは、辛い過去なんですね』
「あぁ、もう取り戻せない家族との繋がりさ」
『繋がりは、けしてなくなりませんよ』
「そっか……」
『失った過去もあると思いますが、タローは今を生きています。そして家族ではないかも知れませんが、新たに紡いだ繋がりも沢山あるでしょ』
「そうだね」
『それなら過去だけを振り返らず、今をしっかりと歩き、未来を見るべきかと思います』
ふと、沈黙が辺りを包む。
バルディッシュの言葉に、少しだけ救われた気がするよ。
「ありがとな、バルディッシュ」
『いえ、タローにはフェイトを助けてもらってますので。そして私の言葉はデータからの言葉、あまり本気で受け止めないでください』
「いや、バルディッシュには沢山のデータがあるかもしれないけど、そこから僕に対して一生懸命選んで答えてくれたんだ。それはもう、君の言葉だよ」
『……ありがとうございます』
「いや、僕たちは友達だろ。当然の言葉さ」
『友達……』
「嫌かい?」
『いえ。しかし、私はデバイスです』
「そんな事を僕が気にすると思ってるのかい?それこそデータ不足だろう」
『……Thank you.』
その後、夜明けまで2人で温泉に浸かった。
僕のことを話したり、バルディッシュの作ってくれた人のことを話したりと、2人で雑談を繰り返したよ。
それにしても、バルディッシュを作った人の名前がリニスねぇ……。
そろそろこれらの件について、リニスと話をしてみようかな?