第36話 話し合い
温泉旅行から帰宅し、これにてゴールデンウィークも終わり。
明日から学校か。
そんな事思っていると夕飯も終わり夜になったので、自室でリニスとお話をしようかな?
「リニス、色々話がしたいんだけど良いかな?」
(はい、構いませんよ。でも、明日は学校なんですから、夜更かしは程々にしてくださいね)
「うん。それにしても、この僕の格好は、猫とブツブツ独り言をしている怪しい姿にしか見えないね」
(そうですね。それなら私が人型になりましょうか?)
「うーん、それじゃ両親に見られた時に言い訳が出来ないよね。僕も念話が使えれば良いんだけど……。そっと呟いても駄目かな?」
(タロー、さすがにそれは魔法の常識的に無理です)
「そっか……。リンカーコアがあれば魔法が使えるなら、リンカーコアを体内に作れば良いのかな?」
(それも無理ですよ。リンカーコアは先天的にあるものなので……)
「うん。でも、無理って言われるのはあまり好きじゃないから、僕なりに頑張ってみるよ」
(はぁ……。まぁ、頑張ってください)
何だか呆れられてるけど、そんな事は気にしない。
決意を新たに頑張るぞ!
とりあえずフェイトとアルフ、バルディッシュの事で、僕が知っていることをすべて話す。
バリアジャケットのところで猫パンチをまたされるけど、この話は前回聞いたことでしょ。
そして、今回はバルディッシュに色々教えたところでも猫パンチをされた。
バルディッシュの知識が増えるのは別に良いじゃないか。
(そうですか……。フェイトはプレシアに言われるままにジュエルシードを集めて……)
そこからはリニスから説明を受ける。
フェイトの母親はプレシア・テスタロッサと言う名前で、リニスはその人の使い魔だった。
プレシアは仕事の事故で娘のアリシアを失い、人工生命の開発と記憶転写の研究をし始める。
完成したアリシアのクローンにアリシアの記憶転写をし、アリシアとして接する。
しかし、それはアリシアではなく別人であった。
それに失望したプレシアはアリシアと言う名の記憶を消し、新たにフェイトと名付けた。
そのフェイトの育成と、魔法の教育のためにリニスが使い魔としてプレシアに作られた。
プレシアは仕事の事故で身体を病魔に侵されており、あまり長くは保たない。
そして、タローの話からアリシアを生き返らせるために、フェイトにジュエルシードを集めさせているとリニスは思う。
バルディッシュの完成と、フェイトの魔法教育の終了に併せて、リニスはプレシアとの使い魔契約が切れたので、魔力が切れて消える前にフェイト達の前から去った。
管理世界ではフェイトに自分が死んだことを気づかれてしまうかもしれないので、ランダム転移で管理外世界のここに到着した。
後はタローに拾われたと。
「そっか……大変だったね」
(消えるつもりが、タローに拾われて今も生き延びてます。それだけで充分だったんですけど……)
「フェイト達のことを知ってしまったから、それをどうにかしたいと言う事か」
(はい。フェイトのところに行き、プレシアに会いに行きます)
「分かったよ。じゃあ、一緒に行こうか」
その言葉にリニスは驚いて、僕の方を見る。
(え!? タローにはそんな迷惑をかけられませんよ!)
「んー、迷惑とかどうでも良いよ。リニスが今、何をどうしたいのか。それが一番大事だよ」
リニスは俯いてしまった。
そして振り絞るように言葉を紡ぐ。
(フェイトを……プレシアを救いたい……)
「ん、了解。僕の出来る範囲で手伝うよ」
(でも……)
「気になるというなら、僕と使い魔契約ってやつをしよう。契約内容はフェイトとプレシアの救済!」
(そんな事……)
「リニスは今、ジュエルシードから魔力供給されてるけど、それは僕が原因で起きたことでしょ。だからそれに対する契約ってことにしといて」
リニスは僕の決意を確かめるかのように目を見つめる。
そして人型になり、僕の足元のひざまずく。
「私、リニスは一之瀬太郎との契約に従い、その願いが叶うまで付き従うことをここに誓います」
「うん、よろしくねリニス。まぁ、嫌になったら適当に契約切って良いから」
「そういう事のないための契約です!さっきまでの真面目な雰囲気はどうしたんですか!?」
「んー、電池切れ?」
「人に電池なんて入ってません!」
「夜中だから両親起きちゃうから静かにね」
「誰のせいで怒ってると思ってるんですか!? ……って、何で首を傾げて分からないって顔をしてるんですか!」
そんなリニスの大声に反応するかのように、部屋のドアが開く。
そこには両親が立っていた。
「タロー、何をやってるかわからないが、今は夜中だから……」
当然室内を見ればリニスが見えるよね。
さすがに隠せないか。
両親は一瞬だけ驚いた顔をしたけど、すぐに落ち着き静かに言う。
「タロー、その人を連れてリビングへ来なさい。そこの女性も良いですね」
「「はい!」」
そしてリビングに両親と僕、リニスが集まる。
母は普通にお茶を準備してるんだけど、やっぱりマイペースだね。
お茶が全員に渡ると、父が僕に説明をするように促す。
8歳の時に拾って飼い始めた猫が、このリニスってところから、さっきまでリニスと話していた内容すべてを話す。
両親は最後まで黙って聞いてくれた。
「分かった。じゃあ、タローは出来ることをやりなさい」
「え?」
「リニス、これが僕の自慢の両親だよ」
戸惑うリニスと、僕にそう言われて照れる父に、とても喜ぶ母。
「ちょ、ちょっと待ってください。本当に全部受け入れて、しかも許可しちゃうんですか!?」
「ん〜、たっちゃんはいい子だし〜。出来ることをするのは当たり前よ〜」
「既に魔法のこととか知ってるし、どうせそのついでだろ」
「……ありがとうございます」
リニスが深く頭を下げる。
両親は笑っているけどね。
その後の話で、リニスは人型でこの家で生活できる事になった。
まぁ、母がその方がお話できて良いじゃない〜って言うからなんだけどさ。
今晩はリニスの部屋を準備出来ないので、リニスは僕の部屋で寝ることになった。
もちろん布団は別だからね。
寝る時だけ猫になって貰っても良かったんだけど、両親が折角だからと言われたら何も言えないよ。
何が折角だからなんだか分からないんだけどさ。
次の日の朝、目が覚めて周りを見渡すが、部屋にリニスが居ない。
家の中に気配はあるから特に気にせず、着替えて顔を洗い、リビングへ行く。
そこで台所で母と一緒に料理を作っているリニスがいた。
「おはよ」
「おはようございます、タロー」
「おはよ〜」
「リニスは母さんと一緒に料理してるの?」
「はい。元々、テスタロッサ家のお世話をしていましたから、料理などは得意なんですよ。ミッドと食材や調味料の名前が違いますが、色々とお母様に教わってます」
「そうなのよ〜。今、りっちゃんはたっちゃんのお弁当を作ってるのよ〜」
「それはありがとう。お昼ご飯が楽しみだね」
「お口に合えば良いのですが……」
「大丈夫よ。たっちゃんは残さず食べてくれるわ」
母は簡単に言うけど、食べられないものもあるからね。
まぁ、食べ物なら大概大丈夫だけどさ。
リニスを含めた家族みんなで朝ご飯を食べて、リニスの作ったお弁当を持ち学校へ向かう。
休み明けだから、みんなダルそうにしている人がいっぱい居るね。
いつも通り三人娘と雑談し、午前中の授業を終わらせ昼休みになる。
三人娘と屋上でお昼ご飯を食べる時に、僕のお弁当がいつもと全然違うので、誰が作ったのかアリサに問い詰められるけど割愛……。
「割愛なんてさせないわよ! タローのお弁当は誰が作ったのよ!」
「んー、リニスっていう居候」
「誰よそれ?」
「……猫?」
「猫?って何よ!猫が作る訳無いでしょ!ちゃんと話しなさいよ!」
「アリサちゃん、落ち着いて」
「落ち着けるわけ無いでしょ! あたしのタローのお弁当を誰が作ったかなのよ!」
「「アリサちゃん……」」
「は!?」
やっとその言葉で我に返ったアリサの顔がみるみる真っ赤になる。
そして、俯き肩を震わせて、僕の方を向き大きな声で叫ぶ。
「タローのバカー!」
その後は走って行ってしまった。
屋上に妙な沈黙が流れる。
なんだか僕が悪い雰囲気だよね。
とりあえず、お弁当の残りを一気に食べる。
「はぁ、ちょっと行ってくるね」
「「行ってらっしゃい」」
なのはとすずかに見送られアリサを探しに行く。
まぁ、気配で体育館の裏に居るのは分かるんだけどさ。
地面に座り込んで居るアリサを見つけた。
「みーつけた」
「!?」
僕はアリサの隣りに座り込む。
アリサは俯いたままだ。
「あのさ、説明不足でごめんね。リニスってのは猫の使い魔で、もう半年以上前になるな? 僕が拾って来たんだ……」
その後はリニスの説明。
フェイトの事も全部話した。
「以上で全部かな。アリサ、ごめんね」
「なんでタローが謝るのよ……」
「アリサが泣いているから。アリサには笑っていて欲しいからかな」
「……ばかぁ」
その後はアリサが僕の胸に顔を埋めて、落ち着くまで背中をポンポンしてあげる。
女心は難しいな……。
午後の予鈴が鳴るまでは、この格好で居たんだ。
その後は特に話をせず、アリサと手を繋いで教室に帰ったよ。