第37話 リスティ・槙原
午後の授業は無事に終え、とりあえず放課後になる。
いつもの様に三人娘が集まり話をしている。
「今日はお稽古の日だから、一緒に帰れないの」
「ごめんね2人とも。また明日ね」
「うん、また明日なの」
「その内、その稽古の成果は見せてくれるんでしょ。楽しみにしてるよ」
「タローは楽しみにしてなさい。あたしのヴァイオリン演奏は凄いわよ!」
「まだ上手く出来ないけど、頑張って上達するから、その時はみんなで聞いてね」
「「うん」」
その後はなのはと途中まで一緒に帰った。
ちょっとユーノの事でからかうと、面白いように動揺してるね。
本当に脈アリなんだな。
ユーノ頑張れ!
帰宅するとリニスが出迎えてくれる。
ちょっとお願いしてみようかな。
「リニスってジュエルシードの探知って出来る?」
「はい。今はジュエルシードの魔力を供給してもらってますので、かなり高性能な探知が出来ますよ」
「そっか。じゃあ、ジュエルシードの回収に行こう。今後、フェイトやプレシアさんと交渉するなら必要になるかも知れないからさ」
「分かりました。それではすぐに行きましょう」
「うん。あ、あと……」
「何ですか?」
「何で家の中でも帽子を被ってるの?」
その質問にリニスは呆れた顔で僕を見る。
「それ、今必要ですか? ……って、タローのペースには必要なんですね。私は山猫がベースの使い魔なので、人型になっても猫耳としっぽがあるんですよ。帽子はそれを隠すためです」
「別に隠す必要ないと思うんだけど」
「いえ……その……ちょっと、恥ずかしいんですよ」
「んー、可愛いのに勿体無いね」
「も、もう、からかわないで下さい!大体、来客の時に猫耳が見えたら困るでしょ!」
「意外と海鳴市なら受け入れてくれそうだけどね」
その言葉にリニスは深いため息で返事をする。
何か変な事を言ったかな?
とりあえずジュエルシード探索に出るんだけど、僕の移動ペースに合わせるためリニスには猫になってもらい、僕が抱えて走り回る。
そんな移動を始めると、念話で悲鳴が聞こえる。
(タロー!?)
「なに?」
(魔法なしでこの移動速度は何なんですか!?)
「大体、トレーニングのお陰」
(いや、それはおかしい)
「そんな事より探知魔法頼むよ。ガンガン移動するから、リニスは全力でね!」
(は、はい、わかりました。とりあえず西の方角へ)
「了解!そろそろ体も温まってきたから、走るとするよ」
(え!? ちょ、きゃーーーーー!!!!)
スピードをガンガン上げつつ、リニスの探知魔法、僕の気配把握でジュエルシードを探して行く。
隣の市に到着し、まだまだ進んでいると、騒いで居たリニスが大人しくなる。
(タロー、発動して居ないジュエルシードが近くにあります。距離にして西北西に約1km)
「分かった」
言われた場所に30秒で到着する。
目を瞑り、心を落ち着け、気配を感じ取る。
お、あったあった。
とりあえず草陰に落ちて居たジュエルシードを拾う。
「本日1つ目! 番号は……5だね」
「タロー、ジュエルシードに無造作に触らないで下さい!」
人型に戻ったリニスが突然声を上げる。
今更そんな事言われてもねぇ。
「直ぐに封印しますから、そこに置いて下さい」
「うん。あ、このポケットに入れっぱなしのジュエルシードもお願い」
「え!? な、何でもう1つ持ってるんですか!」
「いや、普通に?」
「普通じゃないですから! って不思議そうに見てるし……。はぁ、もう良いですよ」
何だかガックリと肩を落としてるリニス。
大体、僕は封印出来ないんだからさ。
そう思っていると、リニスの魔法で2つとも封印処理が終わる。
「No.5、No.12封印完了です」
「うん、ありがとうね。さて、次を探しますか」
「ちょっと待ってくださいね。ここで広域探知魔法使いますから」
そう言うとリニスの足元に魔方陣が現れ、魔法が発動したっぽい。
「うーん、この周辺にはなさそうですね」
「それじゃあ、移動しよっか」
無造作に携帯電話で時間を見ると、着信があったみたいだ。
「あ、移動はちょっと待って。着信があったから電話するから」
「はい、分かりました」
えっと、電話をかけてきた人を確認すると……相手はノムさん!?
慌てて電話をかけると、直ぐにノムさんが出る。
「おぅ、イチか。遅かったやないの」
「すいません。移動中でした」
「ほなぁ、仕方がないのぉ。時は金なり、さっさと本題に入るで」
「はい」
「ウチのサッチーが月守台の近う場所で、巨大な鳥を見たゆう話を聞いて来てな。イチが探してるもんと関係あるぅ思うてな」
「ありがとうございます。これから確認に行きます」
「おぅ、分かったでぇ。現地の方に警察のモンがおるから、話ぃ付けとくわ。それじゃぁ、またのぉ」
そしてすぐに電話が切れる。
巨大化するのはジュエルシードの特性なのかな?
もしや、リニスも巨大化するとか!?
「タロー、どうなさいました?」
「リニスが巨大化……じゃなくて、月守台の近くで巨大な鳥が居たみたい。ジュエルシードが発動したのかも知れないから、そこに移動するよ」
「はい、分かりました。それではフォームチェンジします」
そう言うとリニスは猫になり、僕の腕の中に飛び込んでくる。
さて、月守台までは海鳴市から車で約1時間の場所。
ここからなら……飛ばせば30分だ!
「行くよリニス! 飛ばすからしっかり掴まっていてね」
(え、た、タロー? さっきのはまだ飛ばしてなかっ……きゃーーーー!!!)
リニスが何か話しかけて来ていたけど、とりあえず移動が先だね。
地面を蹴り、木を蹴り、ガンガン飛ばして行く。
走ること30分、月守台に到着した。
近くに着いた時点でジュエルシードの気配は捉えている。
木の上からそっちを見ると、その付近は警察により封鎖されている。
さて、どうしようかな。
(キミは何者だい?)
頭の中に声が突然聞こえて来た。
念話ではない感じだ。
とりあえず心の中で返事をしてみる。
(僕の名前は一之瀬太郎。君は?)
(あぁ、僕はリスティ・槙原。警察関係の者さ)
(へー。で、この頭の中で出来る会話は何ですか?)
(キミはHGSって分かるかい?それの能力の1つで、テレパシーだよ)
(それは便利ですね〜。リスティさんはどこに……あ、見つけましたから、そちらに行きますね)
(え!?)
これだけ話をすれば気配なんて絞れるからね。
跳躍一つでリスティさんの目の前に到着する。
「こんにちは」
「え、あ、こ、こんにちは。あの距離を一体どうやって……。キミもHGSなのかい?」
「いえ、普通の野球選手です」
「いや、それはおかしい」
そう言いつつ、僕の顔を見ながら首を傾げ、何かを思い出そうとしている。
「あ、もしかしてキミは美緒と鬼ごっこしたタロー君かい?」
「どの美緒さんだか知りませんけど、さざなみ寮の美緒さんなら、多分そうですよ」
「あっはっは。耕介の関係者ならある程度の人外は普通か。一之瀬って何処かで聞いた事があると思っていたが……。僕は、槙原耕介と愛の娘だよ。まぁ、養女だけどね」
「あぁ、そうだったんですか。はじめまして」
「ついでにサッチーから話が来ていたけど、それもキミの事だよね」
「どんな話か知りませんが、巨大な鳥の件なら僕です」
「それなら当たりだね」
その後は2人で簡単に自己紹介をもう一度して、お互いの関係などを話したりした。
巨大な鳥の件も詳しく聞いたが、今日いきなり現れたらしい。
とりあえずこの山から移動しないので、山を封鎖してどうにかしようと思っているが、上空高く飛ばれて手が出せない。
そんな中、HGSで飛行能力を持つリスティさんが呼ばれたが、さすがに高く飛ばれ過ぎて厳しいと。
「キミならなんとか出来るから、周りを封鎖して邪魔するなとサッチーに言われたんだけど、なんとかなるのかい?」
「まぁ、大丈夫ですよ。でも、詳しく説明出来ませんけど……」
「うん、サッチーにも詮索しない様に言われてるんだ。とりあえず事件が解決すれば、僕達は良いからさ」
「じゃあ、ちょっと行って来ますね」
「うん、頼むよ」
とりあえずリスティさんから離れ、目を回して気絶しているリニスを起こし、簡単に説明する。
(上空に居るなら、飛行魔法を使える私がタローを連れて、上空へ行けば良いですよね)
「うーん、そこまでして行くのもアレだから……。地面に降りて来て貰うよ。そこでリニスが封印って方向で」
(降りて来て貰うって……。もう不思議とか思えなくなってきました。これは諦めなんでしょうか……)
そんな事を念話で伝えると、リニスは人型になり足元に魔方陣が現れ、封印の準備をする。
今回は距離があるけど、眼力を込めて巨大な鳥をひと睨みする。
被安打100000と同等のショックを受け、上空でビクン! と痙攣した鳥が意識を失い落下して来るので、軽くチョコバットで風を起こし、落下速度を落とす。
「リニス、来るよ」
「はい……もう驚きません。とりあえず封印が終わって落ち着くまでは、驚くのを我慢します」
ブツブツ言いながらリニスによりジュエルシードが封印される。
「ジュエルシード封印、No.8!」
「お疲れ様」
リニスが猫に戻ったので、全身を撫でくり回して感謝の気持ちを伝える。
リニスは気持ち良さそうに、僕の撫でに身を任せている。
その後、リスティさんにちょっとだけ説明して、巨大な鳥はもう居ない事を伝え別れる。
とりあえず1日で2個もジュエルシードを手に入れたから、一旦家に帰ろう。