第34話 相談
温泉でフェイトと話をしたり、バルディッシュと話をしたりと……。
そろそろ僕はフヤケてしまうんじゃないか?
まぁ、ゆっくりとバルディッシュと語り合えたから良いかな?
気配を消してそっとフェイト達の部屋に侵入。
バルディッシュをテーブルの上に置き、フェイトとアルフの布団をかけ直し部屋から出ていく。
僕達の部屋に帰ってくると、まだみんな寝ていた。
僕も布団に入ってもう一眠りしようかな〜。
しかし、僕の浴衣はアリサがしっかり抱きしめていて取り出せない……。
もう夜が明けてきたから、寝るのを諦めてのんびりしておこう。
「あれ、タロー君。もう起きてたの?」
「すずか、おはよー」
「うん、おはよう」
すずかが起きたようだ。
とりあえずお茶でも入れて上げよう。
「タロー君は早起きだけど何してたの?」
「うん、さっきまで温泉に入っていたんだよ」
「そうなんだ……。じゃあ、一緒にお散歩にでも行かない?」
「イイよ」
「じゃあ、着替えてくるから待っててね」
「うん」
着替えたすずかと一緒に朝靄の中、のんびりと散歩する。
特に何を話すわけでなく、ただゆっくりと歩く。
そんなのんびりとした時間が過ぎる。
帰ってくる頃には朝食の時間になったようだ。
と言うことは、随分と歩いたんだな。
「すずか、たくさん歩かせちゃってごめんね」
「ううん、私は平気だよ。いい運動になったぐらい」
「どうも自分ペースだと加減が分からなくって……」
「あ……私、身体能力とか普通の人より高いから平気だよ」
そう言えば夜の一族ってやつだったよね。
すっかり忘れてた。
そんな事を思いつつ部屋に帰ってきた。
「あ、タロー。どこ行ってたの……。すずか?」
「すずかとその辺を散歩してきただけだよ」
「そ、そうなんだ……。明日はあたしも誘いなさいよね」
「だって、アリサ寝てたよ」
「それでも起こして誘いなさいよ!」
「あ、あぁ。わかったよ」
そう返事をするとアリサは満足気にしている。
横を見るとすずかは笑ってるけど……。
ま、朝飯を食べよう。
食事を済ませ、朝風呂に行くグループ、お土産を見に行くグループ、散歩に行くグループに別れる。
僕はお土産を見るんだけど……お土産屋にフェイトとアルフが居るのは反則だよね。
一応このグループはアリサとすずかだから大丈夫か。
フェイトは温泉まんじゅうを買って、僕達に気が付くことなく出て行った。
あれ、母親に買ったのかな?
昼食も終わり、大人グループ、子供グループと分かれ、午後の予定を決めている。
僕たちは子供グループの部屋に集まった。
「みんな、ちょっと相談に乗ってほしいの」
なのはがみんなが揃っている時を見計らって、そんな事を言う。
おや、大人たちも聞き耳を立てている気配がするな。
「なのはからそんな事言うなんて……」
「なのはちゃん、よっぽど追い詰められているんだね……」
「にゃー、2人とも酷いの!なんでそんな事を言うの?」
「「自業自得よ」」
あぁ、なのはが凹んでる……。
そしてさり気なくユーノが肩に手をおいて慰めてるけど、隣の部屋から士郎さんと恭也さんの殺気が強くなってるよ。
まぁ、いいか。
「それはともかく……。なのは、続きを言って」
「うぅ……。ユーノ君もさり気なく酷いの」
「え!?僕は自業自得とか思ってないよ」
ユーノはフォローしたのに、何故か矛先が自分に返って来てしまった。
ワタワタしてるから話が進まないな。
「ほら、2人でいちゃついてないで、話を進めてよ」
「「いちゃついてない(よ・の)!」」
「息もピッタリだと、説得力無いわよ」
「あはははは……。なのはちゃん、ドンマイ」
「もぉ〜、みんなのせいで話が進まないの!」
仕方がないからみんな静かに話を聞く。
何だか無駄な緊張感だね。
なのはは咳払いを一つして、話し始める。
「私、勝負に負けちゃったの。……ううん、そんなことじゃない」
なのはは首を左右に振り、俯いて話を変える。
「気になる子がいるの。凄く強くて、冷たい感じもするのに……。だけど綺麗で優しい目をして……。なのになにかすごく悲しそう……」
なのはは顔を上げて続きを話す。
「私はその子と話がしたい。でも、話しあうだけじゃ、言葉だけじゃ駄目って……」
みんな無言で話を聞いている。
「その子とは同じ物を求めているから、どうしてもぶつかり合ってしまうの……。お互いに譲れないものだから……」
そしてなのはは沈黙してしまう。
アリサとすずかは顔を合わせ、呆れたようにため息をつく。
「なのはちゃんは、その子と友達になりたいのね」
「え……?」
「そうよ、なのは。その子の事が心配でしょうがないんでしょ」
「う、うん……」
「それならガツーンとぶつかりなさいよ!」
「そうそう、私とアリサちゃんと友達になったようにね」
なのはは2人の言葉を聞いてキョトンとしている。
アリサとすずかは笑ってる。
「そう言えば3人は喧嘩から始まった仲なんだよね」
「なんで、タロー君が知ってるの?」
「タローはその場にいたんだって。タローも昔の事ぶり返さないでよ!」
「えー、アリサとなのはが取っ組み合いの喧嘩していたとか言っちゃ駄目だった?」
「「わー!!」」
アリサとなのはが慌てて僕の口を塞ごうとするけど、とりあえず避けておこう。
そんなじゃれ合いをしてると、大人グループがこっちの部屋に来た。
それを見て動きが止まるアリサとなのは。
「なのは……そんな事をしていたのか」
「にゃ! ち、違うのお父さん」
「いや、怒ってるわけではないんだよ。僕達のせいでもあるんだけど、なのははそういう事を言ってくれないからさ」
「で、でも……。私、いい子でいないといけないから……」
そう戸惑うなのはを桃子さんが抱きしめる。
「ごめんね。なのはが小さい頃に、かまってあげられなくって……」
「そんな事無いの! みんなが我慢して大変だったのに、私だけ我儘言えないの!」
「なのは……」
「でも、そんな1人の時に公園で誰かとキャッチボールをした思い出があるの。だから私は1人ぼっちでもないし、ずっと寂しかったわけでもないの」
士郎さんもなのはと桃子さんを抱きしめる。
「いいんだよ、もう我慢しなくて。今は好きなことを好きなようにやって良いんだよ」
「そうよ、なのは。でも、私達に色々話して我儘も言って欲しいわ」
「僕たちは、なのはの家族だ。頑張るなら応援するし、間違っているなら正す。だから、もっと話をしよう」
なのはの周りに恭也さんと美由希さんも集まってくる。
「俺たちもいくらでも力になるさ」
「そうよ、お姉ちゃんを頼りなさい」
なのはは家族の言葉を聞いていると泣きだしてしまう。
それに合わせて高町家のみんなも泣いているな。
そしてアリサたちも、もらい泣きしてるし……。
落ち着くまでそっとしておこう。
結構時間がかかったけど、みんな落ち着いたみたいだ。
なのはの相談から変な方向に行っちゃったな……。
「話を戻すが、なのははその子とお話をしたい。だけど、向こうは聞く耳を持たないと」
「うん」
「しかも勝負したら負けたと」
「うん」
「そういう時は、ガツン! っと勝負に勝ってから話をすればいいだろ」
「あなた……さすが良い事言うわね」
「うん、俺も昔そんな事があったな」
「恭ちゃんを無理させないために、戦って倒したりとかあったね〜」
駄目だこの高町家……何かがズレてる。
僕は思わずアリサとすずかに呟いた。
「一発ぶん殴って黙らせてからお話をすると言う、何か間違ったコミュニケーション方法だよね」
「あぁ〜、だからなのはと最初に会った時、いきなり頬を叩かれたのね」
「その後の取っ組み合いも、なのはちゃんにとってはコミュニケーションだったんだね」
僕の言葉にアリサとすずかも何だか頷きながら納得してるな。
本当にそれで良いのか?
「うん。私、頑張って勝つの!」
でも、なのははなのはで納得しちゃったよ!
どうしよこの流れ……。
しかもユーノまで頷いてるよ。
「よし、何の勝負だか分からんが、高町家総力を上げて手伝うぞ!」
「「「おー!!」」」
駄目だこの家族……早くなんとかしないと……。