第38話 次元震
リニスとジュエルシードを新たに2つも手に入れて帰宅。
今日は父が残業なので、3人で早めの夕飯になる。
夕飯が終わって時計を見ると19時前。
自室にリニスと戻り、今後の話でもしようとしていたら、市内でジュエルシードの発動する気配を捉える。
「タロー、ジュエルシードの強制発動です!」
「うん、どっちがやってるか分からないけど、急いで見に行くよ」
「はい。移動速度はタローのほうが早いので、フォームチェンジするのでお願いしますね」
「今回はカバンにボールやグローブを詰めて持って行くから、そこに入って貰えるかい?」
「はい、大丈夫ですよ」
「それじゃあ行こう」
カバンにボールとグローブを詰め、そこにタオルをクッションにしてリニスを入れる。
バットはケースに入れて、背中に背負い準備完了。
ボールをジュエルシードの気配がする方角へ投げ、それを片手で掴んで飛んでいく。
ユーノの結界に入り、ジュエルシードを視界に捉える距離になる。
目を凝らしてみてみると、なのはとフェイトがジュエルシードを挟んで、デバイスを打ち合っているところだった。
その瞬間、ジュエルシードが大きく輝き、なのはとフェイトを弾き飛ばす爆発が起きる!
なのはは地面に叩き付け……られる前に、ユーノが空中で抱きしめる。
それでも衝撃が大きかったようで、2人とも抱き合ったまま地面を転がる。
フェイトはうまく着地出来たみたいだけど……。
レイジングハートとバルディッシュは傷だらけだ。
お互いのデバイスが状態を維持できなくなり、待機状態に戻ってしまった。
フェイトはそれでもジュエルシードの爆発を押さえ込もうと、ジュエルシードに向かって飛んでいく。
「フェイト!」
それを見たアルフは叫ぶが、フェイトは止まらない。
あれを素手で止めるのは危険だよね。
僕は掴んでいたボールを離し、ジュエルシードの前に着地する。
「「タロー!?」」
「この程度、僕の守備範囲さ」
驚くフェイトとアルフに対し、右手でその場を動かないよう指示し、左手にはめたグローブでジュエルシードをキャッチする。
グローブに入ったジュエルシードは、勝手に封印状態になる。
手間が省けるとは、随分と素直なジュエルシードだね。
周りを見渡し、ちょっと強めに声を発する。
「今回は双方危ないことをしたので、ジュエルシードは僕が没収します」
「「「「え!?」」」」
「今後、不安定なジュエルシードの近くでこういうことをしたら、バットで軌道衛星上まで打ち抜きますよ」
「ちょっと、タロー。そりゃないよ」
「そうだよタロー。さすがに横暴だよ」
「んー、2人ともパートナーが怪我しても良いの?」
「「それは嫌だけど……」」
「じゃあ、大人しく言うことを聞きなさい」
そう言うとユーノとアルフは大人しくなった。
「それとユーノ……いつまでなのはと抱き合ってるの?」
「「はう!?」」
2人は慌てて離れようとするが、地面に寝転がっている状態なので、ワタワタしている。
あ、ユーノが変な所触って、なのはが硬直しちゃってるな。
まぁ、そっちは放置しておこう。
「そういう訳でお互いにデバイスも壊れたんだから、どっちも大人しく帰りなさい」
「う、うん」
「分かったの……」
フェイトもなのはも分かったようだね。
あ、勝手にジュエルシードが自ら封印状態になったから、リニスを連れてきた意味がなかったかも。
「フェイトちゃん! この間は自己紹介できなかったけど、私なのは。高町なのは」
なのはの自己紹介に、フェイトは冷たく呟く。
「……ジュエルシードは諦めて」
「理由を聞かせて欲しいの!」
「貴方には関係ない!」
「目的があるなら、ぶつかったり競い合うのは仕方がないよ。だけど、何も分からないままぶつかり合うのは嫌なの!」
フェイトはその言葉に対し沈黙で答える。
「私も言うよ。だから教えて。どうしてジュエルシードが必要なのか」
フェイトは何も語らず、なのはに背を向けて去っていく。
アルフもそれに付き従う。
その背中を見送るなのはとユーノ。
まだ、コミュニケーションを取るのは難しそうだね。
フェイトとアルフがいなくなってから、僕はなのは達に声をかける。
「なのは達も、そろそろ帰った方が良いんじゃない?夕飯の時間に間に合わなくなるよ」
「わっ! 本当なの」
「急いで帰らないと、どんどん修行が厳しく……」
「そ、それじゃタロー君またね」
「タローまた」
2人とも慌てているが、なのははレイジングハートが壊れたから飛べないようだ。
それに気が付いたユーノは、なのはをお姫様抱っこして飛んで行く。
誰にも見られなければいいんだけどさ。
みんなが去って行くと結界も解除され、元の空間に戻る。
ふと気になることを声に出す。
「なぁ、リニス。アルフって回復魔法使える?」
(いえ、出来ません。フェイトも駄目ですね。私は使えますけど……)
「そっか……。じゃあ、フェイトの家まで行くか」
(え!?良いのですか?)
「リニスはフェイト達が心配なんだろ。僕も心配だからお互いのためさ」
(ありがとうございます)
「さて、急いで2人の家に行くから、また大人しくしててね」
そう言い、リニスを鞄にしまったまま地面を蹴り、急いでフェイトの住むマンションに向かう。
あ……っと言う間に到着。
チャイムを鳴らしてドアの前で待つ。
ドアが少し空いてアルフがこっちを見ている。
「た、タロー!? どうしたんだい」
「んー、とりあえず部屋に入れてくれると嬉しいな」
「あぁ、わかったよ」
ドアが開き、中に招き入れられる。
室内ではソファーに座り込むフェイトと、その近くに置いてある救急箱が目に付く。
「あ、タロー。……今日はごめんなさい」
「ん? 何に対して謝ってるんだい」
「だって、ジュエルシードを暴走させちゃったし……」
フェイトは俯いてそんな事を言う。
僕はフェイトの頭を撫でながら答える。
「別にフェイト達が心配だったから少し強く言っただけで、被害も酷くないし別に良いんじゃないか」
「でも……でも……」
「まぁ、反省してるみたいだし、次からジュエルシードの近くでの危険行為はやめようね」
「うん……」
「さ、反省はこれでおしまい。これからフェイトの治療だよ」
「え?」
フェイトの頭を撫でるのをやめて、持ってきたカバンを開けてリニスを出す。
リニスはカバンから出されると、人型になる。
「「リ、リニス!?」」
「はい、フェイトにアルフ。お久しぶりですね」
2人とも驚きのあまり動きが止まっちゃった。
リニスはそんな事に反応するよりも、フェイトに対して回復魔法を唱える。
フェイトの傷が癒えて行くのが分かる。
回復魔法が終わるまで沈黙が続くが、沈黙を破ったのはリニスだった。
「はい、終わりましたよ。もう痛い場所はありませんか?」
「……うん」
「タローが少し怒ったから私からあまり言いませんけど、ロストロギアの扱いには十分注意するように教えたはずですよね」
「うん」
「次から気をつけてくださいね。……そして、フェイトもアルフも少し大きくなりましたね」
「う、うぅ……うん」
そしてフェイトとアルフはリニスに抱きつき、2人して泣きだしてしまう。
それを見た僕はそっと側を離れて家から出る。
ここに僕がいる必要はなさそうだからね。
みんながお腹を空かせてもいけないから、なにか適当な食材を買いに行こう。
適当に買い物をしつつ、家に電話を入れておく。
ちゃんと説明しておけば大丈夫。
詳しいことが分かれば、また連絡すると伝えておいた。
まぁ、母は相変わらず了承してくれたんだけどさ。
スーパーのビニール袋片手に部屋に戻る。
リビングにはリニスしかおらず、話を聞くとフェイトとアルフは泣きつかれて寝てしまったとの事。
まぁ、いなくなった家族が帰ってきたんだもんだ。
いっぱい泣いたんだろうね。
「タロー。フェイトからプレシアが居る場所、時の庭園の座標を聞いておきました」
「うん」
「フェイトは報告のため明日戻るそうなので、今のうちに私達で行っておこうと思うのですが……」
「良いよ。でも、途中で2人が目を覚ましてリニスが居なかったら、また泣くんじゃないかなーと」
「大丈夫です。熟睡できる魔法をかけてありますので、朝までぐっすり寝てくれますよ」
「便利な魔法だな」
「はい、子育ての時などに役立ちます。ただ、自分から寝てくれないと効果がないんですけどね」
「そっか……。いい夢見れると良いな」
「睡眠持続と、それによる精神の回復魔法ですから、リラックスして良い夢は見れるはずですよ」
フェイトとアルフに毛布をかけ直し、朝食としてカレーを用意しておく。
両親にメールで詳細を伝えておいた。
最悪、学校は休まないといけないしね。
バルディッシュは自己治療中なので、早く治るように撫でくり回しておいた。
また後でゆっくり話をしようというメモ紙を残し、いざ時の庭園へ!
リニスが座標などを唱え、僕と一緒に転送魔法を唱える。
「開け誘いの扉、時の庭園。プレシア・テスタロッサの元へ」
そして僕たちは時の庭園へ転移した……。